ハンガク!

化野 雫

文字の大きさ
上 下
19 / 161

第十九話

しおりを挟む
「お前って、背がこんなに高かったんだ」

 僕は思ったままの事をそのまま口にした。

「どうせ名前の通り『不細工の大女』ですよ!」

 突然、板額は明らかに不愉快そうな表情に変わった。そして僕の腕から振り払うように手を離すとそう吐き捨てる様に言った。その瞬間、僕は『背が高い』は板額にとって誉め言葉ではなく、地雷だと確信した。しかし『名前の通り』って何だ? こればかりは僕にはまったく見当も付かなかった。確かに僕にとって、『板額』と言う名前は女の子の名前としてはかなり違和感があった。しかし、その名前にどんな由来や意味があるかなんて、まったく知らなかったのだ。

「与一にはそう言われたくない」

 でもすぐに板額はすっごく悲し気な表情になって僕を上目使いに見てそう小さく呟いた。それこそ、今にも泣き出しそうだった。

「ごめん、もうその事は言わないよ、板額」

 僕はそんな板額の表情を見てすぐさま謝った。

 僕は女の子はめんどくさくて鬱陶しい存在と日ごろから公言している。それでも心の中では、今でも女の子に対し、体はもちろん心だって傷つけるのは大嫌いなんだ。それは他人に対してだけじゃなく、自分に対してでも同じだ。絶対に口にはしないけど僕は今も昔もフェミニストである事には変わりない。

「君は自分の名前が嫌いなのかい?」

 僕は板額の言った事がが気になってストレートにそう尋ねてみた。

「半分、好きで……半分、嫌い」

 板額は小声でそう答えた。

「どうしてだい。
 もし良かったら教えてくれないか?」

 板額の表情が少しづつ普通に戻り始めているのを見て僕はさらに尋ねてみた。

「だって……この名前は与一との絆を表すものだから、そこは大好き。
 でも、女の子としては全然可愛くない響きだし、
 『不細工の大女』って意味で使われる事もあるから、そこは大嫌い」

「僕との絆?」

 当然、後半部分も気になったけど、それより前半部分が強く気になってまた尋ねた。

「後は自分で調べて見ると良いよ。
 あっ……めんどくさかったらともえに聞いてみたらすぐわかるかもね」

 そう言った後、板額はいつもの笑顔に戻ってまた僕の腕に自分の腕を絡ませて来た。

 この時、僕は板額がいつの間にか緑川の事を『巴』と呼ぶ様になるほど親しくなっている事にちょっと安堵した。だって、板額みたいなタイプの女の子は下手するとクラスで浮いてハブられる危険もあるからだ。まあ、前も言ったが板額は賢そうなので自分自身でもその事は十分自覚して動いている様な気はする。それでもこいつは時々こっちの思いもよらぬ事を平気でやってのける。なので僕は、内心少しはらはらしてる所はあったのだ。

「でも板額って名前、僕はなんかカッコいいと思うぞ。
 うん……お前らしくて凛としてカッコいい」

「与一がそう言ってくれるなら僕も自分の名前をもっと好きになれそうだよ」

 また隣にぺたりとくっついて来た板額の横顔を見て僕がそう言うと、板額はまたいつもの本当に嬉しそうな素敵な笑顔でそう答えた。

 どうやら機嫌が直った様で僕は一安心した。まだ僕は板額とこう言う付き合いを初めて一週間、いや、正確には数時間と言う方が正しいかもしれない。それでも、あんな一言で板額との仲が壊れてしまう事は僕にとってあまりに悲しい事だと思った。きっと、板額と出会う前なら、女と絡むとこんなめんどくさい事があるから嫌なんだって自分に言い聞かせて、さっさと片づけてしまっただろう。どうやらは僕は板額と出会った事で変わってきているのかもしれない。いやそれだけでなく板額が僕にとって、彼女と言うだけではない何か特別な存在なのかもしれないと僕はその時思った。

「ねえ、与一。
 僕に意地悪な事言ったんだから、
 あの餅屋さんでみたらし団子奢ってよ。
 あそこのお団子、前から気になってたんだ」

 そんな事を考えていたら板額が思い立った様にそう甘えて来た。そうこれは彼女が彼氏に甘える常とう句だ。実体験はなかったが、アニメやラノベでなら何度もお目見かかるセリフのたぐいだ。
しおりを挟む


小説の匣
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

世界的名探偵 青井七瀬と大福係!~幽霊事件、ありえません!~

ミラ
キャラ文芸
派遣OL3年目の心葉は、ブラックな職場で薄給の中、妹に仕送りをして借金生活に追われていた。そんな時、趣味でやっていた大福販売サイトが大炎上。 「幽霊に呪われた大福事件」に発展してしまう。困惑する心葉のもとに「その幽霊事件、私に解かせてください」と常連の青井から連絡が入る。 世界的名探偵だという青井は事件を華麗に解決してみせ、なんと超絶好待遇の「大福係」への就職を心葉に打診?!青井専属の大福係として、心葉の1ヶ月間の試用期間が始まった! 次々に起こる幽霊事件の中、心葉が秘密にする「霊視の力」×青井の「推理力」で 幽霊事件の真相に隠れた、幽霊の想いを紐解いていく──! 「この世に、幽霊事件なんてありえません」 幽霊事件を絶対に許さない超偏屈探偵・青木と、幽霊が視える大福係の ゆるバディ×ほっこり幽霊ライトミステリー!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...