37 / 161
第三十七話
しおりを挟む
そして僕はこの時、その身長以外に板額と緑川の決定的な違いに気がついた。それは僕の胸よりやや下あたりに当たっている二つの膨らみの存在感だった。板額のは何だか控えめな感じだったのに、緑川のそれは、はっきりとその存在を僕にアピールしていた。
普通に制服の上から見ていると板額のそれと、緑川のそれはここまで違うと僕は思っていなかった。前にも触れたが僕のクラスには歩くだけでゆさゆさ揺れるのが分かるほど圧倒的な存在感を見せる『躍動する肉団子』なんて呼ばれる女の子がいる。そう言う娘たちと比べて緑川のは明らかに控えめだった。実際、今の今まで僕は緑川のそれもきっと板額と似たり寄ったりだろうなんて漠然と思っていたのだ。しかし、こうして触れてみると僕が知っている板額のそれは緑川のとは明らかに存在感が違っていた。
そして僕は板額の時とは違う胸のもやもやと言うかどきどきを感じた。それは僕を見上げる潤んだ瞳と相まって、なんて言うか板額の時よりと強く緑川に『異性』を感じたのだ。もちろん、それは決して板額の女の子としての魅力が、緑川に劣るって意味じゃない。板額はそれでもすごく魅力的な女の子だ。少なくとも僕はマジでそう思っている。でもその魅力が緑川のとちょっと違うというか、何だか異質の物みたいだと、僕はその時、漠然と感じたのだ。
冷静に考えればこれはかなりの緊急事態なのに、何故か僕はぼんやりそんな事を悠長に考えていた。人間ていう奴はこう言う時、パニックを起こして半狂乱になるか、あるいは今の僕の様に妙に落ち着き払ってどうでも良い事を長々と考えてしまうか、の両極端になる生き物なのかもしれない。
そして、事態はこれで収まる事はなかった。さらに複雑な事態へと突入していったのだ。
「好きなの、与一、あなたの事が……」
緑川のリップクリームさえ塗られてない質素な唇が小さく動いた。喉の奥から必死に絞り出した様な小さな声だったが僕の耳には確実に届いた。でも、その時の僕にはその言葉の意味がすぐには理解できていなかった。
「板額なんかに与一を渡さない。
私の方がずっと長く、そしてずっと深くあなたの事を愛してるだもの」
そう囁くと、緑川はつま先立ちになり背伸びをした。緑川の目が僕と合った。今にも泣き出しそうな売るん瞳がゆっくりと閉じられた。そして顔を少し傾けつつ緑川はさらにその顔を僕に近づけて来た。
ああそうか……僕は緑川の言葉がいまだにはっきりと理解出来てはいないのに、ここから起こる事だけははっきりと分かった。ほとんど無意識に僕は緑川の背中に両手を回しその細い体を抱き寄せていた。
こう言う事はやはり一度でも経験があると違うものだと僕は思った。こんな時男は何をどうすれば良いのかが自然と分かってしまうのだ。
緑川の柔らかい唇が僕の唇に触れた。そして、触れた途端、すぐに離れた。板額のそれと違って緑川の唇は柔らかかったけど乾いていた。きっと彼女はすごく緊張していたのだろう。
僕は緑川の背中に回した手の力を緩めようとした。
ところがである。一度は離れた緑川の唇が再び僕の唇に押し当てられたのだ。同時に緑川の両手が僕の首に巻き付いて来た。そしてするりと歯の間に柔らかい物が入って来た。
あとはもう板額との経験があるだけに、こっちだって自然と何をどうすれば良いか分かっていた。少しおおどおどしてる緑川を僕がリードした。すごく長い間、僕と緑川は大人のキスをしていた様に思えた。でも後で分かったのだが、この時もまた瞬きする程の短い間でしかなかったらしい。まったく、何故、こう言うう時の時間はすごく長く感じるんだろう。嫌な事は長く感じると言うが、こんなに良い事でも長く感じるのはすごく不思議だった。
「私にこんな事したんだから責任取ってよね、与一」
唇を離すと同時に緑川は僕から一歩後ろに離れておっそろしい事言い放った。
同時に僕はとんでもない事をしてしまった事に気がついた。
『これは浮気では?
僕は板額を裏切った事になるんじゃないのか?』
同時に僕の背中に冷たい汗がつぅっと一筋流れ落ちた。板額にバレた殺されるかもしれない、とマジで僕はその時思った。男なら誰しもが憧れる心地よい背徳感ではなく、僕は何故か恐怖の方を強く感じていた。
緑川が板額には知られるな、と言った理由を今初めて僕は正しく理解した。
普通に制服の上から見ていると板額のそれと、緑川のそれはここまで違うと僕は思っていなかった。前にも触れたが僕のクラスには歩くだけでゆさゆさ揺れるのが分かるほど圧倒的な存在感を見せる『躍動する肉団子』なんて呼ばれる女の子がいる。そう言う娘たちと比べて緑川のは明らかに控えめだった。実際、今の今まで僕は緑川のそれもきっと板額と似たり寄ったりだろうなんて漠然と思っていたのだ。しかし、こうして触れてみると僕が知っている板額のそれは緑川のとは明らかに存在感が違っていた。
そして僕は板額の時とは違う胸のもやもやと言うかどきどきを感じた。それは僕を見上げる潤んだ瞳と相まって、なんて言うか板額の時よりと強く緑川に『異性』を感じたのだ。もちろん、それは決して板額の女の子としての魅力が、緑川に劣るって意味じゃない。板額はそれでもすごく魅力的な女の子だ。少なくとも僕はマジでそう思っている。でもその魅力が緑川のとちょっと違うというか、何だか異質の物みたいだと、僕はその時、漠然と感じたのだ。
冷静に考えればこれはかなりの緊急事態なのに、何故か僕はぼんやりそんな事を悠長に考えていた。人間ていう奴はこう言う時、パニックを起こして半狂乱になるか、あるいは今の僕の様に妙に落ち着き払ってどうでも良い事を長々と考えてしまうか、の両極端になる生き物なのかもしれない。
そして、事態はこれで収まる事はなかった。さらに複雑な事態へと突入していったのだ。
「好きなの、与一、あなたの事が……」
緑川のリップクリームさえ塗られてない質素な唇が小さく動いた。喉の奥から必死に絞り出した様な小さな声だったが僕の耳には確実に届いた。でも、その時の僕にはその言葉の意味がすぐには理解できていなかった。
「板額なんかに与一を渡さない。
私の方がずっと長く、そしてずっと深くあなたの事を愛してるだもの」
そう囁くと、緑川はつま先立ちになり背伸びをした。緑川の目が僕と合った。今にも泣き出しそうな売るん瞳がゆっくりと閉じられた。そして顔を少し傾けつつ緑川はさらにその顔を僕に近づけて来た。
ああそうか……僕は緑川の言葉がいまだにはっきりと理解出来てはいないのに、ここから起こる事だけははっきりと分かった。ほとんど無意識に僕は緑川の背中に両手を回しその細い体を抱き寄せていた。
こう言う事はやはり一度でも経験があると違うものだと僕は思った。こんな時男は何をどうすれば良いのかが自然と分かってしまうのだ。
緑川の柔らかい唇が僕の唇に触れた。そして、触れた途端、すぐに離れた。板額のそれと違って緑川の唇は柔らかかったけど乾いていた。きっと彼女はすごく緊張していたのだろう。
僕は緑川の背中に回した手の力を緩めようとした。
ところがである。一度は離れた緑川の唇が再び僕の唇に押し当てられたのだ。同時に緑川の両手が僕の首に巻き付いて来た。そしてするりと歯の間に柔らかい物が入って来た。
あとはもう板額との経験があるだけに、こっちだって自然と何をどうすれば良いか分かっていた。少しおおどおどしてる緑川を僕がリードした。すごく長い間、僕と緑川は大人のキスをしていた様に思えた。でも後で分かったのだが、この時もまた瞬きする程の短い間でしかなかったらしい。まったく、何故、こう言うう時の時間はすごく長く感じるんだろう。嫌な事は長く感じると言うが、こんなに良い事でも長く感じるのはすごく不思議だった。
「私にこんな事したんだから責任取ってよね、与一」
唇を離すと同時に緑川は僕から一歩後ろに離れておっそろしい事言い放った。
同時に僕はとんでもない事をしてしまった事に気がついた。
『これは浮気では?
僕は板額を裏切った事になるんじゃないのか?』
同時に僕の背中に冷たい汗がつぅっと一筋流れ落ちた。板額にバレた殺されるかもしれない、とマジで僕はその時思った。男なら誰しもが憧れる心地よい背徳感ではなく、僕は何故か恐怖の方を強く感じていた。
緑川が板額には知られるな、と言った理由を今初めて僕は正しく理解した。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
世界的名探偵 青井七瀬と大福係!~幽霊事件、ありえません!~
ミラ
キャラ文芸
派遣OL3年目の心葉は、ブラックな職場で薄給の中、妹に仕送りをして借金生活に追われていた。そんな時、趣味でやっていた大福販売サイトが大炎上。
「幽霊に呪われた大福事件」に発展してしまう。困惑する心葉のもとに「その幽霊事件、私に解かせてください」と常連の青井から連絡が入る。
世界的名探偵だという青井は事件を華麗に解決してみせ、なんと超絶好待遇の「大福係」への就職を心葉に打診?!青井専属の大福係として、心葉の1ヶ月間の試用期間が始まった!
次々に起こる幽霊事件の中、心葉が秘密にする「霊視の力」×青井の「推理力」で
幽霊事件の真相に隠れた、幽霊の想いを紐解いていく──!
「この世に、幽霊事件なんてありえません」
幽霊事件を絶対に許さない超偏屈探偵・青木と、幽霊が視える大福係の
ゆるバディ×ほっこり幽霊ライトミステリー!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる