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第四十二話
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「僕はね、これでもすごく巴には感謝してるんだ。
だって、巴はずっと与一を見ていてくれた。
与一が一番苦しい時もずっと傍に居てくれた。
周りがみんな与一から離れて行った時でもね。
いえ、その時だからこそ君は与一の傍にいてくれた。
本当なら僕がその役をやりたかったよ。
そう言う意味では僕は巴に嫉妬してたのは確かだよ。
その気持ちが今回、巴に少し意地悪な事した理由かな」
板額はそう言って少しバツの悪そうな顔で笑いながら緑川を見た。それを見て緑川もくすりと笑った。緑川にしてみれば恋敵もある板額に嫉妬させた事は自尊心をくすぐられる事だったのだろう。まあ、あの板額の事、あの言葉もそんな緑川の心理を計算した上での事だったかもしれない、と僕は心の中で思った。まだ短い付き合いではあるが、板額と言う女の子は分かり易そうでいて、核心が掴めない、そんなもど痒さがあるのだ。そして、そこがちょっと怖い。でもそれが板額の魅力なのだとも僕は分かっている。
その時、僕は心の片隅で何かを一瞬だけ気がついた様な気がした。
板額の核心が掴めない? それは性格の事だけか? それが板額の魅力? あれ、これってよく似た感覚を前にも感じた様な?
でも、その感覚は一瞬の事で、僕はその時の違和感をまたすぐに忘れてしまった。
「まあ、それでも与一は自分の事で一生懸命で、
そんな巴の優しさと愛にまったく気付いてなかった様だけどね」
その後、板額は僕を見てそう言うと愉快そうに笑った。その時の板額は、まるで男の友人みたいだった。
「ほっとけ、どうせ僕は鈍感な朴念仁ですよ」
そんな板額に、僕はわざとふくれっ面をして見せた。
「ホント、与一って鈍感。
こっちはどれだけモーション掛けてたって思ってるの」
それを見て緑川もそう言ってくすくす笑い出した。どうやらやっといつもの緑川に戻りつつあるようで僕はすごく安心した。
えっ、モーション掛けてたって? そんなの全然気づかなかったぞ。つうか、あれで気付けって方がリア充男子ならまだしも、一般的なこの歳の男のには要求が高過ぎるぞ、と僕はちょっと思ったがあえて口にはしなかった。何故なら下手に言えばここには頭の回転が異常に速くて口が立つ二人の女の子が居る。その二人を敵に回すのと同じだからだ。それは『男には負けると分かっていても戦わなければならない時がある』ではない。どんなに卑屈になっても絶対に避けるべき戦いなのだ。
でも、一つ、大きな疑問が僕の胸に芽生えた。これはさっきの違和感と違ってはっきり自覚し、その後も忘れる事はなかった。
そう、なぜ僕とつい二週間ほど前までは面識のなかった板額が、僕の過去を詳しく知っているのだ? しかもその過去は、諸々の事情で知ってる人は限られるし、その人たちも他人に気軽に話せる事じゃないはずだった。
「ところで板額、もし、もしもよ……」
「ん?」
そんな事を考えていると、通常モードにほとんど戻った緑川がそう言って板額に何やら悪い笑みをその口元に浮かべて切り出した。板額はそんな緑川の笑みには反応せず、あえて優しい微笑みを浮かべたまま小首を傾げて見せた。
ちくしょう、やっぱりこんな板額はめちゃ可愛いじゃないか!
「あなたが葵高に来る前に、
もう私と与一が今のあなた達以上の関係だったら、
あなたはどうしてた?」
緑川はそう板額に尋ねた。
うわっ、これある意味すっごく挑戦的な質問だ。これこそ緑川の真骨頂って奴だ。さっきの板額にすがって哀願してた緑川も新鮮で可愛かったけれど、やっぱり緑川はこうでなくっちゃ、と僕は心の中で笑った。
「そんなの決まってるよ……」
ところがここで板額も緑川に負けないくらい悪い笑みを浮かべた。さっきの小首を傾げた板額とは一瞬で印象ががらりと変わった。これはまさに恐ろしい魔女の笑みだ。
「どんな手を使ってでも与一を僕になびかせるに決まってるよ」
そう板額は自信満々な表情で言い切った。
「まあ、怖い。
あなたの事だからホントに過激な手段に出そうね。
その上に、与一はそう言うのに弱いからころっと騙されそう。
もしそんな事になってたらと思うと怖くなるわ」
「おいおい、僕はそんなに軽くないぞ」
言葉ではそう言いながらなんだか楽しそうにくすくす笑う緑川が何だか憎たらしくなって、僕はそう言ってふくれっ面をした。
だって、巴はずっと与一を見ていてくれた。
与一が一番苦しい時もずっと傍に居てくれた。
周りがみんな与一から離れて行った時でもね。
いえ、その時だからこそ君は与一の傍にいてくれた。
本当なら僕がその役をやりたかったよ。
そう言う意味では僕は巴に嫉妬してたのは確かだよ。
その気持ちが今回、巴に少し意地悪な事した理由かな」
板額はそう言って少しバツの悪そうな顔で笑いながら緑川を見た。それを見て緑川もくすりと笑った。緑川にしてみれば恋敵もある板額に嫉妬させた事は自尊心をくすぐられる事だったのだろう。まあ、あの板額の事、あの言葉もそんな緑川の心理を計算した上での事だったかもしれない、と僕は心の中で思った。まだ短い付き合いではあるが、板額と言う女の子は分かり易そうでいて、核心が掴めない、そんなもど痒さがあるのだ。そして、そこがちょっと怖い。でもそれが板額の魅力なのだとも僕は分かっている。
その時、僕は心の片隅で何かを一瞬だけ気がついた様な気がした。
板額の核心が掴めない? それは性格の事だけか? それが板額の魅力? あれ、これってよく似た感覚を前にも感じた様な?
でも、その感覚は一瞬の事で、僕はその時の違和感をまたすぐに忘れてしまった。
「まあ、それでも与一は自分の事で一生懸命で、
そんな巴の優しさと愛にまったく気付いてなかった様だけどね」
その後、板額は僕を見てそう言うと愉快そうに笑った。その時の板額は、まるで男の友人みたいだった。
「ほっとけ、どうせ僕は鈍感な朴念仁ですよ」
そんな板額に、僕はわざとふくれっ面をして見せた。
「ホント、与一って鈍感。
こっちはどれだけモーション掛けてたって思ってるの」
それを見て緑川もそう言ってくすくす笑い出した。どうやらやっといつもの緑川に戻りつつあるようで僕はすごく安心した。
えっ、モーション掛けてたって? そんなの全然気づかなかったぞ。つうか、あれで気付けって方がリア充男子ならまだしも、一般的なこの歳の男のには要求が高過ぎるぞ、と僕はちょっと思ったがあえて口にはしなかった。何故なら下手に言えばここには頭の回転が異常に速くて口が立つ二人の女の子が居る。その二人を敵に回すのと同じだからだ。それは『男には負けると分かっていても戦わなければならない時がある』ではない。どんなに卑屈になっても絶対に避けるべき戦いなのだ。
でも、一つ、大きな疑問が僕の胸に芽生えた。これはさっきの違和感と違ってはっきり自覚し、その後も忘れる事はなかった。
そう、なぜ僕とつい二週間ほど前までは面識のなかった板額が、僕の過去を詳しく知っているのだ? しかもその過去は、諸々の事情で知ってる人は限られるし、その人たちも他人に気軽に話せる事じゃないはずだった。
「ところで板額、もし、もしもよ……」
「ん?」
そんな事を考えていると、通常モードにほとんど戻った緑川がそう言って板額に何やら悪い笑みをその口元に浮かべて切り出した。板額はそんな緑川の笑みには反応せず、あえて優しい微笑みを浮かべたまま小首を傾げて見せた。
ちくしょう、やっぱりこんな板額はめちゃ可愛いじゃないか!
「あなたが葵高に来る前に、
もう私と与一が今のあなた達以上の関係だったら、
あなたはどうしてた?」
緑川はそう板額に尋ねた。
うわっ、これある意味すっごく挑戦的な質問だ。これこそ緑川の真骨頂って奴だ。さっきの板額にすがって哀願してた緑川も新鮮で可愛かったけれど、やっぱり緑川はこうでなくっちゃ、と僕は心の中で笑った。
「そんなの決まってるよ……」
ところがここで板額も緑川に負けないくらい悪い笑みを浮かべた。さっきの小首を傾げた板額とは一瞬で印象ががらりと変わった。これはまさに恐ろしい魔女の笑みだ。
「どんな手を使ってでも与一を僕になびかせるに決まってるよ」
そう板額は自信満々な表情で言い切った。
「まあ、怖い。
あなたの事だからホントに過激な手段に出そうね。
その上に、与一はそう言うのに弱いからころっと騙されそう。
もしそんな事になってたらと思うと怖くなるわ」
「おいおい、僕はそんなに軽くないぞ」
言葉ではそう言いながらなんだか楽しそうにくすくす笑う緑川が何だか憎たらしくなって、僕はそう言ってふくれっ面をした。
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