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第九十八話
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嘘だ! 僕は思わず心の中でそう叫んだ。
緑川をこんな姿にさせたのは間違いなく望月先輩の指示だ。
先輩の言葉通りならあの連中の事、緑川は無事では居られまい。ああいう連中はすぐに頭に血が上るものだ。そんな連中に緑川が逆らって暴れれば、連中は歯止めが利かなくなるに決まっている。もしそうなら今の緑川は確実に奴らの毒牙に掛かっている。いくら緑川が気の強い女の子でも、所詮は女の子。一対一なら奇跡的に逃げ切れる可能性もあろうが、あんな連中に複数で襲われたらもう逃げ道はない。
確かに今の緑川はかなり精神的に参ってはいる様に見える。その目にも涙をいっぱいに溜めている。しかし、その瞳はまだ緑川らしい強い光が残っていた。少なくとも今の緑川は心までは折られていないと僕は確信していた。
だから、あくまで最初から拉致した後はすぐに緑川をああいう姿にする様に、望月先輩があの連中に指示をしておいたのだろう。それは僕が先ほど思った通りに、僕を精神的に追い詰める為もあっただろうが、もう一つ、あんな姿にされれば緑川といえどもあの格好では逃げ出すことも出来ないと踏んだからなのだろう。
そこまで狡猾に考えられるのはやはり望月先輩をおいて他にはいないだろうと僕は思った。
ただ、緑川の事を昔からよく知っている僕からすれば、心まで屈服していなければ緑川は、あんな姿でもチャンスさえあれば必ず脱出する。緑川と言う女の子はそういう女の子だ。だから僕は昔から緑川に惹かれるのだ。
「さて、ここで僕から平泉君に提案があるんだ」
緑川から目を背けた一瞬、そんな事を考えていた僕に望月先輩が言った。そう、またいやらしい程、穏やかにそして優しい声で。それでもその中から、どろどろした凄まじい敵意が漏れ出ているのを僕は感じていた。
「考えてみれば君は今回の事も巻き込まれた立場だよね。
あの烏丸君に言い寄られて、こうなってしまったまでだ。
そこでは、僕は、君が僕の出す条件を飲むなら、
何もせずにここから解放してあげても良いと思ってるんだよ」
そう言って望月先輩はいったん言葉を切って柔らかい笑みを浮かべて僕を見た。でもその瞳はまるで獲物を狙う蛇の様に鋭かった。
「条件とは何ですか?」
僕は自身を落ち着かせながらそう問い返した。
「簡単な事だよ。
君が、ここで見たり聞いたりしたことは全部忘れる事。
そして、緑川君とも、烏丸君とも、すっぱり縁を切る事」
「そうすれば僕と緑川を解放してくれるんですね」
望月先輩が提示した条件に僕はすぐさま一言確認を入れた。
確かに緑川にされた事を思えば望月先輩を許すことは出来ない。でも、緑川と板額と僕が別れさえすればそれで済むなら。僕はそれでも構わないと思った。だって、元々、僕にそんな資格などないからだ。僕は一生『水瀬京子の怨霊』と共に一人ぼっちで生きなければならない、そういう運命なのだから。
しかし、僕は、この時、望月先輩の出した条件の本当の恐ろしさに気が付いていなかったのだ。それは望月先輩が不気味な笑みを浮かべながら言った次の一言で、僕は嫌と言うほどそれを思い知らされることになる。
「何を言ってるんだい、平泉君。
開放するのは君だけだよ。
緑川君には、一晩中ここで僕らの相手をしてもらうんだよ」
その言葉を聞いて、望月先輩の横で、男に肩を押さえられ床に座らされていた緑川が目を見開いて望月先輩を見た。そしてそのまま緑川は、目を見開いたまま僕の方を向き直った。その瞳には、こんな状況下で僕がどんな答えを出すか、読み切れず深い不安に陥っている彼女の気持ちが滲み出ていた。
そうだ、望月先輩はあくまでも僕と話しているのだ。その中に緑川の事が含まれていないのは当然と言えば当然だった。また、執念深い望月先輩がそんな簡単事で、僕を許すわけがない。望月先輩が出した条件の本当の恐ろしさは、僕に緑川を見捨てさせることにある。もし僕が緑川を見捨てて自分一人逃げたら、きっとこの先ずっと望月先輩はその事で僕を一生ねちねちとイジメてくる。いや、それだけじゃない。自分を見捨てて逃げた僕を、緑川にも一生恨ませるつもりなのだ。
緑川をこんな姿にさせたのは間違いなく望月先輩の指示だ。
先輩の言葉通りならあの連中の事、緑川は無事では居られまい。ああいう連中はすぐに頭に血が上るものだ。そんな連中に緑川が逆らって暴れれば、連中は歯止めが利かなくなるに決まっている。もしそうなら今の緑川は確実に奴らの毒牙に掛かっている。いくら緑川が気の強い女の子でも、所詮は女の子。一対一なら奇跡的に逃げ切れる可能性もあろうが、あんな連中に複数で襲われたらもう逃げ道はない。
確かに今の緑川はかなり精神的に参ってはいる様に見える。その目にも涙をいっぱいに溜めている。しかし、その瞳はまだ緑川らしい強い光が残っていた。少なくとも今の緑川は心までは折られていないと僕は確信していた。
だから、あくまで最初から拉致した後はすぐに緑川をああいう姿にする様に、望月先輩があの連中に指示をしておいたのだろう。それは僕が先ほど思った通りに、僕を精神的に追い詰める為もあっただろうが、もう一つ、あんな姿にされれば緑川といえどもあの格好では逃げ出すことも出来ないと踏んだからなのだろう。
そこまで狡猾に考えられるのはやはり望月先輩をおいて他にはいないだろうと僕は思った。
ただ、緑川の事を昔からよく知っている僕からすれば、心まで屈服していなければ緑川は、あんな姿でもチャンスさえあれば必ず脱出する。緑川と言う女の子はそういう女の子だ。だから僕は昔から緑川に惹かれるのだ。
「さて、ここで僕から平泉君に提案があるんだ」
緑川から目を背けた一瞬、そんな事を考えていた僕に望月先輩が言った。そう、またいやらしい程、穏やかにそして優しい声で。それでもその中から、どろどろした凄まじい敵意が漏れ出ているのを僕は感じていた。
「考えてみれば君は今回の事も巻き込まれた立場だよね。
あの烏丸君に言い寄られて、こうなってしまったまでだ。
そこでは、僕は、君が僕の出す条件を飲むなら、
何もせずにここから解放してあげても良いと思ってるんだよ」
そう言って望月先輩はいったん言葉を切って柔らかい笑みを浮かべて僕を見た。でもその瞳はまるで獲物を狙う蛇の様に鋭かった。
「条件とは何ですか?」
僕は自身を落ち着かせながらそう問い返した。
「簡単な事だよ。
君が、ここで見たり聞いたりしたことは全部忘れる事。
そして、緑川君とも、烏丸君とも、すっぱり縁を切る事」
「そうすれば僕と緑川を解放してくれるんですね」
望月先輩が提示した条件に僕はすぐさま一言確認を入れた。
確かに緑川にされた事を思えば望月先輩を許すことは出来ない。でも、緑川と板額と僕が別れさえすればそれで済むなら。僕はそれでも構わないと思った。だって、元々、僕にそんな資格などないからだ。僕は一生『水瀬京子の怨霊』と共に一人ぼっちで生きなければならない、そういう運命なのだから。
しかし、僕は、この時、望月先輩の出した条件の本当の恐ろしさに気が付いていなかったのだ。それは望月先輩が不気味な笑みを浮かべながら言った次の一言で、僕は嫌と言うほどそれを思い知らされることになる。
「何を言ってるんだい、平泉君。
開放するのは君だけだよ。
緑川君には、一晩中ここで僕らの相手をしてもらうんだよ」
その言葉を聞いて、望月先輩の横で、男に肩を押さえられ床に座らされていた緑川が目を見開いて望月先輩を見た。そしてそのまま緑川は、目を見開いたまま僕の方を向き直った。その瞳には、こんな状況下で僕がどんな答えを出すか、読み切れず深い不安に陥っている彼女の気持ちが滲み出ていた。
そうだ、望月先輩はあくまでも僕と話しているのだ。その中に緑川の事が含まれていないのは当然と言えば当然だった。また、執念深い望月先輩がそんな簡単事で、僕を許すわけがない。望月先輩が出した条件の本当の恐ろしさは、僕に緑川を見捨てさせることにある。もし僕が緑川を見捨てて自分一人逃げたら、きっとこの先ずっと望月先輩はその事で僕を一生ねちねちとイジメてくる。いや、それだけじゃない。自分を見捨てて逃げた僕を、緑川にも一生恨ませるつもりなのだ。
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