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第4話 何故メイドはその姫を庇う
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「良い事を教えてやろう、カタリナ。
こいつは、いつもは男などまったく興味が無さそう顔をしてるが、
一旦、マックスに抱かれるとそれはそれは色っぽい顔になるんだぞ。
お堅いメイド長が、一匹の雌に変わるのを見るのは結構見ものだぞ」
しかし静は下卑た笑みをその口元に貼り付けながらカタリナを見降ろして言った。
「静様、姫様の前ではもうこれ以上お許しください。
お言葉通り、今夜は静様のお部屋に留まります。
ですから、今はどうかこのままお部屋へ……」
さすがにこのままではまずいと察したクローディアが、そう言いながら二人の間に割って入った。
「まあいい、気がそげた。
私は部屋へ行く。
来る時はなるべくエロい下着に変えて来いよ。
今夜はたっぷり乱れてもらうからな、
覚悟しておけ、クローディア」
「はい、静様」
そんなクローディアを見て静が不満げな表情を浮かべながら言うと、クローディアは感情を殺した使用人の顔で頭を下げた。そして静は勝ち誇った様な表情でカタリナを一瞥してから、先ほど彼女の降りて来た飾り階段へと歩き始めた。その後をマックスがすぐに追いかける。
静とマックスが階段を上がり切り見えなくなるまでクローディアは深々と頭を下げた姿勢のまま微動だにしなかった。それは相手が王位継承権を剥奪された者に対する姿勢ではなく、あくまで第一王女に対する最敬礼の姿勢に他ならなかった。
カタリナは、あのまま王家の汚点とも言える静と言う女に言いたい放題言わせたまま行かせたくはなった。誰もが認める、この王宮内で一番有能で働き者であるクローディア。しかも、自身の姉があんな風だった中、幼い頃からまるで本当の姉の様にいつも身近に居て優しく接してくれたクローディア。そのクローディアをあんな女に目の前で辱められた事をカタリナは絶対に許せなかった。あれだけ言葉で酷く辱められても臣下の礼を尽くし見送るクローディアを、あの女はさらに追い打ちを掛けるかの様に高笑いしながら去って行った。
カタリナはそんな下品で無礼な女の背中をじっと睨みつけていた。しかし、あの女は半分とは言え確かに血の繋がった姉なのだ。その事を思うとカタリナは、どうしようもない口惜しさと恥ずかしさ、そして怒りの感情が心の中で渦巻き、無意識の内に固く握りしめた拳を震わせていた。
その震える拳を不意に何か暖かい物が包み込むのをカタリナは感じた。思わずそこに目を落とすと、白い手が自分の震える拳の片方をそっと両手で包み込んでいるのに気が付いた。
「姫様、お気持ちは大変嬉しゅうございます。
しかし、私の様な物の事でお心を乱さないでください。
私は大丈夫ですから……」
振り返るとクローディがそう言って、優しい微笑みを浮かべて自分を見ていた。先ほどまで、あの姉にあれだけ酷い言葉による辱めを受けたいたのに、この人はなんでこんなに優しい笑みを私に投げかける事が出来るのだろう、とカタリナは感心した。もし、このクローディアが自分の本当の姉だったらどんなに幸せなのに、と彼女はその時、心から願った。
「ねぇ、クローディア。
あんな人の言う事を聞く事はないのよ。
お父様だってあの人の事はもう見捨てている。
あの人の事なんてあなたは必要最低限の事さえしてれば良いの」
カタリナは自分の拳を包み込むクローディアの手にもう片方の手を添えてそう叫ぶ様に言った。
「そんな事を言ってはいけません。
仮にも静様は姫様の実のお姉さまであるのですよ。
それも姫様にとってはたった一人のお姉さまです」
それでもクローディアは微笑みを浮かべたままそう言った。
「クローディア、正直に話して。
あなた、あの人に何か脅迫の様な物をされているのではない?
もしそうなら私があなたの力になる。
絶対にあなたを救ってあげる。
だから、あなたはあんな人の言いなりになる事などないのよ」
カタリナはクローディアの手を逆に強く握り、真剣な顔でそう尋ねた。
「お気持ちは嬉しいのですが、姫様、
そのような事はありませので安心してください。
私が私の判断でそうしているだけですから……」
クローディアは微笑みながらカタリナを安心させるかのように答えた。
「でも、そうは言っても……」
それでもカタリナは納得出来ない風だった。
「静様も昔からああいう方ではなかったのです。
あの忌まわしい事件が起こる前は、
姫様の様にとてもお優しい方でした」
「えっ……あの人が優しかったですって……」
そんなカタリナにクローディはそう言って静かにその事を語りだした。
「本当に悪いのは静様ではありません。
悪いのは、すべてあの忌まわしい事件なのです。
あの事件で静様は、たった一人のお母様を失っただけでなく、
そのお顔やお体、それにそのお心にまで、
二度と癒える事のない深い傷を負ってしまわれたのです。
凄まじい、悲しみと憎悪、そして深い絶望が、
静様の心を凍り付かせその顔やお体同様にすっかり変えてしまった。
私達は、あの事件を起こした者たちだけでなく、
まだ幼さの残る、そして何の罪もない静様に対して、
こんな惨たらしい運命を与えた神様まで憎んだほどです……」
クローディアが語った『忌まわしい事件』とは、今から十八年前にこのラマナス海洋王国で起こったテロ事件の事だった。
この事件を語るには、このラマナス海洋王国の成り立ちから語らねばならない。
こいつは、いつもは男などまったく興味が無さそう顔をしてるが、
一旦、マックスに抱かれるとそれはそれは色っぽい顔になるんだぞ。
お堅いメイド長が、一匹の雌に変わるのを見るのは結構見ものだぞ」
しかし静は下卑た笑みをその口元に貼り付けながらカタリナを見降ろして言った。
「静様、姫様の前ではもうこれ以上お許しください。
お言葉通り、今夜は静様のお部屋に留まります。
ですから、今はどうかこのままお部屋へ……」
さすがにこのままではまずいと察したクローディアが、そう言いながら二人の間に割って入った。
「まあいい、気がそげた。
私は部屋へ行く。
来る時はなるべくエロい下着に変えて来いよ。
今夜はたっぷり乱れてもらうからな、
覚悟しておけ、クローディア」
「はい、静様」
そんなクローディアを見て静が不満げな表情を浮かべながら言うと、クローディアは感情を殺した使用人の顔で頭を下げた。そして静は勝ち誇った様な表情でカタリナを一瞥してから、先ほど彼女の降りて来た飾り階段へと歩き始めた。その後をマックスがすぐに追いかける。
静とマックスが階段を上がり切り見えなくなるまでクローディアは深々と頭を下げた姿勢のまま微動だにしなかった。それは相手が王位継承権を剥奪された者に対する姿勢ではなく、あくまで第一王女に対する最敬礼の姿勢に他ならなかった。
カタリナは、あのまま王家の汚点とも言える静と言う女に言いたい放題言わせたまま行かせたくはなった。誰もが認める、この王宮内で一番有能で働き者であるクローディア。しかも、自身の姉があんな風だった中、幼い頃からまるで本当の姉の様にいつも身近に居て優しく接してくれたクローディア。そのクローディアをあんな女に目の前で辱められた事をカタリナは絶対に許せなかった。あれだけ言葉で酷く辱められても臣下の礼を尽くし見送るクローディアを、あの女はさらに追い打ちを掛けるかの様に高笑いしながら去って行った。
カタリナはそんな下品で無礼な女の背中をじっと睨みつけていた。しかし、あの女は半分とは言え確かに血の繋がった姉なのだ。その事を思うとカタリナは、どうしようもない口惜しさと恥ずかしさ、そして怒りの感情が心の中で渦巻き、無意識の内に固く握りしめた拳を震わせていた。
その震える拳を不意に何か暖かい物が包み込むのをカタリナは感じた。思わずそこに目を落とすと、白い手が自分の震える拳の片方をそっと両手で包み込んでいるのに気が付いた。
「姫様、お気持ちは大変嬉しゅうございます。
しかし、私の様な物の事でお心を乱さないでください。
私は大丈夫ですから……」
振り返るとクローディがそう言って、優しい微笑みを浮かべて自分を見ていた。先ほどまで、あの姉にあれだけ酷い言葉による辱めを受けたいたのに、この人はなんでこんなに優しい笑みを私に投げかける事が出来るのだろう、とカタリナは感心した。もし、このクローディアが自分の本当の姉だったらどんなに幸せなのに、と彼女はその時、心から願った。
「ねぇ、クローディア。
あんな人の言う事を聞く事はないのよ。
お父様だってあの人の事はもう見捨てている。
あの人の事なんてあなたは必要最低限の事さえしてれば良いの」
カタリナは自分の拳を包み込むクローディアの手にもう片方の手を添えてそう叫ぶ様に言った。
「そんな事を言ってはいけません。
仮にも静様は姫様の実のお姉さまであるのですよ。
それも姫様にとってはたった一人のお姉さまです」
それでもクローディアは微笑みを浮かべたままそう言った。
「クローディア、正直に話して。
あなた、あの人に何か脅迫の様な物をされているのではない?
もしそうなら私があなたの力になる。
絶対にあなたを救ってあげる。
だから、あなたはあんな人の言いなりになる事などないのよ」
カタリナはクローディアの手を逆に強く握り、真剣な顔でそう尋ねた。
「お気持ちは嬉しいのですが、姫様、
そのような事はありませので安心してください。
私が私の判断でそうしているだけですから……」
クローディアは微笑みながらカタリナを安心させるかのように答えた。
「でも、そうは言っても……」
それでもカタリナは納得出来ない風だった。
「静様も昔からああいう方ではなかったのです。
あの忌まわしい事件が起こる前は、
姫様の様にとてもお優しい方でした」
「えっ……あの人が優しかったですって……」
そんなカタリナにクローディはそう言って静かにその事を語りだした。
「本当に悪いのは静様ではありません。
悪いのは、すべてあの忌まわしい事件なのです。
あの事件で静様は、たった一人のお母様を失っただけでなく、
そのお顔やお体、それにそのお心にまで、
二度と癒える事のない深い傷を負ってしまわれたのです。
凄まじい、悲しみと憎悪、そして深い絶望が、
静様の心を凍り付かせその顔やお体同様にすっかり変えてしまった。
私達は、あの事件を起こした者たちだけでなく、
まだ幼さの残る、そして何の罪もない静様に対して、
こんな惨たらしい運命を与えた神様まで憎んだほどです……」
クローディアが語った『忌まわしい事件』とは、今から十八年前にこのラマナス海洋王国で起こったテロ事件の事だった。
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