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第七十三話
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「お前さ、中学校の時に女の子イジメて自殺させたんだってな。
同じ中学で事の詳細知ってるはずに緑川女史はともかく、
何も知らない烏丸さんを騙して付き合ってるなんて最低な男だな。
お前は変わった奴だとは思ってたけど、そんな奴だとは思わなかった。
本当に最低な男だな、お前」
尾崎はそう僕に言い放った。視線はあえて目が合わない様に逸らせていたが、その言葉には僕を蔑む様な明確な刃が混じっていた。そして、その言葉の刃は僕がずっと心の奥底に隠していた記憶を呼び覚ました。
報いだ。
もう一人の僕がその瞬間、そう僕に告げた。
尾崎の言う通りだ。
あんなことをしてしまった僕だ。
そんな僕が板額と甘い時を過ごす事など許される事じゃなかったんだ。
僕はそう納得する他なかった。そして僕は今自分が居る足元がガラガラと音を立てて崩れ落ちて行くのを感じた。それは本当は足元ではなく平穏な日常なのかもしれない。
「烏丸さん、君みたいな素敵な子がこんな奴と付き合ってちゃダメだよ。
こいつはいつか君まで傷つけるに決まってる」
尾崎は僕に言葉をぶつけた後、板額を見てそう言った。そしてすかさず緑川に向かってこう尋ねた。その時の僕はもう半分に死人と化していた。ただそれを死んだ魚の目でまるで他人事の様に見詰めていた。
「緑川、君は知ってたはずだよね。
なのに何故、烏丸さんに言わなかったんだ?」
その言葉は緑川に対しても非難する様な響きがあった。
「ちょっと待って、尾崎君、それは……」
そう答えようした緑川を板額の言葉が遮った。
「僕が誰と付き合おうが君には関係ないだろう。
僕は僕が付き合いたい人と付き合う。
与一は僕にとても大事な人なんだ。
その与一を侮辱する事はこの僕を侮辱する事だ」
板額はそう声高に叫んでいた。そこには明らかに怒りの感情があった。普段、あまりこう言う負の感情は表に出す事はしない板額には珍しい反応だった。
だからなのだろうか、その瞬間、尾崎はまるで鳩が豆鉄砲を食った様な顔になった。
「君がそう言うなら仕方ないけど、きっと後悔するよ。
緑川もちゃんと烏丸さんに真実を伝えるべきだ」
そして小さな舌打ちをした後、板額と緑川にそう言った。その舌打ちは板額や緑川、あまつさえ僕に対してではない。それはきっと彼自身に対してたのだろう。
だって僕には良く分かってる。
尾崎は決して意地悪や嫉妬心などと言う個人的な感情だけでそう言いに来たわけじゃない。彼には彼なりの『正義』があったのだ。そして正義感の強い彼はこうせざるをえなかったのだ。彼はただただ板額の事を想って言い難い事をあえて言いに来たのだ。尾崎は、やはりそれがお節介だった事を感じて、余計な事をしてしまった自分に舌打ちしたのだ。
そして尾崎はややすまなさそうな、なんだかしまらない表情を浮かべてそそくさとその場を立ち去って行った。
「与一を侮辱され僕も思わず声を荒げてしまったけれど、
彼は彼なりの親切心でああ言ったのだろうね。
でもそれはお節介と言う物だよ。
下手をすれば与一に嫉妬してると思われかねない」
一度は声高に叫んだ板額だったが、去って行く尾崎の少し寂し気な背中を見送りながらそう静かに言った。そう言った板額は、もう完全にいつもの冷静な板額に戻っている様だった。そして僕は、板額のその言葉から、板額が尾崎に対して僕と同じ事を感じ取っていた事を知った。転校して来てまだ数か月しか経ってない板額がすでに僕以外のクラスメイトの性格をここまで把握している事に僕は少し驚いた。
「板額、やっぱりあなた、与一……いえ、
中学時代の私達に何があったか知ってるの?」
板額の言葉に緑川は怪訝な表情を浮かべ、板額の表情を確認するかの様に覗き込みながらそう尋ねた。
「だから、いつも言ってるだろう、巴。
僕は与一の事なら何でも知ってるってね」
緑川の問い掛けに板額は事も無げにそう答えた。
そう事も無げにだ。
僕は思わず板額の顔を覗き込みその表情を確認した。
しかし、板額はいつもの彼女らしいおちついた顔つきのままだった。まったくこんな時なのに、こうして板額の顔をまじまじと見ると本当に板額はきれいな顔立ちをしている。可愛いと言うより整っていると言うべきだ。美人、そう美少女でなく美人と言う奴なのだ。
僕はこんな時なのに、思わずそんなのんきな事を思っていた。
同じ中学で事の詳細知ってるはずに緑川女史はともかく、
何も知らない烏丸さんを騙して付き合ってるなんて最低な男だな。
お前は変わった奴だとは思ってたけど、そんな奴だとは思わなかった。
本当に最低な男だな、お前」
尾崎はそう僕に言い放った。視線はあえて目が合わない様に逸らせていたが、その言葉には僕を蔑む様な明確な刃が混じっていた。そして、その言葉の刃は僕がずっと心の奥底に隠していた記憶を呼び覚ました。
報いだ。
もう一人の僕がその瞬間、そう僕に告げた。
尾崎の言う通りだ。
あんなことをしてしまった僕だ。
そんな僕が板額と甘い時を過ごす事など許される事じゃなかったんだ。
僕はそう納得する他なかった。そして僕は今自分が居る足元がガラガラと音を立てて崩れ落ちて行くのを感じた。それは本当は足元ではなく平穏な日常なのかもしれない。
「烏丸さん、君みたいな素敵な子がこんな奴と付き合ってちゃダメだよ。
こいつはいつか君まで傷つけるに決まってる」
尾崎は僕に言葉をぶつけた後、板額を見てそう言った。そしてすかさず緑川に向かってこう尋ねた。その時の僕はもう半分に死人と化していた。ただそれを死んだ魚の目でまるで他人事の様に見詰めていた。
「緑川、君は知ってたはずだよね。
なのに何故、烏丸さんに言わなかったんだ?」
その言葉は緑川に対しても非難する様な響きがあった。
「ちょっと待って、尾崎君、それは……」
そう答えようした緑川を板額の言葉が遮った。
「僕が誰と付き合おうが君には関係ないだろう。
僕は僕が付き合いたい人と付き合う。
与一は僕にとても大事な人なんだ。
その与一を侮辱する事はこの僕を侮辱する事だ」
板額はそう声高に叫んでいた。そこには明らかに怒りの感情があった。普段、あまりこう言う負の感情は表に出す事はしない板額には珍しい反応だった。
だからなのだろうか、その瞬間、尾崎はまるで鳩が豆鉄砲を食った様な顔になった。
「君がそう言うなら仕方ないけど、きっと後悔するよ。
緑川もちゃんと烏丸さんに真実を伝えるべきだ」
そして小さな舌打ちをした後、板額と緑川にそう言った。その舌打ちは板額や緑川、あまつさえ僕に対してではない。それはきっと彼自身に対してたのだろう。
だって僕には良く分かってる。
尾崎は決して意地悪や嫉妬心などと言う個人的な感情だけでそう言いに来たわけじゃない。彼には彼なりの『正義』があったのだ。そして正義感の強い彼はこうせざるをえなかったのだ。彼はただただ板額の事を想って言い難い事をあえて言いに来たのだ。尾崎は、やはりそれがお節介だった事を感じて、余計な事をしてしまった自分に舌打ちしたのだ。
そして尾崎はややすまなさそうな、なんだかしまらない表情を浮かべてそそくさとその場を立ち去って行った。
「与一を侮辱され僕も思わず声を荒げてしまったけれど、
彼は彼なりの親切心でああ言ったのだろうね。
でもそれはお節介と言う物だよ。
下手をすれば与一に嫉妬してると思われかねない」
一度は声高に叫んだ板額だったが、去って行く尾崎の少し寂し気な背中を見送りながらそう静かに言った。そう言った板額は、もう完全にいつもの冷静な板額に戻っている様だった。そして僕は、板額のその言葉から、板額が尾崎に対して僕と同じ事を感じ取っていた事を知った。転校して来てまだ数か月しか経ってない板額がすでに僕以外のクラスメイトの性格をここまで把握している事に僕は少し驚いた。
「板額、やっぱりあなた、与一……いえ、
中学時代の私達に何があったか知ってるの?」
板額の言葉に緑川は怪訝な表情を浮かべ、板額の表情を確認するかの様に覗き込みながらそう尋ねた。
「だから、いつも言ってるだろう、巴。
僕は与一の事なら何でも知ってるってね」
緑川の問い掛けに板額は事も無げにそう答えた。
そう事も無げにだ。
僕は思わず板額の顔を覗き込みその表情を確認した。
しかし、板額はいつもの彼女らしいおちついた顔つきのままだった。まったくこんな時なのに、こうして板額の顔をまじまじと見ると本当に板額はきれいな顔立ちをしている。可愛いと言うより整っていると言うべきだ。美人、そう美少女でなく美人と言う奴なのだ。
僕はこんな時なのに、思わずそんなのんきな事を思っていた。
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