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第百三十七話
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「ごめん、与一、先に謝っておくよ。
僕もこのことを知っていながら君に話さなかった。
その原因は京子に対する嫉妬だったんだ。
君の心に居る京子はいくら僕でも敵わないからね。
君を京子に取られたくなかったんだ」
板額はあの後、僕と二人きりの時にそう言って僕に謝った。
「ただの幽霊にすぎない私から見れば、
鬼牙の御姫様のあなたの方がよっぽど怖いわよ。
その気になれば私なんか一撃で浄化だもの。
……って冗談はともかく、
元は男の子なのに、女の子になっても、ある意味、人でなくなっても、
それでも平泉君の事を想い追い続けたあなたこそ、
私にはすごく怖い存在だったのよ」
二人きりとは言ってもそこは幽霊の白瀬の事、板額の言葉を聞いてふわりと僕らの目の前に現れてそう言って笑った。
生きていたころの白瀬は、控えめで何事にも自信なさげでおどおどしていた。
でもそれはあの義父が居たから委縮してそうなってただけだったのだろう。本来の白瀬京子という女の子は、板額や緑川同様にかなりはきはきした性格だったんじゃないかと、そんな白瀬を見るたび僕は思った。
ちなみに白瀬は、あれから僕の傍にいつも居る様になった。
そして僕は白瀬と何日も夜を徹していっぱい話した。
それこそ母が心配するくらい。おかげで授業中もつい居眠りをして何度も白瀬に起こされたっけ。さらには、勘の良い板額と緑川にも勘繰られ散々嫌味も言われた。
僕らはあの時、お互い話せなかった事を話しつくしたのだ。お互いの事、そして、大好きな小説の事。さらにはお互いの胸の奥に隠して来た恋心さえも隠さずみんな話した。その事を話した時、白瀬は僕にしがみ付いて大声を上げて泣いた。まるで子供の様に泣きじゃくった。それは、悲しみ、後悔、喜びなど色々な感情が入り混じった一言では言い表せない感情だったのだろう。
僕は、散々泣きじゃくった後、白瀬が浮かべた森の泉に沸く水の様に澄み切った笑顔を今でも決して忘れない。そして、心の中で思った。
『僕は心の奥底ではやっぱり白瀬の事が一番好きなのかもしれない』
……って。そして板額と緑川には同じように心の中で謝った。
『白瀬は幽霊だからそのくらい僕が思ってやるのを許して欲しい』
……と。まあ、彼女らからすれば、これは男の身勝手な言い訳かもしれないけど。
もちろんいつもいると言っても白瀬は、僕のプライバシーにかかわる時間や、板額や緑川と二人きりでいる時などは気を使って姿を消してくれる。白瀬は、そういう時は一時的に存在が消えてるから、そこで何が起きてるか見たり聞いたりは出来ない、とは言ったいた。
でも、僕が白瀬を呼べばいつでも瞬時に戻ってくることは出来るらしい。実際そうではあるから、白瀬のその言葉を僕は完全には信じてはいない。だって相手は幽霊なんだもの、僕からは見えないだけで実はずっと傍に居るんじゃないかと密かに思っている。
また、僕は母にも白瀬が幽霊になって僕の傍に居る事を話した。
何となく、信じてくれるかどうかは別にして母には白瀬が傍に居る事を知らせなくてはいけない気がしていたのだ。
「京子ちゃん、笑ってた?」
そしたら母は多くを語らずただ僕にそう尋ねた。僕は微笑みながら頷くと、母は目に涙を浮かべて何度も何度も嬉しそうに頷いていた。
僕には一言も言わなかったが、きっと母も白瀬の事に関しては、あの時からずっと心に引っかかる事があったのだろう。それが今の白瀬が笑っている事を知って、すべて氷解したのだろうと僕は思った。
そうそう、白瀬絡みの事で後談にはもう一つ触れておかねばならない事がある。
緑川が板額からもらった例のチョーカーを毎日身に着け白瀬の姿が普通に見える様になってから数日の事だった。
僕ら三人だけになった……まあ、白瀬もいるから正確には四人か……時に、ふと緑川が言ったのだ。
「あのさ、板額。
今朝、JRのホームに恨みがましい目でじっと線路見ながら、
佇んでるサラリーマン風の人が居たんだけど、アレって……」
「ああ、そうそう、君の思ってる通りのモノさ。
なるべくなら目を合わさない様にすることを、
僕は強く推奨するよ」
それを聞いて板額がこともなげに言った。
僕には板額の口元がなんだかにやにや笑っている様にも見えた。
「やっぱり……
居るのね、結構、そこかしこに」
一方、緑川は少しうんざりした顔でそう呟く様に言った。
僕もこのことを知っていながら君に話さなかった。
その原因は京子に対する嫉妬だったんだ。
君の心に居る京子はいくら僕でも敵わないからね。
君を京子に取られたくなかったんだ」
板額はあの後、僕と二人きりの時にそう言って僕に謝った。
「ただの幽霊にすぎない私から見れば、
鬼牙の御姫様のあなたの方がよっぽど怖いわよ。
その気になれば私なんか一撃で浄化だもの。
……って冗談はともかく、
元は男の子なのに、女の子になっても、ある意味、人でなくなっても、
それでも平泉君の事を想い追い続けたあなたこそ、
私にはすごく怖い存在だったのよ」
二人きりとは言ってもそこは幽霊の白瀬の事、板額の言葉を聞いてふわりと僕らの目の前に現れてそう言って笑った。
生きていたころの白瀬は、控えめで何事にも自信なさげでおどおどしていた。
でもそれはあの義父が居たから委縮してそうなってただけだったのだろう。本来の白瀬京子という女の子は、板額や緑川同様にかなりはきはきした性格だったんじゃないかと、そんな白瀬を見るたび僕は思った。
ちなみに白瀬は、あれから僕の傍にいつも居る様になった。
そして僕は白瀬と何日も夜を徹していっぱい話した。
それこそ母が心配するくらい。おかげで授業中もつい居眠りをして何度も白瀬に起こされたっけ。さらには、勘の良い板額と緑川にも勘繰られ散々嫌味も言われた。
僕らはあの時、お互い話せなかった事を話しつくしたのだ。お互いの事、そして、大好きな小説の事。さらにはお互いの胸の奥に隠して来た恋心さえも隠さずみんな話した。その事を話した時、白瀬は僕にしがみ付いて大声を上げて泣いた。まるで子供の様に泣きじゃくった。それは、悲しみ、後悔、喜びなど色々な感情が入り混じった一言では言い表せない感情だったのだろう。
僕は、散々泣きじゃくった後、白瀬が浮かべた森の泉に沸く水の様に澄み切った笑顔を今でも決して忘れない。そして、心の中で思った。
『僕は心の奥底ではやっぱり白瀬の事が一番好きなのかもしれない』
……って。そして板額と緑川には同じように心の中で謝った。
『白瀬は幽霊だからそのくらい僕が思ってやるのを許して欲しい』
……と。まあ、彼女らからすれば、これは男の身勝手な言い訳かもしれないけど。
もちろんいつもいると言っても白瀬は、僕のプライバシーにかかわる時間や、板額や緑川と二人きりでいる時などは気を使って姿を消してくれる。白瀬は、そういう時は一時的に存在が消えてるから、そこで何が起きてるか見たり聞いたりは出来ない、とは言ったいた。
でも、僕が白瀬を呼べばいつでも瞬時に戻ってくることは出来るらしい。実際そうではあるから、白瀬のその言葉を僕は完全には信じてはいない。だって相手は幽霊なんだもの、僕からは見えないだけで実はずっと傍に居るんじゃないかと密かに思っている。
また、僕は母にも白瀬が幽霊になって僕の傍に居る事を話した。
何となく、信じてくれるかどうかは別にして母には白瀬が傍に居る事を知らせなくてはいけない気がしていたのだ。
「京子ちゃん、笑ってた?」
そしたら母は多くを語らずただ僕にそう尋ねた。僕は微笑みながら頷くと、母は目に涙を浮かべて何度も何度も嬉しそうに頷いていた。
僕には一言も言わなかったが、きっと母も白瀬の事に関しては、あの時からずっと心に引っかかる事があったのだろう。それが今の白瀬が笑っている事を知って、すべて氷解したのだろうと僕は思った。
そうそう、白瀬絡みの事で後談にはもう一つ触れておかねばならない事がある。
緑川が板額からもらった例のチョーカーを毎日身に着け白瀬の姿が普通に見える様になってから数日の事だった。
僕ら三人だけになった……まあ、白瀬もいるから正確には四人か……時に、ふと緑川が言ったのだ。
「あのさ、板額。
今朝、JRのホームに恨みがましい目でじっと線路見ながら、
佇んでるサラリーマン風の人が居たんだけど、アレって……」
「ああ、そうそう、君の思ってる通りのモノさ。
なるべくなら目を合わさない様にすることを、
僕は強く推奨するよ」
それを聞いて板額がこともなげに言った。
僕には板額の口元がなんだかにやにや笑っている様にも見えた。
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一方、緑川は少しうんざりした顔でそう呟く様に言った。
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