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第二十二話
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結局、板額は僕にくっついたまま僕のマンションの前まで来てしまった。
「おい板額、ここが僕のマンションだが、まさかお前、
このまま、まだ一緒に行くなんて言わないよな」
僕は隣にいる、誰が見ても彼女でございって風の板額に尋ねた。
「そのつもりだけど、何か問題でもあるのかい?」
ところが板額は平然とそう答えたのだ。
「問題大ありだろう。
ここは部外者立ち入り禁止の高級マンションだぞ。
いや、その前にいきなり男子の家に上がり込むなんて、
年頃の女の子としてはあまりに無防備じゃないか」
僕がそう言うと板額は急にけらけらと笑い出した。
「いやいや、さすがに今日は君の部屋まで上がり込む気はないよ。
まあ、一応、こんな僕だって年頃の女の子って自覚はあるんだ。
でも、せっかくだから君の部屋の前までは行ってみようかと思ってる。
当然だけど部屋と言っても君の個人的な部屋の前じゃなく、
君の住んでる部屋の玄関前までって事だよ。
マンションってなかなかややこしいね。
家と言うには何か違う気がするけど、
かと言って部屋って言うとこういう誤解が生じる」
笑いながら板額はそう言った。
何言ってんだ、こいつ、僕は思った。歳頃の女の子としての自覚だと。お前の場合、現時点でそんなもん、その言葉も行動もかなり逸脱してるだろうって僕は叫びそうになった。しかし、僕はぐっと堪えた。こいつの場合、下手にこう言うとそこから逆に何か突っ込み返されそうな気がしたからだ。僕だって馬鹿じゃない。自分の彼女の扱いくらいどんどん学習してるのだ。いつまでも板額にやられっぱなしなのは彼氏としてプライドが許さん。
あれ、なんか、なし崩し的に僕自身も『板額の彼氏』って自覚が出始めてるぞ。
いや、その前に、もっと大事な事がある気がする。そうだ。今、板額は何か気になる言葉を言った。
『こんな僕だって年頃の女の子って自覚はあるんだ』
一見、何の不思議もなく聞き流してしまいそうな言葉だけれど、相手が板額の場合、ちょっとばかり引っかかる。『こんな僕だって』って言うのは、板額が男言葉を使い、その言動がかなり破天荒な事を言ってるのだろうか。確かにそうと考えれば辻褄は合う。でも板額を見て『年頃の女の子』とは違うって十人が十人とも思うだろうか? 確かに言動は破天荒な時はあった。でも、それはしょっちゅうではない。普段は他の女の子以上にちゃんと常識や節度をわきまえた女の子なのだ。僕の前だって可愛らしく恥じらう事だって多々ある。むしろ板額こそ僕から言わせればまさに『歳頃の女の子』と思える時のが多いのだ。
でもその時の僕はそれ以上深くその事を考える事はなかった。だって、そんな事以上にこのシチュエーション、歳頃の男の子の心をくすぐる展開ではないか。
「だから、もうここで良いって。
僕の個人的な部屋はもちろん、
玄関前でもダメだって」
僕は板額がそこまで言ってくれるのが実は嬉しくてしかった。しかしその心中を板額に知られるのが嫌でにやける顔を押さえつつそう答えた。なんかデートの終わりに『まだ帰りたくない』って言ってる彼女をリアルで見てる気がしたんだ。そう、この時の僕にはこっちの方が重大関心事だったのだ。これがラノベやエロゲなら、間違いなくこの後にはすごくえっちなイベントが控えてるフラグではないか。玄関まで来て、やっぱりなし崩し的に僕の部屋まで来て……。
あっ……ここまで妄想して僕が気がついたのだ。
非常に残念な事にラノベやエロゲと違って、今の僕の部屋には母が居る。
僕の母は前に言った様にけっこう売れてる作家で家に居る時の方が多い。外出するのは、たまに東京の出版社まで編集者と打ち合わせの為に行く程度だ。それも昔ほどは多くない。今は用事があれば、あちらから手土産片手に尋ねて来る事が多くなった。その時の東京土産が僕の楽しみでもある。特に黒い包装紙に金の虎が描かれた高級羊羹や、昔から有名なシンプルなチョコレートケーキが僕のお気に入りだ。
ちなみに家に居ても母は母親らしい専業主婦的な家事などしている訳ではない。昔は真面目に普通の専業主婦してた母だが、今ではすっかり作家だ。多くの作家がそうである様に人間としてはかなりダメな部類になっている。
「おい板額、ここが僕のマンションだが、まさかお前、
このまま、まだ一緒に行くなんて言わないよな」
僕は隣にいる、誰が見ても彼女でございって風の板額に尋ねた。
「そのつもりだけど、何か問題でもあるのかい?」
ところが板額は平然とそう答えたのだ。
「問題大ありだろう。
ここは部外者立ち入り禁止の高級マンションだぞ。
いや、その前にいきなり男子の家に上がり込むなんて、
年頃の女の子としてはあまりに無防備じゃないか」
僕がそう言うと板額は急にけらけらと笑い出した。
「いやいや、さすがに今日は君の部屋まで上がり込む気はないよ。
まあ、一応、こんな僕だって年頃の女の子って自覚はあるんだ。
でも、せっかくだから君の部屋の前までは行ってみようかと思ってる。
当然だけど部屋と言っても君の個人的な部屋の前じゃなく、
君の住んでる部屋の玄関前までって事だよ。
マンションってなかなかややこしいね。
家と言うには何か違う気がするけど、
かと言って部屋って言うとこういう誤解が生じる」
笑いながら板額はそう言った。
何言ってんだ、こいつ、僕は思った。歳頃の女の子としての自覚だと。お前の場合、現時点でそんなもん、その言葉も行動もかなり逸脱してるだろうって僕は叫びそうになった。しかし、僕はぐっと堪えた。こいつの場合、下手にこう言うとそこから逆に何か突っ込み返されそうな気がしたからだ。僕だって馬鹿じゃない。自分の彼女の扱いくらいどんどん学習してるのだ。いつまでも板額にやられっぱなしなのは彼氏としてプライドが許さん。
あれ、なんか、なし崩し的に僕自身も『板額の彼氏』って自覚が出始めてるぞ。
いや、その前に、もっと大事な事がある気がする。そうだ。今、板額は何か気になる言葉を言った。
『こんな僕だって年頃の女の子って自覚はあるんだ』
一見、何の不思議もなく聞き流してしまいそうな言葉だけれど、相手が板額の場合、ちょっとばかり引っかかる。『こんな僕だって』って言うのは、板額が男言葉を使い、その言動がかなり破天荒な事を言ってるのだろうか。確かにそうと考えれば辻褄は合う。でも板額を見て『年頃の女の子』とは違うって十人が十人とも思うだろうか? 確かに言動は破天荒な時はあった。でも、それはしょっちゅうではない。普段は他の女の子以上にちゃんと常識や節度をわきまえた女の子なのだ。僕の前だって可愛らしく恥じらう事だって多々ある。むしろ板額こそ僕から言わせればまさに『歳頃の女の子』と思える時のが多いのだ。
でもその時の僕はそれ以上深くその事を考える事はなかった。だって、そんな事以上にこのシチュエーション、歳頃の男の子の心をくすぐる展開ではないか。
「だから、もうここで良いって。
僕の個人的な部屋はもちろん、
玄関前でもダメだって」
僕は板額がそこまで言ってくれるのが実は嬉しくてしかった。しかしその心中を板額に知られるのが嫌でにやける顔を押さえつつそう答えた。なんかデートの終わりに『まだ帰りたくない』って言ってる彼女をリアルで見てる気がしたんだ。そう、この時の僕にはこっちの方が重大関心事だったのだ。これがラノベやエロゲなら、間違いなくこの後にはすごくえっちなイベントが控えてるフラグではないか。玄関まで来て、やっぱりなし崩し的に僕の部屋まで来て……。
あっ……ここまで妄想して僕が気がついたのだ。
非常に残念な事にラノベやエロゲと違って、今の僕の部屋には母が居る。
僕の母は前に言った様にけっこう売れてる作家で家に居る時の方が多い。外出するのは、たまに東京の出版社まで編集者と打ち合わせの為に行く程度だ。それも昔ほどは多くない。今は用事があれば、あちらから手土産片手に尋ねて来る事が多くなった。その時の東京土産が僕の楽しみでもある。特に黒い包装紙に金の虎が描かれた高級羊羹や、昔から有名なシンプルなチョコレートケーキが僕のお気に入りだ。
ちなみに家に居ても母は母親らしい専業主婦的な家事などしている訳ではない。昔は真面目に普通の専業主婦してた母だが、今ではすっかり作家だ。多くの作家がそうである様に人間としてはかなりダメな部類になっている。
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