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第6話
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さて、少しだけ時間は巻き戻る。
朝、少しだけ寝坊した私を、私付きの侍女が起こしに来てくれた。彼女の名はマリエル。行儀見習いのため我が家で預かっている子爵家の令嬢で、今回、私の輿入れに付いて来てくれたのだ。
「お休みのところ、申し訳ありません。王妃様と殿下が朝食を共にと仰っておられるそうです」
彼女は困ったような顔をして、私にそう告げる。
彼女がそんな顔をする理由は分かっている。昨日の今日だ。はっきり言って悪い予感しかしない。
だからと言って2人の申し出を断る事も出来ず、私は急いで支度をしてダイニングへと向かった。
ダイニングに着くと王妃とエドモンドが楽しそうに談笑していた。
「遅れてしまい申し訳ございません」
私が謝罪すると、王妃は笑みを浮かべた。
「あら、いいのよ。お疲れのところ呼び出して悪かったわね。さぁ、お腹が減ったわ。席へ着いてちょうだい」
彼女が私に声を掛けると、執事が椅子を引いた。ここに座れと言う事だろう。
だが、私に与えられたのはこのダイニングの中の一番の末席。2人からはかなり離れている。身の程を弁えろと言う事だろう。初っ端から嫌がらせが甚だしい。
出された朝食はどれも贅を尽くしたものだった。
王宮では、朝からこんな贅沢な物を食べるのか? でも王家には金がないはず…。
私が料理を見つめていると、それに気付いたのだろう。王妃が話しかけて来た。
「美味しそうでしょう? 貴方のお陰で毎日美味しい料理が食べられるわ」と。
そう言われて気付いた。父はこれから毎月、嫁いだ私への支援金の名目で王家に対して一定額の金を払う契約をしていた。それが既に支払われたのだろう。
だったら少し位私にも感謝して欲しいものである。
「それでね、エドモンドに聞いたのだけれど、貴方達、昨夜上手くいかなかったらしいわね」
その言葉を王妃の口から聞いた瞬間、驚いた私は食事を喉に詰まらせた。
ゴホッコホ…。
「あら大変。お水を飲みなさい」
そんな私に王妃は優雅に声をかけた。エドワードは私は彼の妻だと言うのに知らん顔をして横を向いている。
普通、夫婦の夜の話を朝からダイニングでするものだろうか? と言うか、そもそも夫婦の閨での出来事を母親に話すものなのか?とんだマザコン野郎である。
私の咳が落ち着くと、王妃は言葉を繋いだ。
「それでね? この子に側妃を取ろうと思うのよ? 仕方ないわよね? 貴方達、上手くいかなかった訳だから…」
なる程。だから昨夜の話を振ったのね。しかし、嫁いだ次の日に既に側妃の話しとは…。どれだけ我が家を舐めているのだろう。それに、どの口が言うだ。エドモンドに私との間に子は作らない様にと申しつけたのは、他でもない、貴方でしょう?
王妃は更に話を続ける。
「それからね。貴方には王太子妃として、今日から早速、公務を担って欲しいと思っているのよ?」
「え? 今日からですか? ですが私は昨日嫁いで来たばかりで、まだ何も分からないんですが…」
暗に断りを入れた。子は産むな。でも仕事はしろ。公務をするのは仕方がない。私の勤めだ。でも、そちらの都合ばかり押し付けられてはたまらない。
だが、それが王妃の琴線に触れたのだろう。
「今日からと言ったら今日からです! 貴方は嫁なんだから、私の言う事を素直に聞いていればいいんです!!」
彼女はそう言って声を荒げた。その間もエドモンドは知らん顔。一言も発しない。
「さぁ、貴方達。彼女を執務室に案内して!」
王妃は私の後ろに向かって声を掛ける。
慌てて私が後ろを振り返ると、そこにはいつ来たのか、何人かの男性がだっていた。
彼らは申し訳なさそうに私に声を掛ける。
「さぁ、妃殿下。こちらです」
まだ食事の途中にも関わらず…だ。
その様子を見て思った。父の言った通り後宮の力関係は既に変わっているのかも知れない。何故なら、周りの使用人達は皆、王妃を恐れている様に感じたから…。
私は仕方なく席を立った。彼らまで巻き込む訳にはいかない。
そして案内された王宮の一室で見たのだ。高く積み上げられた書類の山を…。
「これ、全部、私がするの?」
「はい。左様でございます」
私の問いかけに彼らは頷いた。
「はいって、私、昨日嫁いだばかりよ?」
それまでは王太子妃と言う存在は、王宮にはいなかったのだ。たった1日でこんなに仕事が溜まるはずはない。
「………」
彼らは押し黙る。
「ねぇ、これ本当に王太子妃がすべき仕事なの…」
「………」
誰も答えない。きっと言えないのだろう。それが答えだ。
「では、質問を変えるわ。今迄、この仕事は誰がやっていたの?」
すると男の1人が答えた。
「側妃様とリシャール様です。ですが、王太子殿下が立太子された後、もう自分達の仕事ではないと、お二人は離宮に移られたのです。いえ、寧ろお二人はそれをエドモンド様立太子を飲む条件にされました」
「ねぇ、なら合っていたら頷いて。これってもしかして、本来、王妃と王太子がすべき仕事ではないの?」
私が問うと、彼らは黙って頷いた。
朝、少しだけ寝坊した私を、私付きの侍女が起こしに来てくれた。彼女の名はマリエル。行儀見習いのため我が家で預かっている子爵家の令嬢で、今回、私の輿入れに付いて来てくれたのだ。
「お休みのところ、申し訳ありません。王妃様と殿下が朝食を共にと仰っておられるそうです」
彼女は困ったような顔をして、私にそう告げる。
彼女がそんな顔をする理由は分かっている。昨日の今日だ。はっきり言って悪い予感しかしない。
だからと言って2人の申し出を断る事も出来ず、私は急いで支度をしてダイニングへと向かった。
ダイニングに着くと王妃とエドモンドが楽しそうに談笑していた。
「遅れてしまい申し訳ございません」
私が謝罪すると、王妃は笑みを浮かべた。
「あら、いいのよ。お疲れのところ呼び出して悪かったわね。さぁ、お腹が減ったわ。席へ着いてちょうだい」
彼女が私に声を掛けると、執事が椅子を引いた。ここに座れと言う事だろう。
だが、私に与えられたのはこのダイニングの中の一番の末席。2人からはかなり離れている。身の程を弁えろと言う事だろう。初っ端から嫌がらせが甚だしい。
出された朝食はどれも贅を尽くしたものだった。
王宮では、朝からこんな贅沢な物を食べるのか? でも王家には金がないはず…。
私が料理を見つめていると、それに気付いたのだろう。王妃が話しかけて来た。
「美味しそうでしょう? 貴方のお陰で毎日美味しい料理が食べられるわ」と。
そう言われて気付いた。父はこれから毎月、嫁いだ私への支援金の名目で王家に対して一定額の金を払う契約をしていた。それが既に支払われたのだろう。
だったら少し位私にも感謝して欲しいものである。
「それでね、エドモンドに聞いたのだけれど、貴方達、昨夜上手くいかなかったらしいわね」
その言葉を王妃の口から聞いた瞬間、驚いた私は食事を喉に詰まらせた。
ゴホッコホ…。
「あら大変。お水を飲みなさい」
そんな私に王妃は優雅に声をかけた。エドワードは私は彼の妻だと言うのに知らん顔をして横を向いている。
普通、夫婦の夜の話を朝からダイニングでするものだろうか? と言うか、そもそも夫婦の閨での出来事を母親に話すものなのか?とんだマザコン野郎である。
私の咳が落ち着くと、王妃は言葉を繋いだ。
「それでね? この子に側妃を取ろうと思うのよ? 仕方ないわよね? 貴方達、上手くいかなかった訳だから…」
なる程。だから昨夜の話を振ったのね。しかし、嫁いだ次の日に既に側妃の話しとは…。どれだけ我が家を舐めているのだろう。それに、どの口が言うだ。エドモンドに私との間に子は作らない様にと申しつけたのは、他でもない、貴方でしょう?
王妃は更に話を続ける。
「それからね。貴方には王太子妃として、今日から早速、公務を担って欲しいと思っているのよ?」
「え? 今日からですか? ですが私は昨日嫁いで来たばかりで、まだ何も分からないんですが…」
暗に断りを入れた。子は産むな。でも仕事はしろ。公務をするのは仕方がない。私の勤めだ。でも、そちらの都合ばかり押し付けられてはたまらない。
だが、それが王妃の琴線に触れたのだろう。
「今日からと言ったら今日からです! 貴方は嫁なんだから、私の言う事を素直に聞いていればいいんです!!」
彼女はそう言って声を荒げた。その間もエドモンドは知らん顔。一言も発しない。
「さぁ、貴方達。彼女を執務室に案内して!」
王妃は私の後ろに向かって声を掛ける。
慌てて私が後ろを振り返ると、そこにはいつ来たのか、何人かの男性がだっていた。
彼らは申し訳なさそうに私に声を掛ける。
「さぁ、妃殿下。こちらです」
まだ食事の途中にも関わらず…だ。
その様子を見て思った。父の言った通り後宮の力関係は既に変わっているのかも知れない。何故なら、周りの使用人達は皆、王妃を恐れている様に感じたから…。
私は仕方なく席を立った。彼らまで巻き込む訳にはいかない。
そして案内された王宮の一室で見たのだ。高く積み上げられた書類の山を…。
「これ、全部、私がするの?」
「はい。左様でございます」
私の問いかけに彼らは頷いた。
「はいって、私、昨日嫁いだばかりよ?」
それまでは王太子妃と言う存在は、王宮にはいなかったのだ。たった1日でこんなに仕事が溜まるはずはない。
「………」
彼らは押し黙る。
「ねぇ、これ本当に王太子妃がすべき仕事なの…」
「………」
誰も答えない。きっと言えないのだろう。それが答えだ。
「では、質問を変えるわ。今迄、この仕事は誰がやっていたの?」
すると男の1人が答えた。
「側妃様とリシャール様です。ですが、王太子殿下が立太子された後、もう自分達の仕事ではないと、お二人は離宮に移られたのです。いえ、寧ろお二人はそれをエドモンド様立太子を飲む条件にされました」
「ねぇ、なら合っていたら頷いて。これってもしかして、本来、王妃と王太子がすべき仕事ではないの?」
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