ハンガク!

化野 雫

文字の大きさ
上 下
149 / 161

第百四十九話

しおりを挟む
 結局、白瀬も女の子として少しは女子大生生活の真似事がしたいと言う事で、緑川にくっついて行くことになった。幽霊の白瀬は、僕や緑川以外に見えないし、話も出来ないから一緒に行っても見てるだけでつまらないだろうと僕は思っていた。

 でも白瀬の話だと、普通の人でもお酒が進むと無自覚の内に、相手が白瀬みたいに強い霊だと普通の人間相手の様に見えて話が出来たりするのだそうだ。白瀬はそれが楽しいらしい。もっとも白瀬と話せた人間も酔いが醒めると白瀬と話した事はほとんど忘れてしまう事が普通らしい。


 そんなこんなで、僕は久々に『本当の意味で』一人で、しかも男同士でゆっくり夜を過ごす事になった。

 別に緑川や白瀬が居るからと言って、気兼ねしたり堅苦しいわけじゃない。でも男って奴は、またには男同士で、ゆっくり語りたい事も山ほどあるのだ。女の子には聞かれたくない、その手の話だってしたい歳頃なんだ。


 四条河原町で落ち合った僕らは、むさくるしい男ばかり数人でぞろぞろと学生向きの気軽な居酒屋などが多い、木屋町通り方面へ歩いて行った。下宿組ばかりの時は下宿に近い銀閣寺道、北白川辺りで飲む事が多い。しかし自宅通学組が混じる時は阪急電車の駅がある四条河原町付近で飲むのが定番なのである。

 男同士とは言え、そりゃ、下心もある奴も多い僕らの事、木屋町通りとは言え、一次会から少し小洒落たカフェバー風の場所に入った。


 お酒も適度に回って来た頃だった。

 サークル活動等で色々と顔の広い、東野がぽろりと言った。

「知ってるか、今年の京大って当たり年やて。
 羨ましい限りやで」

「当たり年?
 一体、どういう意味や?」

 下宿も近い黒石が覚えたての関西弁で聞き返した。

「新入生にごっつ美人が居るらしいんや」

 黒石が食い付いたのを見て、東野が身を乗り出して来た。

 京大と聞いて、僕はちょっと警戒した。

 自慢じゃないが、緑川はかなりの美人だ。ひょっとしたら緑川の事を言ってるんじゃないかと僕は思ったのだ。まあ、それも第三者が聞いたら、単なる『お惚気のろけ』って思わるのだろうけれど。

 ちょうど、その時だった。

 東野の友人で、これまた顔の広い、しかも結構イケ面でノリの良い香取が、少し長めのトイレから帰って来た。しかも、見知らぬ女の子を一人連れてだ。

「どうや、皆、真面目そうやろ。
 僕が少々軽めの男やから警戒するのも無理ないけどな」

 香取はきょとんとしいている僕らを尻目に、連れて来た女の子にそう声をかけた。

「ほんま、そうやな。
 あんたが一番ちゃらいやんか、
 あははははっ!」

 香取の後ろに居た女の子はそう言って、あっけらかんと笑った。彼女も少しお酒が入ってるのかなってその時僕は思った。彼女は僕らと同年代くらいに見える結構、可愛い感じの子だった。どっかの女子大生なんだろうか、などと僕はその時は思ってた。

「なんか、思ってた感じとえらい違うわ。
 ええわ、分かった。
 一緒に飲んだるわ。
 その代わり、飲み代は1:2やで、ええな?」

「ほんま、かなわなんな。
 まあ、ええわ、その条件飲むで」

「じゃあ、他の連中呼んでくるから、
 あんた、店員さんに言って場所確保し直してな」

 事情がまったく分からず、まったく蚊帳の外状態の僕らを尻目に、香取とその女の子は勝手に何やら話をまとめてしまっていた。

 さすが香取、こう言うことには手慣れているのだろう、女の子がその場を離れるとすぐさま店員さんを呼んで交渉。あっと言う間に広いテーブル席を確保してしまった。

 どうやら、香取の奴、トイレに立った時に女の子同士で飲んでる彼女らのグループを見つけて、早速、ナンパしたらしいのだ。さすがモテる男は違う。

「どうや、可愛い子やろ。
 でも驚くのはまだ早いぞ。
 あの子たちのグループはめちゃレベル高いからな。
 しかも、例の噂の美人が一緒なんやぞ。
 喜べ、諸君!」

 それでもイマイチ事情が呑み込めず、それぞれのグラスを手にぞろぞろと場所を移動し始めた僕らに、香取はそう言って豪快に笑った。

「『噂の美人』って誰だやねん?」

 石黒が歩きながら香取にそう尋ねると彼は誇らしげに言った。

「そりゃ、あの『京大の美人新入生』に決まってるやろが」

 その言葉に、僕は一瞬、ビクっとなった。まさかと一瞬思ったのだ。でも、まあ、そんな事は絵に描いた偶然、ラノベでしかないだろうと思い直して、僕は新しい席に座った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

ファンタジー
口が悪く男勝りで見た目は美青年な不良、神田シズ(女)は誕生日の前日に、漆黒の軍服に身を包んだ自分とそっくりの男にキスをされ神様のいない異世界へ飛ばされる。元の世界に帰る方法を捜していると男が着ていた軍服が、城で働く者、城人(じょうにん)だけが着ることを許させる制服だと知る。シズは「君はここじゃないと生きれない」と吐き捨て姿を消した謎の力を持つ男の行方と、自分とそっくりの男の手がかりをつかむために城人になろうとするがそのためには試験に合格し、城人になるための学校に通わなければならず……。癖の強い同期達と敵か味方か分からない教官、上司、王族の中で成長しながら、帰還という希望と真実に近づくにつれて、シズは渦巻く陰謀に引きずり込まれてゆく。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...