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第九十二話
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結局、六時限目、つまり今日最後の授業中に場所の指定は、メールで来た。もちろん発信元は緑川のスマホからだ。どうやら緑川のスマホは完全に拉致した連中の支配下にある様だった。例えロックが掛けられていても、緑川があの状態では緑川にパスワードを吐かせる事など連中にとっては至極簡単な事であろう。それでも気の強い緑川の事、簡単には吐かず、拷問の様な目に合わされたのかもしれない。いや、ひょっとすると、緑川があんな姿なのも拷問を受けた結果ではと思うと、僕は胸が急に苦しくなった。
指定された場所は、意外な事に僕のマンションから自転車で行ける距離にある場所だった。僕は自分のマンションに帰って夕食を食べた後、その場所に出かける事にした。
放課後、いつものごとく僕は板額と帰った。努めて板額に気取られぬよう自然な感じを装った。自分では良く出来ていた思っていたのだが、後で板額に聞いたらかなり違和感があったそうだ。むしろ、板額に気取られていた事にすら気づけない程、僕の心はまさにここにあらずの状態だったのかもしれない。
僕は、適当な理由を付けて母に早めの夕食を作ってもらい、食べた後、すぐに自転車でマンションを出た。
ちなみに、母もこの時には僕の様子がいつもと違う事に気が付いていたそうだ。さすが、我が母って感じだった。曲がりなりにも一応、売れっ子流行作家『東雲 桜』だけあって相手の表情や仕草から心の内を読むのに長けている。いや、この場合は、父が居ない今、自分が守るべき大事な一人の息子だからだろう。その一人息子の事を想う気持ちは他の母親以上のものがあるのかもしれない。
ちなみにその場所は僕の守備範囲にあった。場所自体は送られた住所ですぐ分かった。まあ、今時、ネットのサーチエンジン使えば住所がわかっていれば場所はすぐにわかる。ただ、僕の守備範囲とはいえ、その部分は守備範囲の中、ぽっかり空いた空白地帯だった。
どういう事かと言うと、そこは40年近く前まではこの街でももっともにぎわった繁華街だった。日曜ともなれば誰もが、おめかしして行くハレの場所。今の感覚なら、名古屋の栄、あるいは名駅地区っと言った感じだった。まあ、実際に僕は経験したわけでなく、母から聞いた話である。僕自身が知っているその場所は、すでに虫食い状態で空き地が点在する寂しい場所だった。今ではとてもそんな話が信じられないくらいだ。
もっと南、葵高のやや南に、あの大型商業施設が出来て人の流れが変わったのが決定的だった。そして、そこにあった目玉でもある名古屋のデパートの支店が二件とも撤退した後、あの大型施設の母体ともなった商業施設も撤退してしまい、それでとどめを刺された感じだった。
とにかく、今は空き地や、元何があったか今では分からない廃ビルが立ち並ぶゴーストタウンなのだ。昼間でもうすら寒い感じで、夜ともなれば近寄りたくはない場所になっていた。
そしてそこは、緑川を拉致した連中が潜むにはまさにもってこいの場所だった。事実、指定されたのはそんな廃ビルの一つだった。母の話では、昔はかなりにぎわった比較的大型のパチンコ店だったらしい。でも、すでに廃業して長く経つのに取り壊されることもなく、ただただ時間の波に洗われ荒れてゆくに任されている。その姿は日中見ても、かなり不気味な佇まいである。普通の感覚をもった人間なら絶対に中に入ろうとは思わないだろう。いや日中ですら、できればその傍を通る事すら遠慮したくなるほどだった。
僕は、自転車を降り傍らに立っていた。
そこはまだ夜は浅いと言うのに、まるですでに丑三つ時になったかの様な一種異様な静寂と雰囲気に包まれていた。
しかも、元々パチンコ屋で音が外に漏れるのを防ぐためであろうか、入り口を除けば窓はほとんど無いし、あっても小さなものがあるだけだ。今はその窓のガラスも割れて板が打ち付けられている為、外からは中の様子などは全く分からない。真昼間でも、ここに緑川が拉致されたのなら、緑川が中でどんな酷い目にあわされようが、誰にも気が付かれることはないだろう。
事実、だからこそ、だからこそ、緑川はあの姿だったのだ。例え、画像の様に声が出せない様に口を塞がれていようと、あの緑川の事、かなりの抵抗をしたはずだ。普通、真昼間なら誰か気が付いてもおかしくはない。
指定された場所は、意外な事に僕のマンションから自転車で行ける距離にある場所だった。僕は自分のマンションに帰って夕食を食べた後、その場所に出かける事にした。
放課後、いつものごとく僕は板額と帰った。努めて板額に気取られぬよう自然な感じを装った。自分では良く出来ていた思っていたのだが、後で板額に聞いたらかなり違和感があったそうだ。むしろ、板額に気取られていた事にすら気づけない程、僕の心はまさにここにあらずの状態だったのかもしれない。
僕は、適当な理由を付けて母に早めの夕食を作ってもらい、食べた後、すぐに自転車でマンションを出た。
ちなみに、母もこの時には僕の様子がいつもと違う事に気が付いていたそうだ。さすが、我が母って感じだった。曲がりなりにも一応、売れっ子流行作家『東雲 桜』だけあって相手の表情や仕草から心の内を読むのに長けている。いや、この場合は、父が居ない今、自分が守るべき大事な一人の息子だからだろう。その一人息子の事を想う気持ちは他の母親以上のものがあるのかもしれない。
ちなみにその場所は僕の守備範囲にあった。場所自体は送られた住所ですぐ分かった。まあ、今時、ネットのサーチエンジン使えば住所がわかっていれば場所はすぐにわかる。ただ、僕の守備範囲とはいえ、その部分は守備範囲の中、ぽっかり空いた空白地帯だった。
どういう事かと言うと、そこは40年近く前まではこの街でももっともにぎわった繁華街だった。日曜ともなれば誰もが、おめかしして行くハレの場所。今の感覚なら、名古屋の栄、あるいは名駅地区っと言った感じだった。まあ、実際に僕は経験したわけでなく、母から聞いた話である。僕自身が知っているその場所は、すでに虫食い状態で空き地が点在する寂しい場所だった。今ではとてもそんな話が信じられないくらいだ。
もっと南、葵高のやや南に、あの大型商業施設が出来て人の流れが変わったのが決定的だった。そして、そこにあった目玉でもある名古屋のデパートの支店が二件とも撤退した後、あの大型施設の母体ともなった商業施設も撤退してしまい、それでとどめを刺された感じだった。
とにかく、今は空き地や、元何があったか今では分からない廃ビルが立ち並ぶゴーストタウンなのだ。昼間でもうすら寒い感じで、夜ともなれば近寄りたくはない場所になっていた。
そしてそこは、緑川を拉致した連中が潜むにはまさにもってこいの場所だった。事実、指定されたのはそんな廃ビルの一つだった。母の話では、昔はかなりにぎわった比較的大型のパチンコ店だったらしい。でも、すでに廃業して長く経つのに取り壊されることもなく、ただただ時間の波に洗われ荒れてゆくに任されている。その姿は日中見ても、かなり不気味な佇まいである。普通の感覚をもった人間なら絶対に中に入ろうとは思わないだろう。いや日中ですら、できればその傍を通る事すら遠慮したくなるほどだった。
僕は、自転車を降り傍らに立っていた。
そこはまだ夜は浅いと言うのに、まるですでに丑三つ時になったかの様な一種異様な静寂と雰囲気に包まれていた。
しかも、元々パチンコ屋で音が外に漏れるのを防ぐためであろうか、入り口を除けば窓はほとんど無いし、あっても小さなものがあるだけだ。今はその窓のガラスも割れて板が打ち付けられている為、外からは中の様子などは全く分からない。真昼間でも、ここに緑川が拉致されたのなら、緑川が中でどんな酷い目にあわされようが、誰にも気が付かれることはないだろう。
事実、だからこそ、だからこそ、緑川はあの姿だったのだ。例え、画像の様に声が出せない様に口を塞がれていようと、あの緑川の事、かなりの抵抗をしたはずだ。普通、真昼間なら誰か気が付いてもおかしくはない。
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