154 / 161
第百五十四話
しおりを挟む
僕は思い切って口を開いた。
「板額、これはいったいどういう事なんだ?
いや、板額だけじゃない、緑川も、白瀬も……」
と、ここまで言って、今だに酔いがさめないのか僕の肩の高さ辺りをふわふわ漂っている白瀬に目が行った。
「……まあ、今の白瀬に何聞いても無駄か……」
僕は思わずそう言って苦笑いを浮かべた。
「んっ?」
すると白瀬は無邪気な笑顔を浮かべて小首を傾げた。そしてこう言った。
「与一君、聞きたい?」
ちなみに白瀬が僕の事を『与一』と呼ぶのは初めてだった。どうやら酔った勢いでそう呼んだようだ。きっと白瀬も、僕の事を板額や緑川みたいに名前で呼びたかったんだなって僕はその時、思った。
「私も巴も、最初からみんな知ってたんだよぉ~♪
板額は、与一の気持ちを、きちんと確かめたかったんだよぉ~♪
どんなに離れ離れになっても、ちゃんと追っかけてきてくれるかってね~♪
だって板額って見かけによらず実はすっごくツンデレさんなんだからねぇ~♪」
そうして白瀬は、事も無げに酔った勢いのままぺらぺらとしゃべてしまった。
その瞬間の板額と緑川の顔は、今でも忘れない。
まさに顔全体に『あちゃぁ~!』って書かれてるみたいだった。
「いやはや、京子がこれほど上機嫌で酔っぱらうとは想定外だったよ」
緑川の淹れたミルクティーのカップを受けとった板額が、一口飲んでからため息交じりにそう言った。
「ホントホント、まさか、京子が真っ先に口割っちゃうなんてね」
レモンの香りが零れるティーカップを手にした緑川も、ソファーに腰を下ろしながらそう答えた。
「どういう事なんだよ、コレ。
白瀬の言ってることが間違ってないなら、
僕以外はみんなグルだったって事かよ」
僕は、酔い覚ましには必ず飲む冷えたドクペを取りに席を立っった。そして冷蔵庫に向かいながら、みんなに聞こえるように独り言を不満げに口にした。
「まあ、そういう事。
与一、あなた、板額に試されたのよ」
緑川はレモンティーを飲みながらそう言って、くくっと楽し気に笑った。
「じゃあ最初から板額は僕とまた再開できることを知ってて僕を騙したのか?」
僕は少し怒った風でそう言うと、ジロリと板額を睨んだ。
「まあ、そう怒らないでよ、与一。
最初は本当にあれが最後になるかもしれなかったんだ。
お婆様から、烏丸家当主教育を徹底するために、
京都本宅に呼び戻されてたからね。
彼氏といちゃつきながらの浮ついた気分では、
絶対にダメだときつく言われてたんだ。
さらには僕のお相手も、お婆様自身がきちんと決めるってね。
それを説得するのには、本当に苦労したよ。
元々、君に会うために葵高に転校するのだって、かなり苦労したんだ。
結局、転校して君に会えたのだって、
たまたま、あの事件が発生したからなんだよ。
その事件で、僕がどの程度出来るか試す為ってのがお婆様の目的。
決して僕の願いを受け入れてくれたからじゃなかったからね」
すると、板額はその時を思い出すように、でも楽し気ににこにこしながらそう語った。
「板額が居なくなる前、時折、板額が学校休む事あったでしょ。
あれ、板額がわざわざ京都の本宅まで行って、
まだ現当主であるお婆様を必死に説得してたのよ」
すると緑川も、思い出すようにくくっ笑ってそう補足した。
「結局、お婆様は……
僕の意思と、与一、君の男としての『誠』を確かめる為、
僕が大学に行くまで会う事はもちろん連絡も一切させない。
それでも、僕がきちんと当主としての教育をこなし、
なおかつ、与一、君がちゃんと努力をして、
僕を忘れず、ここまで探しに来るなら、
僕と君の事も考えてやっても良い。
……って事にしてくれたんだ」
「それで、その間、与一に悪い虫が付いたり浮気しないように、
監視する様に、私と京子が板額から頼まれたわけ」
「巴だけなら、与一君が言葉などで騙して浮気できても、
私が居れば大丈夫だしねぇ~♪」
板額の言葉に、緑川と白瀬が合わせる。白瀬は相変わらず酔ったまま上機嫌の様だ。
「結局、巴はとても優秀な監視役だったけど、
同時に、僕にとってはとっても『悪い虫』になったみたいだけどね。
でも烏丸家次期当主の僕としては、
夫に愛人の一人くらい居たって認める度量もあるけど」
二人の言葉を聞いて、板額はちらりと緑川を横目で見ながらそう言って意味ありげな笑みを浮かべた。
「板額、これはいったいどういう事なんだ?
いや、板額だけじゃない、緑川も、白瀬も……」
と、ここまで言って、今だに酔いがさめないのか僕の肩の高さ辺りをふわふわ漂っている白瀬に目が行った。
「……まあ、今の白瀬に何聞いても無駄か……」
僕は思わずそう言って苦笑いを浮かべた。
「んっ?」
すると白瀬は無邪気な笑顔を浮かべて小首を傾げた。そしてこう言った。
「与一君、聞きたい?」
ちなみに白瀬が僕の事を『与一』と呼ぶのは初めてだった。どうやら酔った勢いでそう呼んだようだ。きっと白瀬も、僕の事を板額や緑川みたいに名前で呼びたかったんだなって僕はその時、思った。
「私も巴も、最初からみんな知ってたんだよぉ~♪
板額は、与一の気持ちを、きちんと確かめたかったんだよぉ~♪
どんなに離れ離れになっても、ちゃんと追っかけてきてくれるかってね~♪
だって板額って見かけによらず実はすっごくツンデレさんなんだからねぇ~♪」
そうして白瀬は、事も無げに酔った勢いのままぺらぺらとしゃべてしまった。
その瞬間の板額と緑川の顔は、今でも忘れない。
まさに顔全体に『あちゃぁ~!』って書かれてるみたいだった。
「いやはや、京子がこれほど上機嫌で酔っぱらうとは想定外だったよ」
緑川の淹れたミルクティーのカップを受けとった板額が、一口飲んでからため息交じりにそう言った。
「ホントホント、まさか、京子が真っ先に口割っちゃうなんてね」
レモンの香りが零れるティーカップを手にした緑川も、ソファーに腰を下ろしながらそう答えた。
「どういう事なんだよ、コレ。
白瀬の言ってることが間違ってないなら、
僕以外はみんなグルだったって事かよ」
僕は、酔い覚ましには必ず飲む冷えたドクペを取りに席を立っった。そして冷蔵庫に向かいながら、みんなに聞こえるように独り言を不満げに口にした。
「まあ、そういう事。
与一、あなた、板額に試されたのよ」
緑川はレモンティーを飲みながらそう言って、くくっと楽し気に笑った。
「じゃあ最初から板額は僕とまた再開できることを知ってて僕を騙したのか?」
僕は少し怒った風でそう言うと、ジロリと板額を睨んだ。
「まあ、そう怒らないでよ、与一。
最初は本当にあれが最後になるかもしれなかったんだ。
お婆様から、烏丸家当主教育を徹底するために、
京都本宅に呼び戻されてたからね。
彼氏といちゃつきながらの浮ついた気分では、
絶対にダメだときつく言われてたんだ。
さらには僕のお相手も、お婆様自身がきちんと決めるってね。
それを説得するのには、本当に苦労したよ。
元々、君に会うために葵高に転校するのだって、かなり苦労したんだ。
結局、転校して君に会えたのだって、
たまたま、あの事件が発生したからなんだよ。
その事件で、僕がどの程度出来るか試す為ってのがお婆様の目的。
決して僕の願いを受け入れてくれたからじゃなかったからね」
すると、板額はその時を思い出すように、でも楽し気ににこにこしながらそう語った。
「板額が居なくなる前、時折、板額が学校休む事あったでしょ。
あれ、板額がわざわざ京都の本宅まで行って、
まだ現当主であるお婆様を必死に説得してたのよ」
すると緑川も、思い出すようにくくっ笑ってそう補足した。
「結局、お婆様は……
僕の意思と、与一、君の男としての『誠』を確かめる為、
僕が大学に行くまで会う事はもちろん連絡も一切させない。
それでも、僕がきちんと当主としての教育をこなし、
なおかつ、与一、君がちゃんと努力をして、
僕を忘れず、ここまで探しに来るなら、
僕と君の事も考えてやっても良い。
……って事にしてくれたんだ」
「それで、その間、与一に悪い虫が付いたり浮気しないように、
監視する様に、私と京子が板額から頼まれたわけ」
「巴だけなら、与一君が言葉などで騙して浮気できても、
私が居れば大丈夫だしねぇ~♪」
板額の言葉に、緑川と白瀬が合わせる。白瀬は相変わらず酔ったまま上機嫌の様だ。
「結局、巴はとても優秀な監視役だったけど、
同時に、僕にとってはとっても『悪い虫』になったみたいだけどね。
でも烏丸家次期当主の僕としては、
夫に愛人の一人くらい居たって認める度量もあるけど」
二人の言葉を聞いて、板額はちらりと緑川を横目で見ながらそう言って意味ありげな笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる