ハンガク!

化野 雫

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第五十九話

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「僕は止めないよ……」

 僕はそんな板額の耳元でもう一度囁いた。もちろん、今まで以上に熱い息を意識的に吹きかけながらだ。

「ああっ……ダメだってそんなことしたら。
 何も考えられなくなっちゃう……」

 もう完全に板額の言葉は女の子のそれになっていた。

「約束して、与一……脚までは良いけどそこまでだって……」

 そして観念した様にそう小さな声で、そう本当に消え入りそうなほど小さな声でそう確かに板額は言った。

「うん、約束する……」

 板額のその言葉を聞いた僕は、そのままもう一度板額の唇を自分の唇で塞いだ。そして、再び強引に舌をねじ込み、板額の舌を探った。さっきは反射的に逃げた板額の舌が今度は逃げなかった。

 そしてもう一度、片手をスカートの中へ差し入れた。そして念のため、板額の折れそうなほど細い腰に回した手にぐっと力を込めて逃げない様に抱き寄せた。控えめだけど、それなりに膨らみと柔らかさのある胸が僕の胸板に押し付けられる。僕の胸の鼓動は、それこそ爆発しそうなほど高鳴っていた。

 いつもと変わらぬストッキングの感触を楽しみながら僕はその手を少しづつ上げて行った。約束するとは口にしたけど、実際、そこまで行ったら自分自身を止められるかどうかは凄く不安な僕だった。

 僕の手が這い上がってゆくにしたがって、体だけじゃなく僕に口を塞がれ舌まで捕えられている板額の呼吸が徐々に荒くなるのが分かった。それは小さな喘ぎ声のようでもあった。

 いつもの手触りだったのが少し変わった。それはレースだとすぐに分かった。そこを越えると手触りは一気に変わった。すうっと手が何かに吸いつかれる様な感じがした。そして、微かな湿り気の様な物も感じた。一瞬、僕はどうなっているのか分からなくり、僕は手を止めた。そして確かめる様にそこで指先を動かしてみた。不意に板額の体がびくりと震えた。

「あっ……」

 塞がれた口の間から板額が声を漏らした。それは耐えきれずに思わず漏らした様な感じがした。密着してる胸から、板額の鼓動が伝わって来た。どくん、どくん、それはとても早く強い鼓動だった。僕のそれよりも遥かに速く強い感じがした。

 僕は、今触れているのが、板額の素足の感覚だとやっと分かった。思えば僕は緑川で女の子の素足のは肌触りはすでに良く知ってるはずだ。それでも僕は一瞬、分からなかった。微妙なんだけど、緑川のそれと板額のそれは違っていたんだ。板額の方がやや冷たくて、そして少しだけきめ細かで湿り気が強く感じだ。ただ湿り気の違いに関しては気候的な事が関係してるのかも、なんて僕は急に冷静に分析をしてみたりした。こんな時にそう考えられる自分に思わず笑いが漏れそうになった。

 しばらく僕は初めて触れる板額の素足の感覚を楽しんでいた。

 しかしである。その場所は俗に言われる絶対領域だ。その上にはもうあの真っ白でレースがあしらわれた高級そうなショーツと言う極限状態。ただですら板額の素足に触れるのは初めてなのに、初めて触れたその場所はそんなきわどい場所なのだ。しかも、いつもならそこにはタイツと言う絶対防衛ラインがある。それが今日は完全に開放されて目の前にあるのだ。

 僕の中にある理性は、火にかけたフライパンの上の氷の様にみるみる解けてなくなりそうだった。

 さらにである。僕は何度も繰り返すが思春期真っただ中の男の子。しかもこんな素敵な彼女が居るのに、中間考査期間からずっとお預けをくらっていたのだ。実際、自主規制と言う事もあったが、板額の方から『与一はこの期間くらいは勉強に専念して成績伸ばしなよ』と言われていたのだ。ここまで来たら、もう抑えが効かなくなったって、誰も僕を責める事なんかできない。

 そうだ。板額だって分かってるはずだ。口では『ダメ』と言ってもそれは本当の意味の『ダメ』じゃない。あれは女の子特有の自分自身に対する言い訳だ。

 僕の頭の中は、いつしかそんな都合の良い理屈に支配されていた。

 ここはさらなる高みにチャレンジする時に違いない。今やらずしていつやるのだ。

 僕は意を決して、板額のスカートの中に差し入れた手をさらに上へを進めようとした。

 ショーツの上からでも良い。あわよくば、ショーツの裾から中へ、などと僕は思った。

 僕の指先が、ショーツの裾のレースに触れたのが分かった。
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小説の匣
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