ハンガク！

第九十四話

　そして、そのホールのそこかしこに置かれたＬＥＤランタン近くには必ず男が居るのが見えた。ある者は立ち、ある者は床に座り込み、各々好き勝手な姿で居た。ＬＥＤランタンの光がその男たちをまるでスポットライトが当てられているかの様に鮮明に照らし出していた。

　その誰もが一目見て、おおよそまともな人間でないのは分かる風体をしていた。俗にいうストリートギャングっていう感じだった。しかもそれぞれが手に、長い鉄パイプやら角材、釘を無数に打ち込んだバット、チェーンなどを物騒な物を持っていた。中にはナイフの様な物まで手にしている者までいる。

　僕は、そいつらを見て少しだけ困惑した。僕はもっと頭の切れる犯人を予想していたのだ。これじゃまるでチンピラじゃないか。

　そう思うと同時に、僕は急に不安になった。

　僕が想像してた様な頭の切れる犯人なら、大事な人質である緑川に必要以上の暴力等は加えないだろう。しかし、相手がこの手の人間となると話は別だ。当然、緑川の身も危うくなる。だって、相手がこんな連中なら約束など守るとは思えない。しかも連中が拉致したのはあの緑川だ。こんな連中が葵高で誰もが認める美少女である緑川に何もせずに放っておくわけがない気がしたのだ。

　白瀬の怨霊が僕に囁いた様に、緑川はすでにこの男たちの手で……と考えると僕は居ても立ってもいられなくなった。

「緑川はどこだ！
　彼女に何かあったら僕はお前たちを許さない！」

　僕は何も考えずほとんど反射的にそう叫んでいた。

　する間髪を入れず、ホール居た男たちが一斉に高笑いを始めた。

「いかにもお勉強が出来そうなメガネが似合う優等生美人。
　ああいうのは久々だぜ。
　それにペッタンコかと思いきや、
　脱がしてみりゃ、結構、良い体してやがる。
　しかも、あの強気な態度がまたそそるよな」

　最初に声を掛けてきた奴がそう言って、手に持ったナイフをペロリと下で舐めてから笑った。

「俺たちみたないのを、いつもは見下してお高くとまってる葵高の女が、
　最後は自分から腰振って求め出すのを見るのがたまんねぇだよな」

「お願い！もっと気持ちよくしてぇ～！　なんて叫んでな」

「それに金持ちのお嬢様が多いから、後々便利なＡＴＭになるしよ」

　最初の男の言葉に合わせて、男たちは好き勝手なことを言って笑った。

　この男たちの手でやはり緑川はあんな姿にされたんだ。

　僕は確信した。出来れば今すぐにでもあの男に所に走って行って、ぶん殴りたい気持ちを抑えきれなくなった。でも、あえて僕は唇を噛み締め、両手をぐっ握りしてめて耐えた。ここで殴り掛かって行っても相手が相手だ。それに相手の数が多い上に武器を持っている。敵うわけがない。ここで僕が倒れたら本当に緑川を救えるものは誰も居なくなってしまう。そうなれば緑川は間違いなく奴らのおもちゃにされてしまう。それどころか、こいつらの事だ。心がズタボロになるまで緑川に乱暴した挙句、自分たちの言いなりになる都合の良い奴隷にされてしまうだろう。最後には体だけでなく、緑川からお金も何もかも、むしり取れるものは全部むしり取ってゆくつもりだ。

　それだけは何としても阻止しなければならない。例え、この身がどうなろうと緑川だけはあいつらの魔の手から救い出す。

　そう心に強く言い聞かせて、僕は何とか一時の怒りを何とか収めた。するとすぐに僕は、連中の言葉からあることに気が付いた。連中は『葵高の女』と言った。確かに緑川は『葵高の女』に違いないが、あの話の流れからすると、緑川以外にもこの連中の餌食なった葵高の女子生徒がいる様な口ぶりだった。と言うよりこいつらは葵高の女生徒をターゲットにしているのではないだろうかと僕は思った。秀才と言われる葵高の生徒だ。そんな知的で気が強い女の子を暴力で自分の物にして支配下に置く、こいつらみたいな奴らならそれはたまらない快楽だろう。逆にこんな連中の餌食にされた葵高の女子生徒が今までも居たと思うと、再び僕の怒りは爆発しそうになった。もしかすると僕の知ってる女の子、いやそこまでじゃなくても学校で見かける女の子の中にそんなかわいそうな子が居たと思うと、僕ははらわたが煮えくり返った。

　そこまで考えた時だった。

　まてよ、すると、緑川を拉致した目的はやはりいたずら目的じゃないのか、と僕は思い直した。僕を呼び出したのは……

　僕が緑川の彼氏だと知って、その彼氏の前で緑川を嬲り者にして楽しむ、というこの手の連中に多いサディスティックな性癖を満足させるためじゃないのか？

……という恐ろしい考えが僕の頭に浮かんだ。