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第30話
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リシャールは2週間近く、ほぼ寝たきりの状態だった。だから、やっと体が動かせる様になった此処最近は、手すりを使って歩く練習や、階段の登り降りの訓練などを始めていた。
彼女はそんな足元の覚束ない彼なら、階段から突き落としても足を誤って滑らせた事に出来るとでも思ったのだろうか?
ずっとその機会を伺っていた様だ。
いつもチラチラと自分を見ていた…とリシャールは言った。
しかし、リシャールが彼女から狙われている事は、離宮中の人達が私からの報告で既に知っていた。その為、彼の事は常に何人かの使用人達が見守ってくれていて、リシャールが1人になる機会なんて無かった。
それで切迫詰まったのだろう…。
彼女は、自分の足がもつれた振りをして、階段にいたリシャールに態とぶつかって行ったそうだ。
そんな彼女を取り押さえたのは、他の誰でもない。リシャール自身だった。
だが彼女は、あくまでも自分は足が縺れただけだったのだと言い張り、リシャールが盛られた毒の事も、自分とは関係ないと言い放つ。自分の背後には王妃やルルナレッタがついているとでも思っているのだろう。
このままでは埒が明かない。
だから私は彼女に現実を教えてあげる事にした。
私は彼女に語りかける。
「ねぇ、どうしてそんなに堂々としていられるの? こちらはもう、貴方の事は調べがついて全て分かっているのよ? 貴方は王妃様の義理の姉、元は伯爵夫人なんでしょう? その貴方が何故、王妃様の元ではなく離宮で、しかも下働きなんてしているのかしら? 教えて下さる?」
「…………」
彼女は何も答えない。まぁ、ここまでは想定内だ。
「それって誰が考えても可笑しいわよね? 疑われても仕方が無い状況に、今、貴方はいるの。そこまでは分かるわよね。でね、貴方にはリシャール殿下を毒殺しようとした疑いが掛かっているの。それだけじゃ無い。貴方は殿下を階段から突き落とそうとした。それはこの離宮にいた沢山の人達が見ているの。これだけの証拠が有ればね、貴方を王族への殺人未遂容疑で処刑出来るのよ?」
「…さっきから何度も言っています。私じゃ無い。毒なんて知らない! 証拠なんてないんでしょう? 階段での事だって、私は本当に足が縺れただけなんです! どうか信じて下さい!」
私が処刑と言う言葉を口にしたからか。彼女は少し顔を青ざめさせたが、それでも自分は何も知らない、関係ないと言い張った。
「そう…。残念ね。私ね、貴方にはとても腹が立っているのよ。だって貴方はリシャール殿下を1度ならず2度までも殺めようとした。でもね、私は貴方にも同情の余地はあると思っていたの。王妃様に頼まれたのでしょう? だけど貴方がそんな態度を取るなら、同情する必要は無いわね?」
私がそう言うと、彼女の表情は更に硬くなった。折れそうな心を必死に奮い立たせようとしている様に、私には見えた。
「貴方は王妃様が助けてくれると思っているのかも知れない。でもね、貴方が拘束されたと知ったら、王妃様が貴方との関係を認める事は絶対に無いわよ。これは断言出来る。だって認めたら最後、自分に火の粉が降りかかってくるもの。貴方は王妃様に利用されただけ。そして彼女に見殺しにされるの。でも、それだけじゃ無い…。王族を殺めようとして処刑された身内を持つ貴方の夫や子供、強いてはその家族達の未来はどうなるのかしら?」
遂に彼女の表情が崩れた。
「家族は! 家族は関係ない!!」
彼女は怒りを露わにしそう叫ぶと、私に掴み掛かろうとした。
それをアレクサンダーが止める。それでも私は言葉を繋ぐ事を辞めなかった。
挑発する様に私は彼女を追い詰めていく。
「でも、それが現実よ? そしてもう一度はっきり言うわ。王妃様も。それから貴方の姪だったかしら? ルルナレッタも貴方や貴方の家族を助ける事は絶対に無い!! 貴方はあの人に利用されただけ。大体彼女は、元は伯爵夫人の貴方を下女にしたのよ? そして今度は王子を殺せと言ったんでしょう? そんな人を何故庇うの? 少し考えれば分かるはず! 現実から目を背けるのは辞めなさい!!」
私が声を荒げると、彼女は絶望したのかその場にしゃがみ込んだ。
私はそんな彼女に問いかけた。
「ねぇ、何故? 何故こんな恐ろしい事を引き受けたの? 貴方にメリットなんて何も無いでしょう?」と…。
すると彼女は漸く重い口を開いた。
「家が没落してからずっと、義妹は私達家族に援助してくれていたのです。『王家には余りお金がないの。ごめんなさいね。私のせいなのに…。今、私が自由に出来るお金はこれだけしか無いの。辛抱してね』そう言っていつも申し訳なさそうに私達家族にお金をくれた。私達はそのお金で生活して来たのです。だから私は、義妹にはずっと恩を感じていました…」
その彼女の言葉を聞いてアレクサンダーは目を伏せた。
私はそれで良いと思った。
彼にも知って欲しかった。オスマンサスが…。彼の祖父がこの家族に何をしたのか…。
「今から3年前、義妹から誘いがありました。ルルがエドモンド殿下の側妃として後宮に入る事になった。彼女に仕えないか…と。彼女は私にとっては可愛い姪です。私は2つ返事で引き受けました。でも違った。王宮に入った私に義妹は突然、下女になれと言ったのです…」
余程悔しかったのだろう。彼女はそう言って涙を流した…。
彼女はそんな足元の覚束ない彼なら、階段から突き落としても足を誤って滑らせた事に出来るとでも思ったのだろうか?
ずっとその機会を伺っていた様だ。
いつもチラチラと自分を見ていた…とリシャールは言った。
しかし、リシャールが彼女から狙われている事は、離宮中の人達が私からの報告で既に知っていた。その為、彼の事は常に何人かの使用人達が見守ってくれていて、リシャールが1人になる機会なんて無かった。
それで切迫詰まったのだろう…。
彼女は、自分の足がもつれた振りをして、階段にいたリシャールに態とぶつかって行ったそうだ。
そんな彼女を取り押さえたのは、他の誰でもない。リシャール自身だった。
だが彼女は、あくまでも自分は足が縺れただけだったのだと言い張り、リシャールが盛られた毒の事も、自分とは関係ないと言い放つ。自分の背後には王妃やルルナレッタがついているとでも思っているのだろう。
このままでは埒が明かない。
だから私は彼女に現実を教えてあげる事にした。
私は彼女に語りかける。
「ねぇ、どうしてそんなに堂々としていられるの? こちらはもう、貴方の事は調べがついて全て分かっているのよ? 貴方は王妃様の義理の姉、元は伯爵夫人なんでしょう? その貴方が何故、王妃様の元ではなく離宮で、しかも下働きなんてしているのかしら? 教えて下さる?」
「…………」
彼女は何も答えない。まぁ、ここまでは想定内だ。
「それって誰が考えても可笑しいわよね? 疑われても仕方が無い状況に、今、貴方はいるの。そこまでは分かるわよね。でね、貴方にはリシャール殿下を毒殺しようとした疑いが掛かっているの。それだけじゃ無い。貴方は殿下を階段から突き落とそうとした。それはこの離宮にいた沢山の人達が見ているの。これだけの証拠が有ればね、貴方を王族への殺人未遂容疑で処刑出来るのよ?」
「…さっきから何度も言っています。私じゃ無い。毒なんて知らない! 証拠なんてないんでしょう? 階段での事だって、私は本当に足が縺れただけなんです! どうか信じて下さい!」
私が処刑と言う言葉を口にしたからか。彼女は少し顔を青ざめさせたが、それでも自分は何も知らない、関係ないと言い張った。
「そう…。残念ね。私ね、貴方にはとても腹が立っているのよ。だって貴方はリシャール殿下を1度ならず2度までも殺めようとした。でもね、私は貴方にも同情の余地はあると思っていたの。王妃様に頼まれたのでしょう? だけど貴方がそんな態度を取るなら、同情する必要は無いわね?」
私がそう言うと、彼女の表情は更に硬くなった。折れそうな心を必死に奮い立たせようとしている様に、私には見えた。
「貴方は王妃様が助けてくれると思っているのかも知れない。でもね、貴方が拘束されたと知ったら、王妃様が貴方との関係を認める事は絶対に無いわよ。これは断言出来る。だって認めたら最後、自分に火の粉が降りかかってくるもの。貴方は王妃様に利用されただけ。そして彼女に見殺しにされるの。でも、それだけじゃ無い…。王族を殺めようとして処刑された身内を持つ貴方の夫や子供、強いてはその家族達の未来はどうなるのかしら?」
遂に彼女の表情が崩れた。
「家族は! 家族は関係ない!!」
彼女は怒りを露わにしそう叫ぶと、私に掴み掛かろうとした。
それをアレクサンダーが止める。それでも私は言葉を繋ぐ事を辞めなかった。
挑発する様に私は彼女を追い詰めていく。
「でも、それが現実よ? そしてもう一度はっきり言うわ。王妃様も。それから貴方の姪だったかしら? ルルナレッタも貴方や貴方の家族を助ける事は絶対に無い!! 貴方はあの人に利用されただけ。大体彼女は、元は伯爵夫人の貴方を下女にしたのよ? そして今度は王子を殺せと言ったんでしょう? そんな人を何故庇うの? 少し考えれば分かるはず! 現実から目を背けるのは辞めなさい!!」
私が声を荒げると、彼女は絶望したのかその場にしゃがみ込んだ。
私はそんな彼女に問いかけた。
「ねぇ、何故? 何故こんな恐ろしい事を引き受けたの? 貴方にメリットなんて何も無いでしょう?」と…。
すると彼女は漸く重い口を開いた。
「家が没落してからずっと、義妹は私達家族に援助してくれていたのです。『王家には余りお金がないの。ごめんなさいね。私のせいなのに…。今、私が自由に出来るお金はこれだけしか無いの。辛抱してね』そう言っていつも申し訳なさそうに私達家族にお金をくれた。私達はそのお金で生活して来たのです。だから私は、義妹にはずっと恩を感じていました…」
その彼女の言葉を聞いてアレクサンダーは目を伏せた。
私はそれで良いと思った。
彼にも知って欲しかった。オスマンサスが…。彼の祖父がこの家族に何をしたのか…。
「今から3年前、義妹から誘いがありました。ルルがエドモンド殿下の側妃として後宮に入る事になった。彼女に仕えないか…と。彼女は私にとっては可愛い姪です。私は2つ返事で引き受けました。でも違った。王宮に入った私に義妹は突然、下女になれと言ったのです…」
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