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第百十三話
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その根菜は、見た目通り苦かくとても不味かった。口いっぱいに広がった苦みで猿は、思わず齧った根菜を吐き出しそうになった。でも神様からの賜りものを吐き出すことなど恐れ多く、必死に我慢する猿は涙目になりとても苦しんでいるのは誰の目にも明らかだった。
そんな愚かな選択をした小さな猿を見て、他の生き物たちはからは嘲笑の笑いが起こった。
ただ、最後に残っていた頭に角を持つひょろりとやせ細った猿だけはその光景を身じろぎもせずじっと見つめていた。
結局、小さな猿は苦みに耐えながら最後の一口まで何とか口に入れた。そして、ごくりと口に残っていた根菜を飲み込むと、高御座に座る神様を見上げて深々とお辞儀をして言った。
「ご馳走様でした、神様。
ありがとうございます」
明らかに苦しんでいる小さな猿を見て、他の生き物たちは腹を抱えてげらげらと笑い転げていた。それでもあの角のあるやせ細った猿だけは、じっとその光景を見守っていた。
そんな小さな猿を見て今まで無言だった神様が、小さな猿をねぎらう様にとても優しそうな笑みを浮かべてこう言った。
「小さきモノよ、よく考え、そしてよく我慢したな……」
そして最後の角のあるやせ細った猿が神様の前に進み出た。
角のある猿は何の迷いもなく赤い果物を手にするとがぶりと齧りついた。
その場に居た誰もが、それは当然の行動だと思った。それは神様も同じだった。
神様はその瞬間、少しだけ失望した様な表情を浮かべられた。
美味しそうに赤い果物を食べ終えた角のある猿は、そのまま、神様にお礼を言って立ち去ると誰もが思った。
しかし、その角のある猿は、赤い果物を食べ終えると、事もあるに何と、もう片方の盆に盛られた土で汚れた根菜に手までを伸ばした。
その行いに誰もがあ然とした表情を浮かべた。
ただ神様だけは、そんな角のある猿に興味を持ったのか身を乗り出して成り行きを見守った。
そして角のある猿は何の躊躇もせず、あの汚れた根菜に噛り付くと一気に全部食べ終えてしまった。
「神様、ご馳走様でした」
角のある猿はけろりとした顔でそう言うと、高御座に座る神様にぺこりとお辞儀をした。
そんな角のある猿の行いの一部始終を見てその場に居た生き物たちとざわつき始めた。
誰も、その角のある猿の行いの意味が分からなかったのだ。いや、その前に赤い果実と、土まみれの根菜の両方を食べて良いとは誰もが思ってもみなかったのだ。当然、神様は、二つの内どちらかを選べと言ったのだと信じ込んでいたのだ。
と、突然、大きな笑い声が響いた。
その声の主は他ならぬ高御座に座る神様だった。ざわついていた生き物たちは、神様が笑うのを見てぽかんとした表情になった。
ひとしきり腹を抱えて笑った後、神様が言った。
「そうか、私は一言も、どちらを選べとは言ってなかったな」
どうやら、角のある猿が果実と根菜の両方を食べたのは、神様も想定外だったようだ。
「はい、確かに……」
神様の言葉を聞いて角のある猿はそう言ってにっこりと笑った。
それから、神様は大きく深呼吸した後、立ち上がり一同を見回してから高らかにこう言ったのだ。
「皆の物、よく聞くが良い。
この果実はお前たちに『最後の力』を授ける為の実だ。
赤い果実は、文字通り力を与える『力の実』。
そして土まみれの根菜は、知恵を与える『知恵の実』だ。
お前たちは、今から地上へ降りて暮らすこととなる。
そこで誰が地上の王になるかを長い時間かけて争う事となる。
その時の武器になるのが、この二つの力だ。
その武器を最大限に生かして思う存分争うが良い」
弱肉強食、その言葉を地で行く生存競争が地上で始まった。その生き物も自身が地上の覇者になろうと、その持てる力を最大限に生かして戦った。
まず最初に地上を征服したのは、『力の実』を食べたトカゲの様な生き物だった。彼らはその体をどんどん巨大化してゆき、その巨大な『力』で他の生き物を圧倒したのだ。
その中にあって『知恵の実』を食べた小さな猿は『力』を持たぬ故、他の『力』を持つ生き物たちと、まともに戦えば勝てることはまずなかった。彼らは『知恵』を駆使して、他の生き物に見つからぬ様に隠れて何とか生き延びようとした。
その成り行きをじっと見守っていた神様は、すべての生き物に対して大きな試練を与える事にした。
そんな愚かな選択をした小さな猿を見て、他の生き物たちはからは嘲笑の笑いが起こった。
ただ、最後に残っていた頭に角を持つひょろりとやせ細った猿だけはその光景を身じろぎもせずじっと見つめていた。
結局、小さな猿は苦みに耐えながら最後の一口まで何とか口に入れた。そして、ごくりと口に残っていた根菜を飲み込むと、高御座に座る神様を見上げて深々とお辞儀をして言った。
「ご馳走様でした、神様。
ありがとうございます」
明らかに苦しんでいる小さな猿を見て、他の生き物たちは腹を抱えてげらげらと笑い転げていた。それでもあの角のあるやせ細った猿だけは、じっとその光景を見守っていた。
そんな小さな猿を見て今まで無言だった神様が、小さな猿をねぎらう様にとても優しそうな笑みを浮かべてこう言った。
「小さきモノよ、よく考え、そしてよく我慢したな……」
そして最後の角のあるやせ細った猿が神様の前に進み出た。
角のある猿は何の迷いもなく赤い果物を手にするとがぶりと齧りついた。
その場に居た誰もが、それは当然の行動だと思った。それは神様も同じだった。
神様はその瞬間、少しだけ失望した様な表情を浮かべられた。
美味しそうに赤い果物を食べ終えた角のある猿は、そのまま、神様にお礼を言って立ち去ると誰もが思った。
しかし、その角のある猿は、赤い果物を食べ終えると、事もあるに何と、もう片方の盆に盛られた土で汚れた根菜に手までを伸ばした。
その行いに誰もがあ然とした表情を浮かべた。
ただ神様だけは、そんな角のある猿に興味を持ったのか身を乗り出して成り行きを見守った。
そして角のある猿は何の躊躇もせず、あの汚れた根菜に噛り付くと一気に全部食べ終えてしまった。
「神様、ご馳走様でした」
角のある猿はけろりとした顔でそう言うと、高御座に座る神様にぺこりとお辞儀をした。
そんな角のある猿の行いの一部始終を見てその場に居た生き物たちとざわつき始めた。
誰も、その角のある猿の行いの意味が分からなかったのだ。いや、その前に赤い果実と、土まみれの根菜の両方を食べて良いとは誰もが思ってもみなかったのだ。当然、神様は、二つの内どちらかを選べと言ったのだと信じ込んでいたのだ。
と、突然、大きな笑い声が響いた。
その声の主は他ならぬ高御座に座る神様だった。ざわついていた生き物たちは、神様が笑うのを見てぽかんとした表情になった。
ひとしきり腹を抱えて笑った後、神様が言った。
「そうか、私は一言も、どちらを選べとは言ってなかったな」
どうやら、角のある猿が果実と根菜の両方を食べたのは、神様も想定外だったようだ。
「はい、確かに……」
神様の言葉を聞いて角のある猿はそう言ってにっこりと笑った。
それから、神様は大きく深呼吸した後、立ち上がり一同を見回してから高らかにこう言ったのだ。
「皆の物、よく聞くが良い。
この果実はお前たちに『最後の力』を授ける為の実だ。
赤い果実は、文字通り力を与える『力の実』。
そして土まみれの根菜は、知恵を与える『知恵の実』だ。
お前たちは、今から地上へ降りて暮らすこととなる。
そこで誰が地上の王になるかを長い時間かけて争う事となる。
その時の武器になるのが、この二つの力だ。
その武器を最大限に生かして思う存分争うが良い」
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まず最初に地上を征服したのは、『力の実』を食べたトカゲの様な生き物だった。彼らはその体をどんどん巨大化してゆき、その巨大な『力』で他の生き物を圧倒したのだ。
その中にあって『知恵の実』を食べた小さな猿は『力』を持たぬ故、他の『力』を持つ生き物たちと、まともに戦えば勝てることはまずなかった。彼らは『知恵』を駆使して、他の生き物に見つからぬ様に隠れて何とか生き延びようとした。
その成り行きをじっと見守っていた神様は、すべての生き物に対して大きな試練を与える事にした。
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