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第22話 そこに現れた白銀の鬼
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カタリナは、大尉がステップを上がりその軍用機に乗り込む背中を見ていた。
極度のステルス性を求めているのだろう、機体内部は最低限の照明しかなかった。いや、照明と言うより最低限必要な機器のパイロットランプがぼんやりと点いているだけだ。機体内部は夜ともあって、月明かりで明るい外より暗く、それはまるで暗い奈落の底へ続く様な感じがカタリナにはした。
大尉に続いて待機する軍用機に乗り込もうと左右の腕を掴むファリンとグァンミンがカタリナの腕を引いた。あの軍用機に乗せられてしまえばもう本当に助かる可能性はない。このテロリスト達の言葉通りなら、薬漬けにされ、思う存分凌辱され、それを記録され、若い娘としては死ぬより辛い生き地獄へと堕とされる事になる。
カタリナは無駄と知りつつも、そのまま軍用機に乗せられまいとその場に踏み止まろうとした。
「無駄だよ、姫さん。諦めな。
ここで痛い目には会されたくないだろう?」
「今、無駄に抵抗して痛い想いをするより、
大人しくしてれば、あっちでは優しく可愛がってやるからさ」
そんなカタリナにファリンはそう恫喝し、グァンミンは下卑た笑みを口元に浮かべてそう囁いた。
一旦、目を閉じ、大きく深呼吸をして覚悟を決めたカタリナはゆっくりと地獄への一歩を踏み出した。
カタリナが踏み止まっていた足を進めたのを見て、ファリンとグァンミンはにやりと笑ってそのままステップを上がろうとした。
その時だった。
何かが金属製の物が破壊する様な大きな音が彼らの背後でした。
カタリナとファリンとグァンミンはもちろん、既に軍用機に乗っていた大尉も驚いて後ろを振り返った。
彼らの目にしっかりと溶接してあったはずの鉄製のドアがこちらに向かって吹き飛んで来るのが見えた。そしてドアはファリンとグァンミン達の居る場所とドアのあった場所の中間辺りに音を立てて落ちた。
経験のまだ浅いファリンとグァンミンは感じなかったが、大尉はその時、爆薬などが使用された感じがない事をいぶかった。しかもヘリポートの床に落ちた頑丈な鉄のドアは中央部が大きく凹んだ形になっていた。それは溶接されていたドアを内側から何か凄まじい力で打ち破った事を物語っていた。
「どうやって、あのドアを……」
そしてドアが吹き飛び開いた所から人影がゆっくりとこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
それを見た彼らは一瞬、完全に思考停止してしまった。
そこには月明かりを浴びて白銀に輝く長い髪。
頭部の左右から斜め後ろに伸びる長い角。
そして白銀に輝く細身のボディーと、
全身に刻まれた青白く輝く幾何学模様の刺青。
それは、まさに『鬼』と言うべきモノだった。
その顔があるべき場所には、
頭部を一周するヘッドセットに取り付けられたバイザーと
フェイスガード様な物で覆われていた。
その下に人間の顔があるのか、
あるいはこのバイザーとフェイスガードに見える物が顔なのかは分からない。
「まさか……あれって『白銀の鬼』?」
真っ先に、それを見たカタリナが最初にそう半分無意識の内に呟いた。
そう、それは紛れもなく、ラマナスで噂され、あの倉庫街で拉致された女を救った『白銀の鬼』だった。
ぶんっ……微かな音と共にバイザーで隠された目の部分に赤い光が二つ灯った。
同時に鬼はゆっくりと軍用機に向かって歩き出した。
「ちっ……新型の警備ロボットか?
妙に華奢な感じはするが。
まあ、良い。あれはそれも想定しての物だからな」
一瞬、予想外の事に戸惑った大尉だったが、さすがに実戦経験も豊富なだけにすぐに冷静さを取り戻し、そう言って余裕の笑みを浮かべた。
「バンッ!」
鬼が数歩こちらへ進んだ時、突然、何かが弾ける大きな音がして、鬼の周りが煙に包まれた。
その瞬間、グァンミンが仕掛けていた指向性の対人地雷が作動したのだ。センサーによって起爆した地雷は爆風と共にその前面に向けて無数のパチンコ玉大の鉄球を打ち出した。これが人間ならこれだけの至近距離、一瞬で体をズタズタにされる。そして軍用車両でもその装甲版を打ち抜き内部にいる人員や機器を破壊して行動不能に出来る凶悪な代物だった。
あの華奢なボディーを持つ警備用ロボットなら行動不能なまでに破壊できているはずだと、この時、大尉は疑うことなく確信していた。
しかしだ。
一呼吸の後、地雷がさく裂した煙の中から二つの赤い光がゆっくりと揺れながらはっきりと見え始めた。軍用機のジェットポッドからの風が地雷の煙を吹き飛ばすと、そこには先ほどと全く変わらぬ姿で鬼は立っていた。
そう全く変わらぬ姿。その白銀に輝くボディーには何の損傷もないばかりではなく、今工場から出て来たばかりの様に傷一つなく輝いていた。
そして鬼は何事もなかったかの様にまたゆっくりとこちらに向かって歩き出した。
「おい、嘘だろ、あの強化した特製地雷が二個だぞ。
しかも至近距離で相手はあの貧相なボディーのロボット。
どうなってんだ!」
グァンミンが恐怖が混じった表情で叫んだ。
「ちくしょう! このバケモンが!」
同時にファリンが手に持った自動小銃を鬼向かって乱射し始めた。
そのほとんどが鬼に命中していたが、鬼はまったく動じず、群がる小虫の中を歩く様にその手を上げて顔を守る様にしただけだった。そればかりか、体に当たる銃弾にはまったくお構いなしの様子だった。
歩みを進める鬼がおもむろに床に落ちていたひしゃげたドアを片手でひょいと拾い上げた。そして、自動小銃のフルオート射撃を受けながらそれを無造作に放り投げた。そう、見ている限り、軽く放り投げた様に見えた。
しかし、鬼の手を離れたドアは凄まじい勢いでカタリナを拉致しようとしている軍用機に向かって一直線に飛んだ。それはまるで小型のミサイルか砲弾の様であった。そしてそれは正確に四つある可動式ジェットポッドの一つに命中した。
凄まじい轟音と共に鬼によって投げつけられた鉄の扉はジェットポッドに突き刺ささりその機能を完全に破壊していた。
同時に、軍用機のコクピットでは緊急事態を告げるアラームが鳴り響き、ディスプレイ上には赤い表示がせわしなく点滅していた。そこに座る二人のパイロットは何が起こったのか分からずパニック状態に陥っていた。今の彼らに分かるのはただ一つ、何らかの事情でジェットポッドの一つが機能を失い、それは同時にこの機体を離陸させる事もほぼ不可能になったと言う事だけだった。
極度のステルス性を求めているのだろう、機体内部は最低限の照明しかなかった。いや、照明と言うより最低限必要な機器のパイロットランプがぼんやりと点いているだけだ。機体内部は夜ともあって、月明かりで明るい外より暗く、それはまるで暗い奈落の底へ続く様な感じがカタリナにはした。
大尉に続いて待機する軍用機に乗り込もうと左右の腕を掴むファリンとグァンミンがカタリナの腕を引いた。あの軍用機に乗せられてしまえばもう本当に助かる可能性はない。このテロリスト達の言葉通りなら、薬漬けにされ、思う存分凌辱され、それを記録され、若い娘としては死ぬより辛い生き地獄へと堕とされる事になる。
カタリナは無駄と知りつつも、そのまま軍用機に乗せられまいとその場に踏み止まろうとした。
「無駄だよ、姫さん。諦めな。
ここで痛い目には会されたくないだろう?」
「今、無駄に抵抗して痛い想いをするより、
大人しくしてれば、あっちでは優しく可愛がってやるからさ」
そんなカタリナにファリンはそう恫喝し、グァンミンは下卑た笑みを口元に浮かべてそう囁いた。
一旦、目を閉じ、大きく深呼吸をして覚悟を決めたカタリナはゆっくりと地獄への一歩を踏み出した。
カタリナが踏み止まっていた足を進めたのを見て、ファリンとグァンミンはにやりと笑ってそのままステップを上がろうとした。
その時だった。
何かが金属製の物が破壊する様な大きな音が彼らの背後でした。
カタリナとファリンとグァンミンはもちろん、既に軍用機に乗っていた大尉も驚いて後ろを振り返った。
彼らの目にしっかりと溶接してあったはずの鉄製のドアがこちらに向かって吹き飛んで来るのが見えた。そしてドアはファリンとグァンミン達の居る場所とドアのあった場所の中間辺りに音を立てて落ちた。
経験のまだ浅いファリンとグァンミンは感じなかったが、大尉はその時、爆薬などが使用された感じがない事をいぶかった。しかもヘリポートの床に落ちた頑丈な鉄のドアは中央部が大きく凹んだ形になっていた。それは溶接されていたドアを内側から何か凄まじい力で打ち破った事を物語っていた。
「どうやって、あのドアを……」
そしてドアが吹き飛び開いた所から人影がゆっくりとこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
それを見た彼らは一瞬、完全に思考停止してしまった。
そこには月明かりを浴びて白銀に輝く長い髪。
頭部の左右から斜め後ろに伸びる長い角。
そして白銀に輝く細身のボディーと、
全身に刻まれた青白く輝く幾何学模様の刺青。
それは、まさに『鬼』と言うべきモノだった。
その顔があるべき場所には、
頭部を一周するヘッドセットに取り付けられたバイザーと
フェイスガード様な物で覆われていた。
その下に人間の顔があるのか、
あるいはこのバイザーとフェイスガードに見える物が顔なのかは分からない。
「まさか……あれって『白銀の鬼』?」
真っ先に、それを見たカタリナが最初にそう半分無意識の内に呟いた。
そう、それは紛れもなく、ラマナスで噂され、あの倉庫街で拉致された女を救った『白銀の鬼』だった。
ぶんっ……微かな音と共にバイザーで隠された目の部分に赤い光が二つ灯った。
同時に鬼はゆっくりと軍用機に向かって歩き出した。
「ちっ……新型の警備ロボットか?
妙に華奢な感じはするが。
まあ、良い。あれはそれも想定しての物だからな」
一瞬、予想外の事に戸惑った大尉だったが、さすがに実戦経験も豊富なだけにすぐに冷静さを取り戻し、そう言って余裕の笑みを浮かべた。
「バンッ!」
鬼が数歩こちらへ進んだ時、突然、何かが弾ける大きな音がして、鬼の周りが煙に包まれた。
その瞬間、グァンミンが仕掛けていた指向性の対人地雷が作動したのだ。センサーによって起爆した地雷は爆風と共にその前面に向けて無数のパチンコ玉大の鉄球を打ち出した。これが人間ならこれだけの至近距離、一瞬で体をズタズタにされる。そして軍用車両でもその装甲版を打ち抜き内部にいる人員や機器を破壊して行動不能に出来る凶悪な代物だった。
あの華奢なボディーを持つ警備用ロボットなら行動不能なまでに破壊できているはずだと、この時、大尉は疑うことなく確信していた。
しかしだ。
一呼吸の後、地雷がさく裂した煙の中から二つの赤い光がゆっくりと揺れながらはっきりと見え始めた。軍用機のジェットポッドからの風が地雷の煙を吹き飛ばすと、そこには先ほどと全く変わらぬ姿で鬼は立っていた。
そう全く変わらぬ姿。その白銀に輝くボディーには何の損傷もないばかりではなく、今工場から出て来たばかりの様に傷一つなく輝いていた。
そして鬼は何事もなかったかの様にまたゆっくりとこちらに向かって歩き出した。
「おい、嘘だろ、あの強化した特製地雷が二個だぞ。
しかも至近距離で相手はあの貧相なボディーのロボット。
どうなってんだ!」
グァンミンが恐怖が混じった表情で叫んだ。
「ちくしょう! このバケモンが!」
同時にファリンが手に持った自動小銃を鬼向かって乱射し始めた。
そのほとんどが鬼に命中していたが、鬼はまったく動じず、群がる小虫の中を歩く様にその手を上げて顔を守る様にしただけだった。そればかりか、体に当たる銃弾にはまったくお構いなしの様子だった。
歩みを進める鬼がおもむろに床に落ちていたひしゃげたドアを片手でひょいと拾い上げた。そして、自動小銃のフルオート射撃を受けながらそれを無造作に放り投げた。そう、見ている限り、軽く放り投げた様に見えた。
しかし、鬼の手を離れたドアは凄まじい勢いでカタリナを拉致しようとしている軍用機に向かって一直線に飛んだ。それはまるで小型のミサイルか砲弾の様であった。そしてそれは正確に四つある可動式ジェットポッドの一つに命中した。
凄まじい轟音と共に鬼によって投げつけられた鉄の扉はジェットポッドに突き刺ささりその機能を完全に破壊していた。
同時に、軍用機のコクピットでは緊急事態を告げるアラームが鳴り響き、ディスプレイ上には赤い表示がせわしなく点滅していた。そこに座る二人のパイロットは何が起こったのか分からずパニック状態に陥っていた。今の彼らに分かるのはただ一つ、何らかの事情でジェットポッドの一つが機能を失い、それは同時にこの機体を離陸させる事もほぼ不可能になったと言う事だけだった。
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