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第23話 エドモンド2
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「最近では口五月蝿く私に意見して来る様になった。丁度良い、こうなった以上、あの女はもう用済みだ。離宮へでも移そう。なに、もう絞り取れるだけは絞り取った。これ以上、あの家からは何も出てはこんさ」
母の事件から暫く経った頃、その日、夜遅くまで母の看病をしていた僕は、自分の部屋へと戻る途中、父の部屋の前を通りかかった。
こんな夜遅い時間に人が通るなんて思ってもみなかったのだろう。父の部屋の扉が少しだけ開いていて、中から父と側近の話が漏れ聞こえてきた。
あの女?
用済み?
離宮?
それらの単語が耳に入り、気になった僕は、扉の影に隠れて2人の会話を盗み聞いた。
「ですが、あの様な条件をお飲みになって良かったのですか? ルクソールとオスマンサスが縁戚となれば王家にはとっては脅威でしかないでしょう?」
「仕方がないであろう? その条件を飲まねばルクソールは娘を嫁にはやらんと言うんだからな。だが、その娘さえ孕めばルクソールはもう逃げられまい。王家は安泰、もう金の心配などせずに済む。喜ばしい限りよ。そうすれば鬱陶しい2人の女は用済みになる。だが、それまではどちらの王子にもまだ利用価値はある。その母親である2人の女も臍を曲げぬよう、機嫌だけは伺わねばな」
「酷い言いようですな」
側近は笑いながら父の話に相槌をうつ。
鬱陶しい2人の女も用済み? 何の事だ?
だが、話の流れからそれは母達の事だろうと感じた。そして恐怖を覚える。
もし本当に用済みだと母達が父に此処を追い出されたらどうなるのだろう…と。
側妃には帰る家がある。でも母には…母には此処以外に生きる場所なんてないのに…。
そう考えると、その場に縫い付けられた様に足が動かなくなった。
父達の話は続く。
「王妃ももう少し己の部を弁えて行動しておれば、もう少し可愛げもあるものを。私に意見するとは身の程知らずも良い所だ。誰のせいで王家がこの様な窮地に陥ったと思っておるのか? ましてや、あの様な大それた事を仕出かす女など、怖うて側に置きとうもないわ」
父のこの言葉は、僕の考えを裏付けるものだった。
「全くですな。ですが問題はそのルクソールの娘です。噂ではかなり勝気なじゃじゃ馬のようですね」
「何、構わんさ。エドモンドには幼き頃より王家の為に一生尽くせと言い聞かせてある。王妃の望む通り、王太子にしてやるんだ。どんな娘が来ようと問題はない。 あいつは自分の役目を果たすだけだ」
え? 僕…!? この話から父がルクソールの娘と結婚させようとしているのは僕なのだと気付いた。
巫山戯るな! これじゃあまるで、僕は都合の良い種馬ではないか?
僕は怒りに震えた。
僕は部屋に押し入り、2人を殴りつけたい衝動を何とか抑え、その場所を後にした。
そして、もと来た廊下を戻った僕は、母の部屋へと舞い戻る。
眠っている母の胸には、剣の傷跡が生々しく夜着からでも透けて見えた。
僕はそっと母の手を握った。暖かい…。
母は僕を母の持つ全てをかけて2度も守ってくれた。
その母を父は邪魔者扱いしている。
僕はこの時、この先どんな事があろうとも母を守ると心に決めた。
それから直ぐ、あの夜の父の言葉通り、僕は王太子となり、ルクソールの娘を娶った。
そして、父がどう説得したのかは分からないが側妃は離宮へと移り、母は名実共に今は後宮の主人となり権勢を奮っている。
驚いた事に母は父の意図など、とっくに見抜いていた。彼女が嫁いで来ると、母は彼女に殊更強く当たった。だが、彼女も負けてはいなかった。彼女は僕が白い結婚を宣言した事を父に告げた。そして、これからも僕とは白い結婚を貫くと父に宣言したそうだ。
目論見が外れた形となった父は、母に激怒している。今、2人の仲は最悪だ。
だが、それだけでは終わらなかった。彼女は側妃に代わり、あの忌々しいリシャールと共に父に押し付けられた執務を次々にこなしながら、文官達の信頼を得ていった。
そして金と権力にものを言わせて、母に盾付き追い詰めていく。
母を悲しませる奴は誰であろうと許さない。僕はどんな事をしても母を守ろうと心に誓った。
母の事件から暫く経った頃、その日、夜遅くまで母の看病をしていた僕は、自分の部屋へと戻る途中、父の部屋の前を通りかかった。
こんな夜遅い時間に人が通るなんて思ってもみなかったのだろう。父の部屋の扉が少しだけ開いていて、中から父と側近の話が漏れ聞こえてきた。
あの女?
用済み?
離宮?
それらの単語が耳に入り、気になった僕は、扉の影に隠れて2人の会話を盗み聞いた。
「ですが、あの様な条件をお飲みになって良かったのですか? ルクソールとオスマンサスが縁戚となれば王家にはとっては脅威でしかないでしょう?」
「仕方がないであろう? その条件を飲まねばルクソールは娘を嫁にはやらんと言うんだからな。だが、その娘さえ孕めばルクソールはもう逃げられまい。王家は安泰、もう金の心配などせずに済む。喜ばしい限りよ。そうすれば鬱陶しい2人の女は用済みになる。だが、それまではどちらの王子にもまだ利用価値はある。その母親である2人の女も臍を曲げぬよう、機嫌だけは伺わねばな」
「酷い言いようですな」
側近は笑いながら父の話に相槌をうつ。
鬱陶しい2人の女も用済み? 何の事だ?
だが、話の流れからそれは母達の事だろうと感じた。そして恐怖を覚える。
もし本当に用済みだと母達が父に此処を追い出されたらどうなるのだろう…と。
側妃には帰る家がある。でも母には…母には此処以外に生きる場所なんてないのに…。
そう考えると、その場に縫い付けられた様に足が動かなくなった。
父達の話は続く。
「王妃ももう少し己の部を弁えて行動しておれば、もう少し可愛げもあるものを。私に意見するとは身の程知らずも良い所だ。誰のせいで王家がこの様な窮地に陥ったと思っておるのか? ましてや、あの様な大それた事を仕出かす女など、怖うて側に置きとうもないわ」
父のこの言葉は、僕の考えを裏付けるものだった。
「全くですな。ですが問題はそのルクソールの娘です。噂ではかなり勝気なじゃじゃ馬のようですね」
「何、構わんさ。エドモンドには幼き頃より王家の為に一生尽くせと言い聞かせてある。王妃の望む通り、王太子にしてやるんだ。どんな娘が来ようと問題はない。 あいつは自分の役目を果たすだけだ」
え? 僕…!? この話から父がルクソールの娘と結婚させようとしているのは僕なのだと気付いた。
巫山戯るな! これじゃあまるで、僕は都合の良い種馬ではないか?
僕は怒りに震えた。
僕は部屋に押し入り、2人を殴りつけたい衝動を何とか抑え、その場所を後にした。
そして、もと来た廊下を戻った僕は、母の部屋へと舞い戻る。
眠っている母の胸には、剣の傷跡が生々しく夜着からでも透けて見えた。
僕はそっと母の手を握った。暖かい…。
母は僕を母の持つ全てをかけて2度も守ってくれた。
その母を父は邪魔者扱いしている。
僕はこの時、この先どんな事があろうとも母を守ると心に決めた。
それから直ぐ、あの夜の父の言葉通り、僕は王太子となり、ルクソールの娘を娶った。
そして、父がどう説得したのかは分からないが側妃は離宮へと移り、母は名実共に今は後宮の主人となり権勢を奮っている。
驚いた事に母は父の意図など、とっくに見抜いていた。彼女が嫁いで来ると、母は彼女に殊更強く当たった。だが、彼女も負けてはいなかった。彼女は僕が白い結婚を宣言した事を父に告げた。そして、これからも僕とは白い結婚を貫くと父に宣言したそうだ。
目論見が外れた形となった父は、母に激怒している。今、2人の仲は最悪だ。
だが、それだけでは終わらなかった。彼女は側妃に代わり、あの忌々しいリシャールと共に父に押し付けられた執務を次々にこなしながら、文官達の信頼を得ていった。
そして金と権力にものを言わせて、母に盾付き追い詰めていく。
母を悲しませる奴は誰であろうと許さない。僕はどんな事をしても母を守ろうと心に誓った。
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