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第36話

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「王族殺害未遂…」

 リシャールが告げたその言葉を、ルルナレッタは呆然として繰り返した。

 それがどれ程の罪になるのか…。分からない者など貴族の中には誰もいない。最悪の場合、極刑も充分に考えられる程の罪だ。

 まして、これだけ沢山の貴族や官僚達の前で、動かぬ証拠の品を突き付けられ、自分は捕まる。

 未来など見えていた。

 そして、それを覆す事など、もう出来ないのだ。

 そう……。覆す事が出来ない様に真実を明らかにする…。

 まさしく、それこそがこの場を用意した私達の狙いだった。

 リシャールが再起不能の重体だと聞いた王妃やルルナレッタは安心していたはずだ。

 これでもう王位継承権を持つ王族は、エドモンドとルルナレッタのお腹の中に居る子供しか存在しない。ならば陛下は自分の血を後世に残す為、どんな事があっても自分達を守るだろう…。王妃はそう考えていた筈だ。

 其れを裏付けるかの様に、陛下は毒を盛られたリシャールを、態々やまいによる療養だと発表した。誰の仕業か薄々気付きながらも、王妃とエドモンドを守ったのだ。

 だからこそ罠を仕掛けた。もう2度と言い逃れなど出来ない様に…。

 実際、リシャールの体調が回復すれば、陛下を味方につける事など簡単だった。何故なら彼は自分の身を守る為、常に強い者の方につくのだから…。

 だから、例え今朝毒薬が見つかっていなかったとしても、再起不能だと信じていたリシャールが目の前に現れればきっと彼女達はボロを出す。

 そう考えて張った罠だったが、実際に引っかかってくれたのは、何も知らない…恐らくは彼こそが本当にだったエドモンドだった訳だが…。

 近衛兵がルルナレッタに迫ると、彼女は突然大声を張り上げた。

「本当です。本当なんです。貴方を殺めようとしたのは私じゃない! 王妃様なんです! 私はその毒薬を回収して捨てる様に頼まれただけなんです! お願い、信じて! 信じて下さい!!」

 ルルナレッタは自分を捕らえようとする近衛兵に必死に抗いながら、涙を浮かべリシャールに向かってそう叫ぶ。

 そんな彼女に近衛兵が声を掛けた。

「大人しくして下さい。 そうすれば手荒な真似はしません。これ以上暴れると、お腹の子にも影響しますよ…」と。

 だが、半狂乱になった彼女に近衛兵の声は届かない。ルルナレッタは取り押さえられながら、今度は隣に居るエドモンドに向かって手を伸ばした。

「助けて…。ねぇ、エド助けてよ! お腹の中に子供がいるの! 貴方の子がいるのよ? お願い何か言ってよ! 私は捕まりたくない! 牢になんて入れられたらこの子はどうなるの? 私は絶対に捕まるなんていや!!」

 正直、私はそのルルナレッタの言葉を聞いて、今更貴方が其れを言うのかと思った。罪だと知りながら、己の野心の為に王妃に手を貸したのは貴方自身ではないかと…。

 すると、必死になって言い募るルルナレッタに向かって、エドモンドが声を荒げた。

「うるさい! 黙れ! 母上はそんな恐ろしい事はしない! さっきも言っただろう!? 母上を巻き込むなと!!」

「どうして? ねぇ、どうしてなの? どうして私を信じてくれないの? そんなに王妃様が大切? でも本当よ? リシャール様に毒を盛るように命じたのは王妃様なの…」

 ルルナレッタは消え入りそうなか弱い声でエドモンドにそう告げると、その場で泣き崩れた。その後、彼女は諦めたのか、それとも愛する人に捨てられた事に絶望したのか…。もう抗う事はせず、素直に近衛兵に引き連れられて謁見の間を出て行った。

 だが、毒の事は兎も角、全てを知りながらリシャールを階段から突き落とせと実際に命じたのは彼女なのだ。

 ルルナレッタに同情する余地は無い。

 それに、ここで王妃の名が彼女の口から語られたのは大きかった。

 実はそれこそが、王妃をこの場に呼んでいない理由だった。

 王妃が居なければ、ルルナレッタは全ての罪を彼女がした事だと証言するだろう…そう考えたのだ。

 実際にルルナレッタはそう叫んだ。今の光景を見ていた皆が思っただろう…。

 エドモンドとルルナレッタの間に出来た子を次の王太子にする為、王妃が邪魔になった側妃の子であるリシャール殿下に毒を盛って殺めようとしたのだと…。

 そして、この様子を謁見の間の1番高い壇上から、放心状態でただ見守るしか出来無かった男がいた。

 そう…陛下だ。

 彼はリシャールを王太子にと高らかに宣言した。そこまでは彼にとってもシナリオ通りの流れだった。

 問題はその後だ。父はそれ以降の詳細を彼に伝えてはいなかった。だから、リシャールが態と自分は病ではなく、毒を盛られたとこの場で証言した事は、彼にとっては寝耳に水の出来事だったのだ。

 だが、彼には其れを止める事も出来なかった。事なかれ主義の彼はこんな時、どう立ち回れば良いのか分からなかったから…。

 ここで口を挟んでもし迂闊な事でも喋ってしまったら、自分まで疑われかねない…。

 謁見の間に集まった沢山の目が、彼が口を開く事を押し留めたのだ。

 だから、彼は事の成り行きを見守る事にした。

 そう…。ただ見守って嵐が通り過ぎるのを待つ事にしたのだ。

 だが、彼は気付いてはいなかった。

 自分がここに居る貴族や官僚達からどう見えているのかを…。

 口火を切ったのは父だった。

「陛下! 何故、リシャール殿下が病気療養中だなどと嘘を仰ったのですか!? 実行犯を逃し、犯人である王妃の罪を隠蔽でもするおつもりだったのか!?」と…。


 



 



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