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第百四十七話
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そして、この時から僕の必死の努力が始まった。
もちろん、勉強に関しては緑川も協力してくれた。また、白瀬もすごく協力してくれたことを僕は忘れない。
幽霊になってしまっても白瀬の頭の良さは生きていた時と同じだった。白瀬は、きっと生きていれば今頃は緑川並みの秀才として名をとどろかせていただろう。もちろん、あの時の白瀬の身の上を考えれば僕らと同じ私立である葵高は無理だったかもしれない。しかし、きっと地元の公立の有名進学校で、その学校のトップクラスに居たに違いない。
昼間と放課後は緑川、夜間は白瀬が、休日は僕の部屋で緑川と白瀬の二人して徹底的に僕の受験対策を指導してくれたのだ。
そして三年生になるのを機に僕は志望校を『同志社大学』一本に絞り込んだ。いう所の私学専願組って奴になった。つまるところ、受験対策の範囲をより絞り込む事で、僕は京都行きをより確実なものにしたかったのだ。
そして、その結果は……
見事、僕は現役で志望校であった『同志社大学』の法学部に合格する事が出来た。
また緑川も、大方の予想通り『京都大学』、しかも僕と同じ法学部に一発合格した。
僕は、『彼女』が同じ学部で同志社と京大って言うと、なんだかあからさまに僕との間に差がある様な気がして少し気が引けた。
そんな僕に、緑川は……
「与一は凄く頑張ったじゃない。
もっと胸を張りなさいよ。
私はそんな些細な事、全然気にしないわ。
私は、今まで通り変わらず与一の彼女よ」
……と優しく微笑みながら言ってくれた。
その時の僕は表向きは平然を装っていたが、その実、涙が出そうなほど嬉しかった。
「巴って、少し冷たい印象を持たれるけど、
本当はすごく優しい女の子なのよね」
そんな僕の気持ちを察した白瀬が、その時、僕の耳元でそう囁いた。
こうして、僕と緑川は、晴れて四月から学校はこそ違うが、同じ京都に下宿して暮らす事になったのだ。
僕は、幸い母が売れっ子小説家と言う事でお金もそこそこ余裕があった。なので、卒業時は売って帰ってくれば総合的には費用が安く済む、って事で京都市内のマンションの一室を下宿先として買ってもらえた。
ところが驚いた事に、そのマンションの、しかも同じ階、さらには隣の部屋を緑川が下宿先になったのだ。
同志社は主に教養学科は田辺校舎だが、専門学科がある赤レンガで有名な本拠地今出川校舎は御所裏。緑川の京大とは鴨川を挟んだ比較的近くの百万遍。
なので、たぶん、下宿も近くだろうとは思ってはいた。けれど、まさかこんな事になろうとは、僕は夢にも思わなかった。
その日、下宿に決まったマンションの部屋に荷物などを運び込んでいた僕は、隣の部屋でも同じ様に荷物の運び込みが行われていたのに気が付いた。
どんなん人が隣になるんだろうと考えながら僕はその時、荷物の運び込みなどしていた。
緑川と言う彼女がありながら……隣が美人の女性だったら良いな……なんて年頃の男の子らしい妄想を膨らませたりもしていた。
引っ越し屋さんが大方の荷物を運びこんでくれて帰った後の事だった。
引っ越し屋さんをドアの前で見送り、一息つこうと部屋に戻ろうとした僕の耳に聞き慣れた声がした。
「どうせ、与一の事だから、
隣も引っ越し中って知って、良からぬ妄想を膨らませたんじゃないかしら。
でも、おあいにく様でした!」
その声に振り向いた僕の目に飛び込んで来たのは、ジーンズに長袖Tシャツと言うラフな姿の緑川だった。
そんなラフな姿の緑川を見るのは初めてだった僕は、一瞬、それが緑川だとは分からなかった。
「あら、与一はもう彼女の顔を忘れちゃったのかしら?」
僕がきょとんとした表情なのに気づいた緑川が皮肉たっぷりにそう尋ねて来た。
「平泉君、巴よ……」
僕の肩辺りにふわりと浮いて、引っ越しを見守っていた白瀬が、このままではマズイと察してすぐに僕の耳元でそっと囁いた。
「えっ……緑川?!
なんでお前がここに!」
僕はそれが緑川だとわかって素っ頓狂な声を上げてしまった。
「私の事、『お前』なんて言うくせに、
いまだに『緑川』って呼ぶのよね、与一って」
そう、呆れ顔で言ってから緑川は聞き取れないくらい小さな声で確かこう付け加えた。
「……板額の事は『板額』って名前で呼んでた癖に……」
そう呟いた後、緑川はあからさまに不満げな表情を浮かべた。
言われてみれば確かにそうなのだ。
僕は、板額の事は『板額』と下の名で呼ぶ。
でも緑川と白瀬に関してはどういう訳か、これだけ親しくなってもそれぞれ『緑川』『白瀬』と名字で呼んでいる。
もちろん、勉強に関しては緑川も協力してくれた。また、白瀬もすごく協力してくれたことを僕は忘れない。
幽霊になってしまっても白瀬の頭の良さは生きていた時と同じだった。白瀬は、きっと生きていれば今頃は緑川並みの秀才として名をとどろかせていただろう。もちろん、あの時の白瀬の身の上を考えれば僕らと同じ私立である葵高は無理だったかもしれない。しかし、きっと地元の公立の有名進学校で、その学校のトップクラスに居たに違いない。
昼間と放課後は緑川、夜間は白瀬が、休日は僕の部屋で緑川と白瀬の二人して徹底的に僕の受験対策を指導してくれたのだ。
そして三年生になるのを機に僕は志望校を『同志社大学』一本に絞り込んだ。いう所の私学専願組って奴になった。つまるところ、受験対策の範囲をより絞り込む事で、僕は京都行きをより確実なものにしたかったのだ。
そして、その結果は……
見事、僕は現役で志望校であった『同志社大学』の法学部に合格する事が出来た。
また緑川も、大方の予想通り『京都大学』、しかも僕と同じ法学部に一発合格した。
僕は、『彼女』が同じ学部で同志社と京大って言うと、なんだかあからさまに僕との間に差がある様な気がして少し気が引けた。
そんな僕に、緑川は……
「与一は凄く頑張ったじゃない。
もっと胸を張りなさいよ。
私はそんな些細な事、全然気にしないわ。
私は、今まで通り変わらず与一の彼女よ」
……と優しく微笑みながら言ってくれた。
その時の僕は表向きは平然を装っていたが、その実、涙が出そうなほど嬉しかった。
「巴って、少し冷たい印象を持たれるけど、
本当はすごく優しい女の子なのよね」
そんな僕の気持ちを察した白瀬が、その時、僕の耳元でそう囁いた。
こうして、僕と緑川は、晴れて四月から学校はこそ違うが、同じ京都に下宿して暮らす事になったのだ。
僕は、幸い母が売れっ子小説家と言う事でお金もそこそこ余裕があった。なので、卒業時は売って帰ってくれば総合的には費用が安く済む、って事で京都市内のマンションの一室を下宿先として買ってもらえた。
ところが驚いた事に、そのマンションの、しかも同じ階、さらには隣の部屋を緑川が下宿先になったのだ。
同志社は主に教養学科は田辺校舎だが、専門学科がある赤レンガで有名な本拠地今出川校舎は御所裏。緑川の京大とは鴨川を挟んだ比較的近くの百万遍。
なので、たぶん、下宿も近くだろうとは思ってはいた。けれど、まさかこんな事になろうとは、僕は夢にも思わなかった。
その日、下宿に決まったマンションの部屋に荷物などを運び込んでいた僕は、隣の部屋でも同じ様に荷物の運び込みが行われていたのに気が付いた。
どんなん人が隣になるんだろうと考えながら僕はその時、荷物の運び込みなどしていた。
緑川と言う彼女がありながら……隣が美人の女性だったら良いな……なんて年頃の男の子らしい妄想を膨らませたりもしていた。
引っ越し屋さんが大方の荷物を運びこんでくれて帰った後の事だった。
引っ越し屋さんをドアの前で見送り、一息つこうと部屋に戻ろうとした僕の耳に聞き慣れた声がした。
「どうせ、与一の事だから、
隣も引っ越し中って知って、良からぬ妄想を膨らませたんじゃないかしら。
でも、おあいにく様でした!」
その声に振り向いた僕の目に飛び込んで来たのは、ジーンズに長袖Tシャツと言うラフな姿の緑川だった。
そんなラフな姿の緑川を見るのは初めてだった僕は、一瞬、それが緑川だとは分からなかった。
「あら、与一はもう彼女の顔を忘れちゃったのかしら?」
僕がきょとんとした表情なのに気づいた緑川が皮肉たっぷりにそう尋ねて来た。
「平泉君、巴よ……」
僕の肩辺りにふわりと浮いて、引っ越しを見守っていた白瀬が、このままではマズイと察してすぐに僕の耳元でそっと囁いた。
「えっ……緑川?!
なんでお前がここに!」
僕はそれが緑川だとわかって素っ頓狂な声を上げてしまった。
「私の事、『お前』なんて言うくせに、
いまだに『緑川』って呼ぶのよね、与一って」
そう、呆れ顔で言ってから緑川は聞き取れないくらい小さな声で確かこう付け加えた。
「……板額の事は『板額』って名前で呼んでた癖に……」
そう呟いた後、緑川はあからさまに不満げな表情を浮かべた。
言われてみれば確かにそうなのだ。
僕は、板額の事は『板額』と下の名で呼ぶ。
でも緑川と白瀬に関してはどういう訳か、これだけ親しくなってもそれぞれ『緑川』『白瀬』と名字で呼んでいる。
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