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第二十七話
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「このまま僕の家まで来るかい?」
分けれ際にそう板額に誘われたけれど、僕は丁寧にお断りした。その代りに男の義務として、板額を家まで、この場合、最上階まで送ると僕は申し出た。でも板額はあとはエレベーターに乗るだけだからここで大丈夫と断った。
「いや、ひょっとして与一はさっきの続きがしたかったのかな?
もし、そうなら僕は良いよ、一緒にまたエレベーターに乗ろうか。
何なら今から僕の部屋でも君の部屋に行って続きしても良いよ。
それともエレベーターの方が与一はどきどきして好みなのかな?」
板額の奴、別れ際に思い出した様に僕を振り返ってそんな事言いやがった。しかもちょっと妖艶な笑みをその口元に浮かべ、少し腰をくねらせてだ。なんかこの時の板額はすっごく大人びて見えた。まったくこいつはころころ表情を変える。本当に掴みどころのない奴だ。でも、悔しいけどそのどんな表情も、とても魅力的なのである。
「馬鹿野郎、そんな事あるかい!
さあ、さっさと帰れ!」
そんな板額に僕はぶきらぼうにそう言い返した。
「じゃあね与一、また明日!」
「おう、また明日」
すると板額はまた愛らしい笑みに戻って片手をふりながらそう言って、小走りにエレベーターホールへと走って行った。僕もやや抑え気味の声でそう答えて板額の背中に小さく手を振った。
実際、板額にああ言われてちょっとあの続きをしたくなったのは事実だ。もう一度、大人のキスしながら、あのまま板額のスカートの中に手を入れ、ストッキングの少しえっちな触り心地を楽しみながらもっと上の方までさわさわしてみたいと思った。それでもやっぱり、じゃあ、そこまでして次は何をするのか具体的にはまだ想像できない初心な僕だった。
小さくなる板額の背中を見ながら、ちょっとだけ、そうちょっとだけ、最上階まで板額を送って行かなかった事を僕は後悔した。
小さな門を通って部屋に入ると、ラフなホームウエア着た母親がリビングのソファーで寝転がって、撮り貯めたドラマを見ていた。もちろん、いつもの様に缶ビール片手にだ。テーブルの上にはおつまみ類が乱雑の広げられている。
こう書くと典型的でもある人間としてダメな作家みたいだが、昔から母はそう言うダメ人間ではなかった。父が死んで何気に書いた小説が売れるまで、母は極々普通の、と言うよりむしろ良妻賢母と言う感じだったのだ。それが小説を次々書いてる内にいつの間にやらこんな風なダメ人間になってしまった。やや身内の贔屓目だが、母は結構綺麗な方だと僕は思っている。事実、僕と歩いていて姉とか、極端な場合、ちょっと年上の彼女に間違えられたこともある。綺麗な外見を持ってるんだからそれなりにきちんとしてれば、次に父となる人もすぐに見つかるだろうにと僕は思う。しかし、今のこの状態では、新しく父になる人が同じ男としてかわいそうすぎると思ってしまう。
だが僕は締め切り間際の、まさに死にそうなくらいに苦しんでるプロ作家としての母を知っている。だから締め切りを無事乗り越えたしばしの間くらい、こうしてぐうたらしていても文句は言えないのだ。
「あっ……おかえり、与一」
僕が帰って来たのに気がついた母が僕を振り返って声を掛けた。どうやらすでに昼間っから結構飲んでる様だ。テーブルの上に並んだ空き缶の数を見れば一目瞭然だ。それでも、一見、素面に見えるほど今の母は酒に強い。父が生きていた頃の母は、こんなにお酒が強くなかったはずだが人間変われば変わる物だ。ちなみに母の名誉の為に付け加えるならば、母が強くなったのはお酒だけじゃない。その性格もかなり強くなった。一見、ダメ人間みたいにぐうたらに過ごしているが、やる時は何でもきちんとこなす頼れる母親でもあるのだ。
「あんまり飲み過ぎるなよ」
「大丈夫だって、与一。
ちゃんと自分で自己管理しながら飲んでるから。
あんたが可愛いお嫁さん見つけるまでは私ゃ、絶対に死ねないからさ」
僕がそう声を掛けると母は少し嬉しそうにそう答えた。
ここで母の顔を見て僕は、はたと気がついた。
分けれ際にそう板額に誘われたけれど、僕は丁寧にお断りした。その代りに男の義務として、板額を家まで、この場合、最上階まで送ると僕は申し出た。でも板額はあとはエレベーターに乗るだけだからここで大丈夫と断った。
「いや、ひょっとして与一はさっきの続きがしたかったのかな?
もし、そうなら僕は良いよ、一緒にまたエレベーターに乗ろうか。
何なら今から僕の部屋でも君の部屋に行って続きしても良いよ。
それともエレベーターの方が与一はどきどきして好みなのかな?」
板額の奴、別れ際に思い出した様に僕を振り返ってそんな事言いやがった。しかもちょっと妖艶な笑みをその口元に浮かべ、少し腰をくねらせてだ。なんかこの時の板額はすっごく大人びて見えた。まったくこいつはころころ表情を変える。本当に掴みどころのない奴だ。でも、悔しいけどそのどんな表情も、とても魅力的なのである。
「馬鹿野郎、そんな事あるかい!
さあ、さっさと帰れ!」
そんな板額に僕はぶきらぼうにそう言い返した。
「じゃあね与一、また明日!」
「おう、また明日」
すると板額はまた愛らしい笑みに戻って片手をふりながらそう言って、小走りにエレベーターホールへと走って行った。僕もやや抑え気味の声でそう答えて板額の背中に小さく手を振った。
実際、板額にああ言われてちょっとあの続きをしたくなったのは事実だ。もう一度、大人のキスしながら、あのまま板額のスカートの中に手を入れ、ストッキングの少しえっちな触り心地を楽しみながらもっと上の方までさわさわしてみたいと思った。それでもやっぱり、じゃあ、そこまでして次は何をするのか具体的にはまだ想像できない初心な僕だった。
小さくなる板額の背中を見ながら、ちょっとだけ、そうちょっとだけ、最上階まで板額を送って行かなかった事を僕は後悔した。
小さな門を通って部屋に入ると、ラフなホームウエア着た母親がリビングのソファーで寝転がって、撮り貯めたドラマを見ていた。もちろん、いつもの様に缶ビール片手にだ。テーブルの上にはおつまみ類が乱雑の広げられている。
こう書くと典型的でもある人間としてダメな作家みたいだが、昔から母はそう言うダメ人間ではなかった。父が死んで何気に書いた小説が売れるまで、母は極々普通の、と言うよりむしろ良妻賢母と言う感じだったのだ。それが小説を次々書いてる内にいつの間にやらこんな風なダメ人間になってしまった。やや身内の贔屓目だが、母は結構綺麗な方だと僕は思っている。事実、僕と歩いていて姉とか、極端な場合、ちょっと年上の彼女に間違えられたこともある。綺麗な外見を持ってるんだからそれなりにきちんとしてれば、次に父となる人もすぐに見つかるだろうにと僕は思う。しかし、今のこの状態では、新しく父になる人が同じ男としてかわいそうすぎると思ってしまう。
だが僕は締め切り間際の、まさに死にそうなくらいに苦しんでるプロ作家としての母を知っている。だから締め切りを無事乗り越えたしばしの間くらい、こうしてぐうたらしていても文句は言えないのだ。
「あっ……おかえり、与一」
僕が帰って来たのに気がついた母が僕を振り返って声を掛けた。どうやらすでに昼間っから結構飲んでる様だ。テーブルの上に並んだ空き缶の数を見れば一目瞭然だ。それでも、一見、素面に見えるほど今の母は酒に強い。父が生きていた頃の母は、こんなにお酒が強くなかったはずだが人間変われば変わる物だ。ちなみに母の名誉の為に付け加えるならば、母が強くなったのはお酒だけじゃない。その性格もかなり強くなった。一見、ダメ人間みたいにぐうたらに過ごしているが、やる時は何でもきちんとこなす頼れる母親でもあるのだ。
「あんまり飲み過ぎるなよ」
「大丈夫だって、与一。
ちゃんと自分で自己管理しながら飲んでるから。
あんたが可愛いお嫁さん見つけるまでは私ゃ、絶対に死ねないからさ」
僕がそう声を掛けると母は少し嬉しそうにそう答えた。
ここで母の顔を見て僕は、はたと気がついた。
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