ハンガク!

化野 雫

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第四十六話

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 ちなみに前に触れたが緑川は完全なランカーである。しかも、入学以来、総合順位では一度たりともその首位を明け渡したことが無い。そればかりか教科別でも首位を他の生徒に明け渡した時などは大騒ぎになるほどなのだ。つまりランカーと言うより完全に『No.1リーダー』だ。こう言う所もまさに『難攻不落の巴御前』の面目躍如なのだ。


 そしてそれは、そろそろ蒸し暑さも感じる様になる六月に入ってすぐの事だった。

 僕はいつもの様に板額と一緒に登校した。最初は二人で居ると葵高の生徒は皆、僕らに好奇の目を向けてた。しかし、さすがにこの時期になるとそろそろそれも、日常の風景と化しほとんどの者は興味を示さなくなる。こう言う変化は僕にとっては凄く良い事なのだが、なんだかちょっと寂しい気もする。一方、何故か『僕が板額を辱めて無理やり自分の物にした鬼畜男』だって噂だけは、変な意味で定着してしまったのは腹立たしい。中には僕が板額だけでなく緑川とも一緒に登下校する姿を目撃され、緑川まで毒牙にかけたんじゃね? なんて噂まで出始める始末なのだ。特に一年女子を中心に『優等生を専門に狙う特殊な性癖を持った陵辱魔』などと言われている。中には僕の姿を見かけただけで、『ひっ!』なんて小さな悲鳴を上げて逃げ出す後輩女子もいる。特に成績の良い眼鏡っ娘女子は特にだ。僕自身、そう言う娘は好みであるだけにここまで嫌われると悲しい物がある。

 板額も緑川もこの件に関しては、僕が何とかしてくれ、と頼んでもくすくす笑うだけで何もしてくれない。最初は否定に回ってくれてた板額ですら、最近ではその件を誰かに聞かれてもわざと顔を曇らせ話題を逸らす様な事をしてる様だ。あの板額の事、これって絶対にそう言う噂の既成事実化を狙ってると僕は思ってる。この件に関しては板額と緑川は何らかの密約を結んで共闘してる様だ。ホント女の子は怖い。


 話がまたそれてしまったので本題に戻す。

 いつもなら葵高下の停留所で一緒になる……と言うか緑川の奴があの日から、わざわざ時間を合わせて来るのだ……緑川が今日は一緒ではなかった。

「与一、巴が居ないけど?」

 いつもなら緑川は数分早く着く市電でやって来て、停留所近くの駄菓子屋前にある簡易ベンチで本を文庫本を読んで待っている。しかし、今日はその緑川の姿が見えない事を怪訝に思った板額が僕に尋ねた。板額の問い掛けに一瞬、僕も戸惑ったがすぐにある事に気がついた。

「ああ、今日はちょっと特別な日だからね。
 緑川は先に学校へ行ったんだよ。
 あいつにしてみたら、今日はちょっとでも早く学校に行って、
 確かめたい事があるだろうからね」

「へぇ、巴にもそんな事があるんだ」

 僕の答えに板額は見当がつかないらしく小首を傾げてそう答えた。葵高の生徒なら今日は一刻も早く行きたい者、逆に少しでも遅くしたい者の両極端に分かれる稀有な日だ。まあ、転校間もない板額にはまだこの事は分かっていないのが当然だろう。いや、待て、この葵高の事を知ったうえで転校してるなら、今回初めてとなるこのイベントは一刻も早く確認しに行きたくなる物の様にも思えるが?

 ちなみに僕は、今回に関してはちょっとばかり不安要因があって、出来ればゆっくりの方が良いかなって感じだった。だって、板額との事があって浮足立ってしまった上に、緑川まで参戦して来て、そちらへ向ける集中力が保てなかったのだ。とは言ってもそんな事、ある意味、原因である板額に言う訳にもゆかず、板額には今日の事は特に僕からは触れなかった。だから今日も同じ時間に板額と登校と相成ったのだ。

 しかし、あんな事があって板額はともかく、緑川は今回影響はなかったのだろうか? 普通の女の子なら絶対に影響が出るはずだと僕はちょっと心配になった。まあ、緑川に限らずランカーなら、そんな事ぐらいでは大した影響を受けないのが、天下に名をとどろかすの有名進学校たる葵高生徒でもある。

 そう、この日は六月最初の月曜日。我らが葵高では先月末にあった中間考査の各教科別および総合点数上位10番までの成績優秀者が職員室横に張り出される日なのだ。
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小説の匣
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