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第7話
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「ねぇ、じゃあもう一つだけ聞いてもいい? もしかして王妃様と王太子殿下は公務を殆どしていなかったんじゃない?」
「…ええ…」
彼は今度は声を出して頷いた。
父は言った。私とエドモンドの婚姻は後宮の勢力図を変える。側妃は私に嫌がらせをしてくるかも知れないと…。なる程。彼女は特大の嫌がらせを残してくれた。
これだけの量の書類が溜まっていると言う事は、2人が後宮を去った後、執務は殆ど手付かずの状態だったのだろう。
側妃には分かっていたのだ。自分とリシャール様、2人が後宮を去れば、次に公務を担うのは私だと言うことが…。
「お二人が後宮を去られると聞いて私達は不安を覚えました。でもリシャール様が仰ったのです。彼女はとても優秀だ。恐らく慣れれば難なくこなしてくれるだろう…と。妃殿下とリシャール様は貴族学園で同級だったのでしょう? リシャール様が教えて下さいました」
男性はそう言います。
「でも親しくは無かったのよ。それどころか話した事さえなかったわ。彼は何時も忙しそうだったし、休み時間も寝てばかりいたから…。学園の中にも親しい友人っていたのかしら?」
「……そうでしたか。それはお寂しい思いをさせてしまいました…。あの方は何時も学園から帰ると此処で黙々と執務をこなされておりましたから…。きっとお疲れだったのでしょう」
男性は悔しそうに俯いた。彼の言葉の隅々からリシャールへの同情が見て取れた。
父は言っていた。陛下は王妃への償いとしてエドモンドを盛大に甘やかせていたと…。それはきっと王妃に対しても同じだったのだろう。
そしてその皺寄せは側妃とリシャール様の所にやって来た。
実家が没落した事も勿論あっただろう。でも側妃が後宮で力を持ったのは、彼女自身の努力も大きかったのだ。
だからこそ、エドモンドよりもリシャールを王太子にと、声が上がったのだ。
我が家はそれをひっくり返した。側妃とリシャールの今迄必死に積み重ねて来た努力を無駄にしたのだ。恨まれて当然。憎まれて当然だ。
「お願いします。取り急ぎ決済をお願いしたい書類をこちらに纏めました。この部屋を見て頂ければ分かるとは思いますが、もう長い間、執務が滞っております。兎に角この書類だけでもご決済を…」
彼は懇願する様に私に束になった書類を差し出した。
「分かったわ。私は何をすれば良い? 教えてくれる?」
その後、この男性はバーグと言う名の高級文官である事が分かった。私はバーグに教わりながら、少しずつ執務をこなしていく。
父へは直ぐに現状を知らせる手紙を送ったが、父からの返事は、今は耐えろ。その一行だった。
エドモンドとの白い結婚。ルルナレッタの輿入れ。そして大量の執務。
それらを知った父が今、何を考え、何をしようとしているのか……王宮にいる私には何も分からない。それが余計に私を不安にさせた。
そんなある日、気分転換に庭園を散歩していた私は、剣の鍛錬をするリシャール様を見かけた。
どうしよう。迷っていると目が合った。
すると、彼が此方に近づいて来た。
「よう! お前もいろいろ大変だな」
彼が驚く程気さくに声を掛けて来た。
だから私も気さくに答える。
「大変だと思うなら手伝いに来てよ」
そう言ってから気がついた。彼と話すのはこれが初めてだった事に…。
すると彼は笑った。それはもう爽やかに…。
「それは出来ない。こっちにも意地があるんだ。今迄、必死に父上を支えて来たのは母上だ。あの女は文句を言って父上に泣き付くだけ。それなのに父上はあの女を選んだ」
悔しそうにそう言った彼を見て、父の言葉を思い出した。
『陛下もどちらか一方に肩入れするなど、罪な事をなさる』
選ばれた方は良い。でも、選ばれなかった方は…? そう考えると悲しくなった。
同列なんかでは無かった。最初から陛下は同情という名の元に王妃を優先していたのだ。
「そんな顔するなよ。少なくとも俺はお前に恨みはないよ? 母上は…どう考えてるか知らないけどな」
彼はそう言ってまた笑った。
「…ええ…」
彼は今度は声を出して頷いた。
父は言った。私とエドモンドの婚姻は後宮の勢力図を変える。側妃は私に嫌がらせをしてくるかも知れないと…。なる程。彼女は特大の嫌がらせを残してくれた。
これだけの量の書類が溜まっていると言う事は、2人が後宮を去った後、執務は殆ど手付かずの状態だったのだろう。
側妃には分かっていたのだ。自分とリシャール様、2人が後宮を去れば、次に公務を担うのは私だと言うことが…。
「お二人が後宮を去られると聞いて私達は不安を覚えました。でもリシャール様が仰ったのです。彼女はとても優秀だ。恐らく慣れれば難なくこなしてくれるだろう…と。妃殿下とリシャール様は貴族学園で同級だったのでしょう? リシャール様が教えて下さいました」
男性はそう言います。
「でも親しくは無かったのよ。それどころか話した事さえなかったわ。彼は何時も忙しそうだったし、休み時間も寝てばかりいたから…。学園の中にも親しい友人っていたのかしら?」
「……そうでしたか。それはお寂しい思いをさせてしまいました…。あの方は何時も学園から帰ると此処で黙々と執務をこなされておりましたから…。きっとお疲れだったのでしょう」
男性は悔しそうに俯いた。彼の言葉の隅々からリシャールへの同情が見て取れた。
父は言っていた。陛下は王妃への償いとしてエドモンドを盛大に甘やかせていたと…。それはきっと王妃に対しても同じだったのだろう。
そしてその皺寄せは側妃とリシャール様の所にやって来た。
実家が没落した事も勿論あっただろう。でも側妃が後宮で力を持ったのは、彼女自身の努力も大きかったのだ。
だからこそ、エドモンドよりもリシャールを王太子にと、声が上がったのだ。
我が家はそれをひっくり返した。側妃とリシャールの今迄必死に積み重ねて来た努力を無駄にしたのだ。恨まれて当然。憎まれて当然だ。
「お願いします。取り急ぎ決済をお願いしたい書類をこちらに纏めました。この部屋を見て頂ければ分かるとは思いますが、もう長い間、執務が滞っております。兎に角この書類だけでもご決済を…」
彼は懇願する様に私に束になった書類を差し出した。
「分かったわ。私は何をすれば良い? 教えてくれる?」
その後、この男性はバーグと言う名の高級文官である事が分かった。私はバーグに教わりながら、少しずつ執務をこなしていく。
父へは直ぐに現状を知らせる手紙を送ったが、父からの返事は、今は耐えろ。その一行だった。
エドモンドとの白い結婚。ルルナレッタの輿入れ。そして大量の執務。
それらを知った父が今、何を考え、何をしようとしているのか……王宮にいる私には何も分からない。それが余計に私を不安にさせた。
そんなある日、気分転換に庭園を散歩していた私は、剣の鍛錬をするリシャール様を見かけた。
どうしよう。迷っていると目が合った。
すると、彼が此方に近づいて来た。
「よう! お前もいろいろ大変だな」
彼が驚く程気さくに声を掛けて来た。
だから私も気さくに答える。
「大変だと思うなら手伝いに来てよ」
そう言ってから気がついた。彼と話すのはこれが初めてだった事に…。
すると彼は笑った。それはもう爽やかに…。
「それは出来ない。こっちにも意地があるんだ。今迄、必死に父上を支えて来たのは母上だ。あの女は文句を言って父上に泣き付くだけ。それなのに父上はあの女を選んだ」
悔しそうにそう言った彼を見て、父の言葉を思い出した。
『陛下もどちらか一方に肩入れするなど、罪な事をなさる』
選ばれた方は良い。でも、選ばれなかった方は…? そう考えると悲しくなった。
同列なんかでは無かった。最初から陛下は同情という名の元に王妃を優先していたのだ。
「そんな顔するなよ。少なくとも俺はお前に恨みはないよ? 母上は…どう考えてるか知らないけどな」
彼はそう言ってまた笑った。
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