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第十七話
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「僕はここで降りるけど、お前はどこまで行くんだ?」
僕の手を握ったまま、上機嫌で鼻歌を歌いながら窓の外を見ていた板額に僕は尋ねた。
「僕もここだよ」
板額はにっこり笑ってそう答えた。
まさか同じ停留所で降りるとは思わなかった僕は少々驚いた。でもすぐに、同じ停留所だからと言って、降りてすぐ左右に泣き別れって事もあると、過度の期待をしない様に僕は自分をたしなめる事を忘れなかった。
停留所で運転手さんに定期券を見せながら、僕らは手を繋いだまま市電を降りた。さすがに旧い市電だけあって、今だにここは電子的な物じゃなく紙の定期券なのだ。定期券をちらりと確認しながら運転手さんが僕を見てにやりと笑った。そして運賃投入箱の陰からサムアップした手が見えた。僕はその運転手さんの小さな激励に笑顔で答えた。こんな浮ついた若者でもおおらかな気持ちで応援できる大人に僕もなりたいものだと強く思った。
市電を降りた僕は一瞬、板額の手を離そうかと悩んだ。だって、このまま同じ方向へ歩き出す保証は何もないのだ。1/2の確率。いや、住宅地の多さを考えれば逆方向の方が可能性は高い。
そんな僕の躊躇が歩み出しを一瞬遅らせた。
しかし、何と板額の方が僕の手を握ったまま、まるで僕がそちらへ歩き出すのを知っているかの様に歩き出した。僕はその瞬間、板額に手を引かれる様な感じになった。僕は少し体勢を崩しながらも慌てて歩き出した。
「どうしたんだい、与一。こっちで良いんだろう?」
僕が一瞬にしろ立ち止まってしまった事に板額の方が少し戸惑った。そう、板額はこのまま僕がこちらに歩き出す事をこれっぽっちも疑っていなかった様だ。
「お、おう、確かにそうだが、なんでお前が知ってる?」
そうなのだ、僕はまだ板額に僕がどこに住んでいるかなんてこれっぽちも話していない。出会った初日に一方的に彼女宣言されたとは言え、まだ知り合って一週間なのだ。こっちの住んでる場所を教えるなどと、そんな物欲しそうな事、僕が死んでもする訳ないのだ。これまで僕は女嫌いで通っていたのだ。緑川以外の女子など同じクラスでも二年になって数回しか口きいてないくらいだ。そんな天敵の女どもに住所など教えるものか。ここで僕はハタと気がついた。
「お前、さては緑川に聞いたな」
そう、緑川だけは、あだ名の通りのあの性格と同じ中学って事で僕のマンションを知っていたのだ。
「違うよ。与一の事なら僕は何でも知ってるよ」
「おいおい、それはマジか?
お前、まさか僕のストーカーか?」
僕は板額の言葉に少しどきっとしてそう尋ねた。その一方、相手が板額程の美人ならストーカーでも良いやって思ってしまった。そして、やっぱこういう場合、美人は得だとも思った。なんやかんや言いながら人は見た目の印象が第一なのだ。
「そうとも言えるかも。
僕、与一の『夜のおかず』まで知ってるくらいだかね。
ベッドのマットの下に隠してあるメイドさんの薄い本とか……」
板額はマジとも冗談ともつかぬ笑みを浮かべながらさらりと凄い事を言ってのけた。つうか『夜のおかず』なんて言葉、普通の女子高校生が言うか? でもこいつみたいな美人がそう言うとなんだかこっちがすごくえっちな気分になってしまう。
「頼む、板額、クラスの奴にはそれ、絶対に言わないでくれ!」
僕は思わず、繋いでた手を離して、板額に向かって手を合わせ懇願していた。だって、板額が言った事は本当だったのだ。メイドさんの同人誌が数冊、マットの下に確かにあった。
「あっ……本当にそんな物、ベッドの下に隠してたんだ」
すると板額は、ちょっと驚いた表情で僕を見詰めてそう言った。これが緑川なら絶対に汚いものを見る様な眼で僕を蔑んで吐き捨てる様に言っただろう。実際、僕は何度もあいつにそう言う仕打ちを受けた事がある。僕はふと、板額にもそう言う顔をして言って欲しかったと思ってしまった。ひょっとして僕はもうすでに危ない性癖の持ち主になっているのだろうか。
僕の手を握ったまま、上機嫌で鼻歌を歌いながら窓の外を見ていた板額に僕は尋ねた。
「僕もここだよ」
板額はにっこり笑ってそう答えた。
まさか同じ停留所で降りるとは思わなかった僕は少々驚いた。でもすぐに、同じ停留所だからと言って、降りてすぐ左右に泣き別れって事もあると、過度の期待をしない様に僕は自分をたしなめる事を忘れなかった。
停留所で運転手さんに定期券を見せながら、僕らは手を繋いだまま市電を降りた。さすがに旧い市電だけあって、今だにここは電子的な物じゃなく紙の定期券なのだ。定期券をちらりと確認しながら運転手さんが僕を見てにやりと笑った。そして運賃投入箱の陰からサムアップした手が見えた。僕はその運転手さんの小さな激励に笑顔で答えた。こんな浮ついた若者でもおおらかな気持ちで応援できる大人に僕もなりたいものだと強く思った。
市電を降りた僕は一瞬、板額の手を離そうかと悩んだ。だって、このまま同じ方向へ歩き出す保証は何もないのだ。1/2の確率。いや、住宅地の多さを考えれば逆方向の方が可能性は高い。
そんな僕の躊躇が歩み出しを一瞬遅らせた。
しかし、何と板額の方が僕の手を握ったまま、まるで僕がそちらへ歩き出すのを知っているかの様に歩き出した。僕はその瞬間、板額に手を引かれる様な感じになった。僕は少し体勢を崩しながらも慌てて歩き出した。
「どうしたんだい、与一。こっちで良いんだろう?」
僕が一瞬にしろ立ち止まってしまった事に板額の方が少し戸惑った。そう、板額はこのまま僕がこちらに歩き出す事をこれっぽっちも疑っていなかった様だ。
「お、おう、確かにそうだが、なんでお前が知ってる?」
そうなのだ、僕はまだ板額に僕がどこに住んでいるかなんてこれっぽちも話していない。出会った初日に一方的に彼女宣言されたとは言え、まだ知り合って一週間なのだ。こっちの住んでる場所を教えるなどと、そんな物欲しそうな事、僕が死んでもする訳ないのだ。これまで僕は女嫌いで通っていたのだ。緑川以外の女子など同じクラスでも二年になって数回しか口きいてないくらいだ。そんな天敵の女どもに住所など教えるものか。ここで僕はハタと気がついた。
「お前、さては緑川に聞いたな」
そう、緑川だけは、あだ名の通りのあの性格と同じ中学って事で僕のマンションを知っていたのだ。
「違うよ。与一の事なら僕は何でも知ってるよ」
「おいおい、それはマジか?
お前、まさか僕のストーカーか?」
僕は板額の言葉に少しどきっとしてそう尋ねた。その一方、相手が板額程の美人ならストーカーでも良いやって思ってしまった。そして、やっぱこういう場合、美人は得だとも思った。なんやかんや言いながら人は見た目の印象が第一なのだ。
「そうとも言えるかも。
僕、与一の『夜のおかず』まで知ってるくらいだかね。
ベッドのマットの下に隠してあるメイドさんの薄い本とか……」
板額はマジとも冗談ともつかぬ笑みを浮かべながらさらりと凄い事を言ってのけた。つうか『夜のおかず』なんて言葉、普通の女子高校生が言うか? でもこいつみたいな美人がそう言うとなんだかこっちがすごくえっちな気分になってしまう。
「頼む、板額、クラスの奴にはそれ、絶対に言わないでくれ!」
僕は思わず、繋いでた手を離して、板額に向かって手を合わせ懇願していた。だって、板額が言った事は本当だったのだ。メイドさんの同人誌が数冊、マットの下に確かにあった。
「あっ……本当にそんな物、ベッドの下に隠してたんだ」
すると板額は、ちょっと驚いた表情で僕を見詰めてそう言った。これが緑川なら絶対に汚いものを見る様な眼で僕を蔑んで吐き捨てる様に言っただろう。実際、僕は何度もあいつにそう言う仕打ちを受けた事がある。僕はふと、板額にもそう言う顔をして言って欲しかったと思ってしまった。ひょっとして僕はもうすでに危ない性癖の持ち主になっているのだろうか。
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