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第九十九話
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勿論、そんな事をこの僕が出来るわけがない。
自身のつまらない虚栄心で白瀬を死に追いやってしまってから、僕は心に決めた事がある。
僕が自分自身に課した絶対の戒め。
それは……
『二度と女の子と悲しませたり苦しませたりはさせない』
……と言う事だ。
ならば僕には迷う事などなにもない、僕にある選択肢は一つしかないのだ。
「緑川を一人残してここを立ち去るなんて、僕は絶対に出来ません」
僕は望月先輩の目を射抜くように見つめてそう言い切った。
「ははははっ! さすがは烏丸君がほれ込んだ男だ。
思った通りの反応をしてくれる」
僕の真剣な叫びに、望月先輩は高笑いをしながらそう答えた。
そうか、僕は望月先輩の反応をみて思った。
望月先輩は最初から僕がそんな提案を受け入れないことを承知の上で、あえてそう言ったのだ。いや、受け入れたら受け入れたで面白い事になる、程度には思っていたのかもしれない。
「お願いです、先輩。
僕は何をされても良いです。
その代わりに緑川にはこれ以上何もしないで解放してください」
僕はそんな望月先輩に懇願した。
だって、相手は望月先輩だ。このままでは緑川は絶対に無事では済まされない。その時の僕はそう確信していた。
「う~ん、君がそこまで言うなら考えても良いかな。
本当は僕も女の子に酷い事はしたくないんだ。
烏丸君の僕に対する無礼を全部君が償うというなら、
緑川君はもちろん、烏丸君にも手を出さないと誓ってあげるよ」
ここでついに望月先輩は自身の本音を漏らした。やはり望月先輩の最終目標は、自身に公衆の面前で恥をかかせた板額への復讐だったのだ。
「分かりました。
先輩が緑川と板額を見逃してくれるなら、
僕はどうなっても構いません」
僕は迷わずそう答えた。そう、僕には他の選択肢などないのだ。緑川と板額の身の安全の為なら、本当に僕はどうなったって構わない。
『ホント、妬けちゃうわ。
そんなにあの二人が大事?』
その刹那、僕の背中をまたあの不気味な冷たい感覚が襲った。そして、凍り付くように冷たい吐息と共に白瀬の怨霊がそう耳元で囁いた。
『頼む、白瀬。今は邪魔をしないでくれ。
僕の心も体も君のモノだ。それは誓っても良い』
僕は心の中で白瀬の怨霊にそう懇願した。
『良いわ、平泉君。今は黙って見ててあげる』
白瀬の怨霊はそう囁いて気配をすぐに消してくれた。とりあえず白瀬の怨霊が素直に引き下がってくれたことに僕は安堵した。でも、その事を望月先輩に悟られぬ様、また変な勘繰りをされぬ様、表情や態度にその気持ちが出ない様に僕は務めた。
「良いだろう、平泉君。
では、僕に気が済むまで君を痛めつけさせてくれ。
いや、心配しなくとも殺しはしないよ。
殺人犯になってしまうからね、僕はそんな間抜けじゃない。
それに痣とか傷跡もなるべく服着てれば目立たない様にしてあげるからね。
君さえ今からちょっとの間、我慢すればそれでみんなハッピーさ」
望月先輩はそう言って笑った。その笑いは罪悪感など微塵も感じさせない、本当に屈託のない笑いだった。それが逆に僕にはそこはかとなく不気味で恐ろしかった。
ともあれ、実際に緑川と、ここには居ない板額を事実上人質に取られて、僕には拒否権はない。いや、男として、いや人間としての尊厳を捨てれば、僕だけが助かる道はある。そして、もし僕がその選択をしたとしても望月先輩は笑ってそれを許すだろう。それはそれで望月先輩にしてみれば想定済みで面白い結末なんだ。
でも、僕にはやはり選択肢は一つしかない。それは僕自身の、許されざる罪を犯してしまった僕が持つ絶対の矜持なのだ。
「分かりました。
僕を先輩の気の済むようにしてください。
その代わり、緑川を無事に解放してください。
そして、もう二度と緑川と板額には手を出さないと誓ってください」
僕は望月先輩の目を見てそう答えた。
「ああ、もちろん約束する。
だから安心したまえ、平泉君」
望月先輩はそういうと立ち上がり、ゆっくりと僕の方へ歩いて来た。
そして僕の目と鼻の先までやって来るとにやりと笑って言った。
「さあ、平泉君、僕に恥をかかせた報いを受けたまえ」
僕は今でもその笑いを決して忘れはしない。
あれは……
『悪魔の笑み』
……だった。
人間のものとはとうてい思えなかった。それは底知れぬ不気味な悪意と悦楽に満ち溢れた表情だった。
自身のつまらない虚栄心で白瀬を死に追いやってしまってから、僕は心に決めた事がある。
僕が自分自身に課した絶対の戒め。
それは……
『二度と女の子と悲しませたり苦しませたりはさせない』
……と言う事だ。
ならば僕には迷う事などなにもない、僕にある選択肢は一つしかないのだ。
「緑川を一人残してここを立ち去るなんて、僕は絶対に出来ません」
僕は望月先輩の目を射抜くように見つめてそう言い切った。
「ははははっ! さすがは烏丸君がほれ込んだ男だ。
思った通りの反応をしてくれる」
僕の真剣な叫びに、望月先輩は高笑いをしながらそう答えた。
そうか、僕は望月先輩の反応をみて思った。
望月先輩は最初から僕がそんな提案を受け入れないことを承知の上で、あえてそう言ったのだ。いや、受け入れたら受け入れたで面白い事になる、程度には思っていたのかもしれない。
「お願いです、先輩。
僕は何をされても良いです。
その代わりに緑川にはこれ以上何もしないで解放してください」
僕はそんな望月先輩に懇願した。
だって、相手は望月先輩だ。このままでは緑川は絶対に無事では済まされない。その時の僕はそう確信していた。
「う~ん、君がそこまで言うなら考えても良いかな。
本当は僕も女の子に酷い事はしたくないんだ。
烏丸君の僕に対する無礼を全部君が償うというなら、
緑川君はもちろん、烏丸君にも手を出さないと誓ってあげるよ」
ここでついに望月先輩は自身の本音を漏らした。やはり望月先輩の最終目標は、自身に公衆の面前で恥をかかせた板額への復讐だったのだ。
「分かりました。
先輩が緑川と板額を見逃してくれるなら、
僕はどうなっても構いません」
僕は迷わずそう答えた。そう、僕には他の選択肢などないのだ。緑川と板額の身の安全の為なら、本当に僕はどうなったって構わない。
『ホント、妬けちゃうわ。
そんなにあの二人が大事?』
その刹那、僕の背中をまたあの不気味な冷たい感覚が襲った。そして、凍り付くように冷たい吐息と共に白瀬の怨霊がそう耳元で囁いた。
『頼む、白瀬。今は邪魔をしないでくれ。
僕の心も体も君のモノだ。それは誓っても良い』
僕は心の中で白瀬の怨霊にそう懇願した。
『良いわ、平泉君。今は黙って見ててあげる』
白瀬の怨霊はそう囁いて気配をすぐに消してくれた。とりあえず白瀬の怨霊が素直に引き下がってくれたことに僕は安堵した。でも、その事を望月先輩に悟られぬ様、また変な勘繰りをされぬ様、表情や態度にその気持ちが出ない様に僕は務めた。
「良いだろう、平泉君。
では、僕に気が済むまで君を痛めつけさせてくれ。
いや、心配しなくとも殺しはしないよ。
殺人犯になってしまうからね、僕はそんな間抜けじゃない。
それに痣とか傷跡もなるべく服着てれば目立たない様にしてあげるからね。
君さえ今からちょっとの間、我慢すればそれでみんなハッピーさ」
望月先輩はそう言って笑った。その笑いは罪悪感など微塵も感じさせない、本当に屈託のない笑いだった。それが逆に僕にはそこはかとなく不気味で恐ろしかった。
ともあれ、実際に緑川と、ここには居ない板額を事実上人質に取られて、僕には拒否権はない。いや、男として、いや人間としての尊厳を捨てれば、僕だけが助かる道はある。そして、もし僕がその選択をしたとしても望月先輩は笑ってそれを許すだろう。それはそれで望月先輩にしてみれば想定済みで面白い結末なんだ。
でも、僕にはやはり選択肢は一つしかない。それは僕自身の、許されざる罪を犯してしまった僕が持つ絶対の矜持なのだ。
「分かりました。
僕を先輩の気の済むようにしてください。
その代わり、緑川を無事に解放してください。
そして、もう二度と緑川と板額には手を出さないと誓ってください」
僕は望月先輩の目を見てそう答えた。
「ああ、もちろん約束する。
だから安心したまえ、平泉君」
望月先輩はそういうと立ち上がり、ゆっくりと僕の方へ歩いて来た。
そして僕の目と鼻の先までやって来るとにやりと笑って言った。
「さあ、平泉君、僕に恥をかかせた報いを受けたまえ」
僕は今でもその笑いを決して忘れはしない。
あれは……
『悪魔の笑み』
……だった。
人間のものとはとうてい思えなかった。それは底知れぬ不気味な悪意と悦楽に満ち溢れた表情だった。
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