ハンガク!

化野 雫

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第百四十九話

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 結局、白瀬も女の子として少しは女子大生生活の真似事がしたいと言う事で、緑川にくっついて行くことになった。幽霊の白瀬は、僕や緑川以外に見えないし、話も出来ないから一緒に行っても見てるだけでつまらないだろうと僕は思っていた。

 でも白瀬の話だと、普通の人でもお酒が進むと無自覚の内に、相手が白瀬みたいに強い霊だと普通の人間相手の様に見えて話が出来たりするのだそうだ。白瀬はそれが楽しいらしい。もっとも白瀬と話せた人間も酔いが醒めると白瀬と話した事はほとんど忘れてしまう事が普通らしい。


 そんなこんなで、僕は久々に『本当の意味で』一人で、しかも男同士でゆっくり夜を過ごす事になった。

 別に緑川や白瀬が居るからと言って、気兼ねしたり堅苦しいわけじゃない。でも男って奴は、またには男同士で、ゆっくり語りたい事も山ほどあるのだ。女の子には聞かれたくない、その手の話だってしたい歳頃なんだ。


 四条河原町で落ち合った僕らは、むさくるしい男ばかり数人でぞろぞろと学生向きの気軽な居酒屋などが多い、木屋町通り方面へ歩いて行った。下宿組ばかりの時は下宿に近い銀閣寺道、北白川辺りで飲む事が多い。しかし自宅通学組が混じる時は阪急電車の駅がある四条河原町付近で飲むのが定番なのである。

 男同士とは言え、そりゃ、下心もある奴も多い僕らの事、木屋町通りとは言え、一次会から少し小洒落たカフェバー風の場所に入った。


 お酒も適度に回って来た頃だった。

 サークル活動等で色々と顔の広い、東野がぽろりと言った。

「知ってるか、今年の京大って当たり年やて。
 羨ましい限りやで」

「当たり年?
 一体、どういう意味や?」

 下宿も近い黒石が覚えたての関西弁で聞き返した。

「新入生にごっつ美人が居るらしいんや」

 黒石が食い付いたのを見て、東野が身を乗り出して来た。

 京大と聞いて、僕はちょっと警戒した。

 自慢じゃないが、緑川はかなりの美人だ。ひょっとしたら緑川の事を言ってるんじゃないかと僕は思ったのだ。まあ、それも第三者が聞いたら、単なる『お惚気のろけ』って思わるのだろうけれど。

 ちょうど、その時だった。

 東野の友人で、これまた顔の広い、しかも結構イケ面でノリの良い香取が、少し長めのトイレから帰って来た。しかも、見知らぬ女の子を一人連れてだ。

「どうや、皆、真面目そうやろ。
 僕が少々軽めの男やから警戒するのも無理ないけどな」

 香取はきょとんとしいている僕らを尻目に、連れて来た女の子にそう声をかけた。

「ほんま、そうやな。
 あんたが一番ちゃらいやんか、
 あははははっ!」

 香取の後ろに居た女の子はそう言って、あっけらかんと笑った。彼女も少しお酒が入ってるのかなってその時僕は思った。彼女は僕らと同年代くらいに見える結構、可愛い感じの子だった。どっかの女子大生なんだろうか、などと僕はその時は思ってた。

「なんか、思ってた感じとえらい違うわ。
 ええわ、分かった。
 一緒に飲んだるわ。
 その代わり、飲み代は1:2やで、ええな?」

「ほんま、かなわなんな。
 まあ、ええわ、その条件飲むで」

「じゃあ、他の連中呼んでくるから、
 あんた、店員さんに言って場所確保し直してな」

 事情がまったく分からず、まったく蚊帳の外状態の僕らを尻目に、香取とその女の子は勝手に何やら話をまとめてしまっていた。

 さすが香取、こう言うことには手慣れているのだろう、女の子がその場を離れるとすぐさま店員さんを呼んで交渉。あっと言う間に広いテーブル席を確保してしまった。

 どうやら、香取の奴、トイレに立った時に女の子同士で飲んでる彼女らのグループを見つけて、早速、ナンパしたらしいのだ。さすがモテる男は違う。

「どうや、可愛い子やろ。
 でも驚くのはまだ早いぞ。
 あの子たちのグループはめちゃレベル高いからな。
 しかも、例の噂の美人が一緒なんやぞ。
 喜べ、諸君!」

 それでもイマイチ事情が呑み込めず、それぞれのグラスを手にぞろぞろと場所を移動し始めた僕らに、香取はそう言って豪快に笑った。

「『噂の美人』って誰だやねん?」

 石黒が歩きながら香取にそう尋ねると彼は誇らしげに言った。

「そりゃ、あの『京大の美人新入生』に決まってるやろが」

 その言葉に、僕は一瞬、ビクっとなった。まさかと一瞬思ったのだ。でも、まあ、そんな事は絵に描いた偶然、ラノベでしかないだろうと思い直して、僕は新しい席に座った。
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小説の匣
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