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第六十三話
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「ただいま」
板額はその引戸を開けながらそう声を掛けた。
「おかえりなさいませ、板額お嬢様」
すぐに中から声が帰って来た。
僕は板額の背中越しに中を見た。
外見だけでなく、内部までまるで木造の一戸建て、いや僕の感覚だと京都辺りの料亭じゃないかと思う様な造りの玄関が見えた。
そして、僕はそこに居た人物を見て脳天をたたき割られる様な激しい衝撃を受けた。
その人物はうやうやしく頭を下げて、僕らを取次ぎ(玄関ホール)で出迎えていた。そうだ、マンションのワンフロアーを買い上げ改装してしまう程の家なのだ。養子とは言えそんな家のお嬢様が例え養子であろうと一人暮らしの訳がない。色々身の回りの世話をする使用人さんが居て当然なのだ。
でも、今の僕にとっての問題はそこじゃない。
この造りにしたのなら、使用人さんは和服に白い割烹着、あるいはマニアックな感じではエプロンドレスってのがデフォだろう。しかしだ。今、目の前に居て、僕ら……正確には僕にではなく板額にだろうが……にうやうやしく頭を下げている人は洋装なのだ。
チリ一つ付いてない上質な生地で出来た濃紺のロングワンピース。そしてその上には、レースを多用した染み一つない真っ白なエプロンドレス。同じ様に頭にも真っ白なヘッドドレス。
つまり、正統派クラッシックスタイルのメイド姿なのだ。
これはコスプレじゃない。正真正銘の本物のメイドさんなのだ。もう、僕の目はその女性に釘づけになっていた。だってしょうがないじゃないか。メイドさんだぞ。しかも本物。今時の男の子なら色んなん意味でメイドさんってのは気になる存在だ。はっきり言ってしまえば、男の『夜のおかず』シチュエーションでは一、二を争う程人気のコスだと僕は信じている。
そして、かく言う僕もメイドさん大好きっ子だ。前に板額に鎌をかけられた様に僕のベッドの下には確かにメイドさんの薄い本が数冊隠してある。
そのメイドさんは、板額と僕が玄関に入ったのを気配で察してゆっくりと頭を上げた。
ああっ! 何という事だ。こんな事ってあるんだろうか?
僕らを見て優しく微笑むそのメイドさんは板額に負けず劣らずの美人さんだった。しかも、アニメや漫画に多い、美少女って現実味のない歳じゃない。歳の頃ならうちの母親よりやや若い感じ。これだよこれ。メイドさんはやっぱりこの歳頃じゃなくちゃダメだ。僕はあくまでリアリティーのあるメイドさんが良いのだ。このメイドさんはまさに僕の理想のメイドさんそのものだった。
「だから、僕は君をこの部屋にすぐには入れたくなかったんだよ」
僕はいつのまにかメイドさんをガン見してたのだろう。
そんな僕を振り返って板額が言った。その顔は明らかに怒っていた。いや、正確には怒ってはいるが、それは普通に怒ってるのではなく嫉妬からの様な気がした。後から思えばそんな事、外見からは分かるはずないのにその時に僕はそう感じたのだ。
「与一はメイドさん好きだからね。
きっと、篠原さんを見れば、必ず君は、
夢中になっちゃうって思ってたんだ。
すぐ傍に彼女である僕が居てもね」
そう続けた板額の言葉には明らかに棘があった。これは板額の言う通りだ。明らかに僕が悪い。ほとんど不意打ちでこんな素敵なメイドさんに出会えたことで現実を忘れ、つい舞い上がってしまっていた。
「ご、ごめん、板額……」
僕は率直そう言って頭を下げた。ここはどう言い訳したって僕が悪い。
ただそうは言っても、メイドさん好きだからこのメイドさんを見てつい夢中になっちゃったけど、それは彼女にしたいとかと言う感情とは全然違う。さらに言うなら、ベッドの下には確かにメイドさんの薄い本はあるけど、今目の前に居るメイドさんにそう言うえっちな妄想はこれっぽっちも起こしていない。それはむしろ憧れって近い感情からの事だ。だから、板額が嫉妬したとしてもそれは筋違いなのだ。
でも、この場合、彼女持ちの男としては、やっぱりやっちゃダメな事をやらかしたのは紛れもない事実だ。
板額はその引戸を開けながらそう声を掛けた。
「おかえりなさいませ、板額お嬢様」
すぐに中から声が帰って来た。
僕は板額の背中越しに中を見た。
外見だけでなく、内部までまるで木造の一戸建て、いや僕の感覚だと京都辺りの料亭じゃないかと思う様な造りの玄関が見えた。
そして、僕はそこに居た人物を見て脳天をたたき割られる様な激しい衝撃を受けた。
その人物はうやうやしく頭を下げて、僕らを取次ぎ(玄関ホール)で出迎えていた。そうだ、マンションのワンフロアーを買い上げ改装してしまう程の家なのだ。養子とは言えそんな家のお嬢様が例え養子であろうと一人暮らしの訳がない。色々身の回りの世話をする使用人さんが居て当然なのだ。
でも、今の僕にとっての問題はそこじゃない。
この造りにしたのなら、使用人さんは和服に白い割烹着、あるいはマニアックな感じではエプロンドレスってのがデフォだろう。しかしだ。今、目の前に居て、僕ら……正確には僕にではなく板額にだろうが……にうやうやしく頭を下げている人は洋装なのだ。
チリ一つ付いてない上質な生地で出来た濃紺のロングワンピース。そしてその上には、レースを多用した染み一つない真っ白なエプロンドレス。同じ様に頭にも真っ白なヘッドドレス。
つまり、正統派クラッシックスタイルのメイド姿なのだ。
これはコスプレじゃない。正真正銘の本物のメイドさんなのだ。もう、僕の目はその女性に釘づけになっていた。だってしょうがないじゃないか。メイドさんだぞ。しかも本物。今時の男の子なら色んなん意味でメイドさんってのは気になる存在だ。はっきり言ってしまえば、男の『夜のおかず』シチュエーションでは一、二を争う程人気のコスだと僕は信じている。
そして、かく言う僕もメイドさん大好きっ子だ。前に板額に鎌をかけられた様に僕のベッドの下には確かにメイドさんの薄い本が数冊隠してある。
そのメイドさんは、板額と僕が玄関に入ったのを気配で察してゆっくりと頭を上げた。
ああっ! 何という事だ。こんな事ってあるんだろうか?
僕らを見て優しく微笑むそのメイドさんは板額に負けず劣らずの美人さんだった。しかも、アニメや漫画に多い、美少女って現実味のない歳じゃない。歳の頃ならうちの母親よりやや若い感じ。これだよこれ。メイドさんはやっぱりこの歳頃じゃなくちゃダメだ。僕はあくまでリアリティーのあるメイドさんが良いのだ。このメイドさんはまさに僕の理想のメイドさんそのものだった。
「だから、僕は君をこの部屋にすぐには入れたくなかったんだよ」
僕はいつのまにかメイドさんをガン見してたのだろう。
そんな僕を振り返って板額が言った。その顔は明らかに怒っていた。いや、正確には怒ってはいるが、それは普通に怒ってるのではなく嫉妬からの様な気がした。後から思えばそんな事、外見からは分かるはずないのにその時に僕はそう感じたのだ。
「与一はメイドさん好きだからね。
きっと、篠原さんを見れば、必ず君は、
夢中になっちゃうって思ってたんだ。
すぐ傍に彼女である僕が居てもね」
そう続けた板額の言葉には明らかに棘があった。これは板額の言う通りだ。明らかに僕が悪い。ほとんど不意打ちでこんな素敵なメイドさんに出会えたことで現実を忘れ、つい舞い上がってしまっていた。
「ご、ごめん、板額……」
僕は率直そう言って頭を下げた。ここはどう言い訳したって僕が悪い。
ただそうは言っても、メイドさん好きだからこのメイドさんを見てつい夢中になっちゃったけど、それは彼女にしたいとかと言う感情とは全然違う。さらに言うなら、ベッドの下には確かにメイドさんの薄い本はあるけど、今目の前に居るメイドさんにそう言うえっちな妄想はこれっぽっちも起こしていない。それはむしろ憧れって近い感情からの事だ。だから、板額が嫉妬したとしてもそれは筋違いなのだ。
でも、この場合、彼女持ちの男としては、やっぱりやっちゃダメな事をやらかしたのは紛れもない事実だ。
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