15 / 38
第15話
しおりを挟む
呼びもしないのに執務室に現れたエドモンドを見て思い出した。
そういえばあの時、陛下が王妃に言っていたな。『エドモンドに執務を少しずつでもやらせろ。これは命令だ』って。
あの時は盛大に首を横に振っていた王妃だったが、流石に今の状況に危機感を抱いたのだろう。
まぁ、だからと言って勿論、自分は来ない。今、私がやってるのは殆どが王妃の仕事なんだけどね。
さて、突然執務室にやって来た2人の王子だが、そのやる気にはあまりにも大きな差があった。
初日、バーグが2人に書類を渡しそれぞれに決済を求めた。先に終えたのは予想に反して、エドモンドだった。ふとリシャールを見ると、書類を読みながら文官達と身振り手振りしながら何やら話し込んでいる。
バーグは次の書類をエドモンドに渡した。先程の書類より分厚いにも関わらず、先程より早く決済されて戻って来た。
流石に可笑しい。
「エドモンド殿下。そこに何が書かれていました? 私にご教授くださいな」
私が尋ねると分かり易く目が泳ぐ。
「もしや読まれていないのですか?」
するとエドモンドはあり得ない様な言い訳をした。
「僕は文字を読むと頭が痛くなるんだ!」
は? 耳を疑った。
周りの文官達も苦虫を噛み潰したような顔をして、エドモンドを見ている。
「…では今まで私が殿下にお持ちしていた書類の確認は、どうされていたのです?」
それでも相手は王太子だ。私は冷静に問い質す。すると…
「あれはお前達が1度ちゃんと確認したんだろ? だから問題ないと思ってサインした」
そう答える。
「つまり、確認もせずにサインだけして此方へ戻していた…と?」
「…あぁ…」
彼は不貞腐れた様な態度でぶっきらぼうに返事をした。
「僕だってやりたくてやっているんじゃ無い! 父上に押し付けられたんだ!」
エドモンドの言葉には流石に腹が立った。
確かに怪しいとは思っていた。だからやっぱりなとは思う。でも、疑惑の段階と実際に認められるのとは訳が違う。
この国には金が無い。だからと言って陛下に訴えてみても、彼はお前達に任せるとしか言わない。側妃がいた頃とまるで同じ状況なのだ。挙句の果てに陛下は、エドモンドが立太子して王太子と言う存在が出来ると、予算の決済までエドモンドに丸投げしたらしい。
これの何処が王なのか…? そして陛下から任されたエドモンドも実際に一緒に仕事をしてみると、やる気のかけらも見つけられなかった。
私やバーグを初めとする文官達は、限られた予算の中で一つでも多くの民からの要望に答えようと日夜頭を悩ませながら資金繰りをし、必死の思いで決済書類を作っていると言うのに……だ。
文官達も私と同じ気持ちなのだろう。先程とは違い鋭く侮蔑の籠った目で彼を見た。中には血が滲みそうな程拳を強く握り締めている者もいる。
このままエドモンドが此処にいては文官達の志気に関わる。
そう判断した私は、怒りを押し殺し出来るだけ平穏を保ちながらエドモンドに告げた。
「それ程嫌なら此処は私達にお任せ下さいませ。殿下には今まで通り決済だけお願いいたしますわ」
「本当か!?」
エドモンドは私の言葉に満面の笑みを浮かべた。
「では、後は頼んだ」
それでも彼は悪いとは思っているのか、文官達にそう声をかけ、そそくさと立ち去った。
その姿を見て皆、呆れた様にエドモンドが出て行った扉を見つめる。
「あれが王太子とは、この国は大丈夫なのか?」
リシャールがぼそっと呟いた。
「それを言われると耳が痛いわ」
リシャールの言葉に私は答えた。エドモンドが王太子になれたのは、私が嫁ぎ彼が協力な後ろ盾を得たからに他ならない。
「いや…そう言う意味じゃ無いんだ…すまない…」
リシャールはバツが悪そうに何故か謝罪した。
「いえ、私の方こそ…。気にしないで」
私達は何故かそう言って互いに謝り合いながら執務を続けた。
ところがである。これが王妃の逆鱗に触れた様だ。翌日、王妃に呼び出された私は彼女から叱責を受けた。
「あなた、エドモンドを執務室から追い出したらしいわね?」
「いえ、殿下ご自身がやりたく無いと仰ったのでお帰り願ったのです」
「たとえそれが事実だとしても、あの子がやる気を出す様に導くのが妃たる貴方の役目でしょう? あの子は軈てこの国の王になるのですよ? それでは困ります」
勝手な言い分だ。妃の一番の役割である子を産み育てる事を私から奪った貴方が、こんな時だけ私を妃と呼ぶのか…?
腹が立ってつい言い返してしまった。
「ですが子を導くのは母親である王妃様のお役目ではないのですか?」と…。
するとこの日から、王妃の私への嫌がらせが急加速する…。
そういえばあの時、陛下が王妃に言っていたな。『エドモンドに執務を少しずつでもやらせろ。これは命令だ』って。
あの時は盛大に首を横に振っていた王妃だったが、流石に今の状況に危機感を抱いたのだろう。
まぁ、だからと言って勿論、自分は来ない。今、私がやってるのは殆どが王妃の仕事なんだけどね。
さて、突然執務室にやって来た2人の王子だが、そのやる気にはあまりにも大きな差があった。
初日、バーグが2人に書類を渡しそれぞれに決済を求めた。先に終えたのは予想に反して、エドモンドだった。ふとリシャールを見ると、書類を読みながら文官達と身振り手振りしながら何やら話し込んでいる。
バーグは次の書類をエドモンドに渡した。先程の書類より分厚いにも関わらず、先程より早く決済されて戻って来た。
流石に可笑しい。
「エドモンド殿下。そこに何が書かれていました? 私にご教授くださいな」
私が尋ねると分かり易く目が泳ぐ。
「もしや読まれていないのですか?」
するとエドモンドはあり得ない様な言い訳をした。
「僕は文字を読むと頭が痛くなるんだ!」
は? 耳を疑った。
周りの文官達も苦虫を噛み潰したような顔をして、エドモンドを見ている。
「…では今まで私が殿下にお持ちしていた書類の確認は、どうされていたのです?」
それでも相手は王太子だ。私は冷静に問い質す。すると…
「あれはお前達が1度ちゃんと確認したんだろ? だから問題ないと思ってサインした」
そう答える。
「つまり、確認もせずにサインだけして此方へ戻していた…と?」
「…あぁ…」
彼は不貞腐れた様な態度でぶっきらぼうに返事をした。
「僕だってやりたくてやっているんじゃ無い! 父上に押し付けられたんだ!」
エドモンドの言葉には流石に腹が立った。
確かに怪しいとは思っていた。だからやっぱりなとは思う。でも、疑惑の段階と実際に認められるのとは訳が違う。
この国には金が無い。だからと言って陛下に訴えてみても、彼はお前達に任せるとしか言わない。側妃がいた頃とまるで同じ状況なのだ。挙句の果てに陛下は、エドモンドが立太子して王太子と言う存在が出来ると、予算の決済までエドモンドに丸投げしたらしい。
これの何処が王なのか…? そして陛下から任されたエドモンドも実際に一緒に仕事をしてみると、やる気のかけらも見つけられなかった。
私やバーグを初めとする文官達は、限られた予算の中で一つでも多くの民からの要望に答えようと日夜頭を悩ませながら資金繰りをし、必死の思いで決済書類を作っていると言うのに……だ。
文官達も私と同じ気持ちなのだろう。先程とは違い鋭く侮蔑の籠った目で彼を見た。中には血が滲みそうな程拳を強く握り締めている者もいる。
このままエドモンドが此処にいては文官達の志気に関わる。
そう判断した私は、怒りを押し殺し出来るだけ平穏を保ちながらエドモンドに告げた。
「それ程嫌なら此処は私達にお任せ下さいませ。殿下には今まで通り決済だけお願いいたしますわ」
「本当か!?」
エドモンドは私の言葉に満面の笑みを浮かべた。
「では、後は頼んだ」
それでも彼は悪いとは思っているのか、文官達にそう声をかけ、そそくさと立ち去った。
その姿を見て皆、呆れた様にエドモンドが出て行った扉を見つめる。
「あれが王太子とは、この国は大丈夫なのか?」
リシャールがぼそっと呟いた。
「それを言われると耳が痛いわ」
リシャールの言葉に私は答えた。エドモンドが王太子になれたのは、私が嫁ぎ彼が協力な後ろ盾を得たからに他ならない。
「いや…そう言う意味じゃ無いんだ…すまない…」
リシャールはバツが悪そうに何故か謝罪した。
「いえ、私の方こそ…。気にしないで」
私達は何故かそう言って互いに謝り合いながら執務を続けた。
ところがである。これが王妃の逆鱗に触れた様だ。翌日、王妃に呼び出された私は彼女から叱責を受けた。
「あなた、エドモンドを執務室から追い出したらしいわね?」
「いえ、殿下ご自身がやりたく無いと仰ったのでお帰り願ったのです」
「たとえそれが事実だとしても、あの子がやる気を出す様に導くのが妃たる貴方の役目でしょう? あの子は軈てこの国の王になるのですよ? それでは困ります」
勝手な言い分だ。妃の一番の役割である子を産み育てる事を私から奪った貴方が、こんな時だけ私を妃と呼ぶのか…?
腹が立ってつい言い返してしまった。
「ですが子を導くのは母親である王妃様のお役目ではないのですか?」と…。
するとこの日から、王妃の私への嫌がらせが急加速する…。
2,754
お気に入りに追加
4,435
あなたにおすすめの小説
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
ごめんなさい、お淑やかじゃないんです。
ましろ
恋愛
「私には他に愛する女性がいる。だから君は形だけの妻だ。抱く気など無い」
初夜の場に現れた途端、旦那様から信じられない言葉が冷たく吐き捨てられた。
「なるほど。これは結婚詐欺だと言うことですね!」
「……は?」
自分の愛人の為の政略結婚のつもりが、結婚した妻はまったく言う事を聞かない女性だった!
「え、政略?それなら最初に条件を提示してしかるべきでしょう?後出しでその様なことを言い出すのは詐欺の手口ですよ」
「ちなみに実家への愛は欠片もないので、経済的に追い込んでも私は何も困りません」
口を開けば生意気な事ばかり。
この結婚、どうなる?
✱基本ご都合主義。ゆるふわ設定。
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
王妃だって有休が欲しい!~夫の浮気が発覚したので休暇申請させていただきます~
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
【書籍発売記念!】
1/7の書籍化デビューを記念いたしまして、新作を投稿いたします。
全9話 完結まで一挙公開!
「――そう、夫は浮気をしていたのね」
マーガレットは夫に長年尽くし、国を発展させてきた真の功労者だった。
その報いがまさかの“夫の浮気疑惑”ですって!?貞淑な王妃として我慢を重ねてきた彼女も、今回ばかりはブチ切れた。
――愛されたかったけど、無理なら距離を置きましょう。
「わたくし、実家に帰らせていただきます」
何事かと驚く夫を尻目に、マーガレットは侍女のエメルダだけを連れて王城を出た。
だが目指すは実家ではなく、温泉地で有名な田舎町だった。
慰安旅行を楽しむマーガレットたちだったが、彼女らに忍び寄る影が現れて――。
1/6中に完結まで公開予定です。
小説家になろう様でも投稿済み。
表紙はノーコピーライトガール様より
旦那様に離縁をつきつけたら
cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。
仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。
突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。
我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。
※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。
※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる