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記憶の中の東雲くん 3

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そんな理由は分かっている。
今まで付き合った人は全員相手からの告白で、最初は相手からの好きという感情に応えるため私も好きだと伝えていた。


だけど慣れてくる3ヶ月くらいのタイミングで相手が好意を言葉にすることが少なくなると、私も伝える機会が減ってしまうため、私からの好きが伝わらない、という理由で別れを告げられてしまう。


決して嫌いになったわけではないが好意に応える、という始まりがほとんどのため私の熱が彼と同じにまで上がる前に別れが来てしまう。
実際本気で人を好きになったことがあるか、と聞かれると自信はない。


もしかしたら私は付き合ってもなおずっと好意を伝え続けてくれる人じゃないと長く続かないのかもしれなかった。
だけど私自身もそれは悩みで、自分から好きだと伝えたくなるような相手に出会いたいとも思っている。


「寧々ちゃんの東雲くんのイメージってどんな人?」

「んーまぁイケメンだよね。高校の時から顔整ってたし女子からの人気はめちゃくちゃあった。けど当の本人は関心ないのか、全然なびかないし告白されても全部断ってたらしいよ」

「え、そうなんだ」

「あんだけかっこよくてイケメンなのにもったいないよね。けど男子相手には結構素直なところはあったって」


確かに再会した彼も女性の視線を集めていたし、大人の色気も相まってますます素敵な男性になっている気はする。


記憶の中の東雲くんはイケメンだが女子にはなびかない、というのが私や寧々ちゃんのイメージだった。
追加できたタンをさらに焼き、ハイボールをゴクッと喉に流し込む。


「真偽は分からないけど、めちゃくちゃ好きな人がいてずっと一途に想ってるんじゃないかって噂はあったけど、それも知らない?」

「知らない。東雲くんが一途に想う人がいるとしたらどんな人なんだろう」

「あくまで噂だからね。本当かは知らないけど」


タンと白米を食べ終えた私たちは最後に柚子シャーベットを注文する。
口の中がとてもさっぱりし油っぽさが流れていくようだ。


「高校の同級生に再会だなんて少女マンガみたいな展開ね」

「そんな寧々ちゃんが想像するようなことにはならないよ」

「残念。でも本当によかったね心春。倒産の話聞いた時はビックリしたけど、東雲くんに救われたね完全に」


確かに倒産の事実を知った時は完全に先行き真っ暗になり不安しかなかったが、こんなタイミングで東雲くんに出会えるなんてある意味運命かもしれない。


人生何が起こるか分からないんだな、というのを非常に感じる。
でも彼に出会わなければ私は今こんな悠長に寧々ちゃんと焼肉なんて食べられていなかったかもしれない。


「ふぅ~たくさん食べた!お腹いっぱい」

「寧々ちゃん今日もいい飲みっぷりだったね」

「お肉にお酒は最高の組み合わせだからね」


全ての料理を食べ終えた私たちは少しだけその場で休憩する。
たくさん食べすぎたせいかお腹が出た気がした。
明日は少し節制しようと思う。


いつものようにお会計を割り勘し、私たちは焼肉屋さんを出た。
そのまま寧々ちゃんは私の肩に腕を回し2軒目に行こうと誘われる。


ほどよく酔いが回ったのか寧々ちゃんはいつも以上に饒舌だ。
生ビールや焼酎などしっかり飲んでいるにも関わらず、あまり顔色が変わらない所がお酒の強さを表していた。


「心春もちろん2軒目、行くでしょ?」

「もう⋯しかたないな~」

「そうこなくっちゃ!さぁ行くよー」


私もまた寧々ちゃんの肩に腕を回し2人で夜の深まる飲食街に足を踏み入れる。
2人で歩くだけなのになぜかすごく楽しい。


こうして寧々ちゃんと何軒もハシゴするのが私も意外と好きだった。
次の日起きるのが少ししんどいのもまた醍醐味で、ずっとこの夜が続けばいいのにといつも思う。


寧々ちゃんと話したことでより私をスカウトしてくれた彼の気持ちに応えたいと強く思った。
周りの技術者にしっかりついていきたいし、そのためには残りの時間を活用してゲームのプログラミングについてしっかり学ぶ必要がある。


4月からの変化に私の胸には少しの不安とキラキラとした期待があった。
いつも応援してくれる寧々ちゃんにもいい報告がしたいし。


「さて今日はとことん飲みまくるわよ心春!」

「どこまでもついていきます寧々ちゃん!」


2人で笑い合いながら私たちは夜の街に消えていく。
寧々ちゃんと過ごす時間はすごく楽しくて自然と心から笑顔になれた。
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