152 / 161
第百五十二話
しおりを挟む
ちなみに、この合コン当然お酒も進み、白瀬もまるで本当の生者の様に一緒に飲んで騒ぐことが出来た程だった。事実、飲み会が終わった後も僕らの仲間内では……
『あの時、もう一人、可愛い女の子がいた様な気がするんだけど思い出せない』
……と普通なら記憶に残らないはずの白瀬のイメージがうっすらと残る程だった。
さすが大学生だけあって普段なら日付が変わりお店が閉まるまで飲み明かす事も多い。しかしこの日は、電車通学組も多かった為に早めのお開きとなった。僕らも、そしてたまたま居合わせた為に合コンのお相手となった女の子達も皆、お開きになるのが名残惜しそうだったのを僕は良く覚えている。
阪急、京阪、JRと同じ電車で帰る連中は、それぞれ路線別グループに分かれ男どもがエスコートして帰る事になった。そして、同じ様に下宿組もそれぞれ方面が近い者同士、タクシーに分乗して帰ろうと言う話になった時である。
僕は、もう、ここまで来たら、緑川と僕が一緒のマンションに下宿してる事を隠してもしょうがないと開き直って、緑川と同じタクシーに乗ろうかと思っていた。
「じゃあ、僕は、巴と一緒に与一の下宿に行くよ」
見た目にはほろ酔い程度にしか見えない板額がぽろりと、とんでもない事を口にした。
余談であるが、板額も緑川も、どうやらお酒にはかなり強い様だった。
他の連中は男女とも場が盛り上がった事もあり、飲むペースが上がり見るからにかなり酔った風な奴らが多かった。一人で帰すにはちょっと不安なほど足に来てる奴すらいる。
もちろん二人とも他の連中に合わせて結構飲んでいた。しかし二人とも、呂律はもちろん、その表情や様子は、ほろ酔い加減にしか見えない。ましてや足取りはもう素面の人と変わらぬほどしっかりしていた。
一方、前にも言ったがこう言う場なら飲む事(傍から見れば真似事ではあるが)出来る幽霊の白瀬は、かなりへべれけになって、僕の肩辺りを左右上下に大きく揺れながら浮かんでいた。放って置けば、そのままどこかに漂流して行ってしまいそうだった。
「えっ、板額、あんた、東山に大豪邸の自宅があるやないの?」
その言葉に酔いが回って少し足元がおぼつかなくなっていた女の子の一人が声を上げた。
「与一とは色々話さなきゃいけない事もあるしね。
もちろん、巴も含めてね」
その言葉に板額は笑いながら、ごくごく普通に答えた。
「こりゃ、今夜は色っぽい事は無く、完全な修羅場やな」
「ああ、修羅場に違いない。
もはや俺らが関わる事ではないな」
石黒たちが、複雑な表情を浮かべ、僕に冷たい視線を送りながらそう呟いた。
「板額の気持ち、よう分かるから止めへん。
けどな、くれぐれも冷静にな。
暴力はあかんで……」
女の子達のリーダー格的な子が、真剣な顔でそう板額に言った。彼女はマジで僕らの事を心配してくれている様だった。きっと、普段から周りを気遣う良い子なんだろうなと僕は思った。実際、板額や緑川ほどではないが見かけも結構、可愛い子だった。
でも、そんな事をちらりとでも思った事を板額や緑川に知られたら、僕はマジで殺される。
そんな僕を見て、すっかり出来上がっている白瀬が僕らの周りをふらふらと漂いながら、僕を見てにやいにやしいていた。白瀬はさすが幽霊だけあって、僕の心が少しは読める様であった。
「大丈夫だよ、僕は冷静さ。
それに巴もね。
一番動揺してるのは、たぶん与一だと思うよ」
真面目に自分たちの事を心配してくれている友人を安心させるように板額はそう言って笑った。
「まあ、板額、あんたがそう言うのなら大丈夫やろうけどな」
板額の言葉と笑みを見て、ふっと小さなため息をついた後、その女の子は安心した様にそう言った。
そうなのだ。
こういう時の板額の作る笑みは何故か相手に不思議な安心感を与えるのだ。
「せやけど、巴もやで。
あんたこそ、冷静にな」
「私も大丈夫だって、慣れてるから」
「慣れてるって、あんたなぁ……」
笑って平然と答えた緑川に、その子は複雑な表情を浮かべた。そして、その直後、僕をもの凄く怖い目つきで睨みながらこう言い放った。
「本当はあんたが一番悪いんやで。
もし、あんたが私の彼氏なら、
今晩、簀巻きにして大阪南港に沈めたるわ!」
うわっ……『大阪南港に沈める』って、都市伝説じゃなくて本当に使うんだ。僕はその時、そう言った女の子の真剣な表情とは裏腹にそんな事を思っていた。
『あの時、もう一人、可愛い女の子がいた様な気がするんだけど思い出せない』
……と普通なら記憶に残らないはずの白瀬のイメージがうっすらと残る程だった。
さすが大学生だけあって普段なら日付が変わりお店が閉まるまで飲み明かす事も多い。しかしこの日は、電車通学組も多かった為に早めのお開きとなった。僕らも、そしてたまたま居合わせた為に合コンのお相手となった女の子達も皆、お開きになるのが名残惜しそうだったのを僕は良く覚えている。
阪急、京阪、JRと同じ電車で帰る連中は、それぞれ路線別グループに分かれ男どもがエスコートして帰る事になった。そして、同じ様に下宿組もそれぞれ方面が近い者同士、タクシーに分乗して帰ろうと言う話になった時である。
僕は、もう、ここまで来たら、緑川と僕が一緒のマンションに下宿してる事を隠してもしょうがないと開き直って、緑川と同じタクシーに乗ろうかと思っていた。
「じゃあ、僕は、巴と一緒に与一の下宿に行くよ」
見た目にはほろ酔い程度にしか見えない板額がぽろりと、とんでもない事を口にした。
余談であるが、板額も緑川も、どうやらお酒にはかなり強い様だった。
他の連中は男女とも場が盛り上がった事もあり、飲むペースが上がり見るからにかなり酔った風な奴らが多かった。一人で帰すにはちょっと不安なほど足に来てる奴すらいる。
もちろん二人とも他の連中に合わせて結構飲んでいた。しかし二人とも、呂律はもちろん、その表情や様子は、ほろ酔い加減にしか見えない。ましてや足取りはもう素面の人と変わらぬほどしっかりしていた。
一方、前にも言ったがこう言う場なら飲む事(傍から見れば真似事ではあるが)出来る幽霊の白瀬は、かなりへべれけになって、僕の肩辺りを左右上下に大きく揺れながら浮かんでいた。放って置けば、そのままどこかに漂流して行ってしまいそうだった。
「えっ、板額、あんた、東山に大豪邸の自宅があるやないの?」
その言葉に酔いが回って少し足元がおぼつかなくなっていた女の子の一人が声を上げた。
「与一とは色々話さなきゃいけない事もあるしね。
もちろん、巴も含めてね」
その言葉に板額は笑いながら、ごくごく普通に答えた。
「こりゃ、今夜は色っぽい事は無く、完全な修羅場やな」
「ああ、修羅場に違いない。
もはや俺らが関わる事ではないな」
石黒たちが、複雑な表情を浮かべ、僕に冷たい視線を送りながらそう呟いた。
「板額の気持ち、よう分かるから止めへん。
けどな、くれぐれも冷静にな。
暴力はあかんで……」
女の子達のリーダー格的な子が、真剣な顔でそう板額に言った。彼女はマジで僕らの事を心配してくれている様だった。きっと、普段から周りを気遣う良い子なんだろうなと僕は思った。実際、板額や緑川ほどではないが見かけも結構、可愛い子だった。
でも、そんな事をちらりとでも思った事を板額や緑川に知られたら、僕はマジで殺される。
そんな僕を見て、すっかり出来上がっている白瀬が僕らの周りをふらふらと漂いながら、僕を見てにやいにやしいていた。白瀬はさすが幽霊だけあって、僕の心が少しは読める様であった。
「大丈夫だよ、僕は冷静さ。
それに巴もね。
一番動揺してるのは、たぶん与一だと思うよ」
真面目に自分たちの事を心配してくれている友人を安心させるように板額はそう言って笑った。
「まあ、板額、あんたがそう言うのなら大丈夫やろうけどな」
板額の言葉と笑みを見て、ふっと小さなため息をついた後、その女の子は安心した様にそう言った。
そうなのだ。
こういう時の板額の作る笑みは何故か相手に不思議な安心感を与えるのだ。
「せやけど、巴もやで。
あんたこそ、冷静にな」
「私も大丈夫だって、慣れてるから」
「慣れてるって、あんたなぁ……」
笑って平然と答えた緑川に、その子は複雑な表情を浮かべた。そして、その直後、僕をもの凄く怖い目つきで睨みながらこう言い放った。
「本当はあんたが一番悪いんやで。
もし、あんたが私の彼氏なら、
今晩、簀巻きにして大阪南港に沈めたるわ!」
うわっ……『大阪南港に沈める』って、都市伝説じゃなくて本当に使うんだ。僕はその時、そう言った女の子の真剣な表情とは裏腹にそんな事を思っていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
世界的名探偵 青井七瀬と大福係!~幽霊事件、ありえません!~
ミラ
キャラ文芸
派遣OL3年目の心葉は、ブラックな職場で薄給の中、妹に仕送りをして借金生活に追われていた。そんな時、趣味でやっていた大福販売サイトが大炎上。
「幽霊に呪われた大福事件」に発展してしまう。困惑する心葉のもとに「その幽霊事件、私に解かせてください」と常連の青井から連絡が入る。
世界的名探偵だという青井は事件を華麗に解決してみせ、なんと超絶好待遇の「大福係」への就職を心葉に打診?!青井専属の大福係として、心葉の1ヶ月間の試用期間が始まった!
次々に起こる幽霊事件の中、心葉が秘密にする「霊視の力」×青井の「推理力」で
幽霊事件の真相に隠れた、幽霊の想いを紐解いていく──!
「この世に、幽霊事件なんてありえません」
幽霊事件を絶対に許さない超偏屈探偵・青木と、幽霊が視える大福係の
ゆるバディ×ほっこり幽霊ライトミステリー!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる