12 / 161
第十二話
しおりを挟む
その瞬間、その東屋も、それを見守る観客達も誰もが小声一つ漏らさなくなった。風さえ止まったかの様な緊張感みなぎる静寂がその場を包み込んだ。
この時、この場に居た誰もが、この後、板額がはにかみながら手を伸ばしそのバラを受け取ると思っていたに違いない。でも僕は、板額は皆が思っている事は全く違う、誰もが思いもよらない事をしでかそうとしてる様な気がした。もちろん、それは、この僕があの望月先輩に負けはしないなんて自惚れからじゃない。
一呼吸の後、板額は差し出されたバラには見向きもせず、そのままの姿勢でぺこりと頭を下げた。
「お気持ちは大変嬉しいのですが……ごめんなさい」
板額のやや低めで良く通る声が静まり返ったバラ園に響いた。
そして、板額はそのまま顔を上げるとこのバラ園の周りに集まった観客達を見回すようにぐるりと視線を巡らせた。そして大きく深呼吸をするといきなり声を張り上げたのだ。
「望月先輩、そして、ここのお集りの皆さん。
僕に興味を持っていただく事は大変嬉しい事です。
しかし僕はすでに二年C組『平泉 与一』君の物です。
ですから、僕は彼以外の方とはお付き合いするつもりはありません」
葵高に代々語り継がれる事になる『板額武勇伝』の最初の一つ『前代未聞の珍事、しきたりで告白される側が逆お付き合いしてる宣言ぶちかまし事件』(やっぱりコレも長いぞ!)が発生したのだ。
板額の前代未聞の宣言の後、その場に居た誰もが唖然とした表情になった。そして、先ほどとは全く異質の凍り付いた様な空気がその場を支配した。
この時、この場に居た誰もがこの宣言の意味を理解出来ずにいた。もちろん言葉としては耳から脳にすんなり入っていた。しかし脳がそれを租借し理解する事を拒否していたのだ。特に板額の目の前に居た望月先輩などカッコ付ける為のバラを差し出したまま、無様に口をあんぐりと開けたまま立ち尽くしていた。
ただ、僕だけは他の者たちに比べ少しだけ冷静だった。今思うと僕はこうなる事を多少なりとも予想していた様な気がした。そして同時、こう思っていた。
こいつはえらい事になったぞ! ……と。
だってこの瞬間から、僕は『葵高全生徒共通の敵No.1』となったのだ。今までは『居るのか居ないのか分からない空気みたいな存在』だった僕が、一気に『全校生徒から否が応でも一挙手一投足を注目される話題の人物』に躍り出たのだ。しかも、僕には分かる。僕に向けられる目は『嫉妬』やら『やっかみ』と言うよりも、『蔑み』と『敵意』を込めた文字通りの『白い目』って奴になる。
だって、よりによって板額の奴は自分の事を『僕の物』だって公の場で高らかに宣言してしまったんだ。
これって、普通、これ聞いたほとんどの奴らは『当然そう言う関係まで行ってる』って思うはずだ。しかも相手があの板額だと、当然、悪いのは僕って事になる。今までの僕の評判からすれば、板額と知り合いだったの良い事に彼女を無理やり『自分の物』にした、なんて話にもなりかねない。つうか、たぶん、そんな流れになる。事実、その後、一部の生徒……特に下級生女子生徒……から僕は『鬼畜で危険な先輩』として明らかに避けられる様になった。本当に良い迷惑だ。
周りが唖然してどう反応すべきが分からず凍り付いている中、当の本人である板額は一人、何事もなかったかの様に平然としていた。その姿はまるでやるべき事をやり終えほっと一安心している様に感じられた。
そして板額はまるで最初から知っていた様に僕が居る方を向いてこう叫んだ。
「与一! 僕、皆の前で宣言しちゃったよ!」
「あのバカ野郎……」
その声に僕は思わず小さくそう言って舌打ちした。後で知ったのだが、緑川は僕をここに連れて来る事を事前に板額に伝えていたらしい。僕が知らない間にどうやら緑川と板額は親しい間柄になっていた様だ。まあ、緑川が『委員会』なんてあだ名で呼ばれるくらいだから、転校生である板額に対して色々世話を焼くのは当然と言えば当然なんだが。
この時、この場に居た誰もが、この後、板額がはにかみながら手を伸ばしそのバラを受け取ると思っていたに違いない。でも僕は、板額は皆が思っている事は全く違う、誰もが思いもよらない事をしでかそうとしてる様な気がした。もちろん、それは、この僕があの望月先輩に負けはしないなんて自惚れからじゃない。
一呼吸の後、板額は差し出されたバラには見向きもせず、そのままの姿勢でぺこりと頭を下げた。
「お気持ちは大変嬉しいのですが……ごめんなさい」
板額のやや低めで良く通る声が静まり返ったバラ園に響いた。
そして、板額はそのまま顔を上げるとこのバラ園の周りに集まった観客達を見回すようにぐるりと視線を巡らせた。そして大きく深呼吸をするといきなり声を張り上げたのだ。
「望月先輩、そして、ここのお集りの皆さん。
僕に興味を持っていただく事は大変嬉しい事です。
しかし僕はすでに二年C組『平泉 与一』君の物です。
ですから、僕は彼以外の方とはお付き合いするつもりはありません」
葵高に代々語り継がれる事になる『板額武勇伝』の最初の一つ『前代未聞の珍事、しきたりで告白される側が逆お付き合いしてる宣言ぶちかまし事件』(やっぱりコレも長いぞ!)が発生したのだ。
板額の前代未聞の宣言の後、その場に居た誰もが唖然とした表情になった。そして、先ほどとは全く異質の凍り付いた様な空気がその場を支配した。
この時、この場に居た誰もがこの宣言の意味を理解出来ずにいた。もちろん言葉としては耳から脳にすんなり入っていた。しかし脳がそれを租借し理解する事を拒否していたのだ。特に板額の目の前に居た望月先輩などカッコ付ける為のバラを差し出したまま、無様に口をあんぐりと開けたまま立ち尽くしていた。
ただ、僕だけは他の者たちに比べ少しだけ冷静だった。今思うと僕はこうなる事を多少なりとも予想していた様な気がした。そして同時、こう思っていた。
こいつはえらい事になったぞ! ……と。
だってこの瞬間から、僕は『葵高全生徒共通の敵No.1』となったのだ。今までは『居るのか居ないのか分からない空気みたいな存在』だった僕が、一気に『全校生徒から否が応でも一挙手一投足を注目される話題の人物』に躍り出たのだ。しかも、僕には分かる。僕に向けられる目は『嫉妬』やら『やっかみ』と言うよりも、『蔑み』と『敵意』を込めた文字通りの『白い目』って奴になる。
だって、よりによって板額の奴は自分の事を『僕の物』だって公の場で高らかに宣言してしまったんだ。
これって、普通、これ聞いたほとんどの奴らは『当然そう言う関係まで行ってる』って思うはずだ。しかも相手があの板額だと、当然、悪いのは僕って事になる。今までの僕の評判からすれば、板額と知り合いだったの良い事に彼女を無理やり『自分の物』にした、なんて話にもなりかねない。つうか、たぶん、そんな流れになる。事実、その後、一部の生徒……特に下級生女子生徒……から僕は『鬼畜で危険な先輩』として明らかに避けられる様になった。本当に良い迷惑だ。
周りが唖然してどう反応すべきが分からず凍り付いている中、当の本人である板額は一人、何事もなかったかの様に平然としていた。その姿はまるでやるべき事をやり終えほっと一安心している様に感じられた。
そして板額はまるで最初から知っていた様に僕が居る方を向いてこう叫んだ。
「与一! 僕、皆の前で宣言しちゃったよ!」
「あのバカ野郎……」
その声に僕は思わず小さくそう言って舌打ちした。後で知ったのだが、緑川は僕をここに連れて来る事を事前に板額に伝えていたらしい。僕が知らない間にどうやら緑川と板額は親しい間柄になっていた様だ。まあ、緑川が『委員会』なんてあだ名で呼ばれるくらいだから、転校生である板額に対して色々世話を焼くのは当然と言えば当然なんだが。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~
トベ・イツキ
キャラ文芸
三国志×学園群像劇!
平凡な少年・リュービは高校に入学する。
彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。
しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。
妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。
学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!
このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。
今後の予定
第一章 黄巾の乱編
第二章 反トータク連合編
第三章 群雄割拠編
第四章 カント決戦編
第五章 赤壁大戦編
第六章 西校舎攻略編←今ココ
第七章 リュービ会長編
第八章 最終章
作者のtwitterアカウント↓
https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09
※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。
※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
デリバリー・デイジー
SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。
これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。
※もちろん、内容は百%フィクションですよ!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる