11 / 161
第十一話
しおりを挟む
緑川に手を引かれ、と言うより手を繋いで一緒に走りながら、俗に言う特別観覧席がある特別教室の扉の前までたどり着いた。ここはバラ園の東屋に一番近く、一番良く見える場所なのだ。実際、あちらからもこちらの顔が確認できる程である。さすがに小声だと聞こえないが、それでも目の前の窓を全開にすればある程度の会話は聞こえる。御多聞に漏れず今日もバラ園に面した窓は全開になっていた。
「巴! こっちこっち!」
緑川が勢いよく扉を開けると、もうすでにそこに居た同じクラスの女子の一人が声を掛けて来た。通常なら、こんな後からここへ来ても追い出されるのがオチなのだが、そこは全校的に有名な『巴御前』の事、事前の根回しやらですでに場所を押さえてあった様だ。しかもどうやら僕の席までもである。
「今まさにその立場が風前の灯と化している平泉も一緒だね。
まあ短い間でも『烏丸さんの彼氏』になれたんだから幸せだったよね」
そいつは僕も一緒に来たのを確認すると、そう言うとくすくすと笑った。そいつの中では僕がこのまま板額を望月先輩に横取りされる事が確定事項になってる様だ。そして、そこに居た連中もみんなそう思ってたのだろう、同じ様に僕を見てくすくす笑っていた。その顔には、今まさに彼女を奪われようとしてる僕への憐れみとも嘲りともつかぬ嫌な表情がこびりついていた。
「このまま、烏丸さんから私に乗り換える?」
まだ僕と手を繋いだままだった緑川が僕の耳元でそっとそう囁いた。
「だれがお前なんかと!」
僕も小声でそう言った。そしたら急に緑川と手を繋いでいるのがいたたまれなくなって思わずその手を離した。
「ふっ……冗談よ」
「分かってるって」
緑川はそう言ってくすりと笑った。僕はちょっとむすっとしてそう答えた。
僕と緑川が一番窓際のぽつんと空いていた椅子に座ると、当の東屋にはもうすでに望月先輩が待っていた。先に行ったはずの板額はまだ来ていないらしかった。
「まあ、ここは通常通り、告白受ける側は遅れて登場よね」
隣に座る緑川が腕時計をちらりと見ながらそう言った。それはたぶん僕に対する解説だったのだろう。
「あっ……来た来た。私が教えてあげた通りだわ」
緑川のその声を聞いてバラ園を見回すと、綺麗咲いたバラが絡みつく入り口のアーチを潜って板額がやって来た。
「わっ、意外! すごく堂々とした感じね」
「相手があの望月先輩ならもっとおどおどした感じなるのが普通だけど」
「なんか、烏丸さんの方が男の子って感じもするね」
観戦していた女子達がそうこそこそ話していた。確かに言われてみれば確かにそうだった。東屋に向かう板額はしっかり正面を見据えてただ真っ直ぐすたすたと歩いていた。そこには迷いや戸惑いなどは言うものは一切感じさせなかった。これ、告白する側は板額の方じゃないだろうかって一瞬思ってしまう程だった。
板額のその姿を見て僕は、何だか板額の奴が何かを大きな決意してここの場に臨んでいるじゃないかって気がした。
まあ、順当に考えれば、僕への彼女宣言を撤回して望月先輩の告白を受ける決心だろうって事になる。でもその時の僕にはそうとは違う何かの様な気がしていた。その時、僕は何故かぞくっと背筋が寒くなった様な気がした。
東屋にたどり着いた板額に向かって望月先輩が素敵な笑みを浮かべながら……良くは見えないがたぶんそれで間違いなのだろう……、板額に言った。その声は自信に満ち溢れすごく良く通る声だった。
「この場に来てくれてありがとう。
烏丸さん、僕は君を一目見て心を奪われてしまった。
本来なら受験でこんな事してる場合じゃないのに、
もう僕の心は君を思うと勉強に手が付かない程なんだ。
どうか、僕の彼女になって欲しい」
望月先輩はそう言うと背中に隠し持っていた赤いバラを一輪、微笑みながら板額に差し出した。まったくもってキザったらしい事をするもんだ。しかし、悔しいかな、望月先輩がこれをやると妙にしっくり来てしまう。
「巴! こっちこっち!」
緑川が勢いよく扉を開けると、もうすでにそこに居た同じクラスの女子の一人が声を掛けて来た。通常なら、こんな後からここへ来ても追い出されるのがオチなのだが、そこは全校的に有名な『巴御前』の事、事前の根回しやらですでに場所を押さえてあった様だ。しかもどうやら僕の席までもである。
「今まさにその立場が風前の灯と化している平泉も一緒だね。
まあ短い間でも『烏丸さんの彼氏』になれたんだから幸せだったよね」
そいつは僕も一緒に来たのを確認すると、そう言うとくすくすと笑った。そいつの中では僕がこのまま板額を望月先輩に横取りされる事が確定事項になってる様だ。そして、そこに居た連中もみんなそう思ってたのだろう、同じ様に僕を見てくすくす笑っていた。その顔には、今まさに彼女を奪われようとしてる僕への憐れみとも嘲りともつかぬ嫌な表情がこびりついていた。
「このまま、烏丸さんから私に乗り換える?」
まだ僕と手を繋いだままだった緑川が僕の耳元でそっとそう囁いた。
「だれがお前なんかと!」
僕も小声でそう言った。そしたら急に緑川と手を繋いでいるのがいたたまれなくなって思わずその手を離した。
「ふっ……冗談よ」
「分かってるって」
緑川はそう言ってくすりと笑った。僕はちょっとむすっとしてそう答えた。
僕と緑川が一番窓際のぽつんと空いていた椅子に座ると、当の東屋にはもうすでに望月先輩が待っていた。先に行ったはずの板額はまだ来ていないらしかった。
「まあ、ここは通常通り、告白受ける側は遅れて登場よね」
隣に座る緑川が腕時計をちらりと見ながらそう言った。それはたぶん僕に対する解説だったのだろう。
「あっ……来た来た。私が教えてあげた通りだわ」
緑川のその声を聞いてバラ園を見回すと、綺麗咲いたバラが絡みつく入り口のアーチを潜って板額がやって来た。
「わっ、意外! すごく堂々とした感じね」
「相手があの望月先輩ならもっとおどおどした感じなるのが普通だけど」
「なんか、烏丸さんの方が男の子って感じもするね」
観戦していた女子達がそうこそこそ話していた。確かに言われてみれば確かにそうだった。東屋に向かう板額はしっかり正面を見据えてただ真っ直ぐすたすたと歩いていた。そこには迷いや戸惑いなどは言うものは一切感じさせなかった。これ、告白する側は板額の方じゃないだろうかって一瞬思ってしまう程だった。
板額のその姿を見て僕は、何だか板額の奴が何かを大きな決意してここの場に臨んでいるじゃないかって気がした。
まあ、順当に考えれば、僕への彼女宣言を撤回して望月先輩の告白を受ける決心だろうって事になる。でもその時の僕にはそうとは違う何かの様な気がしていた。その時、僕は何故かぞくっと背筋が寒くなった様な気がした。
東屋にたどり着いた板額に向かって望月先輩が素敵な笑みを浮かべながら……良くは見えないがたぶんそれで間違いなのだろう……、板額に言った。その声は自信に満ち溢れすごく良く通る声だった。
「この場に来てくれてありがとう。
烏丸さん、僕は君を一目見て心を奪われてしまった。
本来なら受験でこんな事してる場合じゃないのに、
もう僕の心は君を思うと勉強に手が付かない程なんだ。
どうか、僕の彼女になって欲しい」
望月先輩はそう言うと背中に隠し持っていた赤いバラを一輪、微笑みながら板額に差し出した。まったくもってキザったらしい事をするもんだ。しかし、悔しいかな、望月先輩がこれをやると妙にしっくり来てしまう。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~
トベ・イツキ
キャラ文芸
三国志×学園群像劇!
平凡な少年・リュービは高校に入学する。
彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。
しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。
妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。
学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!
このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。
今後の予定
第一章 黄巾の乱編
第二章 反トータク連合編
第三章 群雄割拠編
第四章 カント決戦編
第五章 赤壁大戦編
第六章 西校舎攻略編←今ココ
第七章 リュービ会長編
第八章 最終章
作者のtwitterアカウント↓
https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09
※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。
※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
デリバリー・デイジー
SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。
これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。
※もちろん、内容は百%フィクションですよ!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる