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第18話
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執事は思った通り、その席の椅子を引いた。
『これからこんな争いはいつでも起こると考えよ。お前はルクソールの娘。どんな事があっても負けてはならん』
お父様、これは戦うべき時ですよね? あーあ。出来れば穏便に過ごしたかったのにな…。私はため息を吐いた。
同じ席でも前回と今回では意味合いが全く違う。何故ならここにルルナレッタがいるからだ。
前回は王妃とエドモンドと私。私は1番の末席に案内されても文句の言えない立場だった。あの時は明らかに王妃が自分の立場を誇示する為にした事。でも今回は明らかに違う。
王妃は王太子妃である私をルルナレッタより下座の席に案内したのだ。しかも今日は私と彼女との初顔合わせの席だ。つまり私へのこの扱いは、王妃はこれから私よりルルナレッタをエドモンドの妃として扱うと宣言した様なもの。流石にこれは黙ってはいられない。
「王妃様、これは一体どう言う事でございましょう? 何故正妃である私が、側妃であるルルナレッタ様より末席に案内されているのですか? 何かのお間違えでは?」
私は王妃に考えを改める余地を与えた。案内された席には座らず、その隣りに立ち、王妃を見据える。
でも、彼女にその気はない様だ。
「あら、そんな目くじらを立てないで。だってここはルルナレッタの初顔合わせの席なのよ。彼女が新しくエドモンドに嫁いで来てくれたお祝いも兼ねているの。だから今日の主役はルルナレッタでしょう?」
王妃は悪びれる様子も無く、笑顔でそう言う。だから私に1番の末席に甘んじろと?
ルルナレッタが主役だと言うのなら、何故私1人を自分達とは離れた末席に案内し、自分は1番の上座に座っているのか?
「それに今日の晩餐の主催者は私です。席を決めるのはホストの役目。 貴方は大人しく私の決めた席に座れば良いのよ!」
不満を唱え、なかなか席に着こうとしない私に王妃は声を荒げた。なかなかに高圧的である。
「そうですか。では失礼しますわ」
私はそう言って与えられた席に着き、態とらしく王妃に謝った。揚げ足を取るのが得意なのは貴方だけじゃないのよ?
散々ある事ない事言われて来たのだ。私も少し位嫌がらせしてもばちは当たらないはず。
「不勉強で申し訳ありません。そうだったのですね? ホストは身分差に関係なくゲストの席を決められる…。なる程、勉強になりますわ。折角ですから、実家の公爵家の傘下の夫人や令嬢達に教えて差し上げて宜しいかしら? きっと皆様その様なこと、ご存知ないと思いますの」と。
「…え?」
途端に王妃は青ざめた。本当に分かりやすい。当たり前だ。こんな事が許されるなら、これから貴族が執り行う茶会や晩餐会で、王妃である彼女が末席に案内されても文句は言えないのだから…。
「そうだわ! オスマンサス家の奥様にも教えて差し上げなければ。旦那様は国1番の商会を経営なさっているでしょう? ですから奥様はとてもお顔が広くていらっしゃるんです。安心して下さいな、王妃様。直ぐに国中の貴族夫人に広まりますわ」
王妃とは因縁のあるオスマンサス家だ。そして今は私の妹の嫁ぎ先。ここで試しにチラッと名前を出してみる。
すると彼女は突然慌てて言い訳を始めた。余程かの家が怖いのだろう。何しろ実家、没落させられたもんね?
「…いつも…と言うわけではないわ。今回は…ルルナレッタの歓迎の意味も兼ねていたから…特別よ…そう…特別」
動揺か怒りか…?
王妃の体も声も震えていた。
「まぁ、そうなんですね? 特別…。私、もう少しで恥をかくところでしたわ。では、この様な事は今回限りだと言う事で宜しいですわね?」
私は王妃に確認する振りをして、言葉に滲ませた。次はないと…。
「さぁ、腹が減りましたね。晩餐を始めましょうか?」
見兼ねてエドモンドが王妃を庇う様に声を上げた。
「ええ…。そうね」
王妃がほっとした様な顔をしたので、私はこれで彼女の嫌がらせは終わったのだと思っていた。
でも…。
私のテーブルに運ばれたパンはカビで真っ青に覆われていた。
「貴方、以前王宮の食事を褒めてくれたでしょう? 今日はルルナレッタのお祝い。だからもっと貴方には喜んで貰える様に特別な料理をご用意したの! さぁ、食べて下さいな」
王妃は嬉々として私に告げる。
そう…。ここまでやるのね。
何をするか分からない怖さ…。
この時、私はリシャールの言った言葉を思い出した。
『これからこんな争いはいつでも起こると考えよ。お前はルクソールの娘。どんな事があっても負けてはならん』
お父様、これは戦うべき時ですよね? あーあ。出来れば穏便に過ごしたかったのにな…。私はため息を吐いた。
同じ席でも前回と今回では意味合いが全く違う。何故ならここにルルナレッタがいるからだ。
前回は王妃とエドモンドと私。私は1番の末席に案内されても文句の言えない立場だった。あの時は明らかに王妃が自分の立場を誇示する為にした事。でも今回は明らかに違う。
王妃は王太子妃である私をルルナレッタより下座の席に案内したのだ。しかも今日は私と彼女との初顔合わせの席だ。つまり私へのこの扱いは、王妃はこれから私よりルルナレッタをエドモンドの妃として扱うと宣言した様なもの。流石にこれは黙ってはいられない。
「王妃様、これは一体どう言う事でございましょう? 何故正妃である私が、側妃であるルルナレッタ様より末席に案内されているのですか? 何かのお間違えでは?」
私は王妃に考えを改める余地を与えた。案内された席には座らず、その隣りに立ち、王妃を見据える。
でも、彼女にその気はない様だ。
「あら、そんな目くじらを立てないで。だってここはルルナレッタの初顔合わせの席なのよ。彼女が新しくエドモンドに嫁いで来てくれたお祝いも兼ねているの。だから今日の主役はルルナレッタでしょう?」
王妃は悪びれる様子も無く、笑顔でそう言う。だから私に1番の末席に甘んじろと?
ルルナレッタが主役だと言うのなら、何故私1人を自分達とは離れた末席に案内し、自分は1番の上座に座っているのか?
「それに今日の晩餐の主催者は私です。席を決めるのはホストの役目。 貴方は大人しく私の決めた席に座れば良いのよ!」
不満を唱え、なかなか席に着こうとしない私に王妃は声を荒げた。なかなかに高圧的である。
「そうですか。では失礼しますわ」
私はそう言って与えられた席に着き、態とらしく王妃に謝った。揚げ足を取るのが得意なのは貴方だけじゃないのよ?
散々ある事ない事言われて来たのだ。私も少し位嫌がらせしてもばちは当たらないはず。
「不勉強で申し訳ありません。そうだったのですね? ホストは身分差に関係なくゲストの席を決められる…。なる程、勉強になりますわ。折角ですから、実家の公爵家の傘下の夫人や令嬢達に教えて差し上げて宜しいかしら? きっと皆様その様なこと、ご存知ないと思いますの」と。
「…え?」
途端に王妃は青ざめた。本当に分かりやすい。当たり前だ。こんな事が許されるなら、これから貴族が執り行う茶会や晩餐会で、王妃である彼女が末席に案内されても文句は言えないのだから…。
「そうだわ! オスマンサス家の奥様にも教えて差し上げなければ。旦那様は国1番の商会を経営なさっているでしょう? ですから奥様はとてもお顔が広くていらっしゃるんです。安心して下さいな、王妃様。直ぐに国中の貴族夫人に広まりますわ」
王妃とは因縁のあるオスマンサス家だ。そして今は私の妹の嫁ぎ先。ここで試しにチラッと名前を出してみる。
すると彼女は突然慌てて言い訳を始めた。余程かの家が怖いのだろう。何しろ実家、没落させられたもんね?
「…いつも…と言うわけではないわ。今回は…ルルナレッタの歓迎の意味も兼ねていたから…特別よ…そう…特別」
動揺か怒りか…?
王妃の体も声も震えていた。
「まぁ、そうなんですね? 特別…。私、もう少しで恥をかくところでしたわ。では、この様な事は今回限りだと言う事で宜しいですわね?」
私は王妃に確認する振りをして、言葉に滲ませた。次はないと…。
「さぁ、腹が減りましたね。晩餐を始めましょうか?」
見兼ねてエドモンドが王妃を庇う様に声を上げた。
「ええ…。そうね」
王妃がほっとした様な顔をしたので、私はこれで彼女の嫌がらせは終わったのだと思っていた。
でも…。
私のテーブルに運ばれたパンはカビで真っ青に覆われていた。
「貴方、以前王宮の食事を褒めてくれたでしょう? 今日はルルナレッタのお祝い。だからもっと貴方には喜んで貰える様に特別な料理をご用意したの! さぁ、食べて下さいな」
王妃は嬉々として私に告げる。
そう…。ここまでやるのね。
何をするか分からない怖さ…。
この時、私はリシャールの言った言葉を思い出した。
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