42 / 161
第四十二話
しおりを挟む
「僕はね、これでもすごく巴には感謝してるんだ。
だって、巴はずっと与一を見ていてくれた。
与一が一番苦しい時もずっと傍に居てくれた。
周りがみんな与一から離れて行った時でもね。
いえ、その時だからこそ君は与一の傍にいてくれた。
本当なら僕がその役をやりたかったよ。
そう言う意味では僕は巴に嫉妬してたのは確かだよ。
その気持ちが今回、巴に少し意地悪な事した理由かな」
板額はそう言って少しバツの悪そうな顔で笑いながら緑川を見た。それを見て緑川もくすりと笑った。緑川にしてみれば恋敵もある板額に嫉妬させた事は自尊心をくすぐられる事だったのだろう。まあ、あの板額の事、あの言葉もそんな緑川の心理を計算した上での事だったかもしれない、と僕は心の中で思った。まだ短い付き合いではあるが、板額と言う女の子は分かり易そうでいて、核心が掴めない、そんなもど痒さがあるのだ。そして、そこがちょっと怖い。でもそれが板額の魅力なのだとも僕は分かっている。
その時、僕は心の片隅で何かを一瞬だけ気がついた様な気がした。
板額の核心が掴めない? それは性格の事だけか? それが板額の魅力? あれ、これってよく似た感覚を前にも感じた様な?
でも、その感覚は一瞬の事で、僕はその時の違和感をまたすぐに忘れてしまった。
「まあ、それでも与一は自分の事で一生懸命で、
そんな巴の優しさと愛にまったく気付いてなかった様だけどね」
その後、板額は僕を見てそう言うと愉快そうに笑った。その時の板額は、まるで男の友人みたいだった。
「ほっとけ、どうせ僕は鈍感な朴念仁ですよ」
そんな板額に、僕はわざとふくれっ面をして見せた。
「ホント、与一って鈍感。
こっちはどれだけモーション掛けてたって思ってるの」
それを見て緑川もそう言ってくすくす笑い出した。どうやらやっといつもの緑川に戻りつつあるようで僕はすごく安心した。
えっ、モーション掛けてたって? そんなの全然気づかなかったぞ。つうか、あれで気付けって方がリア充男子ならまだしも、一般的なこの歳の男のには要求が高過ぎるぞ、と僕はちょっと思ったがあえて口にはしなかった。何故なら下手に言えばここには頭の回転が異常に速くて口が立つ二人の女の子が居る。その二人を敵に回すのと同じだからだ。それは『男には負けると分かっていても戦わなければならない時がある』ではない。どんなに卑屈になっても絶対に避けるべき戦いなのだ。
でも、一つ、大きな疑問が僕の胸に芽生えた。これはさっきの違和感と違ってはっきり自覚し、その後も忘れる事はなかった。
そう、なぜ僕とつい二週間ほど前までは面識のなかった板額が、僕の過去を詳しく知っているのだ? しかもその過去は、諸々の事情で知ってる人は限られるし、その人たちも他人に気軽に話せる事じゃないはずだった。
「ところで板額、もし、もしもよ……」
「ん?」
そんな事を考えていると、通常モードにほとんど戻った緑川がそう言って板額に何やら悪い笑みをその口元に浮かべて切り出した。板額はそんな緑川の笑みには反応せず、あえて優しい微笑みを浮かべたまま小首を傾げて見せた。
ちくしょう、やっぱりこんな板額はめちゃ可愛いじゃないか!
「あなたが葵高に来る前に、
もう私と与一が今のあなた達以上の関係だったら、
あなたはどうしてた?」
緑川はそう板額に尋ねた。
うわっ、これある意味すっごく挑戦的な質問だ。これこそ緑川の真骨頂って奴だ。さっきの板額にすがって哀願してた緑川も新鮮で可愛かったけれど、やっぱり緑川はこうでなくっちゃ、と僕は心の中で笑った。
「そんなの決まってるよ……」
ところがここで板額も緑川に負けないくらい悪い笑みを浮かべた。さっきの小首を傾げた板額とは一瞬で印象ががらりと変わった。これはまさに恐ろしい魔女の笑みだ。
「どんな手を使ってでも与一を僕になびかせるに決まってるよ」
そう板額は自信満々な表情で言い切った。
「まあ、怖い。
あなたの事だからホントに過激な手段に出そうね。
その上に、与一はそう言うのに弱いからころっと騙されそう。
もしそんな事になってたらと思うと怖くなるわ」
「おいおい、僕はそんなに軽くないぞ」
言葉ではそう言いながらなんだか楽しそうにくすくす笑う緑川が何だか憎たらしくなって、僕はそう言ってふくれっ面をした。
だって、巴はずっと与一を見ていてくれた。
与一が一番苦しい時もずっと傍に居てくれた。
周りがみんな与一から離れて行った時でもね。
いえ、その時だからこそ君は与一の傍にいてくれた。
本当なら僕がその役をやりたかったよ。
そう言う意味では僕は巴に嫉妬してたのは確かだよ。
その気持ちが今回、巴に少し意地悪な事した理由かな」
板額はそう言って少しバツの悪そうな顔で笑いながら緑川を見た。それを見て緑川もくすりと笑った。緑川にしてみれば恋敵もある板額に嫉妬させた事は自尊心をくすぐられる事だったのだろう。まあ、あの板額の事、あの言葉もそんな緑川の心理を計算した上での事だったかもしれない、と僕は心の中で思った。まだ短い付き合いではあるが、板額と言う女の子は分かり易そうでいて、核心が掴めない、そんなもど痒さがあるのだ。そして、そこがちょっと怖い。でもそれが板額の魅力なのだとも僕は分かっている。
その時、僕は心の片隅で何かを一瞬だけ気がついた様な気がした。
板額の核心が掴めない? それは性格の事だけか? それが板額の魅力? あれ、これってよく似た感覚を前にも感じた様な?
でも、その感覚は一瞬の事で、僕はその時の違和感をまたすぐに忘れてしまった。
「まあ、それでも与一は自分の事で一生懸命で、
そんな巴の優しさと愛にまったく気付いてなかった様だけどね」
その後、板額は僕を見てそう言うと愉快そうに笑った。その時の板額は、まるで男の友人みたいだった。
「ほっとけ、どうせ僕は鈍感な朴念仁ですよ」
そんな板額に、僕はわざとふくれっ面をして見せた。
「ホント、与一って鈍感。
こっちはどれだけモーション掛けてたって思ってるの」
それを見て緑川もそう言ってくすくす笑い出した。どうやらやっといつもの緑川に戻りつつあるようで僕はすごく安心した。
えっ、モーション掛けてたって? そんなの全然気づかなかったぞ。つうか、あれで気付けって方がリア充男子ならまだしも、一般的なこの歳の男のには要求が高過ぎるぞ、と僕はちょっと思ったがあえて口にはしなかった。何故なら下手に言えばここには頭の回転が異常に速くて口が立つ二人の女の子が居る。その二人を敵に回すのと同じだからだ。それは『男には負けると分かっていても戦わなければならない時がある』ではない。どんなに卑屈になっても絶対に避けるべき戦いなのだ。
でも、一つ、大きな疑問が僕の胸に芽生えた。これはさっきの違和感と違ってはっきり自覚し、その後も忘れる事はなかった。
そう、なぜ僕とつい二週間ほど前までは面識のなかった板額が、僕の過去を詳しく知っているのだ? しかもその過去は、諸々の事情で知ってる人は限られるし、その人たちも他人に気軽に話せる事じゃないはずだった。
「ところで板額、もし、もしもよ……」
「ん?」
そんな事を考えていると、通常モードにほとんど戻った緑川がそう言って板額に何やら悪い笑みをその口元に浮かべて切り出した。板額はそんな緑川の笑みには反応せず、あえて優しい微笑みを浮かべたまま小首を傾げて見せた。
ちくしょう、やっぱりこんな板額はめちゃ可愛いじゃないか!
「あなたが葵高に来る前に、
もう私と与一が今のあなた達以上の関係だったら、
あなたはどうしてた?」
緑川はそう板額に尋ねた。
うわっ、これある意味すっごく挑戦的な質問だ。これこそ緑川の真骨頂って奴だ。さっきの板額にすがって哀願してた緑川も新鮮で可愛かったけれど、やっぱり緑川はこうでなくっちゃ、と僕は心の中で笑った。
「そんなの決まってるよ……」
ところがここで板額も緑川に負けないくらい悪い笑みを浮かべた。さっきの小首を傾げた板額とは一瞬で印象ががらりと変わった。これはまさに恐ろしい魔女の笑みだ。
「どんな手を使ってでも与一を僕になびかせるに決まってるよ」
そう板額は自信満々な表情で言い切った。
「まあ、怖い。
あなたの事だからホントに過激な手段に出そうね。
その上に、与一はそう言うのに弱いからころっと騙されそう。
もしそんな事になってたらと思うと怖くなるわ」
「おいおい、僕はそんなに軽くないぞ」
言葉ではそう言いながらなんだか楽しそうにくすくす笑う緑川が何だか憎たらしくなって、僕はそう言ってふくれっ面をした。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
世界的名探偵 青井七瀬と大福係!~幽霊事件、ありえません!~
ミラ
キャラ文芸
派遣OL3年目の心葉は、ブラックな職場で薄給の中、妹に仕送りをして借金生活に追われていた。そんな時、趣味でやっていた大福販売サイトが大炎上。
「幽霊に呪われた大福事件」に発展してしまう。困惑する心葉のもとに「その幽霊事件、私に解かせてください」と常連の青井から連絡が入る。
世界的名探偵だという青井は事件を華麗に解決してみせ、なんと超絶好待遇の「大福係」への就職を心葉に打診?!青井専属の大福係として、心葉の1ヶ月間の試用期間が始まった!
次々に起こる幽霊事件の中、心葉が秘密にする「霊視の力」×青井の「推理力」で
幽霊事件の真相に隠れた、幽霊の想いを紐解いていく──!
「この世に、幽霊事件なんてありえません」
幽霊事件を絶対に許さない超偏屈探偵・青木と、幽霊が視える大福係の
ゆるバディ×ほっこり幽霊ライトミステリー!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる