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第10話
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「馬鹿にしている? それは王家の方で御座いましょう? 我が家はこの婚姻を結ぶ際、ルルナレッタ様の事はお聞き致しましたわ。殿下と彼女が恋仲である事は、学院中の誰もが知っておりましたから。陛下はその時お約束になったではありませんか? 2人は別れさせると…。それがいざ嫁いでみれば、王家は般例を破ってまでもルルナレッタ様を側妃にお迎えされると言う…。これは明らかにルクソールの顔に泥を塗る行為ですわ。父が怒るのも無理の無い事だと思いますが、いかがでしょう!?」
「…う…。それは…」
私が語気を強めて反論すると、陛下と王妃は少し狼狽え始めた。
当たり前だ。明らかに非は婚姻を結ぶ際の約束事を反故にした王家にある。
これを機会にと私は一気に畳み掛けた。
「陛下にお聞きしたい。寧ろ我が家がそれを飲むとでも思っておられたのですか? もしや嫁いだ後、直ぐに離縁となれば私の醜聞になる。ならば何をしても許されるとでも思われた? だとしたらそれはとても愚かな行為です!」
「愚か…」
陛下は私の言葉を繰り返し呆然としている。バカ、詐欺、愚か…。一国の王に向けるには余りにも無礼な言葉だ。だが、ここまで言われてやっと陛下は我が家の怒りに気付いたようだ。
「陛下と王妃様は過去オスマンサスの顔に泥を塗り、王家とオスマンサスは今や絶縁状態です。今の王家の窮状は全てそれに起因すると言う事はお分かりですよね? その上で更に我が家とも争うおつもりですか? 陛下のお許しを頂き、今や縁戚となった2つの公爵家。その両方を敵に回し、王家はこの先、どうされたいのでしょうか?」
私が詰め寄ると陛下は顔を青く染めた。
「すまなかった。エドモンドがその様な愚かな行為をし、其方に恥をかかせたなど私は知らなかったのだ。あいつには其方を大切にする様、きつく申し聞かせる。側妃の件も無しだ! だからどうか怒りの矛を収めてもらえる様、公爵にとりなしては貰えまいか?」
陛下はそう言って私に詫びながら、父へのとりなしを請うた。その様子を隣に立つ王妃は呆然と見ている。
「いいえ。それには及びません」
私は静かに答えた。
私の答えに陛下は眉を寄せ、じっと私を見つめる。意味が分からないのか、私の次の言葉を待っている様だ。
「私はもう殿下との閨は望みません。ですからルルナレッタ様をどうぞ側妃として召されませ。いえ、ルルナレッタ様だけではありません。この先殿下が望まれるなら、何人側妃をお召しになったとしても、ルクソールは一切それに異を唱える事は致しません」
「それは…どう言う…」
陛下は驚きの余り目を見開いた。
「分かりましたわ。父にとりなしましょう。ただ、我が家は顔に泥を塗られたのです。もちろん条件がございます。其れを全てお飲み頂けるなら、我が家は王家を許しましょう」
許すと言う言葉は、認めると言う言葉と同義だ。つまり、立場が上の者から下の者へと与える言葉…。私は態とその言葉を使って今置かれている状況を把握させた。
「もし、飲まなかった場合は…?」
陛下は遠慮がちに尋ねた。
「話は決裂。私は殿下と離縁し、我が家は王家から手を引かさせて頂きますわ。其方が最初に約束を違えたのです。勿論ですが今まで我が家が王家へと支援した金は全額返金願います」
「そんな…そんな事をされたら、王家はどうなるのだ…」
「では、どうされます?」
私は最後の確認をする。
「分かった。其方の出す条件は全て飲もう…」
陛下は答えた。
「そうですか? では条件を伝えます。まず一つ目。殿下には私との白い結婚を貫いて頂きます」
そう…。エドモンドと白い結婚を貫くと言い出したのは私だった。あんな男に純潔を捧げるなんて真っ平だ。
「……そんな事でいいのか?」
陛下の悲壮感を帯びていた顔が少し明るさを取り戻した。
「勿論ですわ。先程も申しましたが、初夜の床で恥をかかされたののです。私にもプライドがありますわ。当然でしょう? だだし、条件は他にもありますわ」
そんな事だけで許されると思うなんて甘すぎる。
「…いくつあるんだ?」
私の言葉を聞いた陛下が不安気に問う。
「後、3つですわ」
「3つ…」
彼は息を飲んだ。
「では一つ目。殿下に側妃を持つ事は認めます。ですが子を持つ事は認めません」
「何を言っているの! なんて酷いことを…。だいたい、それでは後継はどうするのです!? 」
そう声を上げたのは、先程まで呆然と陛下の隣に佇んでいた王妃だった…。
「…う…。それは…」
私が語気を強めて反論すると、陛下と王妃は少し狼狽え始めた。
当たり前だ。明らかに非は婚姻を結ぶ際の約束事を反故にした王家にある。
これを機会にと私は一気に畳み掛けた。
「陛下にお聞きしたい。寧ろ我が家がそれを飲むとでも思っておられたのですか? もしや嫁いだ後、直ぐに離縁となれば私の醜聞になる。ならば何をしても許されるとでも思われた? だとしたらそれはとても愚かな行為です!」
「愚か…」
陛下は私の言葉を繰り返し呆然としている。バカ、詐欺、愚か…。一国の王に向けるには余りにも無礼な言葉だ。だが、ここまで言われてやっと陛下は我が家の怒りに気付いたようだ。
「陛下と王妃様は過去オスマンサスの顔に泥を塗り、王家とオスマンサスは今や絶縁状態です。今の王家の窮状は全てそれに起因すると言う事はお分かりですよね? その上で更に我が家とも争うおつもりですか? 陛下のお許しを頂き、今や縁戚となった2つの公爵家。その両方を敵に回し、王家はこの先、どうされたいのでしょうか?」
私が詰め寄ると陛下は顔を青く染めた。
「すまなかった。エドモンドがその様な愚かな行為をし、其方に恥をかかせたなど私は知らなかったのだ。あいつには其方を大切にする様、きつく申し聞かせる。側妃の件も無しだ! だからどうか怒りの矛を収めてもらえる様、公爵にとりなしては貰えまいか?」
陛下はそう言って私に詫びながら、父へのとりなしを請うた。その様子を隣に立つ王妃は呆然と見ている。
「いいえ。それには及びません」
私は静かに答えた。
私の答えに陛下は眉を寄せ、じっと私を見つめる。意味が分からないのか、私の次の言葉を待っている様だ。
「私はもう殿下との閨は望みません。ですからルルナレッタ様をどうぞ側妃として召されませ。いえ、ルルナレッタ様だけではありません。この先殿下が望まれるなら、何人側妃をお召しになったとしても、ルクソールは一切それに異を唱える事は致しません」
「それは…どう言う…」
陛下は驚きの余り目を見開いた。
「分かりましたわ。父にとりなしましょう。ただ、我が家は顔に泥を塗られたのです。もちろん条件がございます。其れを全てお飲み頂けるなら、我が家は王家を許しましょう」
許すと言う言葉は、認めると言う言葉と同義だ。つまり、立場が上の者から下の者へと与える言葉…。私は態とその言葉を使って今置かれている状況を把握させた。
「もし、飲まなかった場合は…?」
陛下は遠慮がちに尋ねた。
「話は決裂。私は殿下と離縁し、我が家は王家から手を引かさせて頂きますわ。其方が最初に約束を違えたのです。勿論ですが今まで我が家が王家へと支援した金は全額返金願います」
「そんな…そんな事をされたら、王家はどうなるのだ…」
「では、どうされます?」
私は最後の確認をする。
「分かった。其方の出す条件は全て飲もう…」
陛下は答えた。
「そうですか? では条件を伝えます。まず一つ目。殿下には私との白い結婚を貫いて頂きます」
そう…。エドモンドと白い結婚を貫くと言い出したのは私だった。あんな男に純潔を捧げるなんて真っ平だ。
「……そんな事でいいのか?」
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「勿論ですわ。先程も申しましたが、初夜の床で恥をかかされたののです。私にもプライドがありますわ。当然でしょう? だだし、条件は他にもありますわ」
そんな事だけで許されると思うなんて甘すぎる。
「…いくつあるんだ?」
私の言葉を聞いた陛下が不安気に問う。
「後、3つですわ」
「3つ…」
彼は息を飲んだ。
「では一つ目。殿下に側妃を持つ事は認めます。ですが子を持つ事は認めません」
「何を言っているの! なんて酷いことを…。だいたい、それでは後継はどうするのです!? 」
そう声を上げたのは、先程まで呆然と陛下の隣に佇んでいた王妃だった…。
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