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夫婦 1
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8月頭、私は東雲くんの家に引っ越してきた。
1Kの部屋にある家具は全て処分してきたため、私はほぼ身一つでの引っ越しになる。
衣服類を持ってきたくらいでほとんどこの家に持ってくるものはなかった。
東雲くんが必要なものが今後あれば全て購入しよう、と言ってはくれたがさすがに気が引ける。
彼がお金持ちとはいえ全て甘える訳にはいかない。
そして彼は仕事が忙しく、あれから婚姻届を出しに行けておらず今日やっと出せる予定だ。
「待たせてごめん」
「ううん大丈夫」
私服姿の東雲くんを見るのは初めてでとても新鮮だ。
ラフな白シャツに黒いズボン姿の東雲くんはシンプルが故にスタイルが際立っていた。
私自身も同じような白いシャツにデニムのスキニーパンツを履いた。
話し合ったわけではないが同じような色味の服を着てしまって少し恥ずかしい。
「行こうか」
「うん」
マンションを出た私は東雲くんについて行き駐車場に着くと、1台の車の前で立ち止まる。
ワインレッド色の背の低いスポーツカーに東雲くんは何も言わずに乗り込んだ。
私もつられるように乗り込むが、初めて乗るスポーツカーに緊張が止まらない。
乗り方はこれで合っているのか、余計なことばかり考えてしまう。
(さすがお金持ち。絶対高いんだろうな⋯)
「これ東雲くんの車?」
「そうだ。女性が乗るのを想定して買ったわけじゃないから乗りにくいだろ」
「初めて乗ったから緊張する」
「そんな緊張することない。これから嫌ってほど何度も乗るんだからな」
そうだ、私はこれから彼と夫婦となる。
何度もこの車にも乗ることになるだろう。
これからも一緒にいるんだと、当たり前のように未来の話をしてくれることがなぜか嬉しい。
私たちを乗せた車は区役所にゆっくりと向かう。
目的地に近づくにつれてドクドクと心臓の脈打つ音が大きくなっていった。
「緊張してるのか?」
「⋯うん。めちゃくちゃ緊張してる」
「そうか。でも俺は⋯楽しみだよ」
そう言う彼の横顔は微笑んでいるように見えた。
本当に私との結婚が楽しみだと思っているようにも見えてしまう。
区役所に着いた私たちは一緒に車を降り、そのまま中へと入った。
既に婚姻届は全て記入済みであとは提出するだけだ。
平日のためかそこまで待ち時間もなく私たちの婚姻届はあっという間に受理された。
思ったよりも呆気ない提出に拍子抜けだ。
婚姻届の受理は意外とこんな感じなんだと驚いた。
紙の提出だと分かってはいたが、受理された直後にも関わらず実感が全く湧かない。
「私たち、結婚したんだ⋯⋯」
「そうだな」
「全然実感湧かない」
「───心春」
(えっ⋯⋯!)
いきなり名前を呼ばれ思わず目を見開き東雲くんの顔を見つめる。
突然、下の名前を呼ぶなんてずるい。
私の名前を愛おしそうに呼び見つめるその視線がくすぐったい。
誰かがこの立場に本来いるはずなのに、と思うと未来の本当の奥さんに申し訳ない気持ちにもなる。
「急に呼ばれると、照れちゃうな」
「さすがに夫婦なのに苗字呼びは変だからな」
「じゃあ私も⋯⋯」
確かに夫婦となったのに苗字で呼び合うのはおかしい。
そうなると私は彼のことをなんて呼べば良いだろうか。
「伊織、くん?」
私に名前を呼ばれた東雲くん、いや伊織くんの耳がほんの少しだけ赤くなった気がした。
気のせいだと思うくらいほんの少しの変化のため勘違いかとも一瞬思ったが間違いない。
「実感、湧いたか?」
「んーまだあんまり」
「ならもっと実感湧くことしようか」
不敵に微笑んだ伊織くんは私を再び車に乗せどこかへと走らせる。
友達だって分かってはいるが、無口で無愛想な彼が私に向けてくれる笑顔がほんの少しだけ嬉しい。
目的地は聞いても教えてもらえず、私はどこに行くか分からないままだ。
実感湧くようなことってなんだろうと考えると私は1つしか思い浮かばない。
(いやでもまさかそんなことはいきなり⋯⋯)
1Kの部屋にある家具は全て処分してきたため、私はほぼ身一つでの引っ越しになる。
衣服類を持ってきたくらいでほとんどこの家に持ってくるものはなかった。
東雲くんが必要なものが今後あれば全て購入しよう、と言ってはくれたがさすがに気が引ける。
彼がお金持ちとはいえ全て甘える訳にはいかない。
そして彼は仕事が忙しく、あれから婚姻届を出しに行けておらず今日やっと出せる予定だ。
「待たせてごめん」
「ううん大丈夫」
私服姿の東雲くんを見るのは初めてでとても新鮮だ。
ラフな白シャツに黒いズボン姿の東雲くんはシンプルが故にスタイルが際立っていた。
私自身も同じような白いシャツにデニムのスキニーパンツを履いた。
話し合ったわけではないが同じような色味の服を着てしまって少し恥ずかしい。
「行こうか」
「うん」
マンションを出た私は東雲くんについて行き駐車場に着くと、1台の車の前で立ち止まる。
ワインレッド色の背の低いスポーツカーに東雲くんは何も言わずに乗り込んだ。
私もつられるように乗り込むが、初めて乗るスポーツカーに緊張が止まらない。
乗り方はこれで合っているのか、余計なことばかり考えてしまう。
(さすがお金持ち。絶対高いんだろうな⋯)
「これ東雲くんの車?」
「そうだ。女性が乗るのを想定して買ったわけじゃないから乗りにくいだろ」
「初めて乗ったから緊張する」
「そんな緊張することない。これから嫌ってほど何度も乗るんだからな」
そうだ、私はこれから彼と夫婦となる。
何度もこの車にも乗ることになるだろう。
これからも一緒にいるんだと、当たり前のように未来の話をしてくれることがなぜか嬉しい。
私たちを乗せた車は区役所にゆっくりと向かう。
目的地に近づくにつれてドクドクと心臓の脈打つ音が大きくなっていった。
「緊張してるのか?」
「⋯うん。めちゃくちゃ緊張してる」
「そうか。でも俺は⋯楽しみだよ」
そう言う彼の横顔は微笑んでいるように見えた。
本当に私との結婚が楽しみだと思っているようにも見えてしまう。
区役所に着いた私たちは一緒に車を降り、そのまま中へと入った。
既に婚姻届は全て記入済みであとは提出するだけだ。
平日のためかそこまで待ち時間もなく私たちの婚姻届はあっという間に受理された。
思ったよりも呆気ない提出に拍子抜けだ。
婚姻届の受理は意外とこんな感じなんだと驚いた。
紙の提出だと分かってはいたが、受理された直後にも関わらず実感が全く湧かない。
「私たち、結婚したんだ⋯⋯」
「そうだな」
「全然実感湧かない」
「───心春」
(えっ⋯⋯!)
いきなり名前を呼ばれ思わず目を見開き東雲くんの顔を見つめる。
突然、下の名前を呼ぶなんてずるい。
私の名前を愛おしそうに呼び見つめるその視線がくすぐったい。
誰かがこの立場に本来いるはずなのに、と思うと未来の本当の奥さんに申し訳ない気持ちにもなる。
「急に呼ばれると、照れちゃうな」
「さすがに夫婦なのに苗字呼びは変だからな」
「じゃあ私も⋯⋯」
確かに夫婦となったのに苗字で呼び合うのはおかしい。
そうなると私は彼のことをなんて呼べば良いだろうか。
「伊織、くん?」
私に名前を呼ばれた東雲くん、いや伊織くんの耳がほんの少しだけ赤くなった気がした。
気のせいだと思うくらいほんの少しの変化のため勘違いかとも一瞬思ったが間違いない。
「実感、湧いたか?」
「んーまだあんまり」
「ならもっと実感湧くことしようか」
不敵に微笑んだ伊織くんは私を再び車に乗せどこかへと走らせる。
友達だって分かってはいるが、無口で無愛想な彼が私に向けてくれる笑顔がほんの少しだけ嬉しい。
目的地は聞いても教えてもらえず、私はどこに行くか分からないままだ。
実感湧くようなことってなんだろうと考えると私は1つしか思い浮かばない。
(いやでもまさかそんなことはいきなり⋯⋯)
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