花の姫君と狂犬王女

化野 雫

文字の大きさ
上 下
32 / 48

第30話 夜空に輝く白い閃光

しおりを挟む
 アームの爪が開くと、核爆弾はアームから離れ前方へと投げ出されて行った。同時に核爆弾に取り付けられた小型のブースターロケットが点火する。

「全メインエンジン停止。
 No.4、5,7,9姿勢制御バーニア噴射」

 一方、静自身である小型の宇宙船は、その右前側面とその対角線上に位置する後部左側面のバーニアを吹かした。機体がバーニアの噴射と共に急激に180度回頭した。

「慣性制御開始、回頭停止、位置固定」

 普通なら重力や空気抵抗のない宇宙空間では一度動き始めた機体を停止する為には逆方向に力を加えないと止まらないのだが、静の機体はそれをする事無く180度回頭した時点で完全停止した。これこそ、人類の英知を遥かに超えたOTA(オーバーテクノロジーAHAS)の産物で、慣性力を完全制御を可能とする慣性制御ユニットの力だった。

「全メインエンジン再始動。
 フルブーストモード」

 そしてすぐさま、機体後部のメインロケットが点火し青白い炎を噴き上げる。


 小型のブースターロケットで宇宙空間へと加速をつけて進む核爆弾に対して、静の機体はメインエンジンを吹かせて地球の方向へと加速する。核爆弾と静の距離がみるみる離れて行く。

「対電磁バルス防御。シールド展開」

 静の声に機体の表面全体に淡い光の幕の様な物を展開した。

 同時に静の視界の中央にあったタイマーが『00:00:000』を示した。

 一瞬、漆黒の闇に包まれた宇宙空間に、まったく無音のまま、まばゆいばかりの光球が現れた。

「電磁パルス発生を確認。
 核爆弾処理完了。
 機体ステータス、オールグリーン。
 これより地球への帰還を開始する」

 核爆弾の閃光を背景に遠ざかる機体の中、静がそう告げた。


 その核爆発の輝きは、ホテルのパーティー会場で監視衛星からの3D映像を見ていたカタリナ達にも確認できていた。と言うより、その瞬間、一瞬、投影面すべてが真っ白になって何も見えなくなったと言うのが正しかった。同時に、まるで大きな雷が光った様に、窓の外の夜空も一面明るくなった。それでカタリナ達は核爆弾が爆発したことを知ったのだ。

 しかし、3D映像が完全にホワイトアウトしてその瞬間、静がどうなったのかはカタリナには分からなかった。自分たちやこのエドワード島やラマナス自体には何の影響もなかった事には安心出来たカタリナだったが、もしかしたらあの核爆発に静が巻き込まれてしまった可能性もあるのだ。そうなったら、例え、あの様な人知の及ばぬ力を持った姉でも無事で居られるのかカタリナは不安だった。

 しかし一呼吸の後、映像と共に監視衛星が中継して送ってきた静の音声で、カタリナは静の無事を知り、やっとホッと胸を撫でおろす事が出来た。

 同時にホワイトアウトした映像が徐々に回復し、こちらへ向かって進んでくる静の機体を捉えた。カメラが静の機体をズームアップすると、そこには先ほどまでと全く変わらない白銀に輝く機体が映っていた。

「姉さん……良かった……」

 音声だけでなく自身の目で静の無事を確認できたカタリナが思わず声を漏らした。それを見てクローディアが優しい微笑みを浮かべた。マックスもやや照れ加減にその口元に笑みを浮かべた。

「しかし驚きました。
 普段、姉さんと一緒に行動しているマックスさんはともかく、
 クローディアまで姉さん事を知っていたなんて。
 いえ、それ以上に色々と荒事まで……」

「荒事に関しては僕よりクローディアさんの方が上手なんですよ、姫君」

 クローディアを見てそう言ったカタリナに、マックスがにやりと笑って言った。

「こら、マックス、そんな事、姫様に言わなくて良いのです!」

「でも、こうなったからにはいずれ姫様にも知られる事だって」

 まるで小娘の様に恥ずかしさでその頬を赤く染めてクリーディアが声を上げると、マックスは一層にやにやしながらそう答えた。

 今までは常日頃マックスと静が、真面目なメイド長であるクローディアが抵抗できないのを良い事に夜な夜な辱めては楽しんでいると思っていた。ところが今の二人の様子を見てカタリナは、ひょっしてクローディアは無理やりそうされてるのでなく、マックスの事を好いてそれを受け入れているのではないだろうかとふと思った。もちろん、マックスに方もクローディアをおもちゃにするのではく、真面目に女性として好いている様な気がした。


 一方、静の方は大気圏再突入への準備に入っていた。

「ターゲット地点、ラマナス、エドワード島。
 軌道確認。予定軌道のオンラインで進行中。
 メインエンジン停止、大気圏再突入姿勢へ」

 すると機体のメインエンジンが停止し、地球の方を向いていた機首を起こし始めた。

 やがて機体は地球大気圏に対してまるでサーフィンをするかの様な姿勢になった。メインエンジンは停止していたが地球の重力に引かれ静の機体は地球に対して速度を増しながら落下し始めていた。間もなく、大気との断熱圧縮による熱で機体下部が赤く焼け始める。

「大気圏突入を開始。
 機体、および姿勢、軌道、すべて異常なし」

 静の目に見えるモニターは断熱圧縮による高熱で一面真っ赤になっている。そしてそこには速度や対地距離などを示す数字が目まぐるしく変化しながら表示されていた。

 静の機体形状も大気圏再突入体としては別段奇異物ではない為に、一見これは極々普通の大気圏再突入シークエンスに見える。しかし、あえてもう一度言うが、この機体に静本人が乗って操縦している訳ではない。この機体その物が静自身なのだ。つまり静はその身一つで大気圏再突入を行っている事になる。

 かつて成層圏からその身一つでダイビングを成功させた人間は居たが、さすがに衛星軌道の外から生身一つで地球に帰還した者など存在しない。いや、地球の技術ではその速度から来る断熱圧縮の高熱を突破する事など、耐熱に優れたカプセルを使用しない限り絶対に無理なのだ。

 それを静は今、平然とやってのけているのだ。

「始めて衛星軌道外側までの飛行、
 そして大気圏再突入なんて初めてやったけど結構簡単に出来る物ね。
 さすがOTAって所かしら」

 静は、今は自身の体になっている機体を細かく制御しながらそう独り言を呟いた。

「本体カラ対消滅弾頭みさいるヲ発射シテノ核反応弾処理
 ヲ推奨シタノニ何故コノ方法ヲ選択シタ?」

 その時、静の独り言を聞いて何かがそう尋ねて来た。
しおりを挟む


小説の匣
感想 0

あなたにおすすめの小説

ミッシング・ムーン・キング

和本明子
SF
月が消失してから百年後の地球で出逢った、青年“ライト”と月の化身“ルナ”の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

漆黒の万能メイド

化野 雫
ファンタジー
 初代女帝が英雄だった実の姉を大悪人として処刑する事で成立した血塗られた歴史を持つ最強にして偉大なるクレサレス帝国。そこを行商しながら旅する若き商人と珍しい黒髪を持つ仮面の国家公認万能メイド。世間知らずのボンボンとそれをフォローするしっかり者の年上メイドと言う風体の二人。彼らはゆく先々では起こる様々な難事件を華麗に解決してゆく。そう、二人にはその見かけとは違うもう一つの隠された顔があったのだ。  感想、メッセージ等は気楽な気持ちで送って頂けると嬉しいです。  気にいって頂けたら、『お気に入り』への登録も是非お願いします。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...