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第4話 タリオ 公爵令嬢リンダ1

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 やった! やったわ。

 あの女に濡れ衣を着せて処刑してやったわ。

 ちょっと上目遣いに、『また、こんな事があったら怖い』って涙を浮かべたら、アルバート様ったら、皆んなの前であの女との婚約を破棄した上、処刑まで宣告しちゃうんだもの。びっくりしちゃったわ。

 本当は何もされてないんだけどね?

 でもこれで、私はあの女に代わって公爵令嬢でアルバート様の婚約者よ!

 貴族学園の卒業まであとたったの半年。学園を卒業したら結婚式を挙げるのが王家の仕来たりだ。

 つまり、私はあと半年すれば王太子妃ってこと。笑いが止まらなかった。

 それにしても上手くいったわ。本当に何の苦労もしていない男ってチョロいわね。簡単に騙されるんだもの…。

 そんな風に有頂天になっていたのは、つい先日までの事だった。

 その日登校した私は、教室の中が騒がしい事に気づいた。

「どうしたの?」

 親しくしている令嬢達に話しかけた。彼女達は同じ男爵家の令嬢で、あの女に濡れ着を着せるのを手伝ってもらったの。

 アルバート様からは、私はもう公爵令嬢なんだから付き合う相手は選べっていつも言われてるんだけどね。

 だから最近では少しずつ彼女達とは距離を置く様にしている。

 でもまぁ、それを言ったら、つい最近まで私だって男爵令嬢だったんだけどね? 本来ならどの口が言うって話よね?

「それが宗主国ギルジアから、公爵家の令嬢がこの学園に留学して来たんだそうですのよ。それでね、そのご令嬢、このクラスに入るんですって!」

 彼女は嬉々としてそう語った。

「へえ、卒業まであと半年しかないのに、こんな時期に留学生なんて珍しいわね? それにしてもどうしたの? 何だかとっても嬉しそうね?」

「だってそのご令嬢、特殊能力持ちなんだそうですよ? 私、特殊能力持ちの令嬢なんて初めてお会いしますの! わくわくしますわ」

 特殊能力持ち…。神から特別な能力を与えられて生まれた人達の事をこの大陸ではそう呼ぶ。保護国同士の力の均衡を守るため、現在は宗主国にほぼ独占されている稀有な存在だ。

 つまり裏を返せば、能力者1人1人が国同士の均衡を破る程の力を持つと言う事だ。

 すると違う令嬢も口を開く。

「私の叔父は王宮に勤めていますでしょう。その叔父からの情報ですと、そのご令嬢の特殊能力と言うのが豊穣らしくて、陛下が是非にと望まれて、やっと留学して来て下さったそうですわ」

 また、別の令嬢が私達の話に口を挟む。

「それが噂では、そのご令嬢が荒れた畑に手で触れただけで小麦が実ったそうですわ」

 あっと言う間に、私の周りには人だかりが出来て皆、口々にその令嬢の噂をする。

 何故皆んな此処に集まるんだろう…。

 私が不思議に思っていると、1人の令嬢が私に問いかけた。

「ねぇ、リンダ様。あの噂、本当ですの?」

 あの噂……? 何の事だろう? 私が首を傾げると彼女はイライラした様な顔をして話を続けた。

「ほら、陛下がアマリール殿下に、もしそのご令嬢の婚約者になれたら、王太子はアルバート殿下からアマリール殿下に変更すると仰ったとか? あれって本当の事ですの?」

「え!?」

 寝耳に水だった。知らない…。そんな話、聞いてない…。

 そんな…。もしその方とアマリール殿下が恋仲にでもなれば、私はせっかく掴んだ王太子妃の座を失うの?

 呆然とする私にさっきの令嬢が声を掛ける。

「そのご様子では、何もご存知ない様ですわね?」

 今度は違う令嬢が話に加わる。

「まぁ、ではあの噂もご存知ないのかしら?」

 あの噂? まだ噂があるの?

 すると、さっきの王宮に勤める叔父を持つ令嬢がその令嬢の話を止める。

「ちょっと、リンダ様の前で失礼ですわよ」

 何…? どうして止めるの?

 私に関係する事…?

 そんな風に話を途中で止められると、余計に気になるじゃない。

「…教えて…。お願い、その噂、教えて!」

 気が付けは私はその令嬢に縋り付いていた。

 令嬢は驚いて目を見開いたあと、あくまでも噂だと前置きした上で話してくれた。

「最初、他国の方ですし、不慣れだろうと陛下はそのご令嬢の世話係をアマリール殿下にお任せになったそうですの。ほら、陛下はその方とアマリール殿下が上手くいく事を望んでらしたから…。でも、その方の余りの美しさに惹かれたアルバート殿下が仰ったそうですのよ『彼女の世話係は俺がやる』と…」

「そりゃあ、お二人が上手くいけば殿下は廃太子ですもの。殿下も必死なんでしょう」

「でもまぁ、アマリール殿下では令嬢より年下になりますから、同じ学年のアルバート殿下の方が…ねぇ?」

 ねぇって…その先は何? お似合いとでも言いたいの?

 その後はさっきまでの私への遠慮は何処へやら? 皆んなで好き好きに噂に花を咲かせている。

 その真ん中で私は信じていた。

 嘘よ! そんな筈ないわ!

 だって私達はあれ程愛し合っていたのよ…?

 あの女、アンネマリーに冤罪を吹っ掛けて殿下の目の前から排除する程に…。

 でも、次の瞬間、私の想いは打ち砕かれた。

 銀の髪に透ける様なブルーの瞳。

 アルバート殿下が、およそこの国では見かけない様な色を纏った令嬢と共に教室に入って来たのだ…。















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