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第六十八話
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「京都の祖母はね、根はすごく優しい人なんだ。
でもあの名家『烏丸家』の当主。
普通の祖父母の様に優しさを前面に出していたら親族がまとまらない。
ああいう名家の親族は小説よりも奇なりの海千山千ばっかだからね。
唯一の直系であっても女性である祖母は特にだよ。
甘い顔をしていれば足元を掬おうとする輩ばっかさ」
板額は呆れ顔でそう言った。
「なるほど。やっぱりそう言う世界は実際にもあるんだね。
うちの母親に聞かせたらすごく興味を示しそうだよ」
僕はそう言って笑った。確かにあの母の事、今の板額の話をすれば必ず興味を示すに決まってる。それこそ、取材がてらに京都のお宅へ行かせろと騒ぎ出しそうだ。
「はははっ、『東雲 桜』先生なら大歓迎だよ。
冗談無しに、今度、僕が烏丸の家に帰省する時には君と母上を招待しよう。
祖母も相手が東雲先生ならきっと喜ぶと思うからね」
僕の言葉に板額も笑いながらそう答えた。言い忘れていたが、『東雲 桜』と言うのはうちの母親のPNである。
この時には、僕が板額と、板額を引き取った京都の祖母と言う人は不仲ではと言う疑念はほとんど晴れていた。それは板額のお婆さんを語る言葉と口調をみれば明らかだった。不仲でないどころか、むしろ、深い信頼関係がもう出来ている様な感じがした。
「話が逸れてしまった。
君にはまた機会を改めて祖母の話はしよう。
今は僕自身の話を続けよう」
一呼吸の後、板額はそう言ってまた自身の過去を語り始めた。
「祖母に安楽死を提案された僕は正直、喜んだよ。
相手はこんな状態で突然現れた祖母だと名乗る見知らぬ人だったけど、
その時の僕はもう生きる希望を失っていたからね。
思わず反射的に頷きそうなだった。
でも、祖母は僕の反応を見る前に話を続けたんだ。
『しかしだ、もしお前が並々ならぬ覚悟が出来るなら選択肢はまだある。
私ならお前を五体満足の体、そう事故に会う前と同じにしてやる事も出来る。
その代わりにお前はお前の人生全てを私に差し出せ。
まあ、安楽死する覚悟も、
人生全てを私に差し出す覚悟も出来ないのなら、
それもいたし方なかろう。
何せお前はまだ13歳の中学生なったばかりの子供だ。
重い後遺症などあってもこの私と烏丸家が一生面倒見てやるから安心しろ。
曲がりなりにもお前は私のたった一人の孫だからな。
さあ、どうする?』
まったく、自分でも言ってるが中学生になったばかりで、
しかも、両親を亡くし、大けがしてる子供にいきなりこんな選択させるなんて、
あんた本当に鬼婆かよ、って話だよね」
板額はそう言ってくすくす思い出し笑いをした。この辺り、言葉では『鬼婆』なんて言ってるけど、少なくとも今はそんな風には全く思ってないのが僕には良く分かった。
「結局、祖母は子供の扱い方が良く分かっていない様なんだ。
だからね、母とは結局喧嘩別れになってしまったんだろう。
きっと、心の中では母の事をすごく大切に想っていたのに、
祖母の立場がそれをうまく表現する事を出来なくさせていたんだろう。
思えば、あの時、僕以上に祖母辛かったはずなんだ。
最後まで母とは和解できないまま永遠の別れを迎えてしまったんだからね。
入院中の僕に変わって両親の葬儀は祖母が取り仕切ってくれた。
その式中も祖母は一度も涙を見せないどころか冷静そのものだったらしい。
いう人に言わせれば実の娘の葬儀なのにまるで他人事の様だったとも。
でもね、退院した後、僕は見て知ってるんだ。
京都の家で祖母が一人、月を見上げて無言で泣いていた事ね。
その手には母の子供の頃の写真が握られてたんだ」
僕の想像を裏付けるかのように板額はお婆さんの事を僕にそう教えてくれた。
「話を僕自身の事に戻そう。
僕はね、結局、祖母の申し出を受け入れた。
僕はどうしても五体満足な姿で君に会いたかったんだ。
あの時とは変わった強い僕を君に見せたかったんだよ。
君と出会ったおかげで変われた僕を見せて君に感謝を伝えたかった。
その為なら、僕は僕の人生の残りを祖母と烏丸の家に捧げるくらい訳なかった。
おかげで君を探し出す事も出来たし、こうして同じ高校に通う事も出来た。
これも烏丸家のおかげなんだよ」
板額はそう言って笑った。板額自身の事はかなり分かって来たけれど、依然、僕には何故そこまで板額が僕にこだわるのか分からなかった。
でもあの名家『烏丸家』の当主。
普通の祖父母の様に優しさを前面に出していたら親族がまとまらない。
ああいう名家の親族は小説よりも奇なりの海千山千ばっかだからね。
唯一の直系であっても女性である祖母は特にだよ。
甘い顔をしていれば足元を掬おうとする輩ばっかさ」
板額は呆れ顔でそう言った。
「なるほど。やっぱりそう言う世界は実際にもあるんだね。
うちの母親に聞かせたらすごく興味を示しそうだよ」
僕はそう言って笑った。確かにあの母の事、今の板額の話をすれば必ず興味を示すに決まってる。それこそ、取材がてらに京都のお宅へ行かせろと騒ぎ出しそうだ。
「はははっ、『東雲 桜』先生なら大歓迎だよ。
冗談無しに、今度、僕が烏丸の家に帰省する時には君と母上を招待しよう。
祖母も相手が東雲先生ならきっと喜ぶと思うからね」
僕の言葉に板額も笑いながらそう答えた。言い忘れていたが、『東雲 桜』と言うのはうちの母親のPNである。
この時には、僕が板額と、板額を引き取った京都の祖母と言う人は不仲ではと言う疑念はほとんど晴れていた。それは板額のお婆さんを語る言葉と口調をみれば明らかだった。不仲でないどころか、むしろ、深い信頼関係がもう出来ている様な感じがした。
「話が逸れてしまった。
君にはまた機会を改めて祖母の話はしよう。
今は僕自身の話を続けよう」
一呼吸の後、板額はそう言ってまた自身の過去を語り始めた。
「祖母に安楽死を提案された僕は正直、喜んだよ。
相手はこんな状態で突然現れた祖母だと名乗る見知らぬ人だったけど、
その時の僕はもう生きる希望を失っていたからね。
思わず反射的に頷きそうなだった。
でも、祖母は僕の反応を見る前に話を続けたんだ。
『しかしだ、もしお前が並々ならぬ覚悟が出来るなら選択肢はまだある。
私ならお前を五体満足の体、そう事故に会う前と同じにしてやる事も出来る。
その代わりにお前はお前の人生全てを私に差し出せ。
まあ、安楽死する覚悟も、
人生全てを私に差し出す覚悟も出来ないのなら、
それもいたし方なかろう。
何せお前はまだ13歳の中学生なったばかりの子供だ。
重い後遺症などあってもこの私と烏丸家が一生面倒見てやるから安心しろ。
曲がりなりにもお前は私のたった一人の孫だからな。
さあ、どうする?』
まったく、自分でも言ってるが中学生になったばかりで、
しかも、両親を亡くし、大けがしてる子供にいきなりこんな選択させるなんて、
あんた本当に鬼婆かよ、って話だよね」
板額はそう言ってくすくす思い出し笑いをした。この辺り、言葉では『鬼婆』なんて言ってるけど、少なくとも今はそんな風には全く思ってないのが僕には良く分かった。
「結局、祖母は子供の扱い方が良く分かっていない様なんだ。
だからね、母とは結局喧嘩別れになってしまったんだろう。
きっと、心の中では母の事をすごく大切に想っていたのに、
祖母の立場がそれをうまく表現する事を出来なくさせていたんだろう。
思えば、あの時、僕以上に祖母辛かったはずなんだ。
最後まで母とは和解できないまま永遠の別れを迎えてしまったんだからね。
入院中の僕に変わって両親の葬儀は祖母が取り仕切ってくれた。
その式中も祖母は一度も涙を見せないどころか冷静そのものだったらしい。
いう人に言わせれば実の娘の葬儀なのにまるで他人事の様だったとも。
でもね、退院した後、僕は見て知ってるんだ。
京都の家で祖母が一人、月を見上げて無言で泣いていた事ね。
その手には母の子供の頃の写真が握られてたんだ」
僕の想像を裏付けるかのように板額はお婆さんの事を僕にそう教えてくれた。
「話を僕自身の事に戻そう。
僕はね、結局、祖母の申し出を受け入れた。
僕はどうしても五体満足な姿で君に会いたかったんだ。
あの時とは変わった強い僕を君に見せたかったんだよ。
君と出会ったおかげで変われた僕を見せて君に感謝を伝えたかった。
その為なら、僕は僕の人生の残りを祖母と烏丸の家に捧げるくらい訳なかった。
おかげで君を探し出す事も出来たし、こうして同じ高校に通う事も出来た。
これも烏丸家のおかげなんだよ」
板額はそう言って笑った。板額自身の事はかなり分かって来たけれど、依然、僕には何故そこまで板額が僕にこだわるのか分からなかった。
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