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第20話
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今まで王妃は全く執務に携わって来なかった。何故なら側妃がいて全て彼女がこなしていたから。だから王妃は王家に金が無い事は知っていても、今、どれ程王家が深刻な状況なのか全く理解していない。
反してエドモンドには、毎日書類の決済を仰いでいる。そして私は必ず、決済を仰ぐ書類については、きちんと彼に説明をしている。此方が勝手にやった事だとあらぬ誤解を受けない為に、字を読むことが苦手なエドモンドが理解出来る様、それはもう掻い摘んで懇切丁寧に説明してから決済を貰うのだ。
だから彼ならば、私の話が伝わると信じたい…。
「それでその条件とはなんだろうか?」
歪み合う私と王妃の間に立ち、2人からの視線を受けとめながらエドモンドは私に問いかけた。
「簡単な事ですわ。これからはこんな下らない嫌がらせをする為に私を呼び出さない様にと、王妃様に言い聞かせて頂きたいのです。今、私はとても忙しいのです。貴方の言葉なら王妃様はお聞きになるでしょう?」
私のこの言葉にエドモンドの後ろにいる王妃が噛み付いた。
「嫌がらせとは何ですか!? それに言い聞かせるなんて…。私は子供ではありませんよ!」
いやいや。子供の方がずっとやって良い事と悪い事の区別ついてるから…。
私は心の中で悪態を吐きながら、王妃の怒鳴り声を聞き流し、エドモンドに言葉を繋ぐ。
あくまでもこれは、私とエドモンドの間の話しだと彼女に知らしめる様に…。
「先程申しました通り、私は明日実家へと戻ります。ですがそれは勿論、このパンを父に届ける為ではありません。先日殿下にもご報告しました通り、小麦の生産量を上げる為に行う治水工事の細かい打ち合わせをするのが目的です。陛下にご相談致しましたところ、全てを私にお任せ下さいましたので…」
そう…陛下は説明する私の話しすらまともには聞かず、相変わらずたった一言『任せる』と言っただけだった。
これでは今まで側妃も苦労しただろう…。
「それ以外にも民からは日夜、沢山の要望が届けられます。反して王家は民の生活に直結する橋の改修工事でさえ、4年もの間放置してきたのです。このままでは民の王家に対する不満は溜まるばかり。私は日夜その対応に追われているのです」
「…それは…分かっている…」
例え数日とはいえ、執務室に通っていたのだ。私のこなす仕事量が分かっているエドモンドはそう言って申し訳無さそうに視線を落とした。
「でしたらお願いします。私には時間がないのです。王妃様が何故、執拗にこの様な事をされるのかは知りませんが、もう私には関わらない様…「貴方があの女の息子を王位につけようとするからじゃない!!」」
すると突然、私の言葉を遮る様に王妃が叫んだ。
「え? どう言う事ですか?」
そう声を上げたのはルルナレッタだった。
「その女と実家のルクソールが金と権力にものを言わせて陛下に迫ったのよ! エドモンドの次の王はリシャールかその子供に継がせる様にってね!」
「そんな…。では私と殿下との間に子が出来たらその子はどうなるのです!? 王にはなれないと言う事ですか!?」
私達から少し離れた場所で此方を見ていたルルナレッタは、途端に悲痛な表情を浮かべるとそう叫んだ。
「そんな…酷い…。では、私は何の為に殿下の正妻の座を彼女に譲ったの…」
ルルナレッタはそう言って呆然と立ち尽くした。
その言葉で分かった。彼女はやはり国母の座を狙っていたのだ。だいたい何故、正妃である私がいるにも関わらず側妃である自分の産む子が王にはなれないと嘆くのか?
理由は簡単だ。彼女がエドモンドの自分への恋心を利用して、彼に私との白い結婚を迫ったからだ。
しかも彼女は、自分の目的を果たす為にエドモンドを私に譲ったと言う。冗談ではない! エドモンドは貴方の持ち物か? 不敬にも程がある。
そのくせ、自分は目的の為に散々私を利用し、目的が果たせないとなると酷いと罵る。
では聞きたい。貴方のした事は酷くはないのか? 初夜の床、いきなりエドモンドからお前とは同衾しない。子を持つ事はないと告げられ、別れさせると約束したはずの貴方を側妃として娶ると聞かされたあの時の私の気持ちが貴方に分かるのか…?
私とエドモンドの結婚は政略以外の何者でもないけれど、それでも夫となったエドモンドから初夜にその言葉を掛けられた時、悲しく辛かった。
だが、王妃は更にルルナレッタに追い打ちをかけた。
「そうよ。しかもその女はエドモンドが貴方を側妃として迎える為に条件をつけたのよ。貴方とエドモンドの間に子は成さぬようにと…」
「そんな…」
ルルナレッタは途端に目に涙を浮かべた。その姿が庇護欲を煽るのかエドモンドが辛そうに目を伏せる。
だが私には彼女のその態度が酷く自分勝手に思えた。私には白い結婚を求め、子を成す事は許さず、自分はそれを嘆くのか…と。
それにその話は陛下がエドモンドを説得し、彼も了承した上でルルナレッタを娶ったと聞いていた。
だから私も当然、エドモンドは彼女にきちんと話をしていると思いこんでいた。
「まさか…何も聞いていなかった…の?」
そう呟いた私を彼女は憎悪の籠った瞳で見つめた。
反してエドモンドには、毎日書類の決済を仰いでいる。そして私は必ず、決済を仰ぐ書類については、きちんと彼に説明をしている。此方が勝手にやった事だとあらぬ誤解を受けない為に、字を読むことが苦手なエドモンドが理解出来る様、それはもう掻い摘んで懇切丁寧に説明してから決済を貰うのだ。
だから彼ならば、私の話が伝わると信じたい…。
「それでその条件とはなんだろうか?」
歪み合う私と王妃の間に立ち、2人からの視線を受けとめながらエドモンドは私に問いかけた。
「簡単な事ですわ。これからはこんな下らない嫌がらせをする為に私を呼び出さない様にと、王妃様に言い聞かせて頂きたいのです。今、私はとても忙しいのです。貴方の言葉なら王妃様はお聞きになるでしょう?」
私のこの言葉にエドモンドの後ろにいる王妃が噛み付いた。
「嫌がらせとは何ですか!? それに言い聞かせるなんて…。私は子供ではありませんよ!」
いやいや。子供の方がずっとやって良い事と悪い事の区別ついてるから…。
私は心の中で悪態を吐きながら、王妃の怒鳴り声を聞き流し、エドモンドに言葉を繋ぐ。
あくまでもこれは、私とエドモンドの間の話しだと彼女に知らしめる様に…。
「先程申しました通り、私は明日実家へと戻ります。ですがそれは勿論、このパンを父に届ける為ではありません。先日殿下にもご報告しました通り、小麦の生産量を上げる為に行う治水工事の細かい打ち合わせをするのが目的です。陛下にご相談致しましたところ、全てを私にお任せ下さいましたので…」
そう…陛下は説明する私の話しすらまともには聞かず、相変わらずたった一言『任せる』と言っただけだった。
これでは今まで側妃も苦労しただろう…。
「それ以外にも民からは日夜、沢山の要望が届けられます。反して王家は民の生活に直結する橋の改修工事でさえ、4年もの間放置してきたのです。このままでは民の王家に対する不満は溜まるばかり。私は日夜その対応に追われているのです」
「…それは…分かっている…」
例え数日とはいえ、執務室に通っていたのだ。私のこなす仕事量が分かっているエドモンドはそう言って申し訳無さそうに視線を落とした。
「でしたらお願いします。私には時間がないのです。王妃様が何故、執拗にこの様な事をされるのかは知りませんが、もう私には関わらない様…「貴方があの女の息子を王位につけようとするからじゃない!!」」
すると突然、私の言葉を遮る様に王妃が叫んだ。
「え? どう言う事ですか?」
そう声を上げたのはルルナレッタだった。
「その女と実家のルクソールが金と権力にものを言わせて陛下に迫ったのよ! エドモンドの次の王はリシャールかその子供に継がせる様にってね!」
「そんな…。では私と殿下との間に子が出来たらその子はどうなるのです!? 王にはなれないと言う事ですか!?」
私達から少し離れた場所で此方を見ていたルルナレッタは、途端に悲痛な表情を浮かべるとそう叫んだ。
「そんな…酷い…。では、私は何の為に殿下の正妻の座を彼女に譲ったの…」
ルルナレッタはそう言って呆然と立ち尽くした。
その言葉で分かった。彼女はやはり国母の座を狙っていたのだ。だいたい何故、正妃である私がいるにも関わらず側妃である自分の産む子が王にはなれないと嘆くのか?
理由は簡単だ。彼女がエドモンドの自分への恋心を利用して、彼に私との白い結婚を迫ったからだ。
しかも彼女は、自分の目的を果たす為にエドモンドを私に譲ったと言う。冗談ではない! エドモンドは貴方の持ち物か? 不敬にも程がある。
そのくせ、自分は目的の為に散々私を利用し、目的が果たせないとなると酷いと罵る。
では聞きたい。貴方のした事は酷くはないのか? 初夜の床、いきなりエドモンドからお前とは同衾しない。子を持つ事はないと告げられ、別れさせると約束したはずの貴方を側妃として娶ると聞かされたあの時の私の気持ちが貴方に分かるのか…?
私とエドモンドの結婚は政略以外の何者でもないけれど、それでも夫となったエドモンドから初夜にその言葉を掛けられた時、悲しく辛かった。
だが、王妃は更にルルナレッタに追い打ちをかけた。
「そうよ。しかもその女はエドモンドが貴方を側妃として迎える為に条件をつけたのよ。貴方とエドモンドの間に子は成さぬようにと…」
「そんな…」
ルルナレッタは途端に目に涙を浮かべた。その姿が庇護欲を煽るのかエドモンドが辛そうに目を伏せる。
だが私には彼女のその態度が酷く自分勝手に思えた。私には白い結婚を求め、子を成す事は許さず、自分はそれを嘆くのか…と。
それにその話は陛下がエドモンドを説得し、彼も了承した上でルルナレッタを娶ったと聞いていた。
だから私も当然、エドモンドは彼女にきちんと話をしていると思いこんでいた。
「まさか…何も聞いていなかった…の?」
そう呟いた私を彼女は憎悪の籠った瞳で見つめた。
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