ハンガク!

化野 雫

文字の大きさ
上 下
3 / 161

第三話

しおりを挟む
 そして、緑川は、この学校では、先輩後輩、クラスを問わず、多くの男子から告白などされる事も多く大変モテていた。もっとも、緑川は今までその告白を全て袖にして、いまだに特定の『彼氏』と言う物を持っていない。だから、彼女は学校中の男どもからは『難攻不落の巴御前ともえごぜん』とも言われている。

 そんな緑川はこの学校では非常に少ない僕と同じ中学出身者だった。それだからであろうか、何故かこいつはやたら僕に絡んでくる。まあ、たぶん、緑川はああいう性格だから、あいつはあいつで僕の事を心配しての事だろうとは僕は思っていた。


「与一って、ああ言うがタイプなんだ……」

 不意に緑川が珍しく小声でそう声を掛けて来た。

 放課などならまだしも、授業中などこういう時には滅多に話しかけてこない緑川の声に驚いて僕は彼女の方を見た。

 すると、緑川は彼女には珍しく口元ににやにやと少し下卑た笑いを浮かべて僕を見ていた。

「ふん、僕は女って奴は全部が嫌いだ。
 容姿は性格は関係ない。
 何故なら色々めんどくさいから。
 例外はない」

 僕はぶっきらぼうにそう言って緑川から、そして教壇に居た板額からも目を逸らせて窓の外に視線を移した。

「あらそう、無理しちゃって……。
 今、他の男子以上にあのに熱い視線送ってた癖に」

 視線を逸らせて後、緑川の声とその後にクスリと小さく笑う声が聞こえた。


「じゃあ、烏丸さん、とりあえず右の列の一番後ろの席に……」

 教壇に立つ板額を杉下が促した様だ。板額が教壇から降りて席へと歩き始めた。

 僕はあのままいつもの様に窓の外の風景をぼんやり見ていたから、板額が歩き始めたのはその足音で知った。

 しかし、その足音は何故か途中で止まった。見てたわけじゃないからはっきとは分からないが、僕の横を通り過ぎる前に止まってしまった気がした。同時に、教室中がざわざわとし始めた。

 ふわりとフルーツの様な甘い香りが微かにした。

 不審に思った僕はふと顔を教室の方へを向けた。


 すると僕の席のすぐ脇に、今、教壇で挨拶をした板額が立っていた。

 僕が見上げると、板額はじっと僕を見下ろしていた。

 どうやらクラスの連中は、この美人転校生が突如、クラスでもボッチで目立たない男の横で立ち止まった事をいぶかしく思った様だった。

「やっと会えた……」

 その時、板額の唇が小さくそう動いた。いや、正確には声は聞こえなかった。何故か僕にはそう彼女がそう囁いた様に思えたのだ。

「えっ?」

 僕が驚いて小さくそう声を漏らすと、板額はその整った美しい顔に微笑みを浮かべた。そして、何事もなかった様に杉下の示した席へを再び歩き始めた。

「知り合いなの?」

 再び緑川の声がした。

 無意識に板額の背を目で追っていた僕はその声で緑川の方を見た。

 すると緑川は何故か少し不機嫌な顔で僕を見ていた。いや、それは僕が勝手にそう感じただけで、後に緑川にその時の事を尋ねても、彼女はそんな事はなかったと何故か全力でその事を否定した。

「いや、知らない……」

「ふうん、それなら良いけど……」

 僕がそう答えると、緑川はぶっきらぼうにそう言って僕から顔を背けて前を向いてしまった。


 その後、こんな重大なイベントの後なのにその後の一時限目の授業は、何事もなかったかの様にいつも通りに終わった。この辺りはさすが県下のみならず全国的にも結構名の知れた進学校である。頭と雰囲気の切換えは先生も生徒もきちんと出来ている。そう言う僕だって、ホームルームなどでは気だるげに窓の外を眺めてるボッチ生徒だが、高校生も二年となれば授業中は真剣に正面を向いて勉強をしている。


「それじゃ、ここまで]

 そして、杉下も滞りなく今日の分の授業を終える事が出来たのであろう、チャイムと共にこう言った。

「起立! 礼!」

 それを合図に、今日の日直当番の八神が声を上げた。

 すると、全員が起立し、教壇に立つ杉下に向かって一礼した。それを確認した杉下もワンテンポ遅れて頭を下げた。

「お前らが転校生に興味津々なのは、
 この後、烏丸さんを質問攻めなんかにするんじゃないぞ」

 そして杉下は自分の生徒達にそう笑いながら声を掛けて教室を出て行った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

デリバリー・デイジー

SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。 これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。 ※もちろん、内容は百%フィクションですよ!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

天狐の上司と訳あって夜のボランティア活動を始めます!※但し、自主的ではなく強制的に。

当麻月菜
キャラ文芸
ド田舎からキラキラ女子になるべく都会(と言っても三番目の都市)に出て来た派遣社員が、訳あって天狐の上司と共に夜のボランティア活動を強制的にさせられるお話。 ちなみに夜のボランティア活動と言っても、その内容は至って健全。……安全ではないけれど。 ※文中に神様や偉人が登場しますが、私(作者)の解釈ですので不快に思われたら申し訳ありませんm(_ _"m) ※12/31タイトル変更しました。 他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...