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「私が…殺される…陛下に…?」
いきなり殿下に2度目の人生を生きていると告白され、それに加え、前世、自分が陛下に殺されたと聞かされた私は俄には信じられなかった。
何故私が陛下に殺される理由があるの?私を王太子妃にと強く望んでくれたのは、他ならぬ陛下だと父から聞いていた。
陛下は、何時だって私に優しくしてくれたわ。今回の婚約解消の時だって、唯一怒ってくれた…。
「俺の言う事が信じられないか?」
そんな私を、殿下は真っ直ぐその青い瞳で見つめる。
「分かりません…。余りに荒唐無稽なお話で…」
狼狽する私に殿下は言った。
「そうだろうな…。今は信じてくれなくても良い。だが、君にはどうしても付いて来て貰いたい場所がある」
「…それは…?」
私はまた、殿下から一歩距離を取った。この人は私を一体何処に連れて行こうと言うのだろう? 今まであれ程私に冷たかった殿下を、このまま信じて付いて行って良いのだろうか…。
私はもう、誰かを信じるのが怖くなっていた。
怯えている私を察したのだろう。殿下は一度席を外し、1人の女性を連れてもう一度部屋に現れた。
殿下が連れて来た女性…。
その女性を見て私は息を飲んだ。涙が自然に溢れ出る。
「……っ!……ア…ンナ…。アンナ…アンナ!!」
私は涙で声にならない声で、彼女の名を何度も呼んだ。
アンナはそんな私に駆け寄ると私の肩を抱きしめた。いつも、泣いている私を慰めてくれた時と同じ様に…。彼女も泣いていた。
「…わ…たし…殿下に助けて…頂いて…。シュナイダー様に…殺されそうになって…っ。それからはずっと…ここに居させて頂いて…」
アンナは私に涙ながらに訴えた。
シュナイダー? 顔も見た事の無い私の従兄妹。何故彼がアンナを殺そうとするの? でも、それよりも…。
「アンナにも監視を付けていたのですか?」
「不満か? 彼女の母親は殺された。当然だろう?」
「いえ…。そのお陰で彼女は救われたのですから、お礼を申し上げます」
私は殿下に向かって頭を下げた。
「少しは俺を信じる気になったか?」
殿下が私に問いかける。
その問いに私は浅く頷いた。アンナがいなくなってからずっと探し続けていた。衛兵隊に何度確認に行っても『探しているが、行方が分から無い』の一点張りで、どれ程心配したか…。
まさか、殿下が助けてくれていたなんて…。ずっと匿ってくれていたなんて…。
それだけは感謝しても仕切れない。
「……では、私を攫おうとしたのもシュナイダーなんですか? まさか…テレサを殺したのも…」
今度は私が殿下に問い掛けた。
殿下は「ああ」と首肯した。
「そんな…どうして…。私は彼とは会った事すらないんですよ? そんな彼がどうして私を攫おうとするんですか?」
自分を狙った人物の名前を聞いても、私には実感が湧かなかった。何故…どうして…そんな思いばかりが過ぎる。
「君にセレジストに戻られては困るからだ」
「戻る? 私が…セレジストに? そんな事、考えた事もありませんでした」
「だが、リアーナ様はそれを望んでいた。」
「お母様が…?」
すると今度はアンナが私の疑問に答えてくれた。テレサから聞いた話だと前置きした上で…。
「お嬢様はバーバラ様とエクメット様にはもうお会いになられましたか?」
「ええ」アンナの問いに私は軽く頷く。
「奥様は自分が死んだ後の事を考えておらられました。自分が死んだら、バーバラ様とエクメット様は伯爵邸に入られるだろう。そうなればお嬢様は居場所を失う。だから奥様は、シナール陛下に助けを求めたのです」
「それがテレサが言っていた、手紙なの?」
「そうです。ですがそんな手紙を出されたら困る者がいた。その者達は、奥様からの手紙を握りつぶした。」
「テレサはそれを父だと疑っていたのね」
「ええ。仕方なく母はそれを自分の手で直接シナール陛下に届けようとしました。ところがそうされては困る者が、言葉巧みに母に近づいてきたのです。」
「それがシュナイダー」
「そうです。母はシュナイダー様を信じていました。私にも自分に何かあったら此処に行きなさい…と奥様からの手紙の予備と、住所の書いた紙を手渡されていました。母は自分は旦那様に狙われていると思い込んでいましたから…。だからあの時、私も母を殺したのは旦那様だと思ってしまったんです」
アンナが言うには、紙に書かれた場所に向かったアンナに、数人の男達が突然切り掛かって来たそうだ。
「もうダメかと思った時、殿下が騎士の方を連れて現れて、私を助けてくれたんです。それでこの公爵邸に連れて来て頂いて…」
「公爵邸…?」
「ああ、ここはカシミール公爵邸だ」
殿下が答える。
高位貴族の屋敷だとは思ってはいたが、カシミール公爵邸だったとは…。
私の考えが顔に出ていたのか殿下が悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「この国の中で1番安全だろ?」
カシミール公爵はロザリア様の父親だ。
私は気を取り直して殿下に聞いた。
「…それで、殿下は私に何処へ付いて来いと言うのですか?」
殿下は少し考えて、言葉を選んでいる様だったが、軈て口を開いた。
「セレジストだ。リアーナ様の手紙をシナール陛下に届けに行く。それが彼女の最後の望みだから……」
いきなり殿下に2度目の人生を生きていると告白され、それに加え、前世、自分が陛下に殺されたと聞かされた私は俄には信じられなかった。
何故私が陛下に殺される理由があるの?私を王太子妃にと強く望んでくれたのは、他ならぬ陛下だと父から聞いていた。
陛下は、何時だって私に優しくしてくれたわ。今回の婚約解消の時だって、唯一怒ってくれた…。
「俺の言う事が信じられないか?」
そんな私を、殿下は真っ直ぐその青い瞳で見つめる。
「分かりません…。余りに荒唐無稽なお話で…」
狼狽する私に殿下は言った。
「そうだろうな…。今は信じてくれなくても良い。だが、君にはどうしても付いて来て貰いたい場所がある」
「…それは…?」
私はまた、殿下から一歩距離を取った。この人は私を一体何処に連れて行こうと言うのだろう? 今まであれ程私に冷たかった殿下を、このまま信じて付いて行って良いのだろうか…。
私はもう、誰かを信じるのが怖くなっていた。
怯えている私を察したのだろう。殿下は一度席を外し、1人の女性を連れてもう一度部屋に現れた。
殿下が連れて来た女性…。
その女性を見て私は息を飲んだ。涙が自然に溢れ出る。
「……っ!……ア…ンナ…。アンナ…アンナ!!」
私は涙で声にならない声で、彼女の名を何度も呼んだ。
アンナはそんな私に駆け寄ると私の肩を抱きしめた。いつも、泣いている私を慰めてくれた時と同じ様に…。彼女も泣いていた。
「…わ…たし…殿下に助けて…頂いて…。シュナイダー様に…殺されそうになって…っ。それからはずっと…ここに居させて頂いて…」
アンナは私に涙ながらに訴えた。
シュナイダー? 顔も見た事の無い私の従兄妹。何故彼がアンナを殺そうとするの? でも、それよりも…。
「アンナにも監視を付けていたのですか?」
「不満か? 彼女の母親は殺された。当然だろう?」
「いえ…。そのお陰で彼女は救われたのですから、お礼を申し上げます」
私は殿下に向かって頭を下げた。
「少しは俺を信じる気になったか?」
殿下が私に問いかける。
その問いに私は浅く頷いた。アンナがいなくなってからずっと探し続けていた。衛兵隊に何度確認に行っても『探しているが、行方が分から無い』の一点張りで、どれ程心配したか…。
まさか、殿下が助けてくれていたなんて…。ずっと匿ってくれていたなんて…。
それだけは感謝しても仕切れない。
「……では、私を攫おうとしたのもシュナイダーなんですか? まさか…テレサを殺したのも…」
今度は私が殿下に問い掛けた。
殿下は「ああ」と首肯した。
「そんな…どうして…。私は彼とは会った事すらないんですよ? そんな彼がどうして私を攫おうとするんですか?」
自分を狙った人物の名前を聞いても、私には実感が湧かなかった。何故…どうして…そんな思いばかりが過ぎる。
「君にセレジストに戻られては困るからだ」
「戻る? 私が…セレジストに? そんな事、考えた事もありませんでした」
「だが、リアーナ様はそれを望んでいた。」
「お母様が…?」
すると今度はアンナが私の疑問に答えてくれた。テレサから聞いた話だと前置きした上で…。
「お嬢様はバーバラ様とエクメット様にはもうお会いになられましたか?」
「ええ」アンナの問いに私は軽く頷く。
「奥様は自分が死んだ後の事を考えておらられました。自分が死んだら、バーバラ様とエクメット様は伯爵邸に入られるだろう。そうなればお嬢様は居場所を失う。だから奥様は、シナール陛下に助けを求めたのです」
「それがテレサが言っていた、手紙なの?」
「そうです。ですがそんな手紙を出されたら困る者がいた。その者達は、奥様からの手紙を握りつぶした。」
「テレサはそれを父だと疑っていたのね」
「ええ。仕方なく母はそれを自分の手で直接シナール陛下に届けようとしました。ところがそうされては困る者が、言葉巧みに母に近づいてきたのです。」
「それがシュナイダー」
「そうです。母はシュナイダー様を信じていました。私にも自分に何かあったら此処に行きなさい…と奥様からの手紙の予備と、住所の書いた紙を手渡されていました。母は自分は旦那様に狙われていると思い込んでいましたから…。だからあの時、私も母を殺したのは旦那様だと思ってしまったんです」
アンナが言うには、紙に書かれた場所に向かったアンナに、数人の男達が突然切り掛かって来たそうだ。
「もうダメかと思った時、殿下が騎士の方を連れて現れて、私を助けてくれたんです。それでこの公爵邸に連れて来て頂いて…」
「公爵邸…?」
「ああ、ここはカシミール公爵邸だ」
殿下が答える。
高位貴族の屋敷だとは思ってはいたが、カシミール公爵邸だったとは…。
私の考えが顔に出ていたのか殿下が悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「この国の中で1番安全だろ?」
カシミール公爵はロザリア様の父親だ。
私は気を取り直して殿下に聞いた。
「…それで、殿下は私に何処へ付いて来いと言うのですか?」
殿下は少し考えて、言葉を選んでいる様だったが、軈て口を開いた。
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