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第百二十七話
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そこで一呼吸入れてから板額は続けた。
「そしてその時の僕は生物的に雄としての部分を決定的に欠損していた。
それならその雄因子を完全除去して肉体的に女性にしてしまえば、
自身の後を継げる鬼牙になる可能性がもしかしたらあるんじゃないかとね。
祖母……まあ、戸籍上は僕を養子にしてるんで義母になるんだけどね。
祖母の為にフォローを入れるなら、そう言うのは表向きの理由で、
家を飛び出した烏丸家の面汚してある母が、
どこの馬の骨とも分からぬ男との間に作った僕を助ける為、
何かと口うるさい一族を納得させる口実が欲しかったってのが、
祖母の本音だと今では思ってるよ。
まあ、何かとうちみたいな家はめんどくさい物なんだよ」
そう言って板額は自嘲気味に笑った。でも言葉とその表情から最初はどうあれ、板額は今ではお祖母さんをとても信頼し、そして慕ってるって事が僕には良く分かった気がした。
その時、傍に来ていた緑川が口をはさんだ。
「あなたの御婆様の話、辻褄合わせかもしれないけど一理あるわね。
でも問題なのは『鬼牙』と言う物になる因子がどこにあるかって事よね。
そして板額、あなたが遺伝子的には雄なのか雌なのかって事も」
どうやら緑川にとっては、板額のお祖母さんの真心の部分より、科学的な話の部分の方が気になる様だ。本当にこういう所がまた緑川の緑川たる所以の所でもあるのだ。
しかし、こんな状況下で自身もついさっきまで貞操の危機どころか命の危機に瀕していた女の子が冷静にこんなこと言うなんて普通なら不思議だろう。
でも僕には分かる。緑川と言うのはそういう女の子だ。自身が興味が湧けば周りが見えなくなるほどのめり込んで行くタイプなのだ。そこが緑川の魅力であり、僕が緑川に惹かれる部分でもある。
「で、巴は『遺伝学的には』僕がどっちだと良いって思ってるのかな?」
緑川の言葉に板額が少し意地悪な笑みを浮かべてそう尋ねた。
「……べ、別に良い悪いなんて私は気にしないわ。
ただ、鬼牙になる要素が『女性である』って条件があるなら、
ああやって鬼牙になったあなたは遺伝的には女性かなって思っただけよ」
緑川を良く知る僕からすると、それはやや緑川らしくない早口で落ち着かない答え方だったが僕には少し気になった。
「ふ~ん、そうなんだ」
そして板額の方も依然、何やら意味ありげにニヤニヤしながらそう言うのを気になった。
「あまり巴をいじめても何なんでハッキリ言っちゃうけど、
僕は遺伝的には『男』だよ。
肉体的には両性有具だけど遺伝子レベルでは『雄』。
だから今の僕は肉体的にはほぼ『女性』だけど、
子供を産んだりする事は出来ないんだ」
板額はそう説明した後、しげしげと緑川の顔をまるで観察する様に眺めた。
「何よ、板額。私の顔に何か付いてる?」
そんな板額に緑川が少しむっとした表情で尋ねた。
「いやいや、巴が僕の説明を聞いた後、
ほっとした表情になるのを確認したかっただけだよ」
板額の言葉が本当なら、鬼牙になる因子って言うのは遺伝学的には男女を決める製遺伝子とは関係ないって事になる。でも、事実として女性以外に本物の鬼牙が出現しないのもまた事実の様だ。となると鬼牙って言う存在は僕ら人類の知る知識の外側に存在する物なんだろうな、って僕はこの時思った。
いや、待て。そのことも重要だけど、今、板額は何かすっごく気になることを言ったぞ。
そうだ、今、板額は、遺伝的には板額が女の子じゃないって事で緑川が『ほっとする』って言った。それってどういう意味だろう。僕は急にそのことがとても気になり始めた。それに言われてみれば確かに緑川は、板額が『子供を産んだりする事は出来ない』って言った時に少し表情が和んだ気がする。
「うるさいわね、板額。
別に私にとってあなたがどうあろうと関係ないわ。
私にとってあなたはあなたよ、板額」
板額の言葉に緑川は明らかに動揺をしていた。さっきまであんな非日常的な事が立て続けに起こっても冷静さを失わなかった緑川がなぜって、僕は凄く不思議に思えた。
「まあ、その事は今は良いだろう。
でもここで僕が遺伝的には完全な女の子じゃないって事で安心した巴に、
すっごく残念なお知らせがあります」
板額はそんな緑川に、また少し意味ありげな笑みを浮かべ、そして挑戦的な口調でそう言った。そして、その後、今度は凄くまじめな顔になって僕を見ながら言葉を続けた。
「そしてその時の僕は生物的に雄としての部分を決定的に欠損していた。
それならその雄因子を完全除去して肉体的に女性にしてしまえば、
自身の後を継げる鬼牙になる可能性がもしかしたらあるんじゃないかとね。
祖母……まあ、戸籍上は僕を養子にしてるんで義母になるんだけどね。
祖母の為にフォローを入れるなら、そう言うのは表向きの理由で、
家を飛び出した烏丸家の面汚してある母が、
どこの馬の骨とも分からぬ男との間に作った僕を助ける為、
何かと口うるさい一族を納得させる口実が欲しかったってのが、
祖母の本音だと今では思ってるよ。
まあ、何かとうちみたいな家はめんどくさい物なんだよ」
そう言って板額は自嘲気味に笑った。でも言葉とその表情から最初はどうあれ、板額は今ではお祖母さんをとても信頼し、そして慕ってるって事が僕には良く分かった気がした。
その時、傍に来ていた緑川が口をはさんだ。
「あなたの御婆様の話、辻褄合わせかもしれないけど一理あるわね。
でも問題なのは『鬼牙』と言う物になる因子がどこにあるかって事よね。
そして板額、あなたが遺伝子的には雄なのか雌なのかって事も」
どうやら緑川にとっては、板額のお祖母さんの真心の部分より、科学的な話の部分の方が気になる様だ。本当にこういう所がまた緑川の緑川たる所以の所でもあるのだ。
しかし、こんな状況下で自身もついさっきまで貞操の危機どころか命の危機に瀕していた女の子が冷静にこんなこと言うなんて普通なら不思議だろう。
でも僕には分かる。緑川と言うのはそういう女の子だ。自身が興味が湧けば周りが見えなくなるほどのめり込んで行くタイプなのだ。そこが緑川の魅力であり、僕が緑川に惹かれる部分でもある。
「で、巴は『遺伝学的には』僕がどっちだと良いって思ってるのかな?」
緑川の言葉に板額が少し意地悪な笑みを浮かべてそう尋ねた。
「……べ、別に良い悪いなんて私は気にしないわ。
ただ、鬼牙になる要素が『女性である』って条件があるなら、
ああやって鬼牙になったあなたは遺伝的には女性かなって思っただけよ」
緑川を良く知る僕からすると、それはやや緑川らしくない早口で落ち着かない答え方だったが僕には少し気になった。
「ふ~ん、そうなんだ」
そして板額の方も依然、何やら意味ありげにニヤニヤしながらそう言うのを気になった。
「あまり巴をいじめても何なんでハッキリ言っちゃうけど、
僕は遺伝的には『男』だよ。
肉体的には両性有具だけど遺伝子レベルでは『雄』。
だから今の僕は肉体的にはほぼ『女性』だけど、
子供を産んだりする事は出来ないんだ」
板額はそう説明した後、しげしげと緑川の顔をまるで観察する様に眺めた。
「何よ、板額。私の顔に何か付いてる?」
そんな板額に緑川が少しむっとした表情で尋ねた。
「いやいや、巴が僕の説明を聞いた後、
ほっとした表情になるのを確認したかっただけだよ」
板額の言葉が本当なら、鬼牙になる因子って言うのは遺伝学的には男女を決める製遺伝子とは関係ないって事になる。でも、事実として女性以外に本物の鬼牙が出現しないのもまた事実の様だ。となると鬼牙って言う存在は僕ら人類の知る知識の外側に存在する物なんだろうな、って僕はこの時思った。
いや、待て。そのことも重要だけど、今、板額は何かすっごく気になることを言ったぞ。
そうだ、今、板額は、遺伝的には板額が女の子じゃないって事で緑川が『ほっとする』って言った。それってどういう意味だろう。僕は急にそのことがとても気になり始めた。それに言われてみれば確かに緑川は、板額が『子供を産んだりする事は出来ない』って言った時に少し表情が和んだ気がする。
「うるさいわね、板額。
別に私にとってあなたがどうあろうと関係ないわ。
私にとってあなたはあなたよ、板額」
板額の言葉に緑川は明らかに動揺をしていた。さっきまであんな非日常的な事が立て続けに起こっても冷静さを失わなかった緑川がなぜって、僕は凄く不思議に思えた。
「まあ、その事は今は良いだろう。
でもここで僕が遺伝的には完全な女の子じゃないって事で安心した巴に、
すっごく残念なお知らせがあります」
板額はそんな緑川に、また少し意味ありげな笑みを浮かべ、そして挑戦的な口調でそう言った。そして、その後、今度は凄くまじめな顔になって僕を見ながら言葉を続けた。
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