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第三十八話
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本当に板額を上手く巻けて良かったと僕は少しだけ胸を撫でおろした。
でも、待て。今、緑川は変な言い方をしたぞ。
『私にこんな事したんだから』?
おい、待てこれは僕がしたんじゃない。お前の方がして来たことじゃないか! 僕はなし崩し的にそれが事実にされる前に反論しようとしていた。
「おい、緑川、これは……」
そこまで僕が口にした時だった。
「まったく驚いたよ、巴。
君がこんな泥棒猫みたい事するなんてね」
その声を聞いた途端、僕の心臓は止まりそうになった。いや、一瞬、マジで止まった気がした。
やや低めの声、そしてこの口調、それは紛れもなく板額の物だった。
でも何故? 板額は女の子達とネオンモールへ遊びに行ったはずではなかったか?
色んな事が一瞬で頭の中をぐるぐると飛び回った。
でも何であれ、声のした方を見るとそこには紛れもない本物の板額が居た。そしてその板額は微笑みながらこちらへゆっくりと歩いて来る。その板額が口元に張り付けた微笑みが僕には悪魔のそれに見えた。
終わった。何もかも終わった。
僕にやって来た奇跡のモテ期は今終わった。
僕はそう覚悟していた。しかしだ。これは僕のモテ期が終わるだけでは済みそうもない。僕は次の緑川の言葉を聞いてそう恐怖した。
「あら、さすが板額。
しっかり嗅ぎつけて来たわけね。
でも私からすれば泥棒猫はあなたよ!」
そんな板額にまったく臆せず緑川は、不気味な笑みを浮かべながら近づいて来る板額にそう言い放った。そして、あろうことか、目の前の僕の首に再び手を回して抱き寄せると勝ち誇った様に言った。
「もう与一は私の物よ。
今、キスだってしたんだから。
見てたんでしょ、ただのキスじゃないわ大人のキス。
しかも与一は嫌がらなかった。
いえ、私を抱き寄せて自分から積極的にしてくれたわ」
うわっ、緑川の奴、完全に板額とやり合うつもりだ。と僕が思う間もなく、緑川は再び自分の唇を僕の唇に押し当てて来た。その上、どうすれば良いのか頭が完全にパニクってる僕をよそに、その舌を僕の口に滑り込ませて来た。
「ほら、見たでしょ、板額。
与一はもう嫌がらない。
与一は私の物なんだからね!」
唇を離した緑川は僕の胸板辺りにその頬を寄り添わせて、しかもその口元に挑戦的な笑みを浮かべながらこう宣言した。
あかん! あかんて緑川。
板額相手にその態度は完全にアウトや!
父の仕事の関係で関西に居た事もある僕は、少しパニクると頭の中の言葉がつい関西弁になってしまう。
僕はここであの伝説の『修羅場』って奴が起こる事を覚悟した。このままでは間違いなく板額はキレる。そして、間違いなく緑川に手を出す。僕には何故かそんな確信があった。これは決して自惚れではない。今までの板額を見ていると、普段はすごく理知的で冷静な板額だが、こと僕の事になると一線を平気で越えて来る所がある。そう言う部分では『ヤンデレ』とも言える程だ。確実に今、緑川のその地雷を踏んでいる。いや踏んでるなんてもんじゃない。その地雷の上で緑川は楽し気にタップダンスを踊っている様な物なのだ。
一部の特殊な性癖を持ってる人たちは女の子同士の取っ組み合い、別名『キャットファイト』を見てすごく興奮するらしい。しかし僕にはそんな趣味はない。それより何より、僕は板額と緑川には親友でいて欲しいのだ。二人が殴り合う様な姿なぞ絶対に見たくない。
実際、その口元に笑みを浮かべたままだったが、もう手を伸ばせば届くほどの所まで来ていた板額の顔はまさに鬼女そのものだった。板額にしてみれば愛しい彼氏が寝取られる所を間近で目撃した様な物だ。今の板額は絶対に理性が崩壊する寸前まで怒りがこみ上げているはずだ。
「一度ならずも二度までも僕の目の前で与一を……。
巴、君は今何をしてるのか分かってるのかい?
そして、それがどう言う事態をひきおこすのかもね」
板額は一見、とても落ち着いた声でそう緑川に尋ねた。言葉が落ち着いているだけに、僕は板額の怒りがもう押し留め様もない所まで来ている事をはっきり悟った。緑川の返答次第では間違いなく板額の手が緑川の頬を捉える。そう思った僕は思わず声を上げていた。
「落ち着け、板額!
悪いのは緑川じゃない。
僕が冗談で緑川をそそのかしたんだ!」
しかし、そう言った後、僕はしまったと思った。ここで僕が緑川を庇う事は、とりもなおさず板額の怒りの炎にガソリンをぶっかける様な物だ。
でも、待て。今、緑川は変な言い方をしたぞ。
『私にこんな事したんだから』?
おい、待てこれは僕がしたんじゃない。お前の方がして来たことじゃないか! 僕はなし崩し的にそれが事実にされる前に反論しようとしていた。
「おい、緑川、これは……」
そこまで僕が口にした時だった。
「まったく驚いたよ、巴。
君がこんな泥棒猫みたい事するなんてね」
その声を聞いた途端、僕の心臓は止まりそうになった。いや、一瞬、マジで止まった気がした。
やや低めの声、そしてこの口調、それは紛れもなく板額の物だった。
でも何故? 板額は女の子達とネオンモールへ遊びに行ったはずではなかったか?
色んな事が一瞬で頭の中をぐるぐると飛び回った。
でも何であれ、声のした方を見るとそこには紛れもない本物の板額が居た。そしてその板額は微笑みながらこちらへゆっくりと歩いて来る。その板額が口元に張り付けた微笑みが僕には悪魔のそれに見えた。
終わった。何もかも終わった。
僕にやって来た奇跡のモテ期は今終わった。
僕はそう覚悟していた。しかしだ。これは僕のモテ期が終わるだけでは済みそうもない。僕は次の緑川の言葉を聞いてそう恐怖した。
「あら、さすが板額。
しっかり嗅ぎつけて来たわけね。
でも私からすれば泥棒猫はあなたよ!」
そんな板額にまったく臆せず緑川は、不気味な笑みを浮かべながら近づいて来る板額にそう言い放った。そして、あろうことか、目の前の僕の首に再び手を回して抱き寄せると勝ち誇った様に言った。
「もう与一は私の物よ。
今、キスだってしたんだから。
見てたんでしょ、ただのキスじゃないわ大人のキス。
しかも与一は嫌がらなかった。
いえ、私を抱き寄せて自分から積極的にしてくれたわ」
うわっ、緑川の奴、完全に板額とやり合うつもりだ。と僕が思う間もなく、緑川は再び自分の唇を僕の唇に押し当てて来た。その上、どうすれば良いのか頭が完全にパニクってる僕をよそに、その舌を僕の口に滑り込ませて来た。
「ほら、見たでしょ、板額。
与一はもう嫌がらない。
与一は私の物なんだからね!」
唇を離した緑川は僕の胸板辺りにその頬を寄り添わせて、しかもその口元に挑戦的な笑みを浮かべながらこう宣言した。
あかん! あかんて緑川。
板額相手にその態度は完全にアウトや!
父の仕事の関係で関西に居た事もある僕は、少しパニクると頭の中の言葉がつい関西弁になってしまう。
僕はここであの伝説の『修羅場』って奴が起こる事を覚悟した。このままでは間違いなく板額はキレる。そして、間違いなく緑川に手を出す。僕には何故かそんな確信があった。これは決して自惚れではない。今までの板額を見ていると、普段はすごく理知的で冷静な板額だが、こと僕の事になると一線を平気で越えて来る所がある。そう言う部分では『ヤンデレ』とも言える程だ。確実に今、緑川のその地雷を踏んでいる。いや踏んでるなんてもんじゃない。その地雷の上で緑川は楽し気にタップダンスを踊っている様な物なのだ。
一部の特殊な性癖を持ってる人たちは女の子同士の取っ組み合い、別名『キャットファイト』を見てすごく興奮するらしい。しかし僕にはそんな趣味はない。それより何より、僕は板額と緑川には親友でいて欲しいのだ。二人が殴り合う様な姿なぞ絶対に見たくない。
実際、その口元に笑みを浮かべたままだったが、もう手を伸ばせば届くほどの所まで来ていた板額の顔はまさに鬼女そのものだった。板額にしてみれば愛しい彼氏が寝取られる所を間近で目撃した様な物だ。今の板額は絶対に理性が崩壊する寸前まで怒りがこみ上げているはずだ。
「一度ならずも二度までも僕の目の前で与一を……。
巴、君は今何をしてるのか分かってるのかい?
そして、それがどう言う事態をひきおこすのかもね」
板額は一見、とても落ち着いた声でそう緑川に尋ねた。言葉が落ち着いているだけに、僕は板額の怒りがもう押し留め様もない所まで来ている事をはっきり悟った。緑川の返答次第では間違いなく板額の手が緑川の頬を捉える。そう思った僕は思わず声を上げていた。
「落ち着け、板額!
悪いのは緑川じゃない。
僕が冗談で緑川をそそのかしたんだ!」
しかし、そう言った後、僕はしまったと思った。ここで僕が緑川を庇う事は、とりもなおさず板額の怒りの炎にガソリンをぶっかける様な物だ。
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