ハンガク!

化野 雫

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第百五十二話

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 ちなみに、この合コン当然お酒も進み、白瀬もまるで本当の生者の様に一緒に飲んで騒ぐことが出来た程だった。事実、飲み会が終わった後も僕らの仲間内では……

『あの時、もう一人、可愛い女の子がいた様な気がするんだけど思い出せない』

……と普通なら記憶に残らないはずの白瀬のイメージがうっすらと残る程だった。


 さすが大学生だけあって普段なら日付が変わりお店が閉まるまで飲み明かす事も多い。しかしこの日は、電車通学組も多かった為に早めのお開きとなった。僕らも、そしてたまたま居合わせた為に合コンのお相手となった女の子達も皆、お開きになるのが名残惜しそうだったのを僕は良く覚えている。

 阪急、京阪、JRと同じ電車で帰る連中は、それぞれ路線別グループに分かれ男どもがエスコートして帰る事になった。そして、同じ様に下宿組もそれぞれ方面が近い者同士、タクシーに分乗して帰ろうと言う話になった時である。

 僕は、もう、ここまで来たら、緑川と僕が一緒のマンションに下宿してる事を隠してもしょうがないと開き直って、緑川と同じタクシーに乗ろうかと思っていた。

「じゃあ、僕は、巴と一緒に与一の下宿に行くよ」

 見た目にはほろ酔い程度にしか見えない板額がぽろりと、とんでもない事を口にした。

 余談であるが、板額も緑川も、どうやらお酒にはかなり強い様だった。
 
 他の連中は男女とも場が盛り上がった事もあり、飲むペースが上がり見るからにかなり酔った風な奴らが多かった。一人で帰すにはちょっと不安なほど足に来てる奴すらいる。

 もちろん二人とも他の連中に合わせて結構飲んでいた。しかし二人とも、呂律はもちろん、その表情や様子は、ほろ酔い加減にしか見えない。ましてや足取りはもう素面の人と変わらぬほどしっかりしていた。

 一方、前にも言ったがこう言う場なら飲む事(傍から見れば真似事ではあるが)出来る幽霊の白瀬は、かなりへべれけになって、僕の肩辺りを左右上下に大きく揺れながら浮かんでいた。放って置けば、そのままどこかに漂流して行ってしまいそうだった。


「えっ、板額、あんた、東山に大豪邸の自宅があるやないの?」

 その言葉に酔いが回って少し足元がおぼつかなくなっていた女の子の一人が声を上げた。

「与一とは色々話さなきゃいけない事もあるしね。
 もちろん、巴も含めてね」

 その言葉に板額は笑いながら、ごくごく普通に答えた。

「こりゃ、今夜は色っぽい事は無く、完全な修羅場やな」

「ああ、修羅場に違いない。
 もはや俺らが関わる事ではないな」

 石黒たちが、複雑な表情を浮かべ、僕に冷たい視線を送りながらそう呟いた。

「板額の気持ち、よう分かるから止めへん。
 けどな、くれぐれも冷静にな。
 暴力はあかんで……」

 女の子達のリーダー格的な子が、真剣な顔でそう板額に言った。彼女はマジで僕らの事を心配してくれている様だった。きっと、普段から周りを気遣う良い子なんだろうなと僕は思った。実際、板額や緑川ほどではないが見かけも結構、可愛い子だった。

 でも、そんな事をちらりとでも思った事を板額や緑川に知られたら、僕はマジで殺される。

 そんな僕を見て、すっかり出来上がっている白瀬が僕らの周りをふらふらと漂いながら、僕を見てにやいにやしいていた。白瀬はさすが幽霊だけあって、僕の心が少しは読める様であった。

「大丈夫だよ、僕は冷静さ。
 それに巴もね。
 一番動揺してるのは、たぶん与一だと思うよ」

 真面目に自分たちの事を心配してくれている友人を安心させるように板額はそう言って笑った。

「まあ、板額、あんたがそう言うのなら大丈夫やろうけどな」

 板額の言葉と笑みを見て、ふっと小さなため息をついた後、その女の子は安心した様にそう言った。

 そうなのだ。

 こういう時の板額の作る笑みは何故か相手に不思議な安心感を与えるのだ。

「せやけど、巴もやで。
 あんたこそ、冷静にな」

「私も大丈夫だって、慣れてるから」

「慣れてるって、あんたなぁ……」

 笑って平然と答えた緑川に、その子は複雑な表情を浮かべた。そして、その直後、僕をもの凄く怖い目つきで睨みながらこう言い放った。

「本当はあんたが一番悪いんやで。
 もし、あんたが私の彼氏なら、
 今晩、簀巻きにして大阪南港に沈めたるわ!」

 うわっ……『大阪南港に沈める』って、都市伝説じゃなくて本当に使うんだ。僕はその時、そう言った女の子の真剣な表情とは裏腹にそんな事を思っていた。
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