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第七十一話
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僕は篠原さんの言葉がその時は気になっても、日常に紛れてすぐに忘れていた。
でもすぐに、篠原さんの言った言葉の意味を嫌と言うほど知る事になる。
季節は梅雨も終わりに中間試験と言う高校生の僕らに大きなイベントを越え、次の期末試験までは少しあるモラトリアムな時間がやって来た。僕らはまだ高校二年生。その為、この期間はかなり気が緩む。ただし、来年になれば、天下に名をとどろかす葵高の事、もう誰もが一年中、頭の中は大学入試の事で一杯で気が抜ける時などなくなる。もうすぐ来る夏休みを楽しめるのも今年が最後なのだ。
そんなこんなで普通なら教室の雰囲気も良い具合にダラけて来るはずだった。しかし、実際には何故か定期考査前の様な微妙な緊張感が漂っているのを僕は感じ取っていた。
板額と緑川と言う本妻と愛人を持つリア充その物の様になった僕ではある。しかしながら、多少、二人のおかげで弄られる事はあっても、僕はクラスではまだボッチのまま変わりはない。その為、クラスの雰囲気がどうであろと基本、僕は無関心だ。それが僕に関係する事はないからだ。
しかしである。今回のこの微妙な緊張感だけは別だった。僕はかつてこの様な緊張感を経験したことがある。しかも今回のそれは、その時と同じく、この僕がこの緊張感を生んでいる事に気がついていたからである。
すごく嫌な感じがした。思い出したくもないこのヒリヒリした感じ。そうだ、この感じを二度と味わいたくないから僕は周りとの関係を断ったのだ。
こちらが関係を断つ代わりに、周りからも関心を持たれる事もなくなるはずだった。そしてそれは今まで巧く機能していた。人は常にはいつも傍にある空気の存在を意識しない。僕はクラスにおいては空気と同じ存在だったはずなのだ。
それが今、彼らにとって僕が関心の的になっているのが僕には分かった。最初は、単に何かにつけて学校内でも目立つ存在である板額の彼氏になってしまった事が原因だろうと思った。しかし、それなら板額が転校して来て、おおぴらに僕の彼女宣言をした直後からそうなるはずだ。実際、それで僕は周りから今までより関心を持たれる存在になった。しかしである。それでも、その感じは今までとはまったく違った。特に相手が男どもだと、殺気を含んだ嫉妬をひしひし感じる事はたまにはあった。でも、今のこの感じは性別を超えていた。そして学年さえも超えている気がする。それは嫉妬とは明らかに違う物だった。
しかも、ある日を境にじわりと、そう半紙に墨汁を一滴垂らしたかの様にじわりじわりと広がっていった感じがした。僕の周りの空気が少しづつ、だが確実に黒に染まってゆく様な息の詰まる嫌な感じがした。そう、その空気の浸食は確実に僕を目指して進んでいたのだ。
やはりこれはあの時と同じなのだ。僕は確信した。でも、それなら何故? あの事はここではもう誰も知らないはずだ。
「与一、君も感じてるよね、この嫌な感覚」
その日、板額はいつもの様に僕の机に腰かけて僕にそう声を掛けた。
そう言った板額の顔はとても冗談を言っている感じはなく真剣そのものだった。
今までなら放課後、僕の席の周りは板額を中心としたクラスメイトの集まりが出来ていた。しかし、ここの数日、その集まりは非常に閑散としたものだった。ある意味、板額が転校してくる前に戻った感があった。
「板額、やはりあなたも気づいているのね」
板額の言葉に、緑川が僕の代わりにそう答えた。
緑川はそう言って僕をちらりと見た。僕は思わず緑川の視線から顔を逸らせてしまった。そして見てはいないが、そんな僕を見て緑川はきっと悲しい表情を浮かべていた事を僕には分かっている。
そう緑川は知っているのだ。僕がかつてこれと同じ様な感覚を持つ雰囲気の中心になった事を。緑川はそれを良く知ってる。なぜなら緑川はその時の当事者の一人でもあったからだ。そしてその時の僕は気がつかなかったが、緑川はそんな僕を心配してその時からずっと傍で見守っていてくれたのだ。
「当然だよ、巴。
僕は与一の事なら何でも知ってるからね」
緑川の問い掛けに、板額はそう答えて挑戦的な笑みをその口元に浮かべた。
僕は板額の言葉に、心臓が口から飛び出るほど驚いた。
でもすぐに、篠原さんの言った言葉の意味を嫌と言うほど知る事になる。
季節は梅雨も終わりに中間試験と言う高校生の僕らに大きなイベントを越え、次の期末試験までは少しあるモラトリアムな時間がやって来た。僕らはまだ高校二年生。その為、この期間はかなり気が緩む。ただし、来年になれば、天下に名をとどろかす葵高の事、もう誰もが一年中、頭の中は大学入試の事で一杯で気が抜ける時などなくなる。もうすぐ来る夏休みを楽しめるのも今年が最後なのだ。
そんなこんなで普通なら教室の雰囲気も良い具合にダラけて来るはずだった。しかし、実際には何故か定期考査前の様な微妙な緊張感が漂っているのを僕は感じ取っていた。
板額と緑川と言う本妻と愛人を持つリア充その物の様になった僕ではある。しかしながら、多少、二人のおかげで弄られる事はあっても、僕はクラスではまだボッチのまま変わりはない。その為、クラスの雰囲気がどうであろと基本、僕は無関心だ。それが僕に関係する事はないからだ。
しかしである。今回のこの微妙な緊張感だけは別だった。僕はかつてこの様な緊張感を経験したことがある。しかも今回のそれは、その時と同じく、この僕がこの緊張感を生んでいる事に気がついていたからである。
すごく嫌な感じがした。思い出したくもないこのヒリヒリした感じ。そうだ、この感じを二度と味わいたくないから僕は周りとの関係を断ったのだ。
こちらが関係を断つ代わりに、周りからも関心を持たれる事もなくなるはずだった。そしてそれは今まで巧く機能していた。人は常にはいつも傍にある空気の存在を意識しない。僕はクラスにおいては空気と同じ存在だったはずなのだ。
それが今、彼らにとって僕が関心の的になっているのが僕には分かった。最初は、単に何かにつけて学校内でも目立つ存在である板額の彼氏になってしまった事が原因だろうと思った。しかし、それなら板額が転校して来て、おおぴらに僕の彼女宣言をした直後からそうなるはずだ。実際、それで僕は周りから今までより関心を持たれる存在になった。しかしである。それでも、その感じは今までとはまったく違った。特に相手が男どもだと、殺気を含んだ嫉妬をひしひし感じる事はたまにはあった。でも、今のこの感じは性別を超えていた。そして学年さえも超えている気がする。それは嫉妬とは明らかに違う物だった。
しかも、ある日を境にじわりと、そう半紙に墨汁を一滴垂らしたかの様にじわりじわりと広がっていった感じがした。僕の周りの空気が少しづつ、だが確実に黒に染まってゆく様な息の詰まる嫌な感じがした。そう、その空気の浸食は確実に僕を目指して進んでいたのだ。
やはりこれはあの時と同じなのだ。僕は確信した。でも、それなら何故? あの事はここではもう誰も知らないはずだ。
「与一、君も感じてるよね、この嫌な感覚」
その日、板額はいつもの様に僕の机に腰かけて僕にそう声を掛けた。
そう言った板額の顔はとても冗談を言っている感じはなく真剣そのものだった。
今までなら放課後、僕の席の周りは板額を中心としたクラスメイトの集まりが出来ていた。しかし、ここの数日、その集まりは非常に閑散としたものだった。ある意味、板額が転校してくる前に戻った感があった。
「板額、やはりあなたも気づいているのね」
板額の言葉に、緑川が僕の代わりにそう答えた。
緑川はそう言って僕をちらりと見た。僕は思わず緑川の視線から顔を逸らせてしまった。そして見てはいないが、そんな僕を見て緑川はきっと悲しい表情を浮かべていた事を僕には分かっている。
そう緑川は知っているのだ。僕がかつてこれと同じ様な感覚を持つ雰囲気の中心になった事を。緑川はそれを良く知ってる。なぜなら緑川はその時の当事者の一人でもあったからだ。そしてその時の僕は気がつかなかったが、緑川はそんな僕を心配してその時からずっと傍で見守っていてくれたのだ。
「当然だよ、巴。
僕は与一の事なら何でも知ってるからね」
緑川の問い掛けに、板額はそう答えて挑戦的な笑みをその口元に浮かべた。
僕は板額の言葉に、心臓が口から飛び出るほど驚いた。
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