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第百三話
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そして極めつけは、そのこめかみのやや上にあるモノだ。これがあるから僕は、とてもそれが現実のモノと思えなかったのだ。
そこには左右に二本づつ、斜め上に向かって突き出すような突起物が生えていた。長さは数センチほどで決して長い物ではないが、異様な存在感があった。
それは一番、端的な言葉で表現するなら『角』だった。
その顔の状態と相まって、その角のある顔はもはや『ヒト』のモノではなかった。
それでも僕はこの顔を端的に表す言葉を知っていた。
そうそれは『鬼』だ。
今の板額の顔は『鬼』以外の何物でもなかった。今の状態とその発した言葉から、僕はアレがかろうじて板額だと認識できているに過ぎなかった。
そこまでやっと思考がまとまった時、僕はもっと大変な事に気がついた。そこに気がついて初めて緑川の発したあの言葉の真の意味が理解できた。
『板額! ちょっと、あなた、その姿……』
あの時、緑川からもフードを深く被った板額のこの顔には気がつかなかったはずだ。それなのに緑川は最初にこの言葉を発した。緑川は何に気がついてそんな事を言ったのか。
そうなのだ。
板額はサイケデリックな赤い模様の入った白いフード付きマントを羽織っていたのではない。板額が羽織っていたのは白いマントだったのだ。
では、あの赤い模様は何だ。
あれは赤い模様などではない。あれは『血』なのだ。
たぶん、女の子の特性で僕らより冷静だったか、あるいは生理的な理由で男より目にする機会が多いからだろう。緑川は、あの模様がまだ乾ききってない血である事にとっさに気がついた。LEDランタンの光に照らされ、濡れた感じが分かったのか、あるいは乾ききっていない所が滴り落ちるのに気がついたのかもしれない。
今なら僕でも分かる。
あれは『ヒトの血』だ。
あれは、板額によって追撃不能だけでなく、望月先輩のコールにも答えられぬ様な状態にされた一階に居男たちのモノに違いない。
マントにあれだけの血しぶきが付いているという事は、今ここの一階には目をそむけたくなる様な地獄絵図が広がっているのではないかと、僕は恐怖で身震いした。
「お前は何なんだ?!」
突然、望月先輩がフードを取った板額を指さして声を上げた。その声を表情は、今までの落ち着き払った憎々しいまでの望月先輩とは、まったく別人の様であった。明らかにうろたえ、正気を失っているのではないかと言う感じすらしていた。
「『烏丸 板額』だよ。
君が、与一や巴を餌にここへおびき寄せ、
無理やり自分の物にしようとした女さ。
どうだい、こんな僕でもまだ君は欲しいのかい?」
望月先輩の言葉に、板額はそう言ってにやりと笑った。板額の笑った口はいつもより大きく、そしてその笑顔は邪悪な感じに見えた。開いた口の中にまるで獣の様な牙が上下に二本づつ見えた事が、僕にそう思わせたのかもしれない。
「違う! お前は違う!」
望月先輩はそうわめく様に叫んだ。それは言葉で自分自身を納得させるかのようだった。
やはり望月先輩はかなり混乱している。僕はそう確信した。
今なら僕でも望月先輩に一矢報いる事が出来るかもしれない。僕は、喧嘩なんてほとんどやった事がなく自信など全然なかった。それが自らの身の安全を担保できない特攻になるやしれない。それでも僕は少しでも板額の助けになるならそれで良かった。
僕は立ち上がろうとした。しかし僕の意志に反して僕の体はまったく反応しなかった。痛みは途中から消えていたが、実際にはかなりのダメージが体に加わったのだろう。全身が金縛りにあった様に、あるいは鉛を詰め込まれた様に、動かなくなっていた。
「与一、僕には構わず、君はそこで横になっていたまえ」
そんな僕の思考を読み取ったかの様に板額が、望月先輩を見つめたまま言った。
まったく、板額と言う女の子には驚かされる。今の彼女の異形の様な姿もそうだけど、僕の心まで読み取れるかの様だった。
「こんな時にでも平泉君を気づかうのかい、君。
ますます憎らしいじゃないか……」
今の今までおろおろとしてた望月先輩の態度が急に変わった。そして落ち着き払った今までと同じ口調で板額にこう話しかけた。
その時だった。
「板額! 危ない逃げて!」
緑川の悲鳴に似た声が響いた。
その声に僕はそちらの方を見た。
すると、そこにはバイクの物だろうか、太い金属製のチェーンを振り回しながら一人の男かが板額の背中からそっと忍び寄っていた。
その男は、あの今まで緑川を押さえていた男だった。僕らが望月先輩と板額とのやりとりに夢中になっている間に、そっと板額の背後に回り込んでしたのだ。
そこには左右に二本づつ、斜め上に向かって突き出すような突起物が生えていた。長さは数センチほどで決して長い物ではないが、異様な存在感があった。
それは一番、端的な言葉で表現するなら『角』だった。
その顔の状態と相まって、その角のある顔はもはや『ヒト』のモノではなかった。
それでも僕はこの顔を端的に表す言葉を知っていた。
そうそれは『鬼』だ。
今の板額の顔は『鬼』以外の何物でもなかった。今の状態とその発した言葉から、僕はアレがかろうじて板額だと認識できているに過ぎなかった。
そこまでやっと思考がまとまった時、僕はもっと大変な事に気がついた。そこに気がついて初めて緑川の発したあの言葉の真の意味が理解できた。
『板額! ちょっと、あなた、その姿……』
あの時、緑川からもフードを深く被った板額のこの顔には気がつかなかったはずだ。それなのに緑川は最初にこの言葉を発した。緑川は何に気がついてそんな事を言ったのか。
そうなのだ。
板額はサイケデリックな赤い模様の入った白いフード付きマントを羽織っていたのではない。板額が羽織っていたのは白いマントだったのだ。
では、あの赤い模様は何だ。
あれは赤い模様などではない。あれは『血』なのだ。
たぶん、女の子の特性で僕らより冷静だったか、あるいは生理的な理由で男より目にする機会が多いからだろう。緑川は、あの模様がまだ乾ききってない血である事にとっさに気がついた。LEDランタンの光に照らされ、濡れた感じが分かったのか、あるいは乾ききっていない所が滴り落ちるのに気がついたのかもしれない。
今なら僕でも分かる。
あれは『ヒトの血』だ。
あれは、板額によって追撃不能だけでなく、望月先輩のコールにも答えられぬ様な状態にされた一階に居男たちのモノに違いない。
マントにあれだけの血しぶきが付いているという事は、今ここの一階には目をそむけたくなる様な地獄絵図が広がっているのではないかと、僕は恐怖で身震いした。
「お前は何なんだ?!」
突然、望月先輩がフードを取った板額を指さして声を上げた。その声を表情は、今までの落ち着き払った憎々しいまでの望月先輩とは、まったく別人の様であった。明らかにうろたえ、正気を失っているのではないかと言う感じすらしていた。
「『烏丸 板額』だよ。
君が、与一や巴を餌にここへおびき寄せ、
無理やり自分の物にしようとした女さ。
どうだい、こんな僕でもまだ君は欲しいのかい?」
望月先輩の言葉に、板額はそう言ってにやりと笑った。板額の笑った口はいつもより大きく、そしてその笑顔は邪悪な感じに見えた。開いた口の中にまるで獣の様な牙が上下に二本づつ見えた事が、僕にそう思わせたのかもしれない。
「違う! お前は違う!」
望月先輩はそうわめく様に叫んだ。それは言葉で自分自身を納得させるかのようだった。
やはり望月先輩はかなり混乱している。僕はそう確信した。
今なら僕でも望月先輩に一矢報いる事が出来るかもしれない。僕は、喧嘩なんてほとんどやった事がなく自信など全然なかった。それが自らの身の安全を担保できない特攻になるやしれない。それでも僕は少しでも板額の助けになるならそれで良かった。
僕は立ち上がろうとした。しかし僕の意志に反して僕の体はまったく反応しなかった。痛みは途中から消えていたが、実際にはかなりのダメージが体に加わったのだろう。全身が金縛りにあった様に、あるいは鉛を詰め込まれた様に、動かなくなっていた。
「与一、僕には構わず、君はそこで横になっていたまえ」
そんな僕の思考を読み取ったかの様に板額が、望月先輩を見つめたまま言った。
まったく、板額と言う女の子には驚かされる。今の彼女の異形の様な姿もそうだけど、僕の心まで読み取れるかの様だった。
「こんな時にでも平泉君を気づかうのかい、君。
ますます憎らしいじゃないか……」
今の今までおろおろとしてた望月先輩の態度が急に変わった。そして落ち着き払った今までと同じ口調で板額にこう話しかけた。
その時だった。
「板額! 危ない逃げて!」
緑川の悲鳴に似た声が響いた。
その声に僕はそちらの方を見た。
すると、そこにはバイクの物だろうか、太い金属製のチェーンを振り回しながら一人の男かが板額の背中からそっと忍び寄っていた。
その男は、あの今まで緑川を押さえていた男だった。僕らが望月先輩と板額とのやりとりに夢中になっている間に、そっと板額の背後に回り込んでしたのだ。
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