ハンガク!

化野 雫

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第五十三話

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 この時の僕はまだそんなお気楽な事を考えていた。しかし、僕はもっと早く気がつくべきだったのだ。板額は自分自身で知ってか知らずか大きな恨みを買っていた事を。そしてそれが僕の身に大きな災いとして降りかかろうとしていなんてこの時の僕は思いもよらなかった。


 中間考査も成績発表まで無事終わると、季節はいよいよ夏へと近づいて行く。さすがにこの時期になるともう冬服の制服を着ている生徒など一人も居ない。上は男子なら白い半袖シャツ、女子は白い半袖ブラウス、下は見た目は冬服と同じスラックスとスカートに見えるが生地がかなり薄く通気性の良い物になっている。男子ならネクタイ、女子ならリボン着用は校則上は冬服時と同じなのだが、このご時世、事実上、夏場は付けても付けなくても良いと弾力的運用がされている。したがって、実用性(機能性)重視の生徒は無し。逆にお洒落優先の生徒は校則通り付けていると言う感じだ。まあ、付けてると言っても申し訳程度でかなりラフな付け方になっている。

 僕らの場合、夏冬の制服衣替えは気候に合わせて生徒が自主的に決められる。だから一旦夏服に着替えても、冷え込めばまた一時的に冬服を着る事だって出来るし、その逆も当然、可なのだ。暑さ寒さの体感度は個人差が強いのでこれは常識であると僕は思っていた。

 しかし、母の話によると昔は夏服に変わるのは『衣替え』と言って、全校一斉で日が決まっていたそうだ。それが六月一日。しかも一旦この日を過ぎれば、もう元に戻る事は次の指定衣替えの日までなかったそうだ。だが今の感覚だと少なくとも、六月になるまで冬服で通すのはかなり無理があると思う。五月の連休前後からは冬服では耐えられない程暑さが厳しくなる。実際、家ではエアコンを使う日だってある。

 ただ、祖父母の子供の頃の話を聞くと真夏でも30度を超える程度で猛暑と言われてたそうだ。30度超えた程度では涼しいと言うわれる今とはえらい違いだ。だから朝晩などはエアコンなしでも涼しく過ごせる日が多かったとか。当然、学校にはエアコンどころか扇風機すらなかったと言う。またそれでもそんなに苦労はなかったんだとか。小学校から高校まで夏場は教室の窓全開。さらに暑ければ各自セルロイドの下敷きをうちわの様にパタパタ扇いでいればそれで十分過ごせたのだと言う。

 そんな話を聞くと半世紀ほど昔は本当に幸せだったと思う。今では学校にエアコンは必需品だと僕は思っている。公立高校ではいまだにエアコンが無い所があるらしいが、そこは私立である葵高だ。結構前から教室全部がエアコン完備で快適に四季を通して授業を受けられる。いくら夏休みがあるとは言え、その前後でもエアコンなしでは、とてもまともに授業など受けられない。その時期エアコンなしで授業など受けていれば体調を崩しかねない、下手すれば生命の危機すらありうるのだ。

 さて、かく言う僕も五月の中旬からはブレザーを脱ぎ上は半袖シャツの夏服になっている。夏服と言えば思春期まっさかりの僕ら男子は、この時期の楽しみと言えば夏服の女子を見る事である。こう言うとほとんどの人が、薄い白地のブラウスから透けるブラの事だと思うだろう。冬服ではブレザーやセーター、ベストなどで完璧な光学遮蔽が行われてそれを見る事など夢のまた夢だった。しかし夏服では比較的簡単に条件がそろえば見えてしまう。もちろん濃い色なら当然だが、白でも意外に簡単に透けるものだ。

 しかしだ。個人的にはこちらより僕は下の方がよりえっちな気持ちになるのだ。見た目は同じスカートなのだが、やはり夏服のスカートは生地がかなり薄い。もちろん通気性を考慮して裏地などない。通常は冬服同様に視線を完全にカットしているのだが、逆光等条件がそろうとこれが意外に透けるのだ。もちろん、下着が透けて見える事は絶対にない。いくらなんでもそんな事ぐらいは考慮されている。

 しかしである。薄い生地から透けて見える脚のラインが何とも艶めかしいのだ。例え下着は見えないとは分かっていても、脚のラインのかなり上の方が透けて見えるとどきどきしてしまう。僕の場合、もう板額と緑川の足なら生で見て知っているのに、このスカートの生地越しに見える脚線美はまた別の趣があるのだ。
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