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第百三十二話
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「白瀬……なのか……」
僕は驚いて思わず問い返した。
だって、その声は忘れもしない、生きていた時と同じあの白瀬の声そのものだったのだ。
少し小声でハスキーな声。でもあの時の僕にはその声がとても魅力的だった。
その瞬間だった。
白瀬の姿が徐々に変わり始めた。
まるで頭の上から清らかな水が流れ落ち、その血みどろの姿を洗い流してゆくような、そんな感じだった。頭の先から少しずつ、白瀬の姿は、見るからに怨霊と言うおぞましい姿から、僕が知る、そう僕が愛したあの生きていた時と同じ白瀬京子の姿へと変化している。
やがて、白瀬の姿は、生きていた時と全く同じ、中学の時の制服を着た白瀬京子そのままの姿になった。
でも実は、その時の僕は咄嗟に気が付かなかったけれど、正確には生きていた時の白瀬の姿そのままではなかった。着ている制服こそ僕らが通っていた中学校の時の物だったけれど、白瀬の顔つきやその体形は少しだけ大人びた物になっていたのだ。そう、板額や緑川同様に高校二年生の女の子に成長した姿になっていたのだ。
「平泉君……ちゃんと私が見えてる?」
「白瀬、白瀬なんだね。
僕が好きだった白瀬なんだね!」
僕の胸に、あの時の秘めた白瀬への想いが一気にあふれ出した。傍に板額と緑川が居る事さえ、その時の僕には見えなくなるほどの激しい想いが蘇って来た。
僕は目の前に居る……と言っても、地面から1mほどの高さを浮かんでいるような感じだったが……白瀬をほとんど反射的に抱きしめていた。
……が、それは叶わぬ事だった。白瀬を抱きしめようとした僕の両手はむしく空を切った。
仕方ない。だって、怨霊ではなくなったけれど、今の白瀬はすでにこの世にはいない霊なのだから。姿を見る事は出来ても触れることは決してできないのだ。
「ごめんね、平泉君。
今の私はあなたに触れてもらう事の出来ない存在だから。
でも嬉しい……やっと平泉君に私の本当の姿を見てもらえた。
そして、私の本当の言葉がこうして伝えられてる」
その言葉で僕は改めて以前の『怨霊』としての白瀬の事を思い出した。
今までの白瀬は僕に対して常に恨み言と呪いの言葉を吐いていたはずだ。
「でも何で……」
僕が思わずそう声を漏らしていた。
「それは僕が説明しよう。
この手の事は、今の僕にはもっとも詳しい部類の事だからね」
僕の漏らした言葉に板額がすかさず反応した。
僕が思わず板額の方を見ると、板額がものすごくやわらかで優しい微笑みを浮かべて僕を見ていた。
「霊と言うものはすごく虚ろな物なんだ。
でも時として強い意志を持つことがある。
京子はその典型的な例なんだ。
虚ろな存在と強固な意志。
それに生者は必要以上に強く反応してしまう。
死者が想いを伝えようとすればするほど、
その想いは本人の気持ちとは裏腹に、
生者には体験した事もない強烈な感覚として伝わってしまう。
それは生者にとってはもはや呪いや怨念と何ら変わらないモノになる。
これが俗に言われる霊に対する『恐れ』って奴だね。
もし、生者がその霊に対して何らかの負の感情を持っていると、
霊の意思とは関係なく、その声、姿、だけじゃなく言葉さえも、
生者の負の感情によって簡単に歪められ支配されてしまうんだ。
与一の場合は、京子が想いを伝えようとすればするほど、
その強い意志を与一が自身の後悔と懺悔の念で歪めて捉えてしまった。
その結果が与一が今まで見続けていた『白瀬京子の怨霊』の正体さ」
「じゃあ、白瀬の本当の想いって……?」
板額の説明を聞いて僕は思わず聞き返していた。
「ホント、鈍いな、君は……」
板額が僕の言葉にくすりと笑った。
「今日の姿や言葉が見えたり聞くことのできない私だって分かるわよ。
与一、それは『愛』よ」
今度は緑川が板額に変わってそう答えた。その緑川もまた苦笑していた。
「あの事件以来、すっかり変わってしまった、あなたを見て、
京子はたまらなかったんじゃないかな。
自分の所為で大好きな与一が自身を傷つけ変わって行くのがね。
だから京子は必死で自分が自殺した原因はあなたじゃない、
って訴えかけてたんじゃない?」
緑川はそう言って最後にまたくすりと笑った。
すると目の前に浮かんでいる白瀬の霊が恥ずかしそうにぽっとその頬を赤く染めたのが僕には分かった。
僕は驚いて思わず問い返した。
だって、その声は忘れもしない、生きていた時と同じあの白瀬の声そのものだったのだ。
少し小声でハスキーな声。でもあの時の僕にはその声がとても魅力的だった。
その瞬間だった。
白瀬の姿が徐々に変わり始めた。
まるで頭の上から清らかな水が流れ落ち、その血みどろの姿を洗い流してゆくような、そんな感じだった。頭の先から少しずつ、白瀬の姿は、見るからに怨霊と言うおぞましい姿から、僕が知る、そう僕が愛したあの生きていた時と同じ白瀬京子の姿へと変化している。
やがて、白瀬の姿は、生きていた時と全く同じ、中学の時の制服を着た白瀬京子そのままの姿になった。
でも実は、その時の僕は咄嗟に気が付かなかったけれど、正確には生きていた時の白瀬の姿そのままではなかった。着ている制服こそ僕らが通っていた中学校の時の物だったけれど、白瀬の顔つきやその体形は少しだけ大人びた物になっていたのだ。そう、板額や緑川同様に高校二年生の女の子に成長した姿になっていたのだ。
「平泉君……ちゃんと私が見えてる?」
「白瀬、白瀬なんだね。
僕が好きだった白瀬なんだね!」
僕の胸に、あの時の秘めた白瀬への想いが一気にあふれ出した。傍に板額と緑川が居る事さえ、その時の僕には見えなくなるほどの激しい想いが蘇って来た。
僕は目の前に居る……と言っても、地面から1mほどの高さを浮かんでいるような感じだったが……白瀬をほとんど反射的に抱きしめていた。
……が、それは叶わぬ事だった。白瀬を抱きしめようとした僕の両手はむしく空を切った。
仕方ない。だって、怨霊ではなくなったけれど、今の白瀬はすでにこの世にはいない霊なのだから。姿を見る事は出来ても触れることは決してできないのだ。
「ごめんね、平泉君。
今の私はあなたに触れてもらう事の出来ない存在だから。
でも嬉しい……やっと平泉君に私の本当の姿を見てもらえた。
そして、私の本当の言葉がこうして伝えられてる」
その言葉で僕は改めて以前の『怨霊』としての白瀬の事を思い出した。
今までの白瀬は僕に対して常に恨み言と呪いの言葉を吐いていたはずだ。
「でも何で……」
僕が思わずそう声を漏らしていた。
「それは僕が説明しよう。
この手の事は、今の僕にはもっとも詳しい部類の事だからね」
僕の漏らした言葉に板額がすかさず反応した。
僕が思わず板額の方を見ると、板額がものすごくやわらかで優しい微笑みを浮かべて僕を見ていた。
「霊と言うものはすごく虚ろな物なんだ。
でも時として強い意志を持つことがある。
京子はその典型的な例なんだ。
虚ろな存在と強固な意志。
それに生者は必要以上に強く反応してしまう。
死者が想いを伝えようとすればするほど、
その想いは本人の気持ちとは裏腹に、
生者には体験した事もない強烈な感覚として伝わってしまう。
それは生者にとってはもはや呪いや怨念と何ら変わらないモノになる。
これが俗に言われる霊に対する『恐れ』って奴だね。
もし、生者がその霊に対して何らかの負の感情を持っていると、
霊の意思とは関係なく、その声、姿、だけじゃなく言葉さえも、
生者の負の感情によって簡単に歪められ支配されてしまうんだ。
与一の場合は、京子が想いを伝えようとすればするほど、
その強い意志を与一が自身の後悔と懺悔の念で歪めて捉えてしまった。
その結果が与一が今まで見続けていた『白瀬京子の怨霊』の正体さ」
「じゃあ、白瀬の本当の想いって……?」
板額の説明を聞いて僕は思わず聞き返していた。
「ホント、鈍いな、君は……」
板額が僕の言葉にくすりと笑った。
「今日の姿や言葉が見えたり聞くことのできない私だって分かるわよ。
与一、それは『愛』よ」
今度は緑川が板額に変わってそう答えた。その緑川もまた苦笑していた。
「あの事件以来、すっかり変わってしまった、あなたを見て、
京子はたまらなかったんじゃないかな。
自分の所為で大好きな与一が自身を傷つけ変わって行くのがね。
だから京子は必死で自分が自殺した原因はあなたじゃない、
って訴えかけてたんじゃない?」
緑川はそう言って最後にまたくすりと笑った。
すると目の前に浮かんでいる白瀬の霊が恥ずかしそうにぽっとその頬を赤く染めたのが僕には分かった。
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