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第六十話
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その僕の手首を、がしっと何者かの手が掴んだ。何者かなんて、ここには僕と板額しかいないのだ。僕じゃなければ直接見えなくたってそれは板額の手に決まってる。そうじゃなければオカルト話だ。
「ダメだって言ったじゃないか!」
さっきまで無我夢中で僕のキスを受け入れていた板額が、突然、口を離し声を上げた。驚いた僕は思わず板額の顔を見た。板額はじっと僕を睨みつけていた。板額は明らかに怒っていた。
確かに僕は板額との約束を破った。いや、実際には現行犯と言うよりは未遂って奴だ。そもそも、僕と板額の間柄なら、この程度の事は笑って許してもらっても良いじゃないかと僕は都合よく勝手に思った。
「ごめん……」
でも僕が実際に口にしたのはこっちだった。こう言う場合、男と女じゃ男が悪いのだ。と昔、誰かが言っていたの僕は思い出したのだ。
「君の素肌がとても素敵だったからつい……」
そして、すまなさそうにそう付け加えた。
ただ、ここであえて波風を立ててせっかく上手くいっている僕と板額の間に、変なしこりを残したくないから謝ったのだ。実際には、それでも何故、板額が声を荒げたか分からずにいたし、そこは不満に思っていた。
「僕こそのごめん。
与一はえっちな男の子だもの、そうだよね。
途中で我慢しろって言う僕の方が無理があったね」
でも結果的には僕の判断は正しかったのだろう。僕がすまなさそうにしているのを見て、板額は一転して優しい笑みを浮かべてそう言った。そして僕の頬を両手で優しく包み込む様にすると、軽くキスをしてくれた。
「でも分かった欲しいんだ、与一。
君から見たら不思議かもしれないけど、これ以上はすごく怖いんだ。
決して君の事を信用してないわけじゃないし、
君が相手ならこの先の事だって許しても良いっては思ってる。
でも、まだ、もう少し時間が欲しいんだよ」
そして板額は少しその眼に涙を浮かべて僕にそう言った。
ズルい。ズルいよ、板額。君にそんな表情でそんな風に言われたら僕はもうどうする事も出来ない。もう僕はここから先はどんな事があっても、君がはっきり『良いよ』って言うまで進めなくなってしまったじゃないか。
「分かったよ、板額。
この先は君が『良い』って言うまでしない。
改めて約束するよ」
僕は板額の目を見てそう言いきった。結局、そう言う他なかった。
「ありがとう、与一。分かってくれてうれしい……」
そう言って板額は僕にしがみついて来た。僕はそんな板額がとても可愛くて愛しくてたまらなくなった。
たぶん、板額の事だから僕のこういう心理まで計算ずくだったのかもしれない。でも良いんだ。相手が板額なら僕は騙されたって良いって思った。
僕はしがみついて来た板額の髪を優しく撫でていた。板額がなぜそこまであの先の事を拒んだのかはまだ少し疑問に思ってはいる。でも、まあ、板額だって年頃の女の子なんだ。男の僕には理解できない色々複雑なお歳頃なんだろうってその時は自分を納得させた。
「そうだ、与一、今日はもう用事はないかな?」
しばらく、僕に甘える様にひっついていた板額が顔を上げて尋ねた。
その日は週末、明日はお休み。しかもこの先に、これと言った予定もなった。
「うん、特に用事はないけど……」
僕は板額の体を優しく抱きながらそう答えた。
「じゃあ、このまま僕の部屋に寄って行きなよ。
お茶とお菓子ぐらい出すからもう少し話をしないか?」
すると板額はそう答えて微笑んだ。
来た! ついに来た。ついに板額は僕を親に会せようと思ったのだ。今までは学校では公認の仲だったけど、板額の家庭的には秘密だったかもしれない。板額はそっちも公認の仲にしようとしてるのだ、と僕は理解した。でも最後までは程遠いけど、さっきまで大事な娘さんにえっちな事をしてたその足で親御さんに会うのはやっぱりちょっと心苦しい気がしてた。
「でも、君の親御さんに今から会うのは何だか恥ずかしいな。
やっぱりこう言うのはちゃんと事前に心の準備をしなきゃ……」
僕はわざとそう照れた様な笑いを見せながら答えた。そう言いながら、いつかは通らなきゃイケない事ならここですませてしまうのも手かなとも思っていた。板額だって、事前に親御さんに僕を連れて行くとは言ってなかったはずだ。時間も時間だしたぶん今居るのはお母さんだけだろう。初めてならお父さんが居ないこの機会の方が良いかもしれない気がした。
「ダメだって言ったじゃないか!」
さっきまで無我夢中で僕のキスを受け入れていた板額が、突然、口を離し声を上げた。驚いた僕は思わず板額の顔を見た。板額はじっと僕を睨みつけていた。板額は明らかに怒っていた。
確かに僕は板額との約束を破った。いや、実際には現行犯と言うよりは未遂って奴だ。そもそも、僕と板額の間柄なら、この程度の事は笑って許してもらっても良いじゃないかと僕は都合よく勝手に思った。
「ごめん……」
でも僕が実際に口にしたのはこっちだった。こう言う場合、男と女じゃ男が悪いのだ。と昔、誰かが言っていたの僕は思い出したのだ。
「君の素肌がとても素敵だったからつい……」
そして、すまなさそうにそう付け加えた。
ただ、ここであえて波風を立ててせっかく上手くいっている僕と板額の間に、変なしこりを残したくないから謝ったのだ。実際には、それでも何故、板額が声を荒げたか分からずにいたし、そこは不満に思っていた。
「僕こそのごめん。
与一はえっちな男の子だもの、そうだよね。
途中で我慢しろって言う僕の方が無理があったね」
でも結果的には僕の判断は正しかったのだろう。僕がすまなさそうにしているのを見て、板額は一転して優しい笑みを浮かべてそう言った。そして僕の頬を両手で優しく包み込む様にすると、軽くキスをしてくれた。
「でも分かった欲しいんだ、与一。
君から見たら不思議かもしれないけど、これ以上はすごく怖いんだ。
決して君の事を信用してないわけじゃないし、
君が相手ならこの先の事だって許しても良いっては思ってる。
でも、まだ、もう少し時間が欲しいんだよ」
そして板額は少しその眼に涙を浮かべて僕にそう言った。
ズルい。ズルいよ、板額。君にそんな表情でそんな風に言われたら僕はもうどうする事も出来ない。もう僕はここから先はどんな事があっても、君がはっきり『良いよ』って言うまで進めなくなってしまったじゃないか。
「分かったよ、板額。
この先は君が『良い』って言うまでしない。
改めて約束するよ」
僕は板額の目を見てそう言いきった。結局、そう言う他なかった。
「ありがとう、与一。分かってくれてうれしい……」
そう言って板額は僕にしがみついて来た。僕はそんな板額がとても可愛くて愛しくてたまらなくなった。
たぶん、板額の事だから僕のこういう心理まで計算ずくだったのかもしれない。でも良いんだ。相手が板額なら僕は騙されたって良いって思った。
僕はしがみついて来た板額の髪を優しく撫でていた。板額がなぜそこまであの先の事を拒んだのかはまだ少し疑問に思ってはいる。でも、まあ、板額だって年頃の女の子なんだ。男の僕には理解できない色々複雑なお歳頃なんだろうってその時は自分を納得させた。
「そうだ、与一、今日はもう用事はないかな?」
しばらく、僕に甘える様にひっついていた板額が顔を上げて尋ねた。
その日は週末、明日はお休み。しかもこの先に、これと言った予定もなった。
「うん、特に用事はないけど……」
僕は板額の体を優しく抱きながらそう答えた。
「じゃあ、このまま僕の部屋に寄って行きなよ。
お茶とお菓子ぐらい出すからもう少し話をしないか?」
すると板額はそう答えて微笑んだ。
来た! ついに来た。ついに板額は僕を親に会せようと思ったのだ。今までは学校では公認の仲だったけど、板額の家庭的には秘密だったかもしれない。板額はそっちも公認の仲にしようとしてるのだ、と僕は理解した。でも最後までは程遠いけど、さっきまで大事な娘さんにえっちな事をしてたその足で親御さんに会うのはやっぱりちょっと心苦しい気がしてた。
「でも、君の親御さんに今から会うのは何だか恥ずかしいな。
やっぱりこう言うのはちゃんと事前に心の準備をしなきゃ……」
僕はわざとそう照れた様な笑いを見せながら答えた。そう言いながら、いつかは通らなきゃイケない事ならここですませてしまうのも手かなとも思っていた。板額だって、事前に親御さんに僕を連れて行くとは言ってなかったはずだ。時間も時間だしたぶん今居るのはお母さんだけだろう。初めてならお父さんが居ないこの機会の方が良いかもしれない気がした。
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