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第百二十六話
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それほど仲が良かった僕と忍だったが、別れは案外あっさりとやって来た。
僕の父の転勤が急な決まったのだ。そんな事は今まで何度もあった。だから別段、特別な事ではない。でも、あの時の僕は子供心にかなり動揺したのを覚えている。
「僕、強くなる。絶対に与一みたいに強くなるから……」
別れ際、忍は目に涙をいっぱい貯めて僕にそう言った。
あの時の忍は両手をぎゅっと、それこそ握りしめた爪で自身の手のひらに傷を付けてしまう程、強く握りしめていた。しかも、その腕が、体が、また一人になってしまうと言う悲しみからともすれば爆発しそうな気持に耐えるかのように小刻みに震えていた。
そうだ。
いつもの忍なら、あの時、涙をぼろぼろ流して僕にすがりついて『別れたくない!』って泣き叫んでも不思議じゃなかった。
でも、忍はそうしなかった。それは、あの時、すでに忍はそれまでの弱い自分を捨て、もっと強い自分になろうと固い決意をその小さな胸に秘めていたのだ。今の板額が見せる強さはあの時、もうその片鱗がみえていたんだ。
「おう! がんばれよ、タレちゃん!
僕もそうなった君とまた会えるのを楽しみにしてるぞ」
そんな忍に僕は笑ってそう答えた。
その時は、まさかこんな美少女になって僕の許に帰って来るなんて想像だにしなかったんだ。
「僕は頑張ったんだよ、すごくすごく頑張ったんだ。
僕はね、与一。君になりたかったんだ。
あの時、僕を助けてくれた君になりたかった。
あの時の君は間違いなく僕のヒーローだったんだ」
そこまで想い出した時、まるでその事を聞いていたかのように板額が言った。
涙をいっぱいに貯めた目で僕を見る板額。その時の板額の顔は紛れもなく僕の記憶に中にある忍そのものだった。
「いっぱい、いっぱい頑張って僕は君になれたんだ。
あの時の君みたいに強くカッコいい男になれたんだよ。
そして、これで胸を張って君に会いに行けると思った矢先があの事故」
板額の瞳に絶望の影が浮かんだ。きっと彼女は、両親を失い自分自身も死の淵をさまよったその時の事を思い出したのだろう。
「でも僕は独りになっても死にたくなかった。
ただただ君にもう一度会いたかった。
君のおかげで変わった僕を君に見せたかったんだよ。
だから祖母の提案を受け入れ女の子になってでも生き延びたかった。
五体満足な体で君に会いたかったんだ。
そして烏丸家の跡取り娘となった僕は君に会う為、
あの後の君の事を調べたんだよ、それこそ事細かにね。
男同士の友情を取り返すことは出来なくなっちゃったけれど、
それでも僕は君にもう一度会いたかった」
ここで板額は大きくため息をつくと、その表情が大きく変わった。
「ところがどうだい。
僕のヒーローはいつの間にか萎れた野菜みたいな、
引きこもり野郎になり果ててた。
かつての面影などまるでないほどにね」
そう、その表情はあからさまな落胆、いや嘲笑に近いものすら感じすらした。
『だって仕方ないだろう。
もう僕はお前の知ってる僕に戻ることは出来ないんだ。
いや許されないんだ』
僕はそう言い返したかった。いや、ほとんど口に出かかっていた。ところが僕がそうする前に板額が言葉を続けた。
「まあ、理由もすぐ分かったし、
それなら仕方ないかと思う事もあったよ。
でも僕は、君にあの時の僕のヒーローに戻って欲しかったんだ。
女の子になった事だし、僕が君の彼女にでもなれば、
もう一度あの頃の自信を取り戻してくれるかもなんて思ったんだ」
そして板額の表情がまた少し曇った。
「でも僕は烏丸家の人間。
祖母の許可なくして自由に行動できない立場になってた。
ところがだよ、そんな時に思ってもみなかった偶然が起きたんだ」
ここでまた板額の表情がぱっと明るくなった。
こうころころ表情の変わる板額も珍しくて可愛いなって、僕はその時ちょっと思った。
「祖母はかなり優秀で強力な鬼牙で有名だったけど母は普通の人間だった。
しかも母が家を飛び出して生んだ僕は世間的には男だった。
そしたらその僕が生死の境を彷徨っている状態なのを知らされた。
僕が両性有具だって事を知った祖母はある可能性に気が付いたんだ。
女性でしかも滅多現れない鬼牙因子を
両性有具の僕なら持ってるかもしれないってね」
僕の父の転勤が急な決まったのだ。そんな事は今まで何度もあった。だから別段、特別な事ではない。でも、あの時の僕は子供心にかなり動揺したのを覚えている。
「僕、強くなる。絶対に与一みたいに強くなるから……」
別れ際、忍は目に涙をいっぱい貯めて僕にそう言った。
あの時の忍は両手をぎゅっと、それこそ握りしめた爪で自身の手のひらに傷を付けてしまう程、強く握りしめていた。しかも、その腕が、体が、また一人になってしまうと言う悲しみからともすれば爆発しそうな気持に耐えるかのように小刻みに震えていた。
そうだ。
いつもの忍なら、あの時、涙をぼろぼろ流して僕にすがりついて『別れたくない!』って泣き叫んでも不思議じゃなかった。
でも、忍はそうしなかった。それは、あの時、すでに忍はそれまでの弱い自分を捨て、もっと強い自分になろうと固い決意をその小さな胸に秘めていたのだ。今の板額が見せる強さはあの時、もうその片鱗がみえていたんだ。
「おう! がんばれよ、タレちゃん!
僕もそうなった君とまた会えるのを楽しみにしてるぞ」
そんな忍に僕は笑ってそう答えた。
その時は、まさかこんな美少女になって僕の許に帰って来るなんて想像だにしなかったんだ。
「僕は頑張ったんだよ、すごくすごく頑張ったんだ。
僕はね、与一。君になりたかったんだ。
あの時、僕を助けてくれた君になりたかった。
あの時の君は間違いなく僕のヒーローだったんだ」
そこまで想い出した時、まるでその事を聞いていたかのように板額が言った。
涙をいっぱいに貯めた目で僕を見る板額。その時の板額の顔は紛れもなく僕の記憶に中にある忍そのものだった。
「いっぱい、いっぱい頑張って僕は君になれたんだ。
あの時の君みたいに強くカッコいい男になれたんだよ。
そして、これで胸を張って君に会いに行けると思った矢先があの事故」
板額の瞳に絶望の影が浮かんだ。きっと彼女は、両親を失い自分自身も死の淵をさまよったその時の事を思い出したのだろう。
「でも僕は独りになっても死にたくなかった。
ただただ君にもう一度会いたかった。
君のおかげで変わった僕を君に見せたかったんだよ。
だから祖母の提案を受け入れ女の子になってでも生き延びたかった。
五体満足な体で君に会いたかったんだ。
そして烏丸家の跡取り娘となった僕は君に会う為、
あの後の君の事を調べたんだよ、それこそ事細かにね。
男同士の友情を取り返すことは出来なくなっちゃったけれど、
それでも僕は君にもう一度会いたかった」
ここで板額は大きくため息をつくと、その表情が大きく変わった。
「ところがどうだい。
僕のヒーローはいつの間にか萎れた野菜みたいな、
引きこもり野郎になり果ててた。
かつての面影などまるでないほどにね」
そう、その表情はあからさまな落胆、いや嘲笑に近いものすら感じすらした。
『だって仕方ないだろう。
もう僕はお前の知ってる僕に戻ることは出来ないんだ。
いや許されないんだ』
僕はそう言い返したかった。いや、ほとんど口に出かかっていた。ところが僕がそうする前に板額が言葉を続けた。
「まあ、理由もすぐ分かったし、
それなら仕方ないかと思う事もあったよ。
でも僕は、君にあの時の僕のヒーローに戻って欲しかったんだ。
女の子になった事だし、僕が君の彼女にでもなれば、
もう一度あの頃の自信を取り戻してくれるかもなんて思ったんだ」
そして板額の表情がまた少し曇った。
「でも僕は烏丸家の人間。
祖母の許可なくして自由に行動できない立場になってた。
ところがだよ、そんな時に思ってもみなかった偶然が起きたんだ」
ここでまた板額の表情がぱっと明るくなった。
こうころころ表情の変わる板額も珍しくて可愛いなって、僕はその時ちょっと思った。
「祖母はかなり優秀で強力な鬼牙で有名だったけど母は普通の人間だった。
しかも母が家を飛び出して生んだ僕は世間的には男だった。
そしたらその僕が生死の境を彷徨っている状態なのを知らされた。
僕が両性有具だって事を知った祖母はある可能性に気が付いたんだ。
女性でしかも滅多現れない鬼牙因子を
両性有具の僕なら持ってるかもしれないってね」
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