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14 ザイティガ視点2
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バーバラは多産として有名な、ザイザル男爵家の8人兄妹の4女として生まれた。
俗に言う貧乏子沢山。
金も力も無い貧乏男爵家の4女…。だが、容姿だけは恵まれていた。
それなのに……。
持参金も用意出来ないバーバラは良縁に恵まれず、実家の男爵家で厄介者扱いされながら燻っていた。
父はそんな彼女に目を付けたのだ。
「機会は1度だけだ。だがもし子を孕めば、その子は伯爵家の後継だ。そちのこれからの立場は保証される。伯爵は見目も良く誠実な男だ。どうだ? この賭けに乗ってみる気はないか?」
国王直々の誘い。しかも相手の妻は病弱で病の床に伏していると聞く。上手くいけば伯爵家の後妻の座も手に入るかも知れない。バーバラは喜んでこの話を快諾したと母から聞いた。
こうして、彼女が妊娠し易い日を選んで計画が実行された。
そして彼女は、その賭けに見事に勝ったのだ。伯爵と関係を持った時、彼女はまだ純潔だった。彼女は所謂、遊んでいる女では無かったのだ。容姿の優れた自分は、もしかしたらいつかは良縁に巡り会えるかも知れない。バーバラはそう信じて、純潔を守っていた。父がバーバラを選んだ理由もそこにあった。もし上手くバーバラに子が宿った時、伯爵が言い逃れ出来ない様に…。つまり、バーバラが身籠った子は間違いなく、伯爵の子と言う事だ。
「これでもう、伯爵家は安泰だな」
父は伯爵に俺とディアーナとの婚約を迫った。
「あの子がそれを望むなら…」
伯爵がそう条件を付けたのは父に対するせめてもの反抗だったのだろう。
だが、ディアーナは俺との婚約を了承してしまった。
やがてバーバラは伯爵にそっくりな男児を産んだ。この事でリアーナ様は更に病を悪化させていく。父は知らなかった。リアーナ様がこの時、どれ程自分を憎み、恨んだかを…。
リアーナ様を散々利用し、今度は娘ディアーナを利用する為に家族を壊す。父のした事は許される事では無かった。
一方、俺はディアーナと婚約を結んでからと言うもの、父から彼女に会う事を禁じられていた。
「お前はセレジストへの留学に備え、向こうの情勢や風習を学んでおきなさい」
父はそう言って俺に講師を遣わせ、ディアーナに会う時間を作らせなかった。
この頃、俺が父から許されたのは彼女に手紙を書くこと。だだそれだけだ。その手紙でさえ、父に目を通された。だから俺はリアーナ様を気遣う手紙を書いた。今の俺に出来る精一杯の事だった。
前世を知っている俺は、兎に角、リアーナ様の体と心が心配だった。前世ディアーナがバーバラとエクメットの存在を知ったのはリアーナ様が亡くなった後だ。
2人が伯爵邸に現れた事に依ってディアーナは俺との婚姻後、逃げ場を無くしてしまった。だが、今、リアーナ様は2人の存在を知り苦しんでいるはずだ。
彼女の支えになってあげて欲しい…。
そう思って書いた手紙だったが、それに対して彼女から答えが返る事はなかった。
翌年になり俺はセレジストに留学し、ディアーナには王太子妃教育が始まった。不安はあったが、留学を取りやめる訳にはいかない。俺にはセレジストでやらなければならない事があった。
貴族学院は優れた学びの場だ。生徒達は自分の立場に応じて自ら学ぶべき物を自分で選択して学ぶ。必須科目すらない。
つまり、学ぶ意思のある者は学べば良いし、やる気のない者は遊べば良い。留学によってどれだけの物を身に付けて国へ帰るかは、正に自分次第と言う事だ。
また、普段は余り接点のない他国の王侯貴族の子弟とも知り合い、交流を持つ事が出来る。
そんな学院で俺のやらなければならないこと…。
それは前世、距離を置き続けたシュナイダーと友人になる事だった。
彼こそが前世、メルカゾールを武力によって制圧した男だったからだ。俺は彼の考え方を知り、征服される未来を変えたかった。何より後に大国セレジストの皇太子となる彼と手を結べば、父を国王の座から追い落とせるのではないかと考えたのだ。
この時の俺は、後に起こる悲劇は全て父の蛮行に起因していると思っていた。
俺は父の目の届かないこの国で、ディアーナと手紙のやり取りを始めた。手紙によって彼女と心を通じ合わせた俺は、迷った末、今世こそ2人で支え合ってメルカゾールを治めていこうと心に決めた。
彼女となら未来を変えられるはず…。そして今度こそ彼女を幸せにしたい。それが彼女と婚約してから、考え抜いた上で出した答えだった。
そんな時、貴族学院にカシミール公爵が訪ねて来た。
「商談でセレジストに来たから、顔を見に来たよ。懐かしいなぁ。私も若い頃、この学院に留学していたんだよ。」
そう言った伯父に、それならばと学院を案内した。
伯父は懐かしそうに目を細める。中庭に差し掛かった時、シュナイダーが声を掛けて来た。
俺は伯父とシュナイダー、互いに互いを紹介した。
彼と別れた後、伯父は聞いた。
「彼とは友人なのかい?」
「ええ」と頷いた俺に伯父は言った。
「彼は危険な男だよ」
俗に言う貧乏子沢山。
金も力も無い貧乏男爵家の4女…。だが、容姿だけは恵まれていた。
それなのに……。
持参金も用意出来ないバーバラは良縁に恵まれず、実家の男爵家で厄介者扱いされながら燻っていた。
父はそんな彼女に目を付けたのだ。
「機会は1度だけだ。だがもし子を孕めば、その子は伯爵家の後継だ。そちのこれからの立場は保証される。伯爵は見目も良く誠実な男だ。どうだ? この賭けに乗ってみる気はないか?」
国王直々の誘い。しかも相手の妻は病弱で病の床に伏していると聞く。上手くいけば伯爵家の後妻の座も手に入るかも知れない。バーバラは喜んでこの話を快諾したと母から聞いた。
こうして、彼女が妊娠し易い日を選んで計画が実行された。
そして彼女は、その賭けに見事に勝ったのだ。伯爵と関係を持った時、彼女はまだ純潔だった。彼女は所謂、遊んでいる女では無かったのだ。容姿の優れた自分は、もしかしたらいつかは良縁に巡り会えるかも知れない。バーバラはそう信じて、純潔を守っていた。父がバーバラを選んだ理由もそこにあった。もし上手くバーバラに子が宿った時、伯爵が言い逃れ出来ない様に…。つまり、バーバラが身籠った子は間違いなく、伯爵の子と言う事だ。
「これでもう、伯爵家は安泰だな」
父は伯爵に俺とディアーナとの婚約を迫った。
「あの子がそれを望むなら…」
伯爵がそう条件を付けたのは父に対するせめてもの反抗だったのだろう。
だが、ディアーナは俺との婚約を了承してしまった。
やがてバーバラは伯爵にそっくりな男児を産んだ。この事でリアーナ様は更に病を悪化させていく。父は知らなかった。リアーナ様がこの時、どれ程自分を憎み、恨んだかを…。
リアーナ様を散々利用し、今度は娘ディアーナを利用する為に家族を壊す。父のした事は許される事では無かった。
一方、俺はディアーナと婚約を結んでからと言うもの、父から彼女に会う事を禁じられていた。
「お前はセレジストへの留学に備え、向こうの情勢や風習を学んでおきなさい」
父はそう言って俺に講師を遣わせ、ディアーナに会う時間を作らせなかった。
この頃、俺が父から許されたのは彼女に手紙を書くこと。だだそれだけだ。その手紙でさえ、父に目を通された。だから俺はリアーナ様を気遣う手紙を書いた。今の俺に出来る精一杯の事だった。
前世を知っている俺は、兎に角、リアーナ様の体と心が心配だった。前世ディアーナがバーバラとエクメットの存在を知ったのはリアーナ様が亡くなった後だ。
2人が伯爵邸に現れた事に依ってディアーナは俺との婚姻後、逃げ場を無くしてしまった。だが、今、リアーナ様は2人の存在を知り苦しんでいるはずだ。
彼女の支えになってあげて欲しい…。
そう思って書いた手紙だったが、それに対して彼女から答えが返る事はなかった。
翌年になり俺はセレジストに留学し、ディアーナには王太子妃教育が始まった。不安はあったが、留学を取りやめる訳にはいかない。俺にはセレジストでやらなければならない事があった。
貴族学院は優れた学びの場だ。生徒達は自分の立場に応じて自ら学ぶべき物を自分で選択して学ぶ。必須科目すらない。
つまり、学ぶ意思のある者は学べば良いし、やる気のない者は遊べば良い。留学によってどれだけの物を身に付けて国へ帰るかは、正に自分次第と言う事だ。
また、普段は余り接点のない他国の王侯貴族の子弟とも知り合い、交流を持つ事が出来る。
そんな学院で俺のやらなければならないこと…。
それは前世、距離を置き続けたシュナイダーと友人になる事だった。
彼こそが前世、メルカゾールを武力によって制圧した男だったからだ。俺は彼の考え方を知り、征服される未来を変えたかった。何より後に大国セレジストの皇太子となる彼と手を結べば、父を国王の座から追い落とせるのではないかと考えたのだ。
この時の俺は、後に起こる悲劇は全て父の蛮行に起因していると思っていた。
俺は父の目の届かないこの国で、ディアーナと手紙のやり取りを始めた。手紙によって彼女と心を通じ合わせた俺は、迷った末、今世こそ2人で支え合ってメルカゾールを治めていこうと心に決めた。
彼女となら未来を変えられるはず…。そして今度こそ彼女を幸せにしたい。それが彼女と婚約してから、考え抜いた上で出した答えだった。
そんな時、貴族学院にカシミール公爵が訪ねて来た。
「商談でセレジストに来たから、顔を見に来たよ。懐かしいなぁ。私も若い頃、この学院に留学していたんだよ。」
そう言った伯父に、それならばと学院を案内した。
伯父は懐かしそうに目を細める。中庭に差し掛かった時、シュナイダーが声を掛けて来た。
俺は伯父とシュナイダー、互いに互いを紹介した。
彼と別れた後、伯父は聞いた。
「彼とは友人なのかい?」
「ええ」と頷いた俺に伯父は言った。
「彼は危険な男だよ」
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