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第25話
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「王妃はその事を知らない。でも、母はあれからずっと、彼女に負い目を感じて生きてきた。だが先日、公爵のお姉様ですっけ? 彼女がその後どうなったのか、俺は知りました。彼女はルクソール家の伝手で他国の侯爵家に後妻として迎え入れられたそうですね? お聞きしましたよ? 子にも恵まれて幸せに暮らしておられるそうじゃないですか…。とんでもない話だ」
リシャールの声が変わった。まるで吐き捨てる様なその声音に、先程まで余裕を見せていた公爵の顔がひくつく。
「とんでもないとはどう言う意味だ!?」
公爵が大声を上げ、リシャールに詰め寄った。姉を侮辱されたと感じたんだろう。
だがリシャールは平然としてそれに答える。
「だってそうでしょう? 婚約もしていない令嬢が男と関係を持った。やっている事は同じじゃないですか。それなのに王妃は実家が没落させられ、母も長い間、ずっと罪を背負って生きて来た。彼女1人が幸せになれるなんて俺は許せない…」
「君は一体何が言いたいんだ…? あの時、王妃と王妃の実家の伯爵家が馬鹿な野望を持ち騒がなければ、我が家とてあんな事はしなかった。たとえ子が出来たとしても、黙って姉の婚姻を待てば良かったのだよ」
だが、公爵のこの言葉にリシャールは食い付いた。
「本当にそうでしょうか? 公爵の仰った様にあの時伯爵家が黙って待ったとして、伯爵令嬢と言う身分を持つ女性が産んだ第1王子の存在を、貴方の父は、姉は良しとしましたか? あの時、伯爵家に野心があったのか無かったのか俺は知らない。だが結局、腹の子を守るためには、ああするしか道は無かったのは事実だ。母も、もし自分が王妃と同じ立場だったなら、俺を守る為に同じ行動をしたと言った」
「それは…」
公爵は何も言い返す事は出来なかった。
それが事実だったから…。
「今、貴方が言った事は公爵家が伯爵家に行った非道な行為に対する詭弁でしかない。そんな事は他の貴族達も皆んな分かっていますよ? ただオスマンサスの力を恐れて誰も何も言わなかった。それだけだ。だが、時代は変わった」
そう言ってリシャールは書類を1枚テーブルの上に置いた。
「この国の商業と流通を牛耳っていたオスマンサス公爵家。だが、これを見て下さい」
リシャールは先程、テーブルに置いた書類を指差す。
「今ではわが国に公爵家から入る税収はピーク時の3分の1以下だ。やり過ぎましたね。公爵」
この時点で、オスマンサス公爵からはもうすっかり余裕は消えていた。そこには焦りながら、示された書類をただ茫然と見つめる、1人の男がいた。
彼は気付いたのだろう。リシャールが言ったこの言葉の意味に…。
そしてリシャールは冷酷にその言葉を突き付けた。
「この程度の税収、いくらでも埋め合わせ出来ますよね? 例えば、そうだな。公爵家の爵位を取り上げ、領地を没収する…とか? 公爵家の領地だ。売れば相当な金になる。それを投資に回す。灌漑工事をし、小麦の生産量を上げる。国中から広く、新しい政策を募集し、有用だと思われる事業には惜しまず投資する。どうですか? 良いアイデアでしょう?」
「そんな…そんな理不尽な事できる訳がない!」
公爵は怒りのあまり震えながらテーブルを強く叩いた。
だがリシャールは怯む事は無い。
「出来ますよ? 王家ですからね。知っていますよね? 貴族の陞爵、降爵、廃爵は王家が決めるんですよ? では反対に聞きたい! ガーネットは伯爵家だ。だが、今やオスマンサスを凌ぐ税を国に納めてくれている。そんな伯爵家が他にありながら、他国に拠点を移し、満足な税も国に納めない様な公爵家などこの国に必要か!? 」
彼はそう言って言葉を荒げた。
「それに、理不尽だと言うのなら、最初に力にものを言わせ、伯爵家に理不尽を働いたのはどちらだ!? 廃爵の理由は…そうだな。スパイ容疑か良いか? これだけ他国で手広く商売をして来たんだ。皆、信じるでしょう? しかも、祖国からスパイ容疑をかけられ、爵位を失った家など他国が相手にするでしょうか? そうなればきっと公爵家は終わりだ」
最後にそう言い放ったリシャールを、公爵は絶望感の籠った瞳でみつめた。
「だが、それらは皆んな先代の公爵がやった事だ。貴方に罪はない。それにオスマンサスには妃殿下の妹が輿入れしている。俺も、ルクソールにまで恨まれたくないですからね。ですから話次第では助けてやらなくもない」
リシャールは突然言葉を柔らかくし、話を切り替えた。
「何だ? 何をすれば良い?」
すがる様にそう問うた公爵に、リシャールは答える。
「商会のわが国への回帰。それと国に公爵家の力を貸して下さい。俺は先程述べた政策を実現したいのです。そして政治基盤を整え、父に退位してもらう」
「…陛下に退位してもらう…?」
公爵はリシャールの言葉を繰り返した。
問いとも呼べないその言葉にリシャールが答える。
「惚けるのは辞めて下さい。貴方もルクソールも最初からそれを望んでおられたのでしょう?」と…。
リシャールの声が変わった。まるで吐き捨てる様なその声音に、先程まで余裕を見せていた公爵の顔がひくつく。
「とんでもないとはどう言う意味だ!?」
公爵が大声を上げ、リシャールに詰め寄った。姉を侮辱されたと感じたんだろう。
だがリシャールは平然としてそれに答える。
「だってそうでしょう? 婚約もしていない令嬢が男と関係を持った。やっている事は同じじゃないですか。それなのに王妃は実家が没落させられ、母も長い間、ずっと罪を背負って生きて来た。彼女1人が幸せになれるなんて俺は許せない…」
「君は一体何が言いたいんだ…? あの時、王妃と王妃の実家の伯爵家が馬鹿な野望を持ち騒がなければ、我が家とてあんな事はしなかった。たとえ子が出来たとしても、黙って姉の婚姻を待てば良かったのだよ」
だが、公爵のこの言葉にリシャールは食い付いた。
「本当にそうでしょうか? 公爵の仰った様にあの時伯爵家が黙って待ったとして、伯爵令嬢と言う身分を持つ女性が産んだ第1王子の存在を、貴方の父は、姉は良しとしましたか? あの時、伯爵家に野心があったのか無かったのか俺は知らない。だが結局、腹の子を守るためには、ああするしか道は無かったのは事実だ。母も、もし自分が王妃と同じ立場だったなら、俺を守る為に同じ行動をしたと言った」
「それは…」
公爵は何も言い返す事は出来なかった。
それが事実だったから…。
「今、貴方が言った事は公爵家が伯爵家に行った非道な行為に対する詭弁でしかない。そんな事は他の貴族達も皆んな分かっていますよ? ただオスマンサスの力を恐れて誰も何も言わなかった。それだけだ。だが、時代は変わった」
そう言ってリシャールは書類を1枚テーブルの上に置いた。
「この国の商業と流通を牛耳っていたオスマンサス公爵家。だが、これを見て下さい」
リシャールは先程、テーブルに置いた書類を指差す。
「今ではわが国に公爵家から入る税収はピーク時の3分の1以下だ。やり過ぎましたね。公爵」
この時点で、オスマンサス公爵からはもうすっかり余裕は消えていた。そこには焦りながら、示された書類をただ茫然と見つめる、1人の男がいた。
彼は気付いたのだろう。リシャールが言ったこの言葉の意味に…。
そしてリシャールは冷酷にその言葉を突き付けた。
「この程度の税収、いくらでも埋め合わせ出来ますよね? 例えば、そうだな。公爵家の爵位を取り上げ、領地を没収する…とか? 公爵家の領地だ。売れば相当な金になる。それを投資に回す。灌漑工事をし、小麦の生産量を上げる。国中から広く、新しい政策を募集し、有用だと思われる事業には惜しまず投資する。どうですか? 良いアイデアでしょう?」
「そんな…そんな理不尽な事できる訳がない!」
公爵は怒りのあまり震えながらテーブルを強く叩いた。
だがリシャールは怯む事は無い。
「出来ますよ? 王家ですからね。知っていますよね? 貴族の陞爵、降爵、廃爵は王家が決めるんですよ? では反対に聞きたい! ガーネットは伯爵家だ。だが、今やオスマンサスを凌ぐ税を国に納めてくれている。そんな伯爵家が他にありながら、他国に拠点を移し、満足な税も国に納めない様な公爵家などこの国に必要か!? 」
彼はそう言って言葉を荒げた。
「それに、理不尽だと言うのなら、最初に力にものを言わせ、伯爵家に理不尽を働いたのはどちらだ!? 廃爵の理由は…そうだな。スパイ容疑か良いか? これだけ他国で手広く商売をして来たんだ。皆、信じるでしょう? しかも、祖国からスパイ容疑をかけられ、爵位を失った家など他国が相手にするでしょうか? そうなればきっと公爵家は終わりだ」
最後にそう言い放ったリシャールを、公爵は絶望感の籠った瞳でみつめた。
「だが、それらは皆んな先代の公爵がやった事だ。貴方に罪はない。それにオスマンサスには妃殿下の妹が輿入れしている。俺も、ルクソールにまで恨まれたくないですからね。ですから話次第では助けてやらなくもない」
リシャールは突然言葉を柔らかくし、話を切り替えた。
「何だ? 何をすれば良い?」
すがる様にそう問うた公爵に、リシャールは答える。
「商会のわが国への回帰。それと国に公爵家の力を貸して下さい。俺は先程述べた政策を実現したいのです。そして政治基盤を整え、父に退位してもらう」
「…陛下に退位してもらう…?」
公爵はリシャールの言葉を繰り返した。
問いとも呼べないその言葉にリシャールが答える。
「惚けるのは辞めて下さい。貴方もルクソールも最初からそれを望んでおられたのでしょう?」と…。
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